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スコープ1,2,3を活用したSDGsの進捗評価

 前々回のメルマガでは、SDGsの枠組みの中で気候変動分野に取り組んでいく際の取組ステップについて取り上げました。
(詳細は【業界動向】SCOPE1,2,3把握から始めるSDGs13「気候変動に具体的な対策を」の取組ご参照。)

その中で、自社が気候変動へ与える影響の定量化指標としてスコープ1,2,3が活用できること、さらに取組ステップに応じて以下の二つの活用の仕方ができることをお伝えしました。
一つ目は「ステップ2:優先課題の特定」における影響評価のマッピングツールとしての活用です。スコープ1,2,3全体を漏れなく概算で把握することで、自社が気候変動へ与える影響はどれくらいか、サプライチェーンのどの部分の影響が特に大きいのかなどといった影響の全体像を見える化でき、優先課題の特定に役立ちます。
二つ目は「ステップ3:目標を設定する」における進捗評価ツールとしての活用です。全社目標を設定した後には、ステップ2で特定した優先課題分野を中心に目標を割り振り、目標達成に向けた活動を進めていかれるかと思います。その際必要なのが活動の進捗評価です。優先課題分野に範囲を絞って、より細かく、精度を上げてスコープ1,2,3を把握することで、活動の進捗をGHG排出削減量として見える化でき、定量的な評価が可能となります。

今回は二つ目の「スコープ1,2,3を活用した進捗評価」について、いくつかの具体例を挙げてイメージを持っていただけたらと思います。
業界別の気候変動対策事例がまとめられている『SDG INDUSTRY MATRIX―産業別SDG手引き―CLIMATE OPPORTUNITIES』(※1)を参考に、以下の5つの活動のスコープ1,2,3を用いた進捗評価を考えてみます。

Case1:製造等でのエネルギー効率を高める
Case2:再生可能資源に由来するエネルギーの割合を増やす
Case3:製造段階での使用エネルギーの少ない材料を調達する
Case4:消費者によるエネルギー使用を低減する製品を考案する
Case5:容器包装を減らし、リサイクルを増やす

 

Case1:製造等でのエネルギー効率を高める

 エネルギー効率を高め、より少ない燃料や電気での製造が可能になると、温室効果ガス(GHG)排出が削減されます。
例えば、生産ラインのエネルギー効率が向上し、燃料として使用する化石燃料の量が減る場合、その効果をスコープ1(自社での燃料燃焼などによる直接排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。

スコープ1排出量は以下の計算式で計算できます。

 

スコープ1排出量=Σ{(燃料種別の使用量)×(燃料種別の排出原単位)}

 

燃料種別排出原単位は、燃料1単位を燃焼した時に排出されるGHGの量です。燃料の種類によって排出原単位は異なるため、燃料の種類ごとに使用量と排出原単位を乗じて排出量を計算し、その合計値がスコープ1排出量となります。
上記式から、燃料使用量が減るとスコープ1排出量が減ることになります。

 

Case2:再生可能資源に由来するエネルギーの割合を増やす

 太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーは、基本的には化石燃料を燃焼せずGHGを排出しません。
例えば、購入している電力を化石燃料由来から再エネ由来に切り替える場合、その効果をスコープ2(他者から供給される電気・熱などの間接排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。

スコープ2排出量は以下の計算式で計算できます。

 

スコープ2排出量=Σ{(電気・熱の供給者別もしくはメニュー別使用量)×(電気・熱の供給者別もしくはメニュー別排出原単位)}

 

電気・熱の供給者別排出原単位は、供給者が電気や熱1単位を作るために化石燃料を燃焼することで排出されるGHGの量です。供給者によって化石燃料を使用する割合が異なるため、排出原単位も異なります。100%再エネ由来の電源で賄っている電力会社の場合、排出原単位が0であることが期待できます。(一般的に使われる電力の排出原単位として温対法の電力事業者別排出係数がありますが、排出係数の計算の際にFIT調整なども行われるため、100%再エネ由来電源でも排出原単位0ではない場合も考えられます。)電力会社によっては、再エネ由来だけで供給する再エネメニューと、化石燃料由来も含んで供給する一般メニューなど、電力メニューを分けて提供していることもあり、その場合、再エネメニューで契約していると排出原単位0が期待できます。
上記式から、再エネの使用量が増えると、排出原単位0を乗じる量が増えるため、スコープ2排出量が減ることになります。

 

Case3:製造段階での使用エネルギーの少ない材料を調達する

 自社が調達する製品は、調達先での製造過程でエネルギーが使用されるなどしてGHGが排出されており、製造過程での排出がより小さい製品を調達することで排出が削減されます。
例えば、採取に多量のエネルギーが必要な素材が多く使われていたり、遠方から調達したりしているような製品は排出が大きいと考えられ、より身近な資源を、最小限の量を用いて作られているような製品は、排出が小さいと考えることができます。(希少鉱物vs再生可能素材、輸入品vs近隣調達品、重量vs軽量…)また、調達先工場で省エネや再エネが進んでいる場合にも排出は小さいと考えられます。
この効果をスコープ3(自社のサプライチェーン上での排出)のうちカテゴリ1(購入した製品・サービスに伴う排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。

スコープ3カテゴリ1排出量は以下の計算式で計算できます。

 

スコープ3カテゴリ1排出量=Σ{(製品別調達量もしくは金額)×(製品別排出原単位)}

 

製品別排出原単位は、製品を1単位作る時に排出されるGHGの量です。様々なデータベースが整備されていますが、統計データなどから算出された全国平均値のようなものであり、省エネや再エネの取組度合いなどといったサプライヤー固有の状況を反映することはできません。また、代表的な製品のデータしかなかったり、産業分類に合わせて大きく括られてしまっていたりと、進捗を評価するのに十分な細かさや精度が得られない場合もあります。よって、優先的に排出を削減すべき主要な製品については、サプライヤーから排出原単位などの情報を入手する、LCAの考え方に基づき製品の排出量を調査するといったことをお勧めします。

最近では、SBT目標設定にあたり、サプライヤーにSBT水準の目標を持ってもらうことを自社のスコープ3削減目標とする「サプライヤーエンゲージメント目標」を持つ企業も増えています。そうしたケースにおいても、サプライヤーにおける取組の進捗を把握するとともに、自社のサプライチェーン上での削減量として報告することが可能になってくると考えられます。

上記式から、軽量化で調達量(重量)が減ったり、素材やサプライヤーの見直し、サプライヤーでの取組進捗などにより排出原単位が小さくなったりすると、スコープ3カテゴリ1排出量が減ることになります。

 

Case4:消費者によるエネルギー使用を低減する製品を考案する

 製品が販売された後、消費者によって使用される際の燃料や電気の使用量を削減できると、GHG排出も削減されます。
例えば、家電製品の電力使用量を小さくする、シャワー製品・洗浄剤などのすすぎ時間を短くするなどが考えられます。
この効果をスコープ3のカテゴリ11(販売した製品の使用に伴う排出)排出量の削減として見える化し、進捗を評価することができます。

 

スコープ3カテゴリ11排出量=Σ{(製品別生涯使用回数)×(製品別報告期間の販売数)×(製品別使用1回あたりの燃料使用量)×(燃料種別排出原単位)}+ Σ{(製品別生涯使用回数)×(製品別報告期間の販売数)×(製品別使用1回あたりの電気使用量)×(電気の供給者別もしくはメニュー別排出原単位)}+ Σ{(製品別使用時のエネルギー起源CO2以外のGHG排出量)}

 

標準的な使用シナリオ(1回の使用でどのくらいの燃料・電気を使うか、製品寿命の間に何回くらい使われるかなど)を設定して計算していきます。また、空調のフロン漏えいなど、使用時にエネルギー起源CO2以外のGHGの排出がある場合にはそれも計算します。
上記式から、使用時の燃料・電気使用量の削減を可能とする製品を提供できると、スコープ3カテゴリ11排出量が減ることになります。

 

Case5:容器包装を減らし、リサイクルを増やす

 製品が販売され、消費者によって使用された後、最終的に廃棄される時にも廃棄物処理に伴いGHGが排出されます。廃棄される量を減らしたり、リサイクルを促したりすることができると排出が削減されます。
例えば、容器包装を最小限にする、リサイクル可能な素材に変更する、分別を可能にしてリサイクル割合を増やす、などが考えられます。
この効果をスコープ3のカテゴリ12(販売した製品の廃棄に伴う排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。

スコープ3カテゴリ12排出量は以下の計算式で計算できます。

 

スコープ3カテゴリ12排出量=Σ{(廃棄物種類・処理方法別量)×(廃棄物種類・処理方法別の排出原単位)}

 

廃棄物種類・処理方法別排出原単位は、廃棄物1単位を特定の処理方法によって処理する時に排出されるGHGの量です。紙・プラスチック・金属などといった廃棄物の種類と、焼却・埋め立て・リサイクルといった処理方法の種類によって排出原単位は異なります。リサイクルの排出量計算には様々な考え方がありますが、リサイクル準備段階までを対象とすると、基本的には焼却や埋め立てよりも排出原単位は小さくなります。

廃棄物種類・処理方法別量は製品の販売量と素材構成などから把握します。
上記式から、容器包装を最小限にして廃棄物量を減らしたり、焼却や埋め立ての量を減らしてリサイクルの量を増やしたりすると、スコープ3カテゴリ12排出量が減ることになります。

 

 

 この他にも、様々な気候変動分野の活動進捗をスコープ1,2,3で見える化し定量評価することが可能です。
ご興味をお持ちの方はお気軽にお問合せください。

 

 

※1 『SDGS INDUSTRY MATRIX―産業別SDG手引き―CLIMATE OPPORTUNITIES』(2015)国連グローバルコンパクト/KPMG作成、日本語版:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン/KPMGあずさサステナビリティ㈱翻訳・監修

http://ungcjn.org/common/frame/plugins/fileUD/download.php?type=contents_files&p=elements_file_2911.pdf&token=d6c685b49248079f8b0117d704bd7a35047ca495&t=20190930142548

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Scope 3とカーボン・クレジット -企業の気候変動対策における課題と可能性-

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カーボンクレジットとは何か? カーボンクレジットに関連する基礎用語を知ろう

 2024年も半分以上が過ぎ、残暑もまだ続く9月ですね。年も半分を過ぎたということで、改めてカーボンクレジットとは何か?クレジットに関連する用語について、メルマガで執筆をさせていただこうという次第です。  まず、なぜ今更、基礎という方も勿論いらっしゃることは重々承知の上ではございますが、今年の4月からSustainabilityや環境関連部、もしくは各プロジェクトに初参加された方々にも是非この、わかりづらすぎるクレジットの世界について少しでもご理解を深めていただければという事が今回の主旨でございます。(私自身も、大量の情報、大量の英語の頭文字に毎度苦しめられておりますので、少しでも助けになれば幸いです)  では…、カーボンクレジットの基礎について学んでいきましょう! カーボンクレジットとは?  まずはカーボンクレジットとは一体全体何なのでしょうか。 カーボンクレジットとは一般に、ベースラインと比較した時の温室効果ガス排出削減量や吸収量をクレジットとして認証したものを指します。 つまり、プロジェクトを通して温室効果ガスの排出削減や吸収の増大に貢献した価値をクレジットとして創出して、売買できるようにしているということです。 ベースラインって何?  次に、カーボンクレジットについて、話すと出てくるのが、「ベースライン」ですね。では、「ベースライン」とは何でしょうか? ベースラインとは削減・吸収プロジェクト活動の比較対象となるものです。プロジェクト活動のGHG削減量は、「ベースライン排出量ープロジェクト活動からの排出量」の式で定量化されます。ベースライン排出量の算定方法には複数ありますが、ここではよく見られるベースラインシナリオによる方法をご紹介します。  ベースラインシナリオとは、地球温暖化防止の対策を全く考慮しない場合に、最も起こりやすいと考えられる状況のことです。例えば、再エネが導入されずに、化石燃料を使用している状況=ベースラインシナリオです。「GHG プロトコル」では、次の3つのシナリオがベースラインシナリオになり得るとあります。 プロジェクト活動で用いられるのと同様の技術や実施方法が使用されるシナリオ ベースライン候補が実施されるシナリオ(代替技術等) 現在の活動、技術、実施方法が継続され、(該当する場合には)プロジェクト活動と同様の種類、 量、品質の製品やサービスを提供するシナリオ(効率改善、森林経営活動等)   追加性はなぜ重要なのか?  次に、追加性についても、簡単に基本的な概念にだけ、ここで触れておきます。 追加性について、経産省では下記の様に示しています。  ・プロジェクトベースの排出削減・炭素吸収・炭素除去は、 そのプロジェクトが実施されなかった場合に発生したであろう排出削減・炭素吸収・炭素除去から、追加的なものでなければならない。  ・ カーボンファイナンスが利用できなければプロジェクトは行われなかったことを実証しなければならない。  追加性が重要な理由として、GHG排出量取引制度があります。排出量取引制度を導入している国・地域の多くは、排出量取引制度とセットでクレジット制度も導入しています。排出量取引制度では各施設に排出量の上限を設け、上限を超えてしまった場合には、クレジット制度で創出された「オフセット・クレジット」で超過分を相殺できるようになっています。クレジット制度では排出量取引制度の対象外であるGHG削減や吸収量増大プロジェクトからクレジットが創出されます。  つまり、オフセット・クレジットでの相殺は、各施設にクレジットと同量の排出を認めることであり、その代わりに別の場所で排出削減、吸収量増大が行われることを前提としています。しかし、GHG削減や吸収量増大のプロジェクトの中には排出量取引制度が無かったとしても当たり前に行われていたはずのものもあります。成り行きベースで減る予定だったものを担保に施設に追加的な排出を認めてしまったら、地球全体の排出量は増えてしまいます。そのため、このクレジット制度がなかったら行われていなかったものを対象としてクレジットが作られる必要があります。 相当調整やArticle6とは?  Article6は、パリ協定に基づく国際的な炭素市場を設立し、各国が炭素クレジットを取引できるようにするものです。Article6では、売却国が許可した排出削減量を他国に売却できますが、その削減量を自国のNDCに含めるのは1カ国のみです。これにより、二重計上を避けて世界全体の排出削減量が過大評価されないようにすることが重要です。 二重計上を防ぐための「相当調整」という算定方法も設けられています。この調整は、コンプライアンス市場だけでなく、自主的な炭素市場にも適用される可能性があるものの、まだまだ、議論中のトピックが数多く存在し、次のCOPでの議論が待たれるところです。 カーボンクレジットはどこで使えるのか?  カーボンクレジットは、以下の場面で使用されます。(今回は自主的な取り組みを対象に整理します。このほかに規制対応の用途も考えられますがここでは割愛します。) 1)ネットゼロ目標達成近辺(2050年ごろ)  ネット・ゼロ目標達成時に削減できない温室効果ガス(GHG)の影響を、大気中のCO2を永久に除去・貯蔵することで中和(neutralization)する際に使用。このCO2削減は、バリューチェーンの内外で行うことができます。  ⇒ちなみにここで使えるクレジットは自然由来・および技術由来のRemoval系のクレジットです。なぜならば、中和(neutralization)には「CO2を長期的に固定する永続性」が求められるからです。クレジットの種類については、後で少し触れます。 2)BVCM(バリューチェーンの外側)  こちらは、皆様すでにご購入されている、もしくは検討されている部分ですね。こちらは今からでも始めていただく事が出来ます。これは、皆様のバリューチェーン内での排出で削減できていない部分を、バリューチェーンの外へ投資(クレジットを購入し、無効化)することで、気候変動へ社会全体という大きな視点から貢献するものです。 あくまでもボランティアの部分ではありますが、外部からの評価ポイントの一つとなっていく可能性もあります。 クレジットにはどんな種類があるのか?  では最後に、カーボンクレジットといってもどんな種類があるのか?というところですね。こちらも大きく分けて下記2つにわけられます。     1)「排出回避/削減(Avoidance/Reduce)」  2)「固定吸収/貯留(Removal)」  この2つのカテゴリがさらに、自然ベース・技術ベースで分かれていきます。例えば、自然ベース「排出経費・削減」に入るのがREDD++、技術ベースが燃料転換、輸送効率改善。一方で、固定吸収系の自然ベースは「植林、再植林」、技術ベースは「Direct Air Carbon Capture and Storage(DACCS)」などがあげられます。  その名の通りといってはなのですが、回避や削減クレジットは、ダイエットでいうところの「ジムや食生活改善」で減らしていくイメージで、固定吸収系は「脂肪吸引」のような、改善というより実力行使に近いものと言えるかもしれません(植林とかは少し違いますが…)。そして、やはりこういう実力行使系は値段が高いですよね。ですが、このようなクレジットが必要ですし、今はこのクレジットを普及させるために様々な会社が投資を行っているわけです。美容やダイエットの分野でも、脂肪吸引や整形は以前よりもどんどん金額が下がり、クオリティは上がっていると思います。固定吸収系・貯留系のクレジットもこのようになっていくのが理想です。  さて、今回はクレジットについての基礎知識のコラムを書いてみました。いかがでしたか? いよいよClimate New York、COPと年末にかけてたくさんのイベントが目白押しです。クレジットの動向についても要注意となりますので、ぜひ目を光らせて、見ていきましょう! 参考資料: The GHG Protocol for Project Accounting, The Greenhouse Gas Protocol Project Protocol |GHG Protocol SBTi ,Above and Beyond: An SBTi report on the design and implementation of beyond value chain mitigation (BVCM) 経済産業省:カーボンクレジット・レポート,20220628003-f.pdf (meti.go.jp) (執筆者:銭谷)    

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SBTスコープ3削減におけるエンゲージメントのヒント

 SBTを申請する際には、目標の種類や水準、基準年排出量の情報に加え、スコープ1,2の削減計画、スコープ3の削減計画をSubmission Formに記載する必要があります。また、弊社の支援先の企業様からは、「社内的に一定程度の削減計画や見通しが立っていないとSBT申請を行うことができない」という声もよくお聞きします。今回のコラムでは、SBT申請でどの程度の削減計画が必要なのか、また削減手段の1つであるエンゲージメント活動を行う上で活用できるSBTリソースについてお伝えします。 SBT申請の際に要求される削減計画のレベル  SBT申請にこれから取り組まれる企業様の中には、「完璧な削減計画がない限り、SBTの認定を受けることができない」と誤解をされている場合があります。実際には「完璧な削減計画」は要求されません。それは、もともとSBTが「野心的」な目標であり、多くの企業にとってかなり難易度の高い水準であることが前提であるためです。Submission Formでは、目標を達成するために計画されている主な対策を簡潔に説明する(briefly describe the main measures)形での回答が要求されており、自由記述となっています。 総量削減とエンゲージメント  スコープ1,2はともかく、スコープ3の削減にはどのように取り組めばよいのかが悩みの種です。スコープ3の目標としては、多くの企業が総量削減目標かエンゲージメント目標のいずれか、または組み合わせで目標設定をしています。よく相談を受けるのが、「総量削減の手段の1つとしてエンゲージメントを行うべきか?」というものです。スコープ3は自社の事業活動に関連する他社の排出なので、自社のサプライヤー側や顧客側で削減が行われることで、自社にとってのスコープ3削減につながることになります。その観点から、総量削減の手段としてエンゲージメント活動を行うことは、有効な削減策の1つとなります。 エンゲージメントとは?  SBTにおける「エンゲージメント目標」というのは、自社のサプライヤーあるいは顧客に、SBT水準に沿った科学的根拠に基づく排出削減目標を持たせる目標です。一方、「エンゲージメント活動」は、以下のような幅広い活動が含まれます。 ・排出削減目標を持たせる。 ・気候関連の情報収集を行う。 ・気候変動の教育を通じてベストプラクティスを提供する。 ・削減に貢献した場合にインセンティブを付与する。 SBTのエンゲージメント関連リソース①サプライヤーエンゲージメントガイダンス  上述の通り、SBTにおけるスコープ3の目標の選択肢の1つはエンゲージメント目標です。これを背景に、SBTではサプライヤーエンゲージメントの進め方に関するガイダンスを提供しています。(参考リンク:New Supplier Engagement Guidance: Unlocking the Power of Supply Chains for Decarbonization - Science Based Targets Initiative)このガイダンスの中では、対象サプライヤーの選定方法、社内関係者の巻き込み方、サプライヤーとのコミュニケーションの内容、進捗状況の追跡、サプライヤーへのフォローアップやインセンティブなど、エンゲージメント活動を成功させるためのヒントが記載されています。コンパクトに要点が凝縮されていますので、総量削減やエンゲージメント活動に取り組む皆様にはご一読をお勧めします。 SBTのエンゲージメント関連リソース②ケーススタディ    SBTではホームページ上でサプライヤーエンゲージメントのケーススタディを掲載しています。2024年5月現在、セールスフォース、アストラゼネカ、H&Mグループの3社が掲載されております。また、サプライヤーエンゲージメントガイダンスのリリースに合わせ、SBTi、We Mean Business Coalitionの共催で行われたサプライヤーエンゲージメントのベストプラクティスに関するウェビナーの中では、アストラゼネカ、フィリップスの両社が事例紹介を行っています(このウェビナーは、YouTubeのSBTiチャンネル内で公開されています。参考リンク: Supplier Cascade: How to accelerate supply chain climate action (youtube.com))。アストラゼネカは調達担当ディレクターがエンゲージメントの意義を熱弁しながら業界を巻き込む取り組みを披露し、フィリップスはサプライヤーへの細やかなフォローの事例を提供しています。日本企業の事例ではありませんが、ぜひエンゲージメント活動を進めるうえでの社内外の巻き込みのヒントにしていただければと思います。 さいごに  最近「取引先からSBT取得要請がきた」という理由でのSBT認定取得支援のお問い合わせが増えています。この取引先はSBTをエンゲージメント目標で認定取得したと考えられますが、このような取引先から取引先へSBT水準の目標設定の要請を行う動きのことを、We Mean Business CoalitionおよびSBTiは「サプライヤーカスケード」と表現しています。前述のウェビナーでもアストラゼネカの調達リーダーが「自社が1,000社と会話し、そのサプライヤーが1,000社に会話すれば100万社のサプライヤーと会話することになる。これが進むべきペースである」と強調していました。弊社自身も、お問い合わせの多さから、国内外の民間主導での脱炭素の取り組みの広がりを肌で感じています。弊社ではSBT認定取得支援はもちろん、サプライヤーエンゲージメント支援も実施しております。ぜひお気軽にお問い合わせください。  (執筆者:小島)

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