2026.09.18
SBTiネットゼロ基準V2.0「継続的排出への責任(OER)」とは? ―カーボンクレジット活用に向けた準備
2026.09.18
この記事を読んでほしい人 SBTi認定目標を持っている、または目標設定を検討されている企業のご担当者 自主的カーボンニュートラル目標を持っている、または目標設定を検討されている企業のご担当者 カーボンクレジットの活用を検討されている企業のご担当者 目次 ■OERとは? V1.0からの変更点 ■OER認定プログラムの概要 対象範囲と実行アプローチ・支援対象活動 SBTiの十全性基準(Integrity criteria) ■2035年以降の責任要件、ネットゼロ要件の概要 責任要件とネットゼロ要件の対象範囲と実行アプローチ・支援対象活動 耐久性(Durability)要件 ■カーボンクレジット活用に向けた準備 はじめに 2021年に公開されたSBTiのネットゼロ基準(V1)が5年ぶりに大幅改訂され、今年6月にVersion2(V2.0)が発行されました。大きな変更の一つと言えるのが「継続的排出への責任(Ongoing Emissions Responsibility:OER)」です。V1で「排出量を極限まで減らした上で、ネットゼロ年及びそれ以降は残余排出量を炭素除去で中立化する」ことや、それに加えて「(任意で)バリューチェーン範囲外での緩和活動に貢献する」ことが打ち出されましたが、「まだ先の話」であり、何をどうすればよいのか具体化はされていませんでした。それが今回の改訂で、OERという形をとって、一歩具体化されました。2035年以降の本格的開始(義務化)に向けては、まだ十分具体化されていない部分も残されているものの、一部見えてきた部分を整理してみたいと思います。現状ではOERの実行方法のメインは「カーボンクレジットの活用」となることが予想されます。クレジットの世界は複雑でマニアックで、また選び方や使い方の注意が不十分だとグリーンウォッシュ批判の対象になるリスクが高い分野でもあります。だからこそ、早い段階で活用方針と社内体制を整え、調達に向けて動き出しておくことが重要だと考えています。そこで後半では、弊社が考える、OER用途も含めた、企業のクレジット活用サイクルをご紹介したいと思います。本稿が、皆様のクレジット活用ご検討の第一歩に少しでもお役に立てれば幸いです。 継続的排出への責任(OER)とは? V1.0~の変更点 OERとは「Ongoing Emissions Responsibility(継続的排出への責任)」の略で、企業がネットゼロに向かう過程で発生し続けてしまう温室効果ガス(Ongoing Emissions(継続的排出)を認識し、必須で求められているバリューチェーン内の目標(Scope1,2,3目標)への取組を超えて、気候変動対策への貢献(気候貢献)を行う取組です。 OERは3段階で構成されています。1段階目は、V2.0の運用開始と同じ2027年から始まる任意の「OER認定プログラム(OER recognition program)」です。継続的排出量の一定割合と同等の気候貢献(炭素除去に限らない幅広い活動が対象)を行うと、その割合に応じて「Engaged」「Advanced」「Leadership」の3つのレベルで認定されます。2段階目は2035年から始まるOERの「責任要件(Responsibility requirement)」です。こちらはカテゴリA企業(主に大企業)のみを対象とした必須の要件で、対象は炭素除去への貢献に限定されます。割合は継続的排出量の1%から始まり、ネットゼロ年(遅くとも2050年)には100%になるよう直線的に引き上げていきます。3段階目は、ネットゼロ年以降に適用される「ネットゼロ要件(Neutralization)」です。全ての企業に必須で課され、排出量を極限まで削減した上で残る残余排出量の100%を適格な炭素除去によって中立化(neutralize)することが求められます。 1段階目の「炭素除去を含むがそれに限定されない広い気候貢献」は、V1.0では「バリューチェーンを超えた緩和活動(Beyond Value Chain Mitigation:BVCM)」と呼ばれ、推奨事項に留まっていました。V2.0では、目標の評価から進捗の評価まで対象範囲が広がった新しいネットゼロ基準において、この活動もSBTiが確認し認定を与える認定プログラムとして新たに整備され、対象範囲や支援対象活動が明確化され、品質や信頼性に関する十全性基準も追加されています。2段階目の責任要件は、V2.0で新たに設けられたものです。V1.0ではネットゼロ年以降の中立化を必須で求めるものの、それに向けた中和のマイルストンの開示は推奨事項に留まっていました。V2.0では2035年から始まる責任要件として、段階的に進めるマイルストンの達成が必須で求められることになりました。3段階目の「ネットゼロ年以降に残余排出量を炭素除去で中立化する」ことは、V1.0で既に求められていましたが、詳細な要件は提供されていませんでした。V2.0では耐久性に関する要件が示され、また対象範囲の明確化(間接排出量の扱い等)も行われています。 一つ強調したいのは、V1.0からV2.0 になっても、大切な原則:「OERは排出削減の代替ではなく、それに加えて補完的に実施するものである」は変わらないということです。あくまでも自社の排出削減が最優先で、加えて他の気候変動対策活動へも貢献し、最後には残余排出量を炭素除去によって中立化することでネットゼロを達成するという考え方になっています。 OER認定プログラムの概要 対象範囲と実行アプローチ・支援対象活動 OER認定プログラムでは、目標サイクル終了時に、直近5年間の継続的排出量に対する気候貢献の度合いに応じて認定を与えます。継続的排出のカバー割合によって、3つの認定レベルに分けられます(表1参照)。継続的排出量は物理的インベントリ(Scope1,2,3排出量)に基づきます。Scope3については同じ排出量を報告するバリューチェーンパートナーとの責任の分担が認められており、その場合は、少なくとも一方がその排出量を全て引き受け、各社でどのように配分するかを示した合意書や契約書等を提出することが求められています。 気候貢献の実行アプローチには、「検証済緩和成果(Verified mitigation outcomes)アプローチ」と「貢献予算(Contribution budget)アプローチ」の2種類があります(表2参照)。「検証済緩和成果アプローチ」とは、対象の継続的排出量と同量の「検証済緩和成果」(測定され、第三者に保証された、実際に緩和が実行された(削減が行われた、炭素除去・貯留が行われた)もので、tCO2eで定量化可能)を活用するアプローチです。検証済緩和成果の主なものとしてはカーボンクレジットが想定されていると考えられます。(カーボンクレジットは、各クレジット制度が活動の種類別に用意した方法論に基づき、削減や炭素除去の活動をモニタリングし、削減量や除去量を定量化して、第三者検証機関による検証を受けて作られるのが基本です。)「貢献予算アプローチ」は対象となる継続的排出量と同等の資金拠出(対象となる継続的排出量に炭素価格を乗じて算出)で、その資金拠出先としては、「検証済緩和成果」の他に、「その他の気候変動対策活動」(排出削減や炭素除去の成果が見込まれるが実績はこれからの活動や、研究開発や適応とレジリエンス、損失と損害といった直接的に排出削減や炭素除去につながらない活動等も含む広い範囲の活動)が対象となっています。3つの認定レベルごとに、2つのアプローチそれぞれの要件が定められています(表1参照)。 手続きの流れとしては、まず目標申請時に、OER認定プログラムへの参加意向の明示が求められます。(参加する場合には、SBTiターゲットダッシュボード上で参加が公開されます。)その後、5年間の目標サイクルの中でOERの活動も実行していきます。(サイクルの終わりまで実行を先送りするのではなく、期間中に段階的に行っていくことが推奨されています。)目標サイクル終了時、OERの成果は、排出量インベントリや短期目標の進捗状況とは分けて集計し、第三者機関による保証を受ける必要があります。その上でSBTi から認定を受けられることになりますが、認定の前提として「短期目標が進捗していることを示す」ことが求められています。認定結果は、参加表明時と同様にSBTiターゲットダッシュボード上で公開されます。 SBTiの十全性基準(Integrity criteria) 「検証済緩和成果」も「その他の気候変動対策活動」も、真に気候への影響をもたらし、その他の環境的・社会的な成果も達成することを確実にするために最低限「SBTiの十全性基準」を満たし、該当する場合は第三者による高い十全性基準も満たす必要があるとされています。基準は、ICVCM等、国際的なクレジットの品質や信頼性に関する基準でも取り上げられているような基本の項目が中心となっています。これらの基準は、過去のクレジットへの批判を踏まえ整備されてきたものであり、基準を理解し、クレジットやその他の気候変動対策活動をしっかり選定していくことが、真の気候貢献とグリーンウォッシュ批判回避のためには必要です。 2035年以降のOER責任要件、ネットゼロ要件の概要 責任要件とネットゼロ要件の対象範囲と実行アプローチ・支援対象活動 2035年以降のOER責任要件では、継続的排出量(Scope1,2,3排出量)を対象に、1%から開始して、ネットゼロ年(遅くとも2050年)までに100%になるように直線的に割合を増やしていくことが求められます。実行アプローチとして認められるのは「検証済緩和成果アプローチ」のみで、さらに対象活動は炭素除去のみに限定されます。つまり、2035年以降はクレジット等の定量化され検証された炭素除去に限定されることになります。また、V2.0で初めて示された耐久性に関する要件により、自社の排出量を「長寿命GHG(long-lived GHG emissions)」とそれ以外に分けて、長寿命GHGの割合を把握することが新たに必要となります。その上で、最終的にネットゼロ年(遅くとも2050年まで)には、長寿命GHGには「長寿命の炭素除去(long-lived removals)で100%対応できるように、2035年は10%から始め、直線的にその割合を増やしていくことが求められています。 ネットゼロ要件では、極限まで削減した後の残余排出量(Scope1,2,3排出量)の100%を炭素除去によって中立化(neutralize)することが求められます。Scope1の排出量は自社の直接排出であり、企業が直接の責任を持ち対応する必要があります。一方、間接排出であるScope3については、同じ排出量を報告するバリューチェーンパートナーとの責任の分担が認められており、その場合は、少なくとも一方がその排出量を全て引き受け、各社でどのように配分するかを示した合意書や契約書等を提出することが求められています。 耐久性(Durability)要件 耐久性とは、除去した炭素が大気中に戻らず、どれくらい長く貯留され続けるかを表す考え方です。たとえば植林による炭素の吸収・貯留は、数十年〜数百年程度で山火事や伐採などによって失われてしまうリスクがあります。一方、DACCS(直接空気回収・貯留)やBECCSのように地中深くに圧入する地質学的な貯留は、1万年以上にわたって炭素を閉じ込めておくことができると言われています。炭素除去の質を見極める際には、こうした「どれくらい長く、確実に炭素を閉じ込めておけるか」という視点が重要になります。V2.0で新たに追加された耐久性要件では、GHGの寿命と対応した炭素除去での中立化を求め、残余排出量のうち長寿命のGHG分については長寿命の除去で中立化することを求めています。残りのGHG(短寿命のGHG)には短寿命、長寿命もしくはその両方での中立化が認められています。 カーボンクレジット活用に向けた準備 弊社では、SBTi OER用途に限らず、下表(表5)のようなクレジット活用サイクルが必要であると考え、サイクル全体をトータルでご支援しています。各用途の要件に合い、グリーンウォッシュ批判を回避し、真に気候に貢献するためのクレジット活用とするためには、特に初めのステップである「方針策定・体制構築」をしっかり行うこと、そして小規模からでも実際に「調達・活用」を始めてみて、その上で方針・体制をブラッシュアップしていくことをお勧めしたいと考えています。2035年から求められる炭素除去の中でも特に長寿命の除去については、まだ供給がかなり限られており、確保に動き出すような動きも一部見られます。一方、他のクレジットに比べコストは跳ね上がり、品質評価や契約面等においてはより一層慎重さが求められる難易度が高いものです。そこで、なるべく早いタイミングから段階的に調達・活用をはじめ、方針・体制を築き、経験を積んでいくことをお勧めしたいと考えています。 弊社では引き続き、気候変動対策の重要な一手段であるカーボンクレジットの活用の国際的ベストプラクティスを追求し、真に気候変動対策に貢献するクレジットの活用支援に注力していきます。クレジット活用に関し、お困りごとやお悩みごと等がありましたらお気軽にお問い合わせください。 出典 Corporate-Net-Zero-Standard-version-2.pdf Corporate Net-Zero Standard V2 Criteria Corporate Net-Zero Standard V2 Main Changes Document Corporate Net-Zero Standard V2 Basis for Conclusions From Ambition to Action: Actions and Market Instruments in the Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 (執筆者:山本(裕)) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・カーボンニュートラル・BVCM|株式会社ウェイストボックス
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