Column

2023年9月

国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(前編)

   現在多くの企業が脱炭素へ取り組み、その実現に向け再生可能エネルギー(再エネ)を活用することが重要です。しかし、日本の再エネの利用には課題があります。具体的には、再エネの電力がどのように生成されたのか、どの発電所から供給されているのかといった情報を追跡する仕組みが不足していることです。この問題を解決するための国際的なエネルギー属性証明の仕組みの1つである「I-REC」を紹介します。 I-RECとは  「I-REC(International Renewable Energy Certificate)」は、欧州、北米を除く国で発行される国際的なエネルギー属性証明(電気等の環境面の特性を示す証書)です。欧州のGOや北米のRECといったエネルギー属性証明と同様の仕組みが他の国でも使えるように、オランダのNGO、The International REC Standard Foundation(I-REC Standard)が標準化、ルールを設け、そのルールの下に、国ごとに認定された発行体が運営を行い、証書を発行しています。証書を発行・管理するためのレジストリーも、I-REC Standardの出資先が運営するものを、各国共通で使用します。現在、世界約50か国・地域で使用されていますが、一部の国では政府が運営する証書とともに使用され、補完的な役割を担っています。 日本でも、2021年2月に一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が唯一のI-REC発行主体として指定され、この証書を利用できるようになりました。   I-RECの特徴  以下の主要な特徴があります。  ① CDP、SBT、RE100に利用可能 (日本国内制度では使用不可)  前述の通り、欧州のGOや北米のREC等を参考とした国際標準のルールの下に発行される証書であり、CDPや、RE100・SBTといった国際イニシアティブにおいて利用が認められています。 GHGプロトコルはScope2ガイダンスで、証書の品質基準を定めており、CDP、SBT、RE100はいずれもこれに準拠しています。I-RECはこの要件を満たしており、よって、いずれにおいても利用が認められています。(要件は以下表を参照ください。RE100はScope2ガイダンス準拠に加えてそれ以外の独自要件もあり。) 「RE100」では、RE100達成(再エネ電力100%達成)のための再エネ調達量として問題なく報告が可能です。同様に「CDP質問書」では【エネルギー属性証書】として、再エネ調達量としての回答が可能です。また、Scope2マーケット基準の報告では、排出係数0の電力として計算し報告が可能です。「SBT」でも同様に、基準年と進捗の評価にScope2マーケット基準を採用する場合には、排出係数0の電力として計算ができるため、Scope2の削減手段として利用が可能です。 電力証書が自然エネルギーを増やす:日本と海外で隔たる制度 (renewable-ei.org) P7    一方、地球温暖化対策推進法(温対法)など、一部の日本の制度ではI-RECを使ったオフセットが現在は認められていません。環境価値を主張する場合は、別途非化石証書を取得する必要があります。 「日本でのI-REC発行について」(2023年8月10日更新)- ローカルグッド創成支援機構 Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp) P13   ②相対取引による売買   I-RECは相対取引で売買されます。よって価格は固定されません。また、どのような発電方法でどのような場所で作られた再エネかといった、環境面の特性が証明されているため、環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいもの、地域貢献度の高いものなどがより評価され、高い価格で取引されるような仕組みになっています。     非化石証書との違い  大きな違いは以下2点ございます。 ①トラッキング情報、価格差  非化石証書は、I-RECのような国際的な再エネ属性証書とは異なり、証書の対象になる電力が FIT か非 FIT か、再エネ由来かそうでないか、という情報のみ把握でき、産地・電源種別等の情報がありません。解決策として、非化石証書を購入した後に、後付けでこれらの情報を追加する「トラッキング付き非化石証書」が導入されています。これにより、発電方法や運転開始日、所在地等の情報を把握できるようになりましたが、非化石証書の購入段階では把握できず、本来は評価が異なるはずのものが、一律の入札方式で同じ価格で取引されてしまいます。購入した結果、希望した条件にあうトラッキング情報がつかない可能性もあります。海外の証書は環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいものほど価格が高くなりますが日本で価格差が生じにくいのは上記の背景にございます。資源エネルギー庁は上記の背景により非化石証書も海外の証書と同様に、発行した時点でトラッキング情報を付与する形に変更を検討しています。   ②産地価値と特定電源価値    電力に付随する価値は複数あります。CO2排出削減等の環境価値や、特定地域で作られた産地価値、特定の電源で作られた特定電源価値等です。非化石証書にはこのうち、産地価値と特定電源価値 が含まれていません。日本ではこれらの価値は証書ではなく電気取引に付随すると整理されています。再エネの産地や電源について訴求したい場合、非化石証書に発電方法や発電所の所在地の情報が付与されていたとしても、それによって訴求してよいとは限らず、電力の取引契約とセットとなっている必要があります。先述の国際的な証書の要件の通り、本来はこれらの価値のすべてを集約すること(属性の集約)が求められています。資源エネルギー庁では、産地価値と特定電源価値を含むすべての属性を持つ証書の整備を検討しています。 https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_RE-Certificates.pdf P.40   後編ではI-RECの購入方法や今後の展望についてまとめます。   参考資料 ・電力証書が自然エネルギーを増やす日本と海外で隔たる制度 電力調達ガイドブック 第6版(2023年版):自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け | 報告書・提言 | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・電力調達ガイドブック 第6版(2023年版)自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・日本でのI-REC発行について(2023年8月10日 一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 ) Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp)   (執筆者:小澤)

read more