Column

2023年6月

GHGプロトコルの全面改訂とScope2の改訂方針のサマリ

 2022年11月から2023年の3月にかけて、GHGプロトコルに対するフィードバックの募集が実施されました。 GHGプロトコルに対してはこれまで課題も指摘されており、今回のフィードバックの結果を踏まえ、改訂方針が検討されるとのことです。 弊社もご支援の中で、解釈に迷う部分や実務上難しいような要件もあり、注視しているところになります。 ここでは、まず先んじて公表されたScope2 Guidanceについて改訂方針ウェビナーの内容をサマリーでご紹介いたします。詳細をお知りになりたい方は、出典からウェビナー動画をご覧ください。   <GHGプロトコルの歴史> GHGプロトコルとは、企業をはじめとした組織単位のGHG排出量算定・報告の国際的なスタンダードとなっている規格です。 最初に、2001年に企業単位の算定基準をまとめたCorporate Standardが公開され、2004年に改訂されました。 2011年には、現在のサプライヤーチェーンを含めたScope123排出量の算定基準となっているScope3 Standardが公開。 続いて、2015年にScope2の算定について詳細に解説したScope2 Guidanceが公開され、現在は、土地利用・炭素除去に係る算定の具体的手法について定めたLand Sector and Removals Guidanceのドラフト版が公開されています。 (和約については、環境省HP参照 排出量算定について - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省 (env.go.jp))   <改訂スケジュール> ・現在、(Q2-3 2023)1400のフィードバックと、230の提案を受けている。 ・NGO、アカデミア、ビジネス、政府からの代表者を募り、基準の策定を進めている。 ・Scope2ガイダンスのドラフトについては、2024年Q1までに、最終化を2025年までに完了することを目標としている。   <論点> 今回の改訂のキーとなる論点について、以下の5つを挙げて説明されています。 ①マーケット基準・ロケーション基準の両方での報告を求める、いわゆる「Dual Reporting」を残すか、どちらかひとつに統合するかについて ②データ要件(ロケーション基準とマーケット基準両方)と品質要件(マーケット基準のみ)をどの程度厳しく定めるかについて ③第3のレポート要件=インパクト評価指標(avoided emission)を導入することについて ④新技術に関する追加ガイダンスを作成することについて ⑤ポリシーや規制、自主的な開示プログラムとの整合性を図ることについて   【1番について】 マーケット基準、ロケーション基準のどちらかひとつで十分だとする意見の根拠として、主に多くの企業がDual Reportingを遵守していないことが挙げられています。 実際、日本企業の多くは、サステナビリティレポート等でマーケット基準のみを開示し、注釈をつけているケースが見られます。 マーケット係数の取得が難しい地域もあり一概には言いづらいものの、再エネ化のインセンティブを持たせることができるのはマーケット基準だという意見があります。   【2番について】 データや品質について、細かな要件を求めるべきか否かの議論が紹介されていました。 細かく定めることのメリットとして、証書のヴィンテージや設備の追加性(新たに再エネ設備を構築する社会的意義)を評価可能という点などが挙げられます。 一方、デメリットとしては、最初から要件を満たせる地域への投資が集中してしまい、公平な投資が妨げられてしまう点などが挙げられています。   【3番について】 再エネ等への切り替えによる削減インパクトについて、Scope2の枠組みの中で報告する箇所を設けるべき、という議論がでています。 ただ、課題としては、マージナル排出係数*の整備や、SBTiをはじめとするプログラムとの整合性の確保が指摘されています。 *CO₂削減対策の効果と電気のCO₂排出係数について | 日本ガス協会 (gas.or.jp)   【4番について】 追加ガイダンスの策定が要求されたテーマについて紹介されています。 主なテーマとしては、エネルギー貯留技術、グリッドごとの排出係数のさらなる整備、水素利用、などが表中で言及されていました。 そのほかにも、コジェネレーションシステム、廃棄物発電、バイオガスの利用といったテーマについての、ガイダンス策定が検討されているとのことです。   【5番について】 既存の政策や規制、ボランタリープログラムとの整合性を考慮すべきとの議論が紹介されています。 今後、CSRDやISSBのほか、EUにおける水素規定を踏まえたものにしていくとのことです。 今後、他のスタンダード/ガイダンスに関する改訂方針も公表される予定で、引き続き注視をしていきます。 脱炭素に貢献する技術が次々と出てくる中で、報告排出量へのインパクトが意思決定に係る場面も出てくると感じており、算定基準の整備・普及は急務です。 GHGプロトコルが国際的な基準としてフロントにあり続けることを期待しています。 出典記事:Survey on Need for GHG Protocol Corporate Standards and Guidance Updates | GHG Protocol 投影資料:https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2023-05/Topline Findings from Scope 2 Feedback Webinar_GHG Protocol_05.02.2023.pdf (執筆者:馬場)      

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