2025.06.05
SSBJ基準が公開 TCFD対応から求められるアップデートとは
2025.06.05
2025年3月に、日本版サステナビリティ情報開示基準である、SSBJ基準が公開されました。24年3月に公開された草案から、パブリックコメントや審議を踏まえた改訂を反映させた内容になります。 サステナビリティ担当の方におかれましては、日々データの社内連携や各媒体からの開示要請などの対応に追われ、多忙な日々を送られているケースをよく見かけます。 弊社によくあるお問い合わせとしては、以下のようなものがあります。 ―「TCFDの開示を行ったものの、アップデートができていない。SSBJの開示基準を見据えたアップデートを行いたい」 ―「CDP質問書に合わせて開示情報を整理したが、統合報告書やサステナビリティレポートなどの媒体に合わせて、どのように整理していけばいいか迷っている」 今回のコラムでは、25年3月に公開されたSSBJの確定基準と現在審議中の内容から、プライム上場企業やそれに準ずる企業規模に属するサステナビリティ・IR担当者の方が、SSBJ基準に合わせた気候関連情報をアップデートする際に疑問に感じるであろう点を、FAQ形式で回答します。 SSBJ対応実務におけるよくある質問 Q. いつから適用義務になるのですか?当社は時価総額が1兆円未満です。 A: あくまで2025年5月時点の審議中の内容では、時価総額3兆円以上:2027年3月期、1兆円以上:2028年3月期から、5000億円以上:2029年3月期の財務報告資料から順に記載義務化が予定されています。(下記スケジュール案を参照) よって、貴社が時価総額1兆円未満であれば最短でも2029年3月期からの適用が見込まれます。とはいえ、投資家からの信頼を得る観点では、早期の任意適用も検討する価値があります。 なお、第三者検証については、義務適用年から1年遅れで求められる方針で、審議が進んでいます。 「第5回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキンググループ資料」を弊社にて加工 Q: TCFD対応だけでは不十分なのですか?SSBJ気候基準ではどのような追加対応が求められますか。 A: SSBJの気候基準について、基本的な枠組み(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標)はTCFD提言と共通ですが、内容はより詳細に定義されており、各要件に沿った開示を整備していくことが求められるでしょう。 詳しくは、次の「気候関連情報の詳細に関するよくある質問」にて解説します。弊社では、各開示要件と依頼企業様の現状開示を比較し、あるべき形とのギャップ分析を行うことで、開示のアップデートを支援しています。 気候関連情報の詳細に関するよくある質問 Q:「気候関連リスク・機会が財務に与える影響」を開示するように求められていますが、金額を特に示さず、定性的な開示でもよいでしょうか?(気候基準 第22項) A: 可能ですが、できる範囲で定量的な情報を開示することが求められます。 定量的開示が免除されるのは、①影響をリスクごとに区分して測定できない場合 や ②見積もりの不確実性が極めて高い場合です。その場合、「資産や事業活動の規模(大・中・小など)」など、影響の規模感を相対的に説明することでも基準を満たすとされています。 ただし、そのよう免除を適用した場合でも、代わりに定性的な説明を十分行い、定量開示が困難な理由を開示する必要があります。 参考:気候基準第25-27項、BC185,186 Q: 気候変動シナリオ分析によるレジリエンス評価とは、どのような評価を指しますか?(気候基準第30項) A: 気候レジリエンスとは、「気候関連の変化、進展又は不確実性に対応する企業の能力」と定義されています。(気候基準第5項) SSBJ気候基準では、自社の気候レジリエンスに関する情報を開示するにあたり、シナリオ分析に基づく評価を行うことが求められています。具体的には、将来の気候変動シナリオ(例えば産業革命以前比1.5℃未満シナリオや4℃シナリオ等)を用いて、規制強化(例:炭素税)や物理的リスク(例:洪水・干ばつのリスク)が、自社の事業に与える影響を分析します。そうした事業環境の変化の中で、リスクを低減し、機会を増大できるような、ビジネスモデルや投資戦略、技術・設備などの資産を有しているかどうかについて、経営的な観点で確認・評価するような作業が想定されます。 なお、シナリオ分析は毎期実施が義務付けられているわけではない一方、レジリエンス評価は毎期見直しを行うことが求められています。 参考:気候基準第30-39項 Q: 「ビジネス・モデル及びバリュー・チェーンに与える影響」とは、どのような内容を指していますか?(気候基準第20項) A: 「バリュー・チェーン」とは、報告企業の行う事業活動以外に、原材料調達、加工、物流など、サプライヤーを含む上流での活動や、最終消費者による使用、消費などの下流での活動が該当すると考えられます。 例えば、シナリオ分析やレジリエンス評価において、自社の主力製品の製造に必要不可欠な資源の供給に影響を与えうる気候変動リスクが判明した場合、影響を受ける地域・施設の詳細や影響の程度、取りうる対応策について、開示することが考えられます。 参考:適用基準第4,46項 「2025年3月SSBJハンドブック」ーバリュー・チェーンの範囲の決定 Q:移行計画とはどのような内容を指しますか?削減目標は公表しているのですが、それとはどう違うのですか?(気候基準第28項) A:移行計画は、「温室効果ガス排出の削減などの活動を含む、低炭素経済に向けた移行のための企業の目標、活動又は資源を示した企業の全体的な戦略の一側面」と定義されています。(気候基準第5項)単なる削減目標だけでなく、ガバナンス整備や投資計画等を含めた、目標達成までの計画を具体的に示します。 例えば、自社の脱炭素戦略として、主要な施策(設備投資、再エネ導入、製品ポートフォリオ転換、省エネ施策、カーボンオフセット利用予定など)を説明し、中間マイルストンや進捗指標(KPI)があれば併せて記載します。 参考:気候基準第28,29項 気候移行計画に求められる要件については、CDP、TCFDといったさまざまな機関が定義を公共しています。例えばCDPでは、以下の8つの要件が必要とされています。 出典:CDP Japan公開資料を弊社にて加工 Q: 「スコープ3の開示は一部でよい」という話を聞きましたが、本当でしょうか? A: スコープ3の算定・開示対象は、原則としてバリューチェーン全体を含み、すべてのカテゴリを検討しなければいけません。「算定のコストがかかる」、「データが取得できない」という理由で恣意的に一部のカテゴリを選択することはできません。 SSBJ気候基準では、当期における温室効果ガス排出量をスコープ1、スコープ2、スコープ3に区分してそれぞれ開示することが求められています。 参考:気候基準第47項 Q:当社は温対法での算定期間と、決算期間がずれています。決算期間に合わせて集計し直す必要がありますか? A: サステナビリティ関連財務開示と関連する財務諸表の情報との間のつながりを重視すべきという考えから、自社の排出量に関しては、決算期間に合わせたGHG排出量の集計・開示をすべきとされています。 参考:気候基準第BC124 Q:有報開示の6月までに、前年度のScope1,2,3算定に必要なすべてのデータを揃えるのが難しいと考えています。その場合は、どのような措置を行えばよいですか? A: 2025年5月時点で行われている議論では、有報開示時点で、「見積もり」であった数値に関しては、その後判明した確定値と異なっていた場合でも、「訂正報告書」の提出は必要ない、とされています。そのため、一旦は見積もり数値を用いて提出し、以降に「見積もり」数値が変更された場合は、次の報告書から記載を更新すればよいとされています。 出典:第6回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ資料より抜粋 (執筆者:馬場)
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