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2022年11月

最新の気候科学をおさらい ~IPCC第6次評価報告書の概要(前編)~

11/6からエジプトにて気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催されています。1.5℃目標にまだ足りない各国排出削減目標をどう引き上げるか、一方でタイムリミットが迫り削減の実行段階に移っていかねばなりません。また既に大きな被害が出ている気候災害等の悪影響にどう適応し、避けられない損失と損害にどう対応していくか。課題は山積みです。議論のベースとなる共通認識は最新の気候科学です。そこで今回と次回の2回に分け、昨年2021年から順次、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)から発表されている第6次評価報告書(AR6)のポイントをおさらいしたいと思います。   ■IPCCとは IPCCは世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織であり、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的としています。AR6は1990年第1次報告書(AR1)から始まる報告書の最新版であり、2013-2014年に公表された第5次報告書(AR5)に続く7年ぶりの更新となりました。IPCCは自然科学的根拠をテーマとするWG1、影響・適応・脆弱性をテーマとするWG2、気候変動の緩和をテーマとするWG3の3つの作業部会で構成されており、それぞれテーマに沿って報告書を執筆しています。   ■第6次評価報告書(AR6)のポイント① ~気候は現在どうなっているのか?今後どうなるのか?~  まず、人間活動による温暖化には「疑う余地がない」と断言されています。産業革命前から現在までの昇温はほぼ人間活動が寄与していることが示されています。世界平均気温は産業革命前(1850-1900年)と比べて2011-2020年で1.09℃上昇しました。これは過去10万年間を見ても前例のない上昇であるといいます。海面水位は1901-2018年の間に約0.20m上昇、北極の海氷は1979-1988 年と 2010-2019 年との間で海氷の少ない9月は約40%減少、海氷の多い3月は約10%減少しています。 AR6では将来の社会の発展と大気中の温室効果ガスの濃度の状況を仮定した5つのシナリオを使って気候の将来予測を行っています。それによると、世界平均気温は産業革命前と比べ今世紀末(2081-2100年)に最善のシナリオで1.0-1.8℃、最悪のシナリオで3.3-5.7℃上昇します。北極域では世界平均の2倍の速度で気温上昇が進みます。温暖化が0.5℃進むごとに高温や大雨、干ばつ等の極端現象の強度と頻度が明らかに増加します。50年に1度の極端な高温の発生は産業革命前と比べ現在(1℃の温暖化)は4.8倍、将来1.5℃の温暖化で8.6倍、2℃の温暖化で13.9倍、4℃の温暖化で39.2倍です。世界平均海面水位は2100年までに最善のシナリオで0.28-0.55m、最悪のシナリオで0.63-1.01m上昇します。但し氷河の不安定化の状況によっては最大2mの上昇となる可能性も排除できず、さらに2100年以降も上昇は続き2300年には15mを超える可能性も排除できないといいます。北極海の海氷は中間~最悪のシナリオで2050年までに1回以上、9月に海氷のない状態になると予想されています。降水量は2100年までに最善のシナリオで0-5%、最悪のシナリオで1-13 %増加すると予測されています。   ■第6次評価報告書(AR6)のポイント② ~気候変動がもたらす影響は?~ 人為起源の気候変動は極端現象(極端な高温、強い降水、干ばつ、火災の発生しやすい気象条件など)の頻度と強度の増加を伴って、自然と人間に対して広い範囲で悪影響を及ぼし、それに関する損失と損害を引き起こしています。観測されている生態系への影響としては生物季節学的な時期の変化だけではなく、極端な暑さによる生息域の移動や数百の種の局所的喪失、大量死の増加があります。人間への影響としては水不足と食料生産(農業・家畜・漁業)への影響、健康と福祉への影響(感染症・暑熱/栄養不良・メンタルヘルス・強制移住)、都市/居住地/インフラへの影響(内水や沿岸域の洪水/暴風雨による損害・インフラへの損害・経済への損害)があります。気候変動に対する脆弱性(影響の受けやすさ)は地域間及び地域内で大幅に異なっています。現在約33-36億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況下で生活しています。また種の大部分が気候変動に対して脆弱です。  温暖化は1.5℃に達しつつあり気候災害の増加は不可避で自然や人間は既にリスクにさらされています。2040年までの短期的なリスクとして、森林並びにコンブ及び海藻、北極域の海氷及び陸域並びに暖水性サンゴ礁において生物多様性喪失の高いリスクがあります。また、継続的かつ加速的な海面水位上昇により沿岸域の居住地やインフラが侵食される高いリスクがあります。2040年より先の中長期では127 の主要なリスクが特定されており、それらの影響は現在観測されている影響の数倍までの大きさになります。例えば陸域の生態系での絶滅リスクは1.5℃の温暖化で3~14%の種で非常に高くなり、これは2℃で3~18%、3℃で3~29%、5℃で3~48%に上昇します。     【参考】 IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年5月12日版) https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html IPCC AR6 WG2報告書「政策決定者向け要約」環境省による暫定訳【2022年3月18日時点】 https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ JCCCA IPCC第6次評価報告書 https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6

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