Column

コラム

【2024年3月版】SBT申請の必携資料を紹介!改訂されたCriteriaのキーポイントとは

 弊社ではCDPの気候変動コンサルティング&SBT支援パートナーとして、企業のSBT認定取得を支援しています。 2020年頃から多種多様なセクターに属する企業様向けに、短期目標、ネットゼロ目標、および目標アップデートの支援を重ねてまいりました。  今回のコラムでは、昨年末からのSBT関連リソースの主な更新情報についてお届けします。 これからSBTの取得を目指す企業様はもちろん、認定後5年以内のアップデートを控える企業様にも参考になる情報をご提供します。 主なSBT関連リソースの最新動向(2023年冬以降)  ここ数カ月でSBT関連リソースが立て続けにリリースおよび更新されました。主な変更点は以下の通りです。 ・Corporate Target Submission Formの改訂 WordからExcelへの形式の変更、別々だった短期目標の設定、ネットゼロ目標の設定、アップデートの各フォームを統一。 ・FLAG Annexの改訂 WordからExcelへの形式の変更。 ・Procedure for Validation of SBTi Targetsのリリース ・SBTi Criteria Assessment Indicatorsのリリース ・Corporate Near-Term Criteria V5.2、Corporate Net-Zero Standard V1.2のリリース ※Corporate Manualを廃止し、Procedure for Validation of SBTi TargetsおよびCorporate Net-Zero Standard V1.2に内容を統合。 ・Forest, Land And Agriculture Science Based Target-Setting Guidance V1.1のリリース ・An SBTi Report On The Design And Implementation Of Beyond Value Chain Mitigation (BVCM)のリリース  上記の他に、中小企業(SMEs)の定義の改訂、コミットメントレター申請フォームの変更、陸上輸送のような各セクター向けの目標設定ガイダンスのリリースなどもありました。 妥当性確認審査の透明化と効率化の動き  特に注目すべきは、Corporate Target Submission Formの改訂とSBTi Criteria Assessment Indicatorsのリリースです。SBTが従来、妥当性確認審査中に指摘していた内容を、これらのリソースに表現することで、審査の効率化を目指しています。申請企業にとっては、Corporate Target Submission FormのExcel形式への変更により、解答不要箇所の自動的なグレーアウトや、Target languageの候補の出力など、従来のWord形式よりも使い勝手が向上しました。  一方、膨大な詳細情報を事前にCorporate Target Submission Formに記載しなければならないことから、審査準備の時間を従来よりも確保しておく必要があります。効率的にCorporate Target Submission Formの作成を進めるには、SBTi Criteria Assessment Indicatorsを参照しながらの作成が推奨されます。 SBT申請に向けた必携資料(2024年3月時点)  今後、目標の申請やアップデートをされる企業様は、最新のリソースに準拠する必要があります。従来参照していた主な資料は、Corporate Manual+Target Validation Protocol+SBTi Criteria and Recommendationsの3点でしたが、今後は新たにリリース/更新された ・Procedure for Validation of SBTi Targets ・SBTi Criteria Assessment Indicators ・Corporate Near-Term Criteria V5.2、Corporate Net-Zero Standard V1.2 を参照する必要があります。特にSBTi Criteria Assessment Indicatorsの資料は、スコープ1,2,3のスコープごと、スコープ3の15のカテゴリごとの審査のポイントが詳細に記載されており、排出量算定の時点でも参考になるポイントが多くあります。 Criteriaのマイナーアップデート(2024年3月)  2024年3月、Corporate Near-Term Criteria、Corporate Net-Zero Standardのマイナーアップデートがありました。マイナーというくらいなので、大枠の変更はありません。しかしながら、押さえておくべき更新箇所はいくつかあります。一例を挙げると、C26(ネットゼロC32)の「必須の目標再計算」関連の内容です。今回のアップデートにより、タイトルが” Mandatory target recalculation”から” Mandatory target review”に変更されました。この項目の脚注には、レビュー期間の定義が追加されています。  これから短期目標の設定、目標アップデート、ネットゼロ目標の申請を予定されている企業様は、最新のCorporate Near-Term Criteria V5.2、Corporate Net-Zero Standard V1.2を確認しておくことが推奨されます。   さいごに  SBTiは、企業が独自にSBTの申請や、認定取得を進められるよう、豊富なサポート資料を提供しています。だからこそ、膨大な資料が発行され、頻繁にアップデートが行われている側面もあります。日本の企業様にはそれに加えて言語面のハードルもあり、効率的な申請手続きが難しい現状があります。それでも4月2日のSBTiのブログでは、2022年1年間に日本企業1,000社以上が目標設定を行ったことが触れられ、素晴らしいマイルストーンとして記載されました。  弊社は日本の企業様を支援しながら、SBTの最新動向を常にウォッチし、日本の企業様が直面するであろう課題を理解しております。SBT認定取得に向け、お困りごとがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。これまでの支援経験と、日本語でのサポート資料をご用意して、皆様のお問い合わせをお待ちしております。 (執筆者:小島)

read more
国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(後編) | 業界動向

国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(後編)

 2021年2月に一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が唯一のI-REC発行主体として指定され、日本でもI-RECを利用できるようになりました。前編では国際的なエネルギー属性証明の仕組みの1つである「I-REC」について、その特徴や非化石証書との違いに触れましたが、後編ではI-RECの購入方法や今後の展望についてご紹介します。   I-RECの購入方法  I-REC等の再エネ属性証書をRE100など国際イニシアチブへの報告等利活用するためには、再エネ発電事業者から需要家企業に証書の名義を変更し、再エネ発電事業者の取引口座から、需要家企業の取引口座に移す【移転】、移転後に保有する再エネ属性証書を無効化し、属性証明として使用することが【償却】の段階を踏む必要になります。I-RECは相対取引で売買され、発電設備の選定、売買交渉・契約から、移転・償却までを代行するプロバイダーが世界中におり、そのようなプロバイダーから購入する方法が主流ですが、自社で直接購入することも可能です。  I-RECでは世界共通でEVIDENT社のレジストリ(登録簿:証書の発行、移転、償却等を記録するためのシステム)が使用されています。このレジストリにParticipantとして登録すると、自社で直接証書を購入することが可能です。発電事業者との売買契約が成立したら、EVIDENT上で移転と償却を行い、I-REC償却証明書はEVIDENT上でPDF発行されます。自社で口座の開設やそれに伴う初期費用が必要になりますが、プロバイダーを介さないため、1MWh当たりの費用低く抑えられます。但し自社で再エネ発電事業者(売り手)を探し、売買交渉も行う必要があります。   EVIDENTでの直接購入の必要費用は以下となります。(2023年10月時点) ・証書購入代金(再エネ発電社が設定した価格) ・口座開設料EUR 500.00 (78,885円*1EUR=157.76 円) ・年間口座維持料EUR 2000.00 (315,520円 *1EUR=157.76 円) ・償却費用 EUR 0.06/MWh  (10円*1EUR=157.76 円) *料金改定等がある場合があります。 正確な金額等は直接お確かめください。https://www.irecstandard.org/fee-structure-for-market-players    日本のI-RECについては「EneTrack」を通じた購入も可能です。EneTrackは、I-REC国内向けプラットフォームです。プラットフォーム上でITサービス企業SCSKがプラットフォームオペレーターとして再エネ属性証書の取引(発行から移転、償却まで)のI-REC利活用に関するプロセスをワンストップで代行します。需要家企業は、価格や再エネ電源種別などの属性、産地、追加性(運転期間)等の希望条件に合った再エネ属性証書がEneTrack上でマッチングされるので、労力を掛けて再エネ発電事業者(売り手)を探す必要はありません。証書の購入や償却は、EneTrackのサービス提供時間内であれば、いつでも行うことができ①相対取引での購入時に必要な手続きの簡素化を実現し、日本におけるI-RECの取引の活性化、再エネ需要を高めることが考えられます。また、プラットフォームオペレーターの口座で再エネ属性証書を預かる運用を取るため口座開設は無料であり、基本的に初期費用はかかりません。   EneTrackを通じた購入の必要費用は以下となります。(2023年10月時点) ・証書購入代金(再エネ発電社が設定した価格) ・償却費用 20円/MWh トップ|EneTrack[エネトラック]国際的なエネルギー属性証明書「I-REC」の取引プラットフォーム (scsk.jp)     PowerPoint プレゼンテーション (localgood.or.jp) P20     今後の展望  日本政府は今後非化石証書を改善し、I-RECのような産地等の電源属性を証明する電源証明型にすることを検討しています。その結果、非化石証書が国際的に通用する電源証明になり、再エネごとに証書の価格差が生まれて地域貢献する再エネの価値が高まる仕組みになった場合には、日本でのI-REC発行の終了を検討しています。グローバルでの証書の潮流は「環境価値」にとどまらず「再エネ属性証書」に移行しています。 まとめ  現在日本では、再エネの電力がどのように生成されたのか、どの発電所から供給されているのかといった情報を追跡する仕組みが不足しているという課題があり、産地等の電源属性を証明する電源証明型のI-RECがそれを補填する形で国内では当面使用されることが考えられます。  また需要家から見て、I-RECは発電設備が特定でき、環境負荷が低く、発電方法踏まえ運転開始日が新しいものほど価格が高く評価されることでより応援したい電気を安心して、また信頼性のある再エネ証書を選ぶことができるというメリットがあります。再エネ属性証明に一番重要なことは信頼性です。証書という価値は物体として見えないものであるため詐称がないようにガバナンスで信頼性を担保することが重要です。そのためI-RECはグローバルで統一したEVIDENT上、十分な監視体制の元で取引されており、外部から見ても信頼性がある証書と言えます。I-RECは日本の証書の在り方を問いただし、国内の再エネ普及を加速させる存在になるのではないかと考えます。引き続き、その展望を弊社も追っていきたいと考えます。     ■参考資料 Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230906 (localgood.or.jp) トップ|EneTrack[エネトラック]国際的なエネルギー属性証明書「I-REC」の取引プラットフォーム (scsk.jp)   (執筆者:小澤)

read more

国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(前編)

   現在多くの企業が脱炭素へ取り組み、その実現に向け再生可能エネルギー(再エネ)を活用することが重要です。しかし、日本の再エネの利用には課題があります。具体的には、再エネの電力がどのように生成されたのか、どの発電所から供給されているのかといった情報を追跡する仕組みが不足していることです。この問題を解決するための国際的なエネルギー属性証明の仕組みの1つである「I-REC」を紹介します。 I-RECとは  「I-REC(International Renewable Energy Certificate)」は、欧州、北米を除く国で発行される国際的なエネルギー属性証明(電気等の環境面の特性を示す証書)です。欧州のGOや北米のRECといったエネルギー属性証明と同様の仕組みが他の国でも使えるように、オランダのNGO、The International REC Standard Foundation(I-REC Standard)が標準化、ルールを設け、そのルールの下に、国ごとに認定された発行体が運営を行い、証書を発行しています。証書を発行・管理するためのレジストリーも、I-REC Standardの出資先が運営するものを、各国共通で使用します。現在、世界約50か国・地域で使用されていますが、一部の国では政府が運営する証書とともに使用され、補完的な役割を担っています。 日本でも、2021年2月に一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が唯一のI-REC発行主体として指定され、この証書を利用できるようになりました。   I-RECの特徴  以下の主要な特徴があります。  ① CDP、SBT、RE100に利用可能 (日本国内制度では使用不可)  前述の通り、欧州のGOや北米のREC等を参考とした国際標準のルールの下に発行される証書であり、CDPや、RE100・SBTといった国際イニシアティブにおいて利用が認められています。 GHGプロトコルはScope2ガイダンスで、証書の品質基準を定めており、CDP、SBT、RE100はいずれもこれに準拠しています。I-RECはこの要件を満たしており、よって、いずれにおいても利用が認められています。(要件は以下表を参照ください。RE100はScope2ガイダンス準拠に加えてそれ以外の独自要件もあり。) 「RE100」では、RE100達成(再エネ電力100%達成)のための再エネ調達量として問題なく報告が可能です。同様に「CDP質問書」では【エネルギー属性証書】として、再エネ調達量としての回答が可能です。また、Scope2マーケット基準の報告では、排出係数0の電力として計算し報告が可能です。「SBT」でも同様に、基準年と進捗の評価にScope2マーケット基準を採用する場合には、排出係数0の電力として計算ができるため、Scope2の削減手段として利用が可能です。 電力証書が自然エネルギーを増やす:日本と海外で隔たる制度 (renewable-ei.org) P7    一方、地球温暖化対策推進法(温対法)など、一部の日本の制度ではI-RECを使ったオフセットが現在は認められていません。環境価値を主張する場合は、別途非化石証書を取得する必要があります。 「日本でのI-REC発行について」(2023年8月10日更新)- ローカルグッド創成支援機構 Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp) P13   ②相対取引による売買   I-RECは相対取引で売買されます。よって価格は固定されません。また、どのような発電方法でどのような場所で作られた再エネかといった、環境面の特性が証明されているため、環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいもの、地域貢献度の高いものなどがより評価され、高い価格で取引されるような仕組みになっています。     非化石証書との違い  大きな違いは以下2点ございます。 ①トラッキング情報、価格差  非化石証書は、I-RECのような国際的な再エネ属性証書とは異なり、証書の対象になる電力が FIT か非 FIT か、再エネ由来かそうでないか、という情報のみ把握でき、産地・電源種別等の情報がありません。解決策として、非化石証書を購入した後に、後付けでこれらの情報を追加する「トラッキング付き非化石証書」が導入されています。これにより、発電方法や運転開始日、所在地等の情報を把握できるようになりましたが、非化石証書の購入段階では把握できず、本来は評価が異なるはずのものが、一律の入札方式で同じ価格で取引されてしまいます。購入した結果、希望した条件にあうトラッキング情報がつかない可能性もあります。海外の証書は環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいものほど価格が高くなりますが日本で価格差が生じにくいのは上記の背景にございます。資源エネルギー庁は上記の背景により非化石証書も海外の証書と同様に、発行した時点でトラッキング情報を付与する形に変更を検討しています。   ②産地価値と特定電源価値    電力に付随する価値は複数あります。CO2排出削減等の環境価値や、特定地域で作られた産地価値、特定の電源で作られた特定電源価値等です。非化石証書にはこのうち、産地価値と特定電源価値 が含まれていません。日本ではこれらの価値は証書ではなく電気取引に付随すると整理されています。再エネの産地や電源について訴求したい場合、非化石証書に発電方法や発電所の所在地の情報が付与されていたとしても、それによって訴求してよいとは限らず、電力の取引契約とセットとなっている必要があります。先述の国際的な証書の要件の通り、本来はこれらの価値のすべてを集約すること(属性の集約)が求められています。資源エネルギー庁では、産地価値と特定電源価値を含むすべての属性を持つ証書の整備を検討しています。 https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_RE-Certificates.pdf P.40   後編ではI-RECの購入方法や今後の展望についてまとめます。   参考資料 ・電力証書が自然エネルギーを増やす日本と海外で隔たる制度 電力調達ガイドブック 第6版(2023年版):自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け | 報告書・提言 | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・電力調達ガイドブック 第6版(2023年版)自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・日本でのI-REC発行について(2023年8月10日 一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 ) Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp)   (執筆者:小澤)

read more
IFRS S1・S2基準の最終版への対応について | 業界動向

IFRS S1・S2基準の最終版への対応について

    2023年6月26日、ISSB(International Sustainability Standard Board、国際サステナビリティ基準審議会)は、最終化されたサステナビリティ開示基準を公表しました。 ISSB は、それまで複数存在していたサステナビリティ開示基準を統合し、国際的な一貫性及び比較可能性を実現することを目的として設立された組織です。 今回公表された基準は、(1) サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)と、(2) 気候関連開示(IFRS S2)から成り立っています。また、S2付録 B として「産業別要求事項」があります。 IFRS S1では、投資家の投資判断に資する、サステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報の開示が要求されています。開示タイミングや開示場所、不確実性に対する情報、誤謬の取り扱いなど、全般的な要件が定められています。 IFRS S2では気候変動関連の開示のより詳細な基準が定められています。今後は、「人的資本」「生物多様性」などほかのサステナビリティテーマに係る基準も公開される見込みです。ここでは気候変動への対応に焦点を絞ってお話しします。   基準側の動きとして、今回の公表と同タイミングで、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候変動関連財務情報開示タスクフォース)を運営する金融安定理事会は、気候変動開示に関するモニタリング機能を、ISSBへ移管すると発表しました。これによって、TCFD提言対応は、さらなる高度化を求められていくことになる見込みです。 さて、これらの動向に対して、本コラムでは大きく2つのことを強調できればと思います。 ■TCFDとIFRS S1・S2の関連 第一にお伝えしたいことは、TCFDが提唱したフレームワークの役割がなくなったわけではないということです。公表されたIFRS S1・S2は、TCFDフレームワークを土台に作成されています。企業が、ISSBの求める基準に対して足りない部分を明確にし、開示内容の充実に取り組む必要があるのは確かですが、まずはTCFDで定められた要件への対応が先決であることは変わりません。TCFDフレームワークは、2021年10月のコーポレートガバナンスコードの改訂で、日本のプライム企業には開示が実質的に義務化された事項です。TCFDへの対応が不十分な企業については、まずはTCFDフレームワークへの対応を通じて、段階的に開示案を検討していくことが重要です。TCFD対応については、環境省をはじめガイダンス資料も充実していますので、そちらを参考にされるとよいでしょう。なお、TCFDとIFRS S2との差異については、IFRSによる公式資料*が公表されています。   参考資料①:気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp) 参考資料②:「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0(TCFDガイダンス3.0)」を公表しました。 | TCFDコンソーシアム (tcfd-consortium.jp) ※ソース:Comparison IFRS S2 Climate-related Disclosures with the TCFD Recommendations   ■CDP質問書の活用 第二に、開示には、媒体やプラットフォームの特徴をうまく使い分けることが必要という点です。多くの企業では、サステナビリティ開示について似たような内容を異なる媒体で開示することが求められているかと思います。例えば、自社のサステナビリティレポートや有価証券報告書、Eco-VadisやCDPといったプラットフォーム、そして各取引先企業やメディアからの調査票などです。 その中で、IFRS S1 およびS2の開示案を検討する際に有効な補助ツールとなると考えられるのが、CDP質問書です。CDP質問書では、TCFDとCDPの関連性はもとより、すでにIFRSとの整合性を意識されて構成されています。そして、2024年度版からは、IFRS S2への準拠が正式に発表されています*。そのため、CDP質問書への回答がすでに充実している企業は、今後もCDP回答との対応を意識するとよいと考えられます。CDP質問書の内容や公開されているガイダンス、スコアリング基準は毎年更新されますので、これらを参考にすることで、IFRS基準での開示で評価されるポイントについての実務的な観点を補うことができると考えられます。 参考資料③:開示サポート - CDP ※ソース:https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/11/cdp-to-incorporate-issb-climate-related-disclosure-standard-into-global-environmental-disclosure-platform/   ■今後の日本企業の対応について 日本企業に関しては、2022 年7月に設立されたSSBJ(サステナビリティ基準委員会)主導で、日本版のサステナビリティ情報開示基準がISSBに準拠する方針で検討されています。2024年度中には確定基準が公表され、早くて2026年3月期から有価証券報告書への適用が見込まれます。有価証券報告書に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が新設され、「ガバナンス」「リスク管理」の開示を要求、「戦略」「指標及び目標」については各企業が重要性を踏まえ判断、という内容で検討されています。   参考資料④:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」   本コラムではいくつかの公開ガイダンスを紹介しました。IFRSの最終版は、これまでのサステナビリティ開示の論点を改めて明確化したという意味合いが強いですので、既存のガイダンスをうまく活用しつつ、対応していくことが重要と考えられます。   (執筆者:馬場)  

read more

SBTi FLAG目標について(後編)

  SBTi(Science Based Target initiative)は昨年「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」セクターガイダンスを発表しました。これを受け今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。このFLAG目標の概要を2回に分けて整理しています。今回はその後編として目標設定において必要な要件についてまとめます。   目標設定対象企業 前回のおさらいになりますが、FLAG目標の設定が必要な企業は以下の企業です。 森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売(外食も含む)、タバコセクターの企業 その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業 ※例えば以下のような企業は該当する可能性があります。 小売業、容器・包装、ホテル・レストラン・レジャー・観光サービス、繊維製造・紡織・アパレル、繊維・アパレル・靴・高級品、耐久消費財、家庭用品・個人用品、タイヤ、建築製品、住宅建築、建設資材、建設・メンテナンス、インフラ開発、鉱業、道路建設、資源採取   FLAG関連排出量が20%未満である場合もFLAG目標設定が推奨されています。(任意)また、FLAG目標を設定しない場合にも、非FLAG排出量(従来のSBTが対象とするエネルギー・産業分野の排出量)とともにインベントリに含める必要があります。中小企業はFLAG目標設定の必要はありません。既存の中小企業ルートで目標設定を行います。   目標水準 目標水準としては1.5℃水準が求められます。目標設定方法には以下の2種類があります。 FLAGセクター経路: 総量削減目標(年率3.03%以上。炭素除去含む)。主に小売等の需要側向け  コモディティ原単位経路: 原単位削減目標。主に生産等の供給側向け。現在、牛肉、鶏肉、乳製品、皮革、トウモロコシ、パーム油、豚肉、米、大豆、小麦、木材・木質繊維の11種類を整備   食品生産や小売等の需要側企業はFLAGセクター経路を使用します。農産物生産等の供給側企業で、コモディティ原単位経路が整備されている製品を扱っており、その排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は、該当のコモディティ原単位経路かFLAGセクター経路のどちらかを選択することが可能です。コモディティ原単位経路が整備されていない製品を扱っている場合はセクター経路を使用します。森林・紙製品セクター企業、木材・木質繊維に関する排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は必ず木材・木質繊維のコモディティ原単位経路を使用する必要があります。 削減率の水準については、非FLAG同様、SBTiが各経路の目標試算ツール「SBTi FLAG Tool」を提供しているので、そちらでご確認ください。   目標範囲 大前提として、対象企業は自社の排出量をFLAGと非FLAGに分けて管理し、それぞれの排出削減目標を設定する必要があります。FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」、ファームゲートより先の排出量は非FLAG排出量として整理されます。FLAG目標はこのうちのFLAG排出量を対象範囲とします。 FLAG排出量はさらに排出量と炭素除去量に分けて管理することが求められています。FLAGの排出量には、土地利用変化に伴う排出量と土地管理に伴う排出量の2種類があります。土地利用変化に伴う排出量は、森林が農地に転換される等といった土地利用変化による、バイオマスや土壌等の炭素蓄積量の減少分を排出量として計算します。転換による排出は転換後20年間にわたり考慮します。土地ごとに計測によって把握する直接的土地利用変化(dLUC)手法と、特定の地域全体における土地利用変化の状況から推計する統計的土地利用変化(sLUC)手法の2つの方法があります。土地管理に伴う排出量は、農業等人為的に土地を管理することによって発生する排出量を対象として計算します。肥料使用によるN2Oの排出や水稲によるCH4の排出等、従来のGHG排出量算定の中でも一部は考慮されてきたものです。 炭素除去量はバイオマスや土壌などの炭素蓄積量の増加分を除去量として計算します。除去量は継続的に貯留されモニタリングされるもののみを加算する必要があります。 上記を含む炭素除去の要件を満たすとき、除去量はFLAG目標の達成に使用可能です。(FLAG排出量は排出量から炭素除去を除いたネット排出量で考慮されます。すなわち、炭素除去がFLAG排出量削減の手段となります。)しかし、FLAGの炭素除去は非FLAG目標の削減には使用できません。また、FLAGの炭素除去はサプライチェーン内での炭素除去のみが対象であり、サプライチェーン外の炭素除去(クレジットの購入等)の使用は認められていません。   非FLAG目標と同様に、FLAG目標でもScope1,2及びScope3排出量(Scope3排出量がScope1,2,3排出量全体の40%以上を占める場合)を対象範囲として目標を設定します。土地を直接所有・管理している企業はFLAG関連のScope1排出量が発生している可能性があります。土地関連の活動を行うサプライヤーから製品・サービスを購入している企業はFLAG関連のScope3排出量が発生している可能性があります。Scope1,2の 95%以上、Scope3の67%以上を目標範囲としてカバーする必要があります。   基準年・目標年 基準年・目標年の考え方も非FLAG目標と同様です。基準年としては2015年以降、目標年は申請時点から5~10年先までの間で設定する必要があります。FLAG目標と非FLAG目標はできるだけ同じ期間とすることが推奨されています。   森林破壊ゼロ FLAG目標設定企業は、排出削減目標の設定に加えて、森林減少0(森林破壊を行わないことを約束する)への宣言が求められています。宣言の所定文言は以下で、他の排出削減目標の文言と一緒にSBTiのウェブサイトに掲載されます。 “[Company X] commits to no deforestation across its primary deforestation linked commodities, with a target date of [no later than December 31 ("【企業X】は、【遅くとも2025年12月31日までの期日を設定】を目標に、主要な森林破壊に関連する商品について、森林破壊を行わないことを約束する。") 森林減少0の約束はScope1,2範囲だけではなく、Scope3も含まれ、またScope3の目標範囲の67%以上に限らず全ての範囲に適用されます。   最後に 以上がFLAG目標の主な要件です。目標設定のためにまず必要なのはFLAG排出量の算定ですが、現状難易度が高い状況です。GHGプロトコルの土地セクターガイダンスの最終化が行われている途中であり、排出量計算のための排出原単位も十分整備されている状況とは言えません。参考にできる算定事例もまだ少ない状況です。LCA排出原単位データベース等一部の既存の排出原単位には非FLAGとともにFLAG排出量が全てもしくは一部考慮されている場合もありますが、非FLAGとFLAGを分けることが困難であったりもします。このような中、各社試行錯誤の上算定を行っている状況です。よって、現時点で利用可能なものを活用し可能な範囲で算定を行い、今後新たな算定方法やデータベース等が出てきたり確立されてきたりした際には随時アップデートする等、段階的な対応を行っていくことがポイントと言えそうです。     参考資料 SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf   (執筆者:山本(裕))

read more

SBTi FLAG目標について(前編)

  SBTi FLAG目標とは? パリ協定が求める水準と整合した企業の排出削減目標に認定を与えるSBTi(Science Based Target initiative)では、一部セクターを対象に、セクター特有の目標設定のルール「セクター別ガイダンス」を開発しています。昨年その一つとして、「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」のセクターガイダンスが発表されました。それを受け、今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。これまで企業の排出量算定・目標設定においては、エネルギー起源や工業プロセスの排出量が中心に考慮されてきましたが、それとは別に土地由来の排出量等を考慮することが求められる大きな変更と言えます。そこで今回と次回の2回に分け、SBTi FLAG目標の概要について整理してみたいと思います。   FLAGとは? ガイダンス開発の背景 FLAGとはForest, Land and Agriculture(森林、土地、農業)という名前の通り、林業や農業等の土地集約型セクターのことを指しています。自然由来で環境負荷は小さいセクターのようにも思えますが、世界のGHG排出量の約1/4(22%)を占める重要な排出源です。このうちの半分は農業、残り半分は林業やその他の土地利用、土地利用変化からの排出です。農業では家畜の飼養や合成肥料の使用等からGHGが排出されます。世界人口増加に伴い、農業生産量は2050年までに倍増することが予想されており、排出削減対策の必要性はより高まっています。森林や土壌はCO2を吸収したり貯留したりする機能を持っています。森林伐採等、土地を従来と別の用途で使用するために開発すると、CO2の排出(貯留されていたCO2が大気中に戻ってしまう)となるリスクがあります。一方で、適切に管理し自然由来の炭素除去(CO2を大気中から取り除くこと)を増やしていくことは、ネットゼロ達成のチャンスになります。炭素除去は、排出削減を進めてもどうしても残ってしまう残存排出量を中立化し、世界全体のネットゼロ達成に貢献するとても重要な役割があるためです。 しかし、このセクターの算定や目標設定の考え方は特殊で難しく、これまで統一ルールが存在しなかったため、現状多くの企業の排出量計算や排出削減目標には考慮されていない状況です。この状況を打開するため、FLAGセクターの排出量算定・報告ルール「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」の開発がGHGプロトコルによって進められています。(現在ドラフト版は発表済。2024年半ばに最終版発表予定)一方、FLAGセクターの目標設定のルールとしてSBTiにより開発されたのが「SBTi FLAGセクターガイダンス」です。   FLAG排出量とは? FLAGに関連する排出量は以下の3つに分類されます。 ・土地利用変化に伴う排出量:転用に伴う土地からの排出量(森林や土壌の炭素の損失)  例:森林伐採・森林劣化、沿岸湿地・泥炭地・草原の転換等 ・土地管理に伴う排出量:農業等の土地の利用・管理に伴う排出量  例:家畜の飼養(消化管内発酵・糞尿管理)、肥料の使用、水田管理、廃棄物焼却等 ・炭素除去量:森林CO2吸収等、生物由来のCO2除去と貯留  例:森林再生、森林管理改善、土壌炭素貯留等 上の2つは大気中にGHGが追加されるプラスの排出量です。一方、下の炭素除去は逆に大気中からGHGを取り除く量(マイナスの排出量)です。これらについて算定し目標設定することになります。 FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」を対象範囲としています。ファームゲートより先の排出量は、従来把握してきた排出量(非FLAG排出量:エネルギー起源や工業プロセス由来等のFLAG以外の排出量)として整理されます。このように、FLAG排出量と非FLAG排出量は切り離し、算定も目標設定も別々に行うことになります。   FLAGセクターの対象企業は? 農産物や畜産物を生産していたり、それらの一次産品を使用した製品を作っていたり、またFLAGセクターからの調達品を使用していたり、その他の重大な土地利用・土地利用変化による排出量がある場合に該当する可能性があります。 具体的には、セクターガイダンスでは以下の企業を対象とし、FLAG目標の設定を求めています。 ・森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売(外食も含む)、タバコセクターの企業 ・その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業   申請手続き 手続きの流れは従来と同じですが、申請書類が追加になります。目標申請時には、従来のNear-termの申請書(主に非FLAGに関する内容を記載)に加えて、FLAG Annexという申請書(FLAGに関する内容を記載)も提出します。審査費用も追加になりますのでご注意ください。   対応スケジュール SBT目標を初めて設定する企業、また既に認定取得済の目標を更新する企業でFLAGの対象となる企業は、既に(2023年4月30日以降)FLAGへの対応が求められています。(まだFLAGの算定ルールとなるGHGプロトコル土地セクターガイダンスの最終版が発表されていない状況ですが、ドラフト版に沿って排出量を算定し目標設定することが求められています。) 一方、認定取得済で直近の目標更新の予定がないFLAG対象企業は、「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」が発行された後6カ月以内に申請し、FLAG目標を設定する必要があります。「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」の発行は現在2024年半ばに予定されています。   後編では目標設定方法についてまとめます。   参考資料 SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf SBTi 「GETTING STARTED GUIDE FOR THE SBTi FOREST, LAND AND AGRICULTURE GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/FLAG-Getting-started-guide.pdf SBTi FLAG Project: New Implementation Timelines Announced https://sciencebasedtargets.org/blog/sbti-flag-project-new-implementation-timelines-announced   (執筆者:山本(裕))

read more

GHGプロトコルの全面改訂とScope2の改訂方針のサマリ

 2022年11月から2023年の3月にかけて、GHGプロトコルに対するフィードバックの募集が実施されました。 GHGプロトコルに対してはこれまで課題も指摘されており、今回のフィードバックの結果を踏まえ、改訂方針が検討されるとのことです。 弊社もご支援の中で、解釈に迷う部分や実務上難しいような要件もあり、注視しているところになります。 ここでは、まず先んじて公表されたScope2 Guidanceについて改訂方針ウェビナーの内容をサマリーでご紹介いたします。詳細をお知りになりたい方は、出典からウェビナー動画をご覧ください。   <GHGプロトコルの歴史> GHGプロトコルとは、企業をはじめとした組織単位のGHG排出量算定・報告の国際的なスタンダードとなっている規格です。 最初に、2001年に企業単位の算定基準をまとめたCorporate Standardが公開され、2004年に改訂されました。 2011年には、現在のサプライヤーチェーンを含めたScope123排出量の算定基準となっているScope3 Standardが公開。 続いて、2015年にScope2の算定について詳細に解説したScope2 Guidanceが公開され、現在は、土地利用・炭素除去に係る算定の具体的手法について定めたLand Sector and Removals Guidanceのドラフト版が公開されています。 (和約については、環境省HP参照 排出量算定について - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省 (env.go.jp))   <改訂スケジュール> ・現在、(Q2-3 2023)1400のフィードバックと、230の提案を受けている。 ・NGO、アカデミア、ビジネス、政府からの代表者を募り、基準の策定を進めている。 ・Scope2ガイダンスのドラフトについては、2024年Q1までに、最終化を2025年までに完了することを目標としている。   <論点> 今回の改訂のキーとなる論点について、以下の5つを挙げて説明されています。 ①マーケット基準・ロケーション基準の両方での報告を求める、いわゆる「Dual Reporting」を残すか、どちらかひとつに統合するかについて ②データ要件(ロケーション基準とマーケット基準両方)と品質要件(マーケット基準のみ)をどの程度厳しく定めるかについて ③第3のレポート要件=インパクト評価指標(avoided emission)を導入することについて ④新技術に関する追加ガイダンスを作成することについて ⑤ポリシーや規制、自主的な開示プログラムとの整合性を図ることについて   【1番について】 マーケット基準、ロケーション基準のどちらかひとつで十分だとする意見の根拠として、主に多くの企業がDual Reportingを遵守していないことが挙げられています。 実際、日本企業の多くは、サステナビリティレポート等でマーケット基準のみを開示し、注釈をつけているケースが見られます。 マーケット係数の取得が難しい地域もあり一概には言いづらいものの、再エネ化のインセンティブを持たせることができるのはマーケット基準だという意見があります。   【2番について】 データや品質について、細かな要件を求めるべきか否かの議論が紹介されていました。 細かく定めることのメリットとして、証書のヴィンテージや設備の追加性(新たに再エネ設備を構築する社会的意義)を評価可能という点などが挙げられます。 一方、デメリットとしては、最初から要件を満たせる地域への投資が集中してしまい、公平な投資が妨げられてしまう点などが挙げられています。   【3番について】 再エネ等への切り替えによる削減インパクトについて、Scope2の枠組みの中で報告する箇所を設けるべき、という議論がでています。 ただ、課題としては、マージナル排出係数*の整備や、SBTiをはじめとするプログラムとの整合性の確保が指摘されています。 *CO₂削減対策の効果と電気のCO₂排出係数について | 日本ガス協会 (gas.or.jp)   【4番について】 追加ガイダンスの策定が要求されたテーマについて紹介されています。 主なテーマとしては、エネルギー貯留技術、グリッドごとの排出係数のさらなる整備、水素利用、などが表中で言及されていました。 そのほかにも、コジェネレーションシステム、廃棄物発電、バイオガスの利用といったテーマについての、ガイダンス策定が検討されているとのことです。   【5番について】 既存の政策や規制、ボランタリープログラムとの整合性を考慮すべきとの議論が紹介されています。 今後、CSRDやISSBのほか、EUにおける水素規定を踏まえたものにしていくとのことです。 今後、他のスタンダード/ガイダンスに関する改訂方針も公表される予定で、引き続き注視をしていきます。 脱炭素に貢献する技術が次々と出てくる中で、報告排出量へのインパクトが意思決定に係る場面も出てくると感じており、算定基準の整備・普及は急務です。 GHGプロトコルが国際的な基準としてフロントにあり続けることを期待しています。 出典記事:Survey on Need for GHG Protocol Corporate Standards and Guidance Updates | GHG Protocol 投影資料:https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2023-05/Topline Findings from Scope 2 Feedback Webinar_GHG Protocol_05.02.2023.pdf (執筆者:馬場)      

read more

最新の気候科学をおさらい ~IPCC第6次評価報告書の概要(後編)~

先月エジプトにて開催された気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)。会議に合わせ、その議論のベースとなる共通認識である最新の気候科学、IPCC「第6次評価報告書(AR6)」のポイントを2回に分けておさらいしています。今回はその後編です。    第6次評価報告書(AR6)のポイント③  ~私たちはどうすればよいのか~  AR6の最善のシナリオが今世紀末までの気温上昇を1.5℃に抑える、世界が目指す1.5℃目標です。これにより気候変動の悪影響を最小限に留めることができます。1.5℃実現のためには排出量は遅くとも2025年までにピークを迎え、2030年までに2019年比4割削減、2050年代初頭にCO2を正味ゼロ排出にすることが必要です。 2010-2019年の世界排出量増加率は2000-2009年と比べると減少しました。 (+2.1%→+1.3%) 欧米を中心とする少なくとも18か国が10年以上継続して排出削減を維持しており、この削減は政策や経済構造の変化によるもので、エネルギー供給の脱炭素化、エネルギー効率向上、エネルギー需要の削減が関連しているといいます。世界的にも低炭素技術の低コスト化とそれに伴う導入量の増加(太陽光や風力、リチウムイオン電池等)が進み、第5次評価報告書等を受けて世界中で排出削減に関する様々な政策や法律(ex. 炭素税、排出量取引)が施行されてきました。しかしこれらでは世界全体での排出量の増加分を相殺することはできていません。 1.5℃の経路にのるためにはエネルギー・産業・運輸等、あらゆる部門で早期の大幅削減が必要とされています。対策オプションはあるといいます。緩和策の部門別の評価によると、100米ドル/t-CO2以下での緩和策によって2030年の世界GHG排出量を2019年比で少なくとも半減させるポテンシャルがあるとしています。さらにその中の半分は20米ドル/t₋CO2e以下の緩和策が占めます。20⽶ドル/t₋CO2eの緩和策で排出削減への寄与が⼤きいものには、エネルギー部門の太陽光や⾵⼒発電、メタン排出削減(石炭採掘、石油・ガス田)、産業部門でのエネルギー効率改善、農林業・⼟地利⽤部門での⾃然⽣態系の転換の減少等があります。ネットゼロを達成するには、削減が困難な排出量を相殺するためCDR(Carbon Dioxide Removal:大気中の二酸化炭素を除去して地中・地上・海洋や製品に貯蔵する人為的な活動)の導入も避けられません。CDRには既に広く行われている新規植林、再植林、森林経営の向上、アグロフォレストリー、土壌炭素隔離等の他に、まだ成熟度やポテンシャル、コスト面の課題はありますが、ブルーカーボン管理や海洋アルカリ化、DACCS(Direct air capture with carbon storage:直接空気回収・貯留)等があります。このようにして1.5℃目標の達成を追求してもGDPが停滞することはないといわれています。2050年の世界GDPは2020年と比べて2倍程度になると予測されていますが、緩和策の実行によりそこから3~4%減少することが予測されています。1.5℃目標は緩和策だけでなく、SDGsと組み合わせることで削減機会が増え、達成しやすくなります。さらに目標達成の過程でいかなる人々・労働者・場所・部門・国・地域も取り残されないようにする「公正な移行(Just Transition)」を目指すことで、この目標がより広く受け入れられ達成につながると考えられています。 COP27に先立ち国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が発表した報告書では、現在の各国の目標を足し合わせても今世紀末までに2.5℃の気温上昇になるという見通しがされていました。COP27ではこれを1.5℃の経路にのせるための目標引き上げや着実な実施に向けての議論が期待されていましたが、残念ながら大きな進展はありませんでした。気候変動対応には排出削減や吸収対策を行う「緩和」以外にも、気候変動の影響に対応していくための「適応」、適応によっても回避できない「損失と損害」への対応があります。COP27ではこの「損失と損害」への対応として、気候変動の影響に特に脆弱な発展途上国を対象とする基金創出という歴史的合意がされたことが評価されています。今年も洪水や森林火災等、気候変動に起因すると考えられる災害が多く発生しましたが、このような災害による被害に対応していくものであり、重要な第一歩を踏み出すことができたと言えます。一方で十分な緩和策なしに気温上昇が続けば、適応や損失と損害への対応に必要な費用も膨らみ続けてしまいます。2020年代は1.5℃目標達成に向け決定的に重要な勝負の10年間と言われています。とはいえ簡単には加速できない状況に焦りは募りますが、とにかく必要なのは行動の開始、排出削減の宣言から実行段階へとステージを移し、着実に削減を進めていくことであると強く感じます。   【出典】 IPCC 第6次報告書 第3作業部会 報告書 政策決定者向け要約 解説資料 https://www-iam.nies.go.jp/aim/pdf/IPCC_AR6_WG3_SPM_220405.pdf IPCC 第 6 次評価報告書 第 3 作業部会報告書 気候変動 2022:気候変動の緩和 政策決定者向け要約(SPM) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global2/about_ipcc/ipccwg3spm_202211.pdf 『NDC統合報告書』最新版を発表:気候計画は依然として不十分 さらに野心的な行動が今すぐ必要(2022年10月26日付 UNFCCCプレスリリース・日本語訳) https://www.unic.or.jp/news_press/info/45350/

read more

最新の気候科学をおさらい ~IPCC第6次評価報告書の概要(前編)~

11/6からエジプトにて気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催されています。1.5℃目標にまだ足りない各国排出削減目標をどう引き上げるか、一方でタイムリミットが迫り削減の実行段階に移っていかねばなりません。また既に大きな被害が出ている気候災害等の悪影響にどう適応し、避けられない損失と損害にどう対応していくか。課題は山積みです。議論のベースとなる共通認識は最新の気候科学です。そこで今回と次回の2回に分け、昨年2021年から順次、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)から発表されている第6次評価報告書(AR6)のポイントをおさらいしたいと思います。   ■IPCCとは IPCCは世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織であり、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的としています。AR6は1990年第1次報告書(AR1)から始まる報告書の最新版であり、2013-2014年に公表された第5次報告書(AR5)に続く7年ぶりの更新となりました。IPCCは自然科学的根拠をテーマとするWG1、影響・適応・脆弱性をテーマとするWG2、気候変動の緩和をテーマとするWG3の3つの作業部会で構成されており、それぞれテーマに沿って報告書を執筆しています。   ■第6次評価報告書(AR6)のポイント① ~気候は現在どうなっているのか?今後どうなるのか?~  まず、人間活動による温暖化には「疑う余地がない」と断言されています。産業革命前から現在までの昇温はほぼ人間活動が寄与していることが示されています。世界平均気温は産業革命前(1850-1900年)と比べて2011-2020年で1.09℃上昇しました。これは過去10万年間を見ても前例のない上昇であるといいます。海面水位は1901-2018年の間に約0.20m上昇、北極の海氷は1979-1988 年と 2010-2019 年との間で海氷の少ない9月は約40%減少、海氷の多い3月は約10%減少しています。 AR6では将来の社会の発展と大気中の温室効果ガスの濃度の状況を仮定した5つのシナリオを使って気候の将来予測を行っています。それによると、世界平均気温は産業革命前と比べ今世紀末(2081-2100年)に最善のシナリオで1.0-1.8℃、最悪のシナリオで3.3-5.7℃上昇します。北極域では世界平均の2倍の速度で気温上昇が進みます。温暖化が0.5℃進むごとに高温や大雨、干ばつ等の極端現象の強度と頻度が明らかに増加します。50年に1度の極端な高温の発生は産業革命前と比べ現在(1℃の温暖化)は4.8倍、将来1.5℃の温暖化で8.6倍、2℃の温暖化で13.9倍、4℃の温暖化で39.2倍です。世界平均海面水位は2100年までに最善のシナリオで0.28-0.55m、最悪のシナリオで0.63-1.01m上昇します。但し氷河の不安定化の状況によっては最大2mの上昇となる可能性も排除できず、さらに2100年以降も上昇は続き2300年には15mを超える可能性も排除できないといいます。北極海の海氷は中間~最悪のシナリオで2050年までに1回以上、9月に海氷のない状態になると予想されています。降水量は2100年までに最善のシナリオで0-5%、最悪のシナリオで1-13 %増加すると予測されています。   ■第6次評価報告書(AR6)のポイント② ~気候変動がもたらす影響は?~ 人為起源の気候変動は極端現象(極端な高温、強い降水、干ばつ、火災の発生しやすい気象条件など)の頻度と強度の増加を伴って、自然と人間に対して広い範囲で悪影響を及ぼし、それに関する損失と損害を引き起こしています。観測されている生態系への影響としては生物季節学的な時期の変化だけではなく、極端な暑さによる生息域の移動や数百の種の局所的喪失、大量死の増加があります。人間への影響としては水不足と食料生産(農業・家畜・漁業)への影響、健康と福祉への影響(感染症・暑熱/栄養不良・メンタルヘルス・強制移住)、都市/居住地/インフラへの影響(内水や沿岸域の洪水/暴風雨による損害・インフラへの損害・経済への損害)があります。気候変動に対する脆弱性(影響の受けやすさ)は地域間及び地域内で大幅に異なっています。現在約33-36億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況下で生活しています。また種の大部分が気候変動に対して脆弱です。  温暖化は1.5℃に達しつつあり気候災害の増加は不可避で自然や人間は既にリスクにさらされています。2040年までの短期的なリスクとして、森林並びにコンブ及び海藻、北極域の海氷及び陸域並びに暖水性サンゴ礁において生物多様性喪失の高いリスクがあります。また、継続的かつ加速的な海面水位上昇により沿岸域の居住地やインフラが侵食される高いリスクがあります。2040年より先の中長期では127 の主要なリスクが特定されており、それらの影響は現在観測されている影響の数倍までの大きさになります。例えば陸域の生態系での絶滅リスクは1.5℃の温暖化で3~14%の種で非常に高くなり、これは2℃で3~18%、3℃で3~29%、5℃で3~48%に上昇します。     【参考】 IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年5月12日版) https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html IPCC AR6 WG2報告書「政策決定者向け要約」環境省による暫定訳【2022年3月18日時点】 https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ JCCCA IPCC第6次評価報告書 https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6

read more

食品ロス・廃棄と気候変動・脱炭素化の状況と動向

 気候変動・脱炭素化への動きがずいぶん加速してきました。その大きなファクトとなる食品ロス削減の取り組みも進み始めています。あらためて食品ロス・廃棄と気候変動の関係性を整理し、地域での取り組みが広がっていけばと願います。食品ロスの取り組みはわが国でも省庁横断的に相互に連携しながら推進されています。最近の情報についてご覧いただければと思います。(※1~3)   ■食料ロス・廃棄が気候変動に及ぼす影響/FAO  2018年FAOが発表したレポートによると、世界では生産された食料の3分の1が 生産過程で失われたり、消費段階で廃棄されたりしていると推定されています。食料ロス・廃棄の問題は、単に食料の供給量を減らすだけでなく、生産過程で排出される温室効果ガスを増やすことで気候変動の要因にもなっていると報告されています。  FAOの推定では、世界で人の消費向けに生産された食料の約3分の1が生産過程で失われたり、消費段階で廃棄されたりしており、その量は年間約13億トンにのぼるとのことです。食料の非可食部を計上すると、生産されても消費されずに終わる食料と副産物は年間16億トンにのぼり、環境、社会、経済に深刻かつ広範囲な影響を及ぼしているとされました。食料のロス・廃棄は、生産から家庭消費に至るまで、フードシステム全段階の課題で、世界の食料生産・供給システムにおける非効率性や制約に加え、持続的でない消費パターンが原因と指摘されました。生産過程で排出される温室効果ガスを増やすことで気候変動の要因にもなっているということです。  人に消費されない食料から排出されるGHGは、二酸化炭素(CO2)換算で年間3.6Gt(ギガトン)と推定され、加えて、関連する土地利用・土地利用変化および林業部門活動の結果として、CO2 換算で0.8GtのGHGも排出されます。  前述のように世界の食料ロス・廃棄は気候変動の大きな要因のひとつとなっており、人的活動に起因する世界のGHG排出量の約8%を占めています。この排出量を一国にまとめると、中国(10.7Gt)と米国(6.3Gt)に次いで第3位(4.4Gt)の排出源に位置づけられます。決して少なくない排出源となっています。(※4)   ■脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料/環境省  2021年2月環境省から「脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料」が公表されました。2030年までに「全国でできるだけ多くの脱炭素ドミノ」を起こし、2050年には「脱炭素で、かつ持続可能で強靭な活力ある地域社会を実現」が骨子です。  「CO2排出の約6割が、衣食住を中心とするライフスタイルに起因で、一人当たり年間7.6t-CO2排出(2017年)しており、国民一人ひとりのアクションが不可欠。」と示されました。  「食」に関する取り組みでは、生産・加工・流通・調理・消費・ 廃棄の食糧システム全体において、GHG総排出量の8~10%をしめる「食品ロス及び廃棄物」と農業分野の「肥料の使用に伴い排出される温室効果ガス」をファクトとして取り上げています。今後の方向性の参考になる事例も紹介されています(※5)   ■食生活に関する世論調査/農林水産省  内閣府において実施した「食生活に関する世論調査」の結果が、令和3年1月に公表されました。この中で、食品ロスについて、「賞味期限と消費期限の違いの認知度」、「⼩売店における⽋品に対する意識」、「食品ロス削減に取り組む小売店における購入に対する意識」等を調査しました。調査結果では、食品ロス削減に取り組む小売店の食品を「購入しようと思う」消費者が4割、「どちらかといえば購入しようと思う」も含めると約9割などの結果となりました。  結果概要から「賞味期限と消費期限の違いの認知度」で「知っていた」との回答割合87.5%、「言葉は知っていたが、違いは知らなかった」との回答割合9.3%、「知らなかった」との回答割合が1.5%というがわかりました。  他に、小売店における欠品に対する意識として「仕方ないと思う」との回答割合が74.9%、「不満に思う」との回答割合24.7%ということがわかりました。  小売店における欠品に「不満に思う」と答えた者(486人)に、食品ロスにならないよう在庫を抱えないために食品に欠品が生じていた場合に、どのように思うか聞いたところ、「仕方ないと思う」との回答割合57.0%、「不満に思う」との回答割合42.2%ということがわかりました。  食品ロス削減に取り組む小売店が扱う食品を購入しようと思うか聞いたところ、「購入しようと思う」との回答割合が86.4%、「購入しようと思わない」との回答割合12.6%ということがわかりました。(※6)   【参考】 ※1 消費者庁 めざせ食品ロスゼロ ※2 農林水産省 食品ロス・食品リサイクル ※3 環境省 食品ロスポータルサイト ※4 FAO(国際連合食糧農業機関) 世界の農林水産 Spring 2018 No.850 ※5 内閣官房 国・地方脱炭素実現会議の議事 ※6 農林水産省 食生活に関する世論調査における食品ロス削減に関する調査結果

read more

温室効果ガス排出量「2050年ネットゼロ」へ

 2020年10月26日、菅総理大臣による総理就任後初めての所信表明演説の中で、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、カーボンニュートラルを目指す」ことを宣言し、大きな話題となりました。  細かい要件などは後述しますが、ここで言う「カーボンニュートラル」は、化石燃料の燃焼など人為的な温暖化ガス排出量に対し、人為的な森林吸収量の増大やCCSなどによる除去量を差し引いて全体としてゼロにすることを意味します。また、同様の意味で用いられる表現として「ネットゼロ(正味ゼロ)」「実質ゼロ」「脱炭素」などがあります。  日本政府はこれまで、2016年5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」に基づき、2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減する長期目標を掲げてきました。一方で、2016年10月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」では、気候変動を1.5℃未満に抑えるためには、2050年頃に世界の温室効果ガス排出量をネットゼロにする必要があることが示されました。この報告書を受け、日本政府は新たに「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2019年6月に閣議決定し、今世紀後半のなるべく早い段階で脱炭素を目指すことを掲げましたが、同戦略においては、具体的な目標年は示されませんでした。従って、今回の菅総理大臣による「2050年カーボンニュートラル宣言」は、日本の気候変動対策の方向性をより明確にし、その取組を着実に一歩前進させたものといえます。  また、全国の自治体においても、「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明する動きが広がっています。2020年11月3日時点で、これを表明した自治体は169(23都道府県、91市、2特別区、43町、10村)となり、これらの自治体人口の合計は日本の総人口の半数を超える8,013万人にものぼります。  一方、世界では既に121カ国・1地域が、2050年ネットゼロを政策目標に掲げており、これらの国における世界全体の温室効果ガス排出量に占める割合は約18%になります(「気候変動に関する国際情勢」(2020年10月 経済産業省))。また、今月のアメリカ大統領選挙で当選確実が報じられたバイデン氏も2050年ネットゼロを公約に掲げており、もし今後アメリカが宣言をした場合、2050年ネットゼロにコミットする国は、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めることとなります。  また、企業版2℃目標と呼ばれるSBT(Science Based Targets)は、IPCCの1.5℃特別報告書を受けてより高いハードルが設けられ、現在は1.5℃水準での目標設定がトレンドとなっています。2020年11月現在でSBTに参加する企業(2年以内に目標設定をコミットする企業を含む)は世界全体で1,000を超え、さらにその先の2050年ネットゼロを長期目標に見据える企業も増えています。2019年9月には、国連グローバル・コンパクト、SBTイニシアチブ、We Mean Businessの呼びかけによる、世界の平均気温の上昇を、産業革命以前と比べ1.5℃に抑え、2050年のネットゼロを目指す国際的なキャンペーン「Business Ambition For 1.5℃」がスタートし、グローバル企業を中心に300社以上が賛同を表明しています(弊社も2020年10月に賛同表明)。  「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」という言葉は、前述したとおり、大まかには人為的な温暖化ガス排出量に対し森林吸収などによる除去量を差し引いて全体としてゼロにすることを指しますが、これまで国や企業によりその使われ方や意味合いが異なることもあり、共通の細かい定義などはありませんでした。こうしたことから、現在、SBTイニシアチブにおいて、新たにネットゼロの定義が整理されつつあります。詳細は2021年に示されることとなっていますが、現時点で公表されているCDPの資料によると、ネットゼロは、「1.5°Cの経路に沿ってバリューチェーンの温室効果ガス排出量を削減し、残りのGHG排出の影響については適切な量の炭素除去を行うことで達成される」とされています。つまり、まずは1.5℃水準の傾きで自社のScope1,2,3を削減しつつ、ゼロにできない分をCCS/CCUSなどのネガティブエミッション技術や植林などで除去するという考え方です。また、カーボン・オフセットや削減貢献量、REDD+などは自社のバリューチェーン外での取組であるため、SBTの削減には考慮されませんが、追加的にこれらを行うことは推奨されており、ネットゼロにおけるオフセットの位置づけや要件なども整理されつつあります。  企業が国際的な水準でネットゼロやカーボンニュートラルに取り組むうえでは、今後SBTイニシアチブから示される定義を踏まえ、ガイダンス等に従って取組を進めることが重要になると考えられます。   【参考】 環境省 「地球温暖化対策計画」(2016年5月) 環境省 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月) 環境省 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況 経済産業省 「気候変動に関する国際情勢」「第2回 グリーンイノベーション戦略推進会議」資料(2020年10月) CDP 「1.5℃を目指す企業:SBTと2050年までのネットゼロを目指して」オンラインセミナー資料(2020年6月)  CDP 「ネットゼロとSCOPE3」オンラインセミナー資料(2020年10月)  

read more

カーボンニュートラル社会の実現のために ~注目集まるCO2除去等のカーボンネガティブ技術~

 近年、パリ協定と同じレベルのCO2削減目標としてSBT(Science Based Targets)を設定する企業が増加しています。パリ協定で各国は気温上昇を2℃を十分下回る水準に抑制し、1.5℃に抑える努力目標に合意しています。ただ、昨今は2018年にIPCCの特別報告書『1.5℃の地球温暖化』が発表され、気温上昇を1.5℃に抑える必要性が求められてきています。2℃目標では、2050年までに2010年比約40~70%削減、今世紀後半(2075年頃)に実質ゼロとする内容ですが、1.5℃目標では2030年までに45%削減、2050年頃に実質ゼロとする削減シナリオとなります。企業活動から排出されるCO2についても同レベルの削減目標が求められてきており、より早期に排出ゼロとなるような野心的な目標が求められています。  このパリ協定で求められる“実質ゼロ”とは、人為的な温室効果ガス排出量を人為的な吸収量(除去量)をバランスさせることを言います。温室効果ガスには二酸化炭素(CO2)や一酸化二窒素(N2O)、メタン(CH4)等がありますが、CO2が大気中に最も多く存在し地球温暖化への影響が大きいとされています。特に人為起源のCO2排出量(化石燃料の燃焼やセメント製造等で排出するCO2)は、森林や海洋等が自然に吸収するCO2量を超えて排出されつづけ、大気中に蓄積されています。そのため、この人為的なCO2排出量をなくすことが重要になります。その社会を実現するために、企業活動でも実質排出ゼロ“カーボンニュートラル”を目指す企業が現れてきています。  一般的に、カーボンニュートラルとは、“炭素が中立”つまり二酸化炭素の排出量と吸収量が同量になっていることをいいます。森林等のバイオマス資源は、成長過程においてCO2を吸収し炭素を固定化しているので、燃焼時にCO2を排出したとしてもプラスマイナスゼロ、つまりカーボンニュートラルという考え方をします。地球温暖化の要因として、温室効果ガスが大気中に放出することが問題であり、地中等に貯留されている状態であれば地球温暖化を防止できます。そうした意味でも植物での固定化や人工的な炭素貯留技術等はCO2を“除去”する手法として注目を集めています。  今、世界的なトップ企業でもこのカーボンニュートラルに取組む企業が増加しています。  イギリスBP社(大手石油会社)は、2020年2月に事業全体におけるCO2排出量を2050年までに実質ゼロにすると発表しました。  また武田薬品工業は、新たなカーボンニュートラル宣言で、2040年までに事業活動におけるGHG排出量(Scope1、およびScope2)を全て削減しカーボンニュートラルを達成する目標をたてました。さらに自社だけでなく、サプライヤーと協力してScope3の排出量を50%削減し、認証済みのクレジット等を使用してバリューチェーン全体でもGHG排出をゼロにする目標を発表しました。  またマイクロソフトでは、2030年までに「カーボンネガティブ」の達成を宣言しました。具体的には、事業から排出されるCO2排出量を50%まで削減、残りのCO2排出量と同量以上のCO2排出量を“除去”することにより、実質的に排出をマイナスにするというものです。さらに野心的な目標として2050年には創業の1975年以来のScope1,2に相当するCO2排出量を除去するということも宣言しています。この達成のために10億ドルをCO2除去技術等に拠出すると発表しています。  このCO2の“除去”とは、大気中に排出された空気中のCO2を取り除くことを意味しており、“ネガティブエミッション技術(NET)”と呼ばれています。上述の人為的なCO2吸収量(除去)に関する技術です。具体的には、植林等やBECCS(炭素の回収・貯留付きのバイオマス発電)、化学薬品等により直接大気中のCO2を回収すること等が含まれます。中でも、直接大気からCO2を回収する技術は「DAC(Direct Air Capture)」と呼ばれ注目を集めています。世界的には1t当たりの回収にかかる費用が500~600ドル(日本円で約5~6万円/t)とコストが課題ですが、1tあたり1万円程度を目指して技術開発が進められています。日本ではCCS(炭素の回収・貯留)だけでなくCO2を資源として利用していくというカーボンリサイクルに力を入れており、2019年6月には経済産業省から「カーボンリサイクル技術ロードマップ」も発表されています。  このように、カーボンニュートラルの達成にはまだ発展途上の革新的な先進技術等が必要であり、こうした技術は現在も日々進歩しています。そのため、何をもって“カーボンニュートラル”とするかの定義もさまざまです。  現在、国際的な排出量の情報開示では、この実質ゼロの定義を進め、企業向けガイダンスを開発しています。中でもCO2除去量については、SBT等の目標達成に利用可能となる可能性もあります。そうなれば、よりCO2除去技術(森林吸収、除去技術(CCS,DAC)等)は注目を浴びる成長産業になる可能性があります。  一方、国際的なルール整備に注目が集まりますが、日本国内には従来から“カーボンニュートラル認証”という認証制度もあります。この制度は2012年に環境省がつくったカーボン・オフセット制度のひとつであり、現在は民間に移行して第三者認証プログラムとして運営されています。同プログラムでは、企業の事業活動(Scope1,2)にかかる排出量を全量埋め合わせてカーボンニュートラルを達成します。埋め合わせの手段は国内の認証されたクレジットであり、森林吸収、再エネ、省エネ等のクレジットが活用できます。こうした認証制度を活用することも、自社がニュートラル企業であると宣言する一つの手段になり得ます。  脱炭素、カーボンニュートラルな社会の実現に向け、企業のさまざまな取組みやネガティブエミッション技術の進展が期待されますが、もう一つ大事なのが私たちのライフスタイルの変革です。2020年1月に、IGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)から「1.5℃ライフスタイル‐脱炭素型の暮らしを実現する選択肢-(日本語要約版)」というレポートが出されました。このレポートの中では私たちの暮らしの中での一人あたりのカーボンフットプリントが評価され、1.5℃目標達成にはどの分野(移動、食料、住居等)からどれくらい減らさないといけないか、という評価がなされています。現在の私たちの暮らしのホットスポット(排出量が多い分野)として、肉食、車移動、家電製品といった具体的な内容が分かるとともに、ライフスタイルの大幅な変更が必要となることを定量的に評価しています。同時に、ネガティブエミッション技術が将来的にどの程度導入されるかで、目標とする一人当たりのカーボンフットプリントに大幅な影響があることを前提としながらも、不確実性の高い技術に頼る戦略のリスクも示唆しています。  企業は事業経営の脱炭素化をどう実現するか、その価値を消費者に提供するか、また消費者は自分たちの行動をどう変えていかなければいけなのか、本来は両輪で取り組む必要がある問題です。企業が脱炭素に取組むためのインフラの整備は必要であり、CO2除去といった革新的技術も必要な一方で、負荷が高い生活様式を見直すことも重要な要素なのです。   (参考) ■気象庁HP 海洋の炭素循環 ■BP社プレスリリース ■日経ESG 2020年6月号 ■武田薬品工業株式会社 WEBサイト 環境への取り組み ■経済産業省 カーボンリサイクル技術ロードマップ 令和元年6月 ■国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 二酸化炭素の Direct Air Capture (DAC)法のコストと評価 令和2年2月 ■CDP 1.5℃を目指す企業:SBTと2050年までのネットゼロを目指して資料(2020年6月) ■CDP TOWARDS A SCIENCE-BASED APPROACH TO CLIMATE NEUTRALITY IN THE CORPORATE SECTOR(2019年9月) ■IGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関) 1.5℃ライフスタイル‐脱炭素型の暮らしを実現する選択肢-(日本語要約版)  

read more