2025.11.11
SBTiを取り巻く急速な変化と、企業がいま取るべき対応
2025.11.11
気候変動やSBTをめぐる「変化の速さ」に企業が戸惑う時代 気候変動対策をめぐる世界の動きの速さは、企業の皆さまも日々実感されているのではないでしょうか。 なかでもSBTi(Science Based Targets initiative)は、企業が科学的根拠に基づいて温室効果ガス削減目標を設定するための国際的なイニシアティブとして確固たる地位を築きました。しかし同時に、その基準や運用ルールの改定スピードが非常に速いのも特徴です。 地球温暖化の進行とSBT認定取得企業の急増を受け、SBTiの役割と影響力はこれまで以上に拡大しています。それに伴い、SBTi基準のマイナーチェンジや各種ガイダンスの発行、申請手順や料金体系の変更、さらには専用ポータルの導入など、制度運用のアップデートが継続的に行われています。特に2025年3月に「SBTiネットゼロ基準v2」のドラフトが公開されて以降は、「いつ短期目標を申請すべきか」「ネットゼロ目標の追加はいつが最適か」「ネットゼロ基準v2の正式リリースを待ってから申請すべきか」といったご相談が急増しています。 本記事では、2025年11月初旬時点での最新動向を踏まえ、企業のステータスに応じて今取るべき対応の方向性と、その考え方のヒントをご紹介します。 SBTi基準改定の最新動向と実務への影響 SBTiネットゼロ基準v2が示す「実行と透明性」への転換 2025年3月に公表されたSBTiネットゼロ基準 v2(ドラフト)では、スコープ1・2・3を含むバリューチェーン全体での排出量削減に対し、より高いレベルの進捗管理・実行責任・業種横断的ガイダンスの強化が示されています。 具体的には、企業が「目標を設定して終わり」ではなく、目標達成までの実行力と透明性を求められる点が大きな特徴です。「排出量データの第三者保証」や「進捗の定期的な報告・開示」の要件化が提示され、説明責任と透明性の一層の強化が求められています。 さらに、バリューチェーン排出量(スコープ3)への対応は、企業の脱炭素化における最大の課題のひとつと位置づけられています。SBTiは、スコープ3の目標設定と実施の有効性を高めるために複数の方法を検討しており、企業がバリューチェーンにおける目標設定・進捗報告・排出量管理に活用できるよう、より幅広い指標・手法・ツールの導入を視野に入れています。 また、残余排出への対応として、除去(Removal)やバリューチェーンを超えた緩和(Beyond Value Chain Mitigation)の活用方針も整理されました。こうした変更は、SBTiが企業に対して「ネットゼロの実現を宣言するだけでなく、その過程を測定し、報告し、改善し続けること」を求めている姿勢を明確に示しています。 申請・検証プロセスの変更 2024年末に導入された「SBTiサービス検証ポータル」により、申請および検証の手続きは段階的にオンライン化が進められています。導入当初から、コミットメントやSBT申請の前段階として企業登録手続きとSBTi側の承認が必要となり、従来のコミットメントレターは廃止。ポータル内から直接コミットメントを提出する形式へと変更されました。 さらに、2025年6月には従来のExcelやWord形式の申請フォームが廃止され、同年9月には、これまでEメールで行われていた検証時のSBTiとのやり取りもポータル内で実施されるようになるなど、SBT申請に関する入力およびコミュニケーションの大部分がポータル内で完結する仕組みへと移行しています。 これらの変更により、SBT申請から検証開始までの待機期間は、かつて4〜6か月を要していたものが約1か月へと大幅に短縮されました。さらに、検証自体も提示されたスケジュール通り30営業日以内に完了するケースが増加しています。 一方、従来はSBTi公式サイトから申請フォームをダウンロードし、事前に質問項目などの内容を確認することができましたが、現在は申請に必要な質問項目がポータル内でのみ閲覧可能となっています。 また、GHGインベントリを中心に申請内容の詳細化が進んでいることから、企業側の準備工数や入力負担は以前より増加しているのが実情です。 SBT取得の時期を明確に定めている企業ほど、最新の仕組みを正確に理解し、信頼できるデータと根拠に基づいて計画的に準備を進めることが重要です。 検証料金の改定と企業への影響 2026年1月5日より、SBTiの検証料金体系が大幅に改定されます。 従来の「2段階(通常ティア・プレミアムティア)」から「4段階(ティア 1~4)」へと再編され、申請企業の規模や売上に応じてよりきめ細かい料金設定となります。 この改定は、SBTiサービスが提供するすべての検証サービス(短期目標・ネットゼロ目標・セクター別目標など)に適用されます。 新料金体系における申請企業の売上区分は、ティア1:年間売上1 billionユーロ未満、ティア2:年間売上1〜10 billionユーロ、ティア3:年間売上10〜30 billionユーロ、ティア4:年間売上30 billionユーロ超と定義されています。 新料金表では、すべてのティアで価格が引き上げられており、とりわけ大規模企業に該当するティアほどコストインパクトが大きくなります。 特に直近で申請を予定している企業は、年内申請か、あるいは追加予算の確保かについて、早期に判断することをおすすめします。 5年ごとレビューの明確化とステータス分類の拡充 すでに要件として定められていた5年ごとの目標レビューについて、2025年7月に公表された新ガイダンスにより、その期限と手順が明確化されました。 これにより、SBT認定企業は、認定後も定期的に自社の目標が最新のSBTi基準および科学的知見に適合しているかを確認し、その結果をSBTiサービス検証ポータル内で提出することが求められます。 レビューの「トリガー日」は、各目標の検証(公表)日から5年後の月末と定められています。企業はこのトリガー日を起点として、まず6か月以内にレビュー結果をSBTiサービス検証ポータル内で提出しなければなりません。そのレビュー結果により、既存の目標が最新のSBTi基準に適合していないと判断された場合は、トリガー日から12か月以内に目標の更新申請(再検証)を行う必要があります。 さらにSBTiは、企業の気候変動対応状況をより明確に可視化するため、SBTi公式ホームページのダッシュボード上での新たなステータス分類体系を導入しました。 これにより、企業のステータスは「Active(有効)」「Updated(更新済)」「Expired(期限切れ)」「Withdrawn(撤回)」などに細分化され、投資家やステークホルダーが企業の取り組み状況をより的確に把握できるようになります。5年の必須レビュー期限を超過した場合、企業のSBTステータスは「Previous Targets」として表示されることになります。 こうした動きは、SBTiが「認定を取得して終わり」ではなく、継続的なレビューと透明性の確保を重視する方向へ進化していることを示しています。 SBTiの動向が企業経営に与える影響 CDPスコアとSBT認定の関係性 SBT認定は、企業の外部評価にも直接的な影響を与えます。2025年版CDPコーポレート完全版質問書のスコアリングにおいては、スコアリングカテゴリのうち「目標」カテゴリが全体スコアの14%という高いウェイトを持ち、多くのセクターでSBT認定の有無がリーダーシップレベルの評価に反映されます。 なお、あくまでも従来のCDPコーポレート完全版質問書での採点基準という前提ではありますが、SBT認定取得前の段階であっても、SBT取得のコミットメントを表明している場合や、SBTiへの申請済で検証中のステータスである場合には加点要素となります。そのため、例年CDPの報告対象年度内にこれらのステータス取得を目指す企業も少なくありません。 また、2025年CDPコーポレート完全版質問書の各企業へのスコアリリース日は12月10日と発表されています。 当社ではスコア通知後の失点要因の分析や改善施策の立案支援も行っており、次年度に向けたスコア向上を目指す企業に対して、実践的かつ効果的なサポートを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。 世界的な広がりと投資家の注目 SBTiは2025年初め、ついに参加企業1万社を突破しました。その時価総額は世界全体の41%に達し、SBTiはいまや“企業の信頼指標”として国際的に確立された存在となっています。 投資家やサプライチェーン上の主要取引先は、SBT認定の有無をリスク判断の重要な基準としており、実際にここ2〜3年は「お客様や投資家からの要請で、〇年〇月までにSBTを取得しなければならない」というご相談が急増しています。SBT認定の取得を求められる企業側も、主要取引先との関係維持においてSBT対応が取引継続の前提条件となるケースが増えています。 一方で、SBTiへの取り組みは、単なる外部要請への対応にとどまりません。SBT認定の取得は、企業価値そのものを高める「攻めの戦略」とも言えます。SBTiの「Trend Tracker 2025」によると、SBT認定またはコミットメント企業は、すでに世界の時価総額の41%、総収益の25%を占めており、気候変動対策を実践する企業群が経済の中核を担いつつあります。 ここで注目すべきは、収益比よりも時価総額比が高い点であり、市場がSBT認定取得企業を「持続的成長やリスク管理に優れた企業」として評価していることを示しています。すなわち、SBT認定取得の取り組みは、気候対応という枠を超え、企業の将来価値・投資家からの信頼・ブランド力の向上につながる戦略的行動です。 日本企業にとってもこの潮流は避けられず、もはや気候変動対策は「社会的責任」ではなく「経営戦略そのもの」として位置づける時代に入っています。 企業の状況別に見る「今取るべき一手」 (1)新規でSBT短期目標設定を検討している企業 ▶ 取るべき一手: GHGインベントリ(特にスコープ3を含む)を早期に整備し、現行のSBTi基準(V1.3/V5.3)での認定取得を優先的に検討することを推奨します。 一方で、インベントリがまだ整っていない場合は、SBTiネットゼロ基準v2の公表後に申請するスケジュールも含めて検討するのが現実的です。 背景と詳細: SBTiは、新規でSBT短期目標設定を検討する企業に対し、現行SBTi基準での早期認定取得を推奨しています。公式サイトでは「2025年および2026年に新たに短期目標を設定する企業は、現行のSBTiネットゼロ基準V1.3および短期基準V5.3を用いて申請可能」と明記されています。 なお、目標年については、2025年9月のV5.3更新で、「目標年は申請から5〜10年先」とされていたところに、「目標年は2030年を推奨」との追記が行われました。 ただし、冒頭でも述べたように、SBT申請の前提としてスコープ3を含むGHGインベントリが不可欠であるため、現状で未整備の場合は次期v2基準のリリース後を見据えた準備計画を立てる選択肢もあります。 (2)SBT短期目標認定取得済でSBTネットゼロ目標の追加を検討中の企業 ▶ 取るべき一手: SBTiが予定している、既存認定企業向けの移行手続きに関する詳細のリリースを待ちながら、社内でネットゼロ目標に向けた方針の整理やデータ基盤の整備を進めることも、一つの選択肢と考えられます。 背景と詳細: SBTiは、2025年11月6日に公開したネットゼロ基準v2に関する第2回コンサルテーションの記事の中で、既存の認定企業に対する移行手続きの詳細については、適切な時期に移行ガイダンスを公表するとしています。したがって現時点では、社内でネットゼロ目標設定に向けた合意形成やデータ準備を進めつつ、正式なガイダンスを待って対応方針を検討するのが妥当です。 前段でも触れたとおり、現行のSBTiネットゼロ基準と、協議中のSBTiネットゼロ基準v2(ドラフト)では、要求される要件が大きく異なる見込みです。そのため、早期にSBTネットゼロ目標の認定取得を目指す場合は、現行のSBTiネットゼロ基準のうちに申請を完了しておくほうが、手続きや要件の面で比較的スムーズに進められる可能性があります。 一方で、SBTiネットゼロ基準改定後の新ルール下での対応を見据える企業においては、最新のSBTiネットゼロ基準への適合を見据え、GHG排出データやサプライチェーン情報の整備など、基礎データの更新および社内準備に早期に着手しておくことが望まれます。 なお、SBTiの公式情報によれば、既存の短期目標は2030年、または目標期間の終了時点まで有効とされています。 (3)まもなく認定から5年経過・アップデート申請が必要な企業 ▶ 取るべき一手: 自社のSBT認定時期を確認し、2026年前後に必須レビューの時期を迎える場合(=2021年前後に認定を取得した企業)は、早めに最新のSBTi基準の確認とGHGインベントリの更新を開始することを推奨します。特に、セクター別ガイダンスの対象企業は、追加算定や新たな目標設定が求められる可能性があります。 背景と詳細: 2025年7月に公表されたガイダンスにより、SBT認定企業には5年ごとの必須レビュー手続きが適用開始されます。対象となるのは、おおむね2021年以降に短期目標を設定した企業で、早い場合には2026年前後に初回レビューの時期を迎える見込みです。 レビューでは、セクター別ガイダンス(例:FLAG、ビルディングセクターなど)の要件確認が求められる場合があり、必要に応じて追加算定や新たな目標設定が発生します。そのため、レビュー前に最新のSBTi基準および自社インベントリを再確認し、データの更新・整備を進めておくことが望ましいといえます。 なお、レビューの結果、既存目標が最新のSBTi基準に適合していると判断された場合には、アップデート申請は不要です。 最新動向を踏まえたウェイストボックスの支援体制 豊富な支援実績とSBTi認定エキスパートによる確かな専門性 当社では、2020年以降、SBTiへの申請準備中の企業を含め、60件を超えるSBT申請支援を行っており、そのうち50件以上がすでにSBT認定を取得しています。支援企業のセクターは多岐にわたり、各セクターにおける実務課題を熟知しています。 当社では、SBT申請支援を途切れることなく継続的に承っており、最新のSBTi動向をリアルタイムでキャッチアップできる体制を維持しています。 さらに2025年9月、SBTiは科学的根拠に基づく目標設定の認定エキスパート登録制度を正式に開始しました。この制度は、SBTiのトレーニングおよび評価プログラムを通じて、SBTiの基準・手順・最新ガイダンスに関する高度な専門知識を公式に認定するものです。SBTiによれば、この制度の目的は「企業が信頼できる専門的サポートを受けながら、より高い精度でSBT目標を策定・実施できるようにすること」とされています。 当社には、このSBTi認定エキスパートが在籍しており、SBTiの最新基準に基づく目標設定支援、申請プロセスの最適化、検証対応時のアドバイスなどを、公式認定に裏打ちされた専門性と実績をもって提供しています。SBTi基準が高度化・複雑化する中で、SBTi認定エキスパートの存在は、企業が確実かつ効率的にSBT目標を達成するための心強いパートナーとなります。 まとめ SBT認定の取得は、企業にとってひとつの大きなチャレンジです。申請から認定に至るまでのプロセスは決して容易ではなく、相応の時間と労力を要します。 しかし、私たちはその先にこそ本質的な価値があると考えています。SBT認定の取得はゴールではなく、脱炭素の道のりにおける本格的な削減活動の第一歩です。 毎年のGHG算定、削減活動、目標に対する進捗確認、そして情報開示の積み重ねを通じて、企業は自社の取り組みを可視化し、社会からの信頼を高めていくことができます。当社は、そうした企業の皆さまの歩みを専門的知見と継続的な伴走支援によって支え続けています。 SBT認定の取得から、その先の削減活動や情報開示に至るまで、脱炭素経営の確かな道筋をともに描いていけることに、私たちはこの上ない喜びと使命感を感じています。 無料オンライン相談のご案内 現在、当社ではメルマガ読者の皆さま限定で、30分間の無料オンライン相談を実施しています。SBTに関するさまざまなご相談──たとえば「いつ申請すべきか」「最新基準との整合性」など──について、個別にアドバイスいたします。 SBTの基準やルールが複雑化する今こそ、専門家とともに確実な一歩を踏み出す時です。 ぜひお気軽に、ウェイストボックスまでお問い合わせください。 出典 https://sciencebasedtargets.org/developing-the-net-zero-standard https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/SBTi-criteria.pdf https://sciencebasedtargets.org/blog/whats-new-minor-updates-to-enhance-usability-across-sbti-target-setting-resources https://docs.sbtiservices.com/resources/TargetValidationServicesOfferingsV6.pdf?v=6.1 https://sciencebasedtargets.org/faqs#3118310 https://sciencebasedtargets.org/blog/forging-the-next-chapter-sbti-releases-new-guidance-for-five-year-target-reviews-and-expanded-status-categories https://sciencebasedtargets.org/reports/sbti-trend-tracker-2025 https://sbtiservices.com/services/certification Key resources - Science Based Targets Initiative https://www.cdp.net/ja/disclosure-2025 https://www.cdp.net/ja/disclose/how-to-disclose (執筆者:小島) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・SBT目標設定・気候移行計画策定 ・アドバイザリーサービス ・CDP質問書、TCFD・TNFD開示支援|株式会社ウェイストボックス
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