2026.10.19
2026年9月適用開始、EU・EmpCo指令で見直す環境情報の伝え方
2026.10.19
この記事を読んでほしい人 EU向けに製品の販売や広告を行っている、または予定している企業のサステナビリティ・広報・マーケティング担当者 SBTiの認定目標や独自の環境マークを、消費者向けの発信に活用したいと考えている企業担当者 国内の環境表示ガイドラインに加えて、EUの規制への対応も確認したい法務・コンプライアンス担当者 メタディスクリプション 2026年9月に適用が始まったEU・EmpCo指令に照らし、曖昧な表現、主張の対象範囲、将来目標、カーボンクレジット、独自ラベルの5つの観点から環境表示の見直しポイントを解説。SBTi認定目標の伝え方やロゴ使用の注意点についても紹介します。 目次 ■はじめに 1.環境表示ガイドラインが正式に改定 2.EmpCo指令は誰の、どの情報発信に関係するのか 3.見直したい環境表示の5つのポイント 4.SBTiもコミュニケーションガイドを更新 5.企業が今、確認したい環境表示の発信体制 ■まとめ はじめに:環境情報の「伝え方」が問われる時代へ 前回のコラムでは、環境省「環境表示ガイドライン」の改定案を取り上げ、読者の皆さまからも反響をいただきました。 「自社の表現が適切か確認したい」といったお問い合わせもいただき、環境への取組そのものに加え、その「伝え方」への関心も高まっていることがうかがえます。 前回のコラムはこちら:環境表示ガイドライン改定(2026年3月予定)グリーンウォッシュ回避に求められる実務対応 |コラム|株式会社ウェイストボックス その後、国内では2026年3月31日に「環境表示ガイドライン」の改定版が正式に公表されました。また、EUでは、消費者向けの環境主張に関する規制を強化する「EmpCo指令(グリーン移行のための消費者のエンパワーメント指令、Directive (EU) 2024/825)」に基づく規制が2026年9月27日に適用開始日を迎え、環境表示をめぐる制度整備が進んでいます。 本稿では、まず、前回の記事で紹介した環境表示ガイドラインの改定案から、正式公表された改定版への主な変更点に触れます。 そのうえで、EUで製品の販売や広告を行う企業に向けて、EmpCo指令に照らして見直したい環境表示のポイントを、「曖昧な表現」「主張の対象範囲」「将来目標」「カーボンクレジット」「独自ラベル」の5つに整理して解説します。あわせて、SBTi(Science Based Targets initiative:企業の削減目標が科学的根拠に沿っているかを認定する国際的なイニシアティブ)がEmpCo指令を受けてコミュニケーションガイドを更新したことを踏まえ、認定目標の伝え方とロゴの使い方についても取り上げます。 1.環境表示ガイドラインが正式に改定 前回記事で紹介した改定案からの変更点 環境省は2026年3月31日、「環境表示ガイドライン」の改定版を公表しました。2013年以来の改定です。前回記事で紹介した5つの基本項目は、改定版でも維持されています。 あいまいな表現や環境主張は行わないこと 環境主張の内容に説明文を付けること 製品のライフサイクル全体を考慮すること 環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能で、情報にアクセス可能なこと 製品又は工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切にされていること 改定案からの変更点の一つは、意見募集(2026年2月16日~3月17日)を受け、曖昧な環境主張の扱いについて説明が補足されたことです。改定版では、曖昧な表現や環境主張は行わないか、行う場合は単独で使用せず、必ず合理的な説明文を付けることが明記されました。 また、意見募集への回答では、「持続可能」「持続可能性」「サステナビリティ」といった用語を、製品・サービスだけでなく、事業活動や企業姿勢を示す情報開示に使用する場合も、説明文が必要であるとの考え方が示されています。 参考資料:環境省「意見募集におけるご意見の概要と回答」 https://www.env.go.jp/content/000389909.pdf P6(No.22) 国内ガイドラインとEU規制を分けて確認する必要性 今回の国内ガイドラインの改定は、欧州を中心にグリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)への監視が強まっていることを背景の一つとしています。 ただし、欧州の動向を背景にしているからといって、日本国内のガイドラインの内容がEUの規制と同じになっているわけではありません。ガイドラインは国内の事業者が自主的に環境表示を行う際の指針であるのに対し、EUでは冒頭で触れたEmpCo指令が、加盟国の法律を通じて消費者向けの環境表示を規制しています。両者は誤解を招く表示を防ぐという方向性では共通しているものの、表示が認められる条件や根拠の示し方には違いがあるため、ガイドラインに沿った表示であってもEUの要件を満たしているとは限りません。 同じ製品や広告をEUでも展開している企業は、ガイドラインとは別に、EmpCo指令の要件に照らして表示を確認しておく必要があります。 次章では、EmpCo指令がどのような情報発信に関係するのかを確認します。 2.EmpCo指令は誰の、どの情報発信に関係するのか 適用開始と日本企業への影響 EmpCo指令は、EUの不公正取引方法指令(UCPD)と消費者権利指令を改正し、消費者に向けた環境主張のルールを強化するものです。指令は企業に直接適用されるのではなく、各加盟国が国内法を整備し、その国内法を通じて効力を持つ仕組みになっています。 加盟国は2026年3月27日までに国内法を整備し、同年9月27日から適用することとされています。 日本企業に関係するかどうかを判断するうえで重要なのは、企業の所在地ではなく、誰に向けた情報発信かという点です。EU域外の企業であっても、EUの消費者に向けて製品を販売したり宣伝したりしていれば、指令の対象となり得ます。 消費者向けの広告・企業情報発信の対象範囲 対象となるのは、企業から消費者への(B2C)商業的な情報発信です。たとえば次のようなものが含まれます。 製品パッケージやラベル ECサイトの商品ページ テレビ・ウェブ広告、店頭POP SNSでの投稿やキャンペーン 一方で、企業間(B2B)の取引や、投資家向けのサステナビリティ報告は原則として対象外となっています。ただし、統合報告書などに記載した削減目標や取組であっても、それを消費者向けの広告や販促に用いれば、対象となり得ます。つまり、対象かどうかは、その情報をどの資料に書いたかではなく、誰に向けてどのような目的で使うかによって判断されることになります。 では、EUの消費者に向けた情報発信では、具体的にどのような表示が問題となるのでしょうか。次章では、改めて見直したい環境表示のポイントを5つに整理して確認します。 3.見直したい環境表示の5つのポイント EmpCo指令によって改正されたEUの不公正取引方法指令(UCPD)は、消費者向けの広告・企業情報発信において誤解を招く環境主張について、どのような場合に問題となるのかを定めています。ここでは、日本企業が見直しの対象としやすい5つのポイントについて、指令の要件と表示例をあわせて確認します。 ①「環境にやさしい」などの曖昧な表現 「環境にやさしい」「エコ」「グリーン」のように、具体的な内容を示さない環境主張を、指令は「一般的な環境主張」と呼んでいます。こうした主張は、EUエコラベルなどで「認められた優れた環境性能」を証明できる場合を除き、禁止されています。ただし、主張の具体的な内容が同じ媒体の中で明確かつ目立つ形で示されていれば、そもそも一般的な環境主張にはあたりません。その場合も、示した内容自体が正確で、根拠に裏付けられている必要があります。 そのため見直しでは、表現そのものを避けるかどうかだけでなく、「どの環境側面について、何を、どの程度改善したのか」を同じ媒体で伝えられているかを確認することが重要です。たとえば「環境にやさしいボトル」という表示であれば、「ボトル本体のプラスチック重量の〇%に再生材を使用(キャップ・ラベルを除く)」のように、主張の具体的な内容を具体的に示す形に改めることが考えられます。 ②一部の取組を、製品や企業全体の成果に見せていないか 具体的な内容を示していても、その範囲が実態と合っていなければ問題になります。指令は、製品の一部や事業の一部の活動にしか当てはまらない環境主張を、製品全体や事業全体についての主張として示すことを禁止しています。 たとえば、容器に再生材を使用していることを根拠に「環境に配慮した製品」と表示すると、中身を含めた製品全体の環境負荷が低いかのように受け取られるおそれがあります。こうした誤解を防ぐには、主張の対象が部材なのか、工程なのか、特定の事業なのかを、表示の中で明確にしておく必要があります。 ③将来目標に、実施計画や進捗確認の仕組みがあるか 「2030年までにCO2排出量を半減」「2050年ネットゼロ」といった将来の環境パフォーマンスに関する主張も、EUの消費者に向けた広告や、商品・サービスの販売促進等に関係する企業情報発信に用いる場合には、本指令による規制の対象となります。 こうした主張には、次の裏付けが求められます。 ・明確・客観的で、公開され、検証可能なコミットメントがあること ・そのコミットメントが、測定可能で期限のある目標と、詳細かつ現実的な実施計画に示されており、計画には目標達成に必要な資源の配分などが含まれていること ・独立した第三者の専門家が、目標達成に向けた進捗を定期的に検証し、その結果が消費者に公開されていること これらの裏付けを欠き、消費者が本来なら行わなかった取引上の判断をする、またはそのおそれがある場合には、表示の内容や状況を踏まえた個別評価により、誤認を招く行為と判断される可能性があります。 つまり、目標を掲げるだけでは足りず、達成に向けた具体的な計画と、独立した専門家による定期的な進捗確認と結果の公開までが求められるということです。 なお、検証の具体的な頻度・手法や結果の公開方法については、指令で一律の詳細が定められているわけではありません。欧州委員会の2026年9月版Q&Aでは、検証頻度の実務例として年1回・2年に1回などが示されています。また、実施計画や検証結果をウェブサイトに掲載し、製品パッケージ等のQRコードから誘導する方法も紹介されています。ただし、このQ&Aは法的拘束力のある解釈ではなく、具体的な対応は今後のガイダンス更新や各国の執行・裁判例を通じて、具体的な運用がさらに明確になると考えられます。 参考:「欧州委員会 “Questions & Answers”(2026年9月版)」 問12:European Commission ④クレジットの利用を、製品全体の排出削減と混同していないか EmpCo指令では、商品・サービスのバリューチェーン外でのオフセットを根拠に、その商品・サービスの温室効果ガスによる環境影響が「中立」「低減」「プラス」であると主張することが禁止されています。 例えば、オフセットを根拠とする「climate neutral(気候ニュートラル)」「CO₂ neutral certified(CO₂ニュートラル認証済み)」「reduced climate impact(気候への影響を低減)」などの表示が該当します。実際の排出削減とオフセットを併用していても、オフセットを根拠にこうした主張を行う場合は、表示の変更が必要です。 ただし、「カーボンニュートラル」などの言葉自体が、一律に禁止されるわけではありません。この禁止規定の対象となるのは、バリューチェーン外のオフセットを根拠に、商品・サービス自体の気候変動への影響が「中立」「低減」「プラス」であると伝える表示です。 商品・サービス自体の実際のライフサイクル影響に基づく主張は、この禁止規定の対象外ですが、その場合も、表示内容に十分な裏付けがあり、消費者の誤認を招かないことが必要です。 カーボンクレジットのプロジェクトを含む環境施策への投資や、クレジットの償却量を紹介することは、誤認を招かず、関連するEU法の要件を満たす限り可能です。その際は、商品・サービス自体の排出量が減少したり、ゼロになったりしたと受け取られないよう、実際の排出削減と、バリューチェーン外の環境施策への投資・支援を明確に区別して伝えることが重要です。 ⑤独自の環境マークやサステナビリティラベルは使用条件を満たすか 最後に、表示の中で使うマークやラベルです。指令は、サステナビリティラベルについて、所定の条件を満たす認証制度に基づくもの、又は公的機関が設定したものに限って表示を認めています。ここでいう認証制度とは、独立した第三者による検証に基づき、制度の要件・条件が公開されているほか、次の条件を満たすものです。 要件を満たす意思と能力のあるすべての事業者に、透明・公正・非差別的な条件で開かれていること 要件が、専門家や関係者との協議を経て策定されていること 要件を満たさない場合の手続きを定め、ラベル使用の停止や取消しを規定していること 遵守状況の監視が客観的な手続きによって行われ、監視する第三者の能力と、制度の所有者・事業者の双方からの独立性が、国際・EU・国内の基準に基づいていること 自社で独自に作成した環境マークがある場合は、まず、指令上のサステナビリティラベルに該当するかを確認する必要があります。該当する場合、認証制度に基づくもの又は公的機関が設定したものという条件を満たさなければ、EUの消費者向けの表示には使用できません。 4.SBTiもコミュニケーションガイドを更新 SBTiは、認定を受けた(またはコミットした)企業向けのコミュニケーションガイドを更新しました。新たに追加された付録1(P15-16)では、EmpCo指令(SBTiの文書では「ECGT指令」と表記)への対応が取り上げられています。 * EmpCo指令とECGT指令は、同じ「指令(EU)2024/825」を指します 重要なポイントは「認定を取得した後も、伝え方の確認は必要」ということです。 目標の認定と、製品・実施計画の評価の違い まず前提として、SBTiが認定するのは企業の削減目標です。ガイドの本文では、個々の製品や、企業の戦略、移行計画、実施計画、進捗そのものは認定の対象外であることが示されています。「SBTi認定」という言葉が、製品の環境性能や計画の実効性まで保証しているかのように伝わらないよう注意が必要です。 SBTi認定目標を消費者向けに伝える際の注意点 付録では、EUの消費者に向けて「SBTi認定」の目標を伝える場合、それが将来の環境パフォーマンスに関する主張として扱われ得るとしています。その場合、実施計画の公表を含め、指令の条件を満たす必要があります。 ここでは、法令上の要件とSBTiによる案内を分けて読むことが大切です。 法令上の要件(EmpCo指令):実施計画の公表に加え、独立した第三者専門家による定期的な検証などの条件が求められる SBTiの案内:EUの消費者向けにSBTiの主張を行う前に、法的助言を得るよう推奨。製品パッケージについては、法的助言で適合が確認されるまで表示しないよう案内。 SBTiが認定するのは削減目標であり、実施計画や進捗そのものではありません。そのため、SBTiの認定だけで、指令が求める独立した第三者専門家による定期的な検証を満たすことにはなりません。目標の認定と計画の検証は別物として整理しておくのが安全だと考えられます。 SBTiロゴの使に関する注意点 ガイド本文では、SBTiロゴの使用は認定目標に関連するB2Bコミュニケーションに限られ、製品パッケージやB2Cコミュニケーションでは使用しないよう案内されています。使用できる媒体としては、企業・投資家向けのサステナビリティレポートなどが挙げられています。 付録でも、EUの消費者向けの情報発信にはロゴを使用しないよう明記されています。SBTiは、EmpCo指令の実施状況を注視し、今後、消費者向けの情報発信にもロゴの使用を認められるか検討するとしています。 5.企業が今、確認したい環境表示の発信体制 サステナビリティ・広告・法務部門の連携 環境表示の見直しは、一つの部門だけでは完結しません。環境主張の根拠となるデータや目標はサステナビリティ部門が、消費者に向けた表現は広報・マーケティング部門が、販売先の国の法令への適合は法務部門が、それぞれ把握していることが多いためです。 2章でご説明した通り、投資家向けの報告書に記載した目標や取組であっても、消費者向けの広告に用いればEmpCo指令の対象となり得ます。そのため、ある部門が作成した情報を別の部門が転用する場面が、見落としが生じやすいポイントだと考えられます。 こうした見落としを防ぐためにも、EU向けの環境表示については、公開前に上記の三部門が確認する流れを社内の手順として組み込んでおくことが有効だと考えています。また、表示は一度確認すれば済むものではなく、目標の見直しや認証の更新など根拠となる情報が変わったときにも、同じ確認が行われるよう部門間で情報を共有する仕組みがあると安心です。 まとめ 2026年9月27日のEmpCo指令に基づく措置の適用開始により、EUの消費者に向けた環境表示では、環境に配慮しているというイメージだけでなく、主張の対象範囲や根拠を明確に伝えることが、より重要になりました。国内ガイドラインに沿った表示や、SBTiの認定を取得した目標であっても、それだけでEmpCo指令の要件を満たすわけではありません。 こうしたルールは、企業が環境への取組を発信すること自体を妨げるものではありません。対象範囲と根拠を明確にし、取組の実態を正確に伝えることは、消費者の判断を助け、企業への信頼にもつながると考えられます。 まずは、本稿で紹介した5つのポイントを参考に、EU向けの環境表示と、それを裏付ける根拠を見直してみてはいかがでしょうか。せっかくの取組が、伝え方によってグリーンウォッシュと受け取られることのないよう、本稿が、環境表示を再確認するきっかけとなれば幸いです。 参考文献 1.環境省「『環境表示ガイドライン』の改定について」(報道発表、2026年3月31日) https://www.env.go.jp/press/press_03660.html 2.環境省「『環境表示ガイドライン』の改定概要」 https://www.env.go.jp/content/000389908.pdf 3.環境省「意見募集におけるご意見の概要と回答」 https://www.env.go.jp/content/000389909.pdf 4.Directive (EU) 2024/825 of the European Parliament and of the Council of 28 February 2024 amending Directives 2005/29/EC and 2011/83/EU as regards empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and through better information(OJ L, 2024/825, 6.3.2024) EUR-Lex - Official Journal of the European Union 5.Science Based Targets initiative “SBTi communications guide for organizations taking action”(2026年8月版) https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/SBTi-communications-guide-for-organizations-taking-action.pdf 6.「欧州委員会 “Questions & Answers”(2026年9月版)」European Commission (執筆者:小澤) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・SBT目標設定・気候移行計画策定|株式会社ウェイストボックス ・カーボンニュートラル・BVCM|株式会社ウェイストボックス ・LCA、CFP算定、カーボン・オフセット事業|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス|株式会社ウェイストボックス
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