Column

2026年10月

ESG対応は、本当に「コスト」なのか

はじめに    サステナビリティ担当者の方から、「うちの会社に、ESGは本当に必要なのか」と社内で問われて困っている、という話を聞くことがあります。経営会議で予算を説明するたびに費用対効果を問われ、事業部門に協力を求めれば本業ではないと言われ、統合報告書は毎年分厚くなるものの株価が動いた実感はない、という状況です。 この問いに対して、社会的責任だから、時代の要請だから、と答えても担当者の助けにはなりません。社内で必要とされているのは理念ではなく、経営会議のテーブルで通用する言葉だからです。本稿では、ESG対応への支出が何に効きうるのかを整理し、それを社内でどう置くかを考えます。 なお、本稿はESGへの取組みが企業価値を高めることを実証するものではありません。議論の場所を示すための、単純化した見取り図としてお読みいただければと思います。                         社内で聞かれる「ESGは必要か」という問い 社内で聞こえてくる声には、業種によってはっきりした傾向があります。 製造業では、GHG削減は結局のところ設備投資であり、省エネ設備への更新も燃料転換もコストがかかる、コストは増えるが価格には転嫁できない、海外の競合が対応していない以上、真面目に取り組むほど不利になるのではないか、という形で出てきます。製造業以外では、そもそも自社の排出はほとんどない、オフィスの電気を再エネに切り替えたところで数字は動かない、開示資料や質問票への回答に何日もかけているが開示のための開示になっているのではないか、という逆の形をとります。 これらは感情的な反発ではなく、今期の損益に責任を負う立場からすれば、まっとうな問いであるといえます。ESG対応の多くは支出が先に立ち、効果は測りにくく、時間軸も長いため、費用対効果が見えないという指摘は、感覚としては正しいところがあります。 一見すると正反対の不満ですが、構図は共通しています。どちらも、ESG対応を今期の損益だけで評価している点です。今期いくら出ていくのか、それに見合う売上はあるのか。売上に直結するESG施策を持っている会社は多いとはいえず、この評価軸の上では、ESG担当者は苦しい立場に置かれることになります。 なお、排出量が少ない会社は「ESGが関係ない会社」ではなく、「Eの比重が相対的に小さい会社」と考えるほうが実態に近いといえます。ガバナンスの実効性、人材の獲得と定着、研究開発への投資判断などは、製造設備を持たない企業にも存在するためです。ただし、Eの比重が小さいことと、Eを見なくてよいことは別です。自社の直接排出が少なくても、上流の排出や調達先の環境リスクが事業継続に影響する場合があります。本稿では以下、業種を分けずに議論を進めます。 問いそのものが間違っているというよりも、議論している場所が一つしかないのではないか。本稿の出発点はここにあります。 その支出は、どこに、いつ効くのか 社内でESG対応が否定される場面で問われているのは、たいてい一つのことです。この施策で今期の売上や利益がいくら増えるのか。環境規制への対応が今期の営業利益を増やすとは多くの場合考えにくく、この問いに正面から答えるのは困難です。 ただし、支出が効きうる先は今期の損益だけではありません。手がかりになるのは、開示基準がリスクと機会の範囲をどう画定しているかです。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の適用基準には、「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会」という用語の定義が置かれています(第4項(6))。短期、中期又は長期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、当該企業のファイナンスへのアクセス又は資本コストに影響を与えると合理的に見込み得るもの、という定義です。 注意が必要なのは、これが開示の対象範囲を定めるための定義であって、ESG施策がこの三つに効くと述べたものではないという点です。ただ、企業の見通しに影響しうるものを拾い上げる際の物差しとして、この三つが置かれていることは確かです。本稿では、この三つの区分を、支出の効き先を整理するための枠として用います。 この三つは、性質が異なります。キャッシュ・フローは、将来の現金の出入りです。炭素価格が導入されれば燃料の支払いが動きますし、顧客の要求に適合できなければ受注が動きます。ファイナンスへのアクセスは、資金調達の可否と条件です。資本コストは、投資家がその会社に対して要求するリターンで、これについては次章で扱います。 押さえておきたいのは、この定義が三つを並列に置いていることです。企業の財務への効き方は一通りではありません。そして、どの時期に表れるかは、施策の内容や市場の反応によって異なります。三つのあいだで順序が決まっているわけでもありません。 ここから、本稿が提案する見方は次のものです。今期の損益では費用に見える支出も、この三つのどこかに、いずれかの時間軸で効く可能性がある。どこに、いつ効くのかを示せれば、社内の議論に乗る余地が生まれます。逆に、それを示さないまま必要性だけを説けば、今期の損益という一つの軸で評価されるほかありません。 これは証明された命題ではなく、議論をどこで行うかについての提案です。実際にどの経路へどれだけ効くのかは、施策ごとに検討するほかありません。   資本コストという経路と、その限界 資本コストとは、投資家がその会社に対して要求するリターンのことです。投資家がこの会社は不確実性が高いと判断すれば、より高いリターンを要求します。要求リターンが高いということは、同じだけ将来の利益を生む会社であっても、投資家から見た現在の価値は低くなるということです。逆に言えば、投資家から見た不確実性が小さい会社では、要求リターンも低くなりえます。 制度の側の後押しについて触れておきます。東京証券取引所は2023年3月、プライム市場およびスタンダード市場の全上場会社に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、取締役会で現状を分析・評価したうえで、改善に向けた計画を策定・開示することを求めるものです。規則上の義務付けではありませんが、東証によれば2026年3月末時点で、プライム市場の93%、スタンダード市場の53%で開示が行われています。 ここで正確に押さえておく必要があるのは、この要請が資本コスト全般についてのものであり、ESGについて述べたものではないという点です。東証がESGを求めていると読むのは行き過ぎとなります。 そして、ここから先が難しいところです。気候変動に伴う規制強化、炭素価格の導入、サプライチェーン上の人権リスク、水資源の制約といった要因は、いずれも将来のキャッシュ・フローを毀損しうるものであり、手を打っている企業と打っていない企業を投資家が同じように評価するとは考えにくいといえます。しかし、投資家は一般に多数の銘柄に分散投資しており、ある一社に固有の不確実性は、ポートフォリオ全体で見れば他の銘柄の動きと相殺され、薄まっていきます。したがって、自社の不確実性が減ったことが、そのまま投資家の要求リターンの低下を意味するとは限りません。この点は専門家のあいだでも長く議論が続いており、決着していません。 そのため、社内で説明する際に、ESG対応で資本コストが下がると言い切ることは避けたほうがよいと考えます。財務部門は資本コストを一定の手順で算定しており、そこにESGの取組みを直接反映させる確立した方法は、現時点では存在しません。投資家の見方に影響しうる要因の一つ、という水準にとどめるのが現実的です。 影響の大きさについても、一般解はありません。ESGへの取組みと資本コストの関係については定量分析が複数公表されていますが、対象も期間も手法も異なり、ESGスコアが1上がれば資本コストが何%下がるといった普遍的な係数が確立しているわけではありません。さらに、仮にESGに積極的な企業ほど資本コストが低いという関係が観測されたとしても、それがESGの効果とは限らず、もともと収益基盤が安定していて余裕があるからESGに投資できている、という逆の説明も成り立ちます。 整理すると、資本コストは、制度の側からは最も強く求められている一方で、三つの効き先のなかでは結びつきが最も確かめにくい、という位置にあります。社内で持ち出す入口としては通りやすく、しかし詰められたときには最も弱い、ということでもあります。 残る二つ、キャッシュ・フローとファイナンスへのアクセスについては、事情が違います。炭素価格が導入されたときに自社の燃料の支払いがどう動くか、顧客の要求に適合できなかった場合に受注がどうなるかは、前提を置けば自社で試算できる範囲にあります。資金調達の条件についても、金融機関との実際のやりとりがあります。確実とはいえないにせよ、資本コストよりは手元で確かめやすい経路です。 経済産業省が2022年8月に公表した「価値協創ガイダンス2.0」は、企業が、リスクと機会の両面から社会のサステナビリティを経営・事業活動へ織り込むことを迫られている、と述べています。外部環境の変化に係るリスクに対応するだけでなく、中長期的な価値向上に向けた事業機会の探索を行うことによって、という趣旨です。この文書も、ESG対応をすれば資本コストが下がると保証しているわけではありません。述べているのは、サステナビリティが企業の長期的な稼ぐ力に関わる問題になったという認識です。 それでも注目に値するのは、ここでリスクが先に置かれている点です。ESGを新しい収益機会としてだけ語ると、多くの会社では話が続きません。将来の不確実性への対応として語るのであれば、先に挙げた三つの効き先のいずれかに結びつけて話を進めることができます。 社内でESG投資は費用だと言われたとき、その支出が費用として計上されるのであれば、今期の利益は減ります。資産として計上される場合は、取得の時点では費用にならず、その後の減価償却などを通じて費用になります。いずれにしても、今期の損益に引き寄せた見方であることは変わりません。その支出が将来どこに働くのかを示せるかどうかは別の問題で、そこが分かれ目になると考えます。   ESGは、対話の議題になっているか ここまでの議論には、実務上の但し書きが要ります。投資家との対話の場でESGの話は出てこない、という声を、企業のご担当者から聞くことは少なくありません。決算の内容、資本効率、成長戦略、株主還元が中心で、サステナビリティは別枠の説明会に回されるか、そもそも議題に上がらない、という状況です。統合報告書を厚くしても株価が動いた実感がないという感覚の背景には、伝え方が十分でないという以前に、その話が対話の議題に入っていないという事情があると考えられます。 制度の側では、対話は前提とされています。東証の要請は、計画を策定・開示したあとも投資者との対話の中で取組みをアップデートしていくことを求めていますし、経済産業省の「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」も、投資家等との建設的な対話を通じた変革の加速を重視しています。それでも、その対話の議題にESGが入っているとは限りません。ESGへの取組みと資本コストを結びつける確立した方法がない以上、企業側にも投資家側にも、それを議題として扱う共通の手順がないためだと考えられます。 ここから二つの読み方ができます。一つはESGが企業価値に関係がないという読み方、もう一つは、効果の大きさを測る方法がまだ整っていないという読み方です。議題に上がっていないという事実自体は、そのどちらとも両立します。本稿が採るのは後者ですが、これは実証された命題ではなく、提示する一つの見方にすぎません。 そう考えると、担当者が当面置くべき目標も変わってきます。対話の議題にESGを載せること自体を目標にすると、多くの場合、成果は出ません。現実的なのは、聞かれたときに答えられる状態にしておくことと、すでに議題になっている項目の側から接続することの二つです。設備投資計画、操業継続上のリスク、調達先の見直しといった項目は、もともと対話の対象になりやすく、サステナビリティの取組みの多くはそこに接続できます。 いずれの場合も、どの経路に、どのくらいの時間軸で、どの程度効くのかが特定されていれば、話は接続しやすくなります。排出量を何年までに何%削減するという記述だけでは、受け取った側から次に問えることがありません。その削減が自社のどの支払いに効くのか、どこまでが手当て済みで、どこから先が未定なのかまで書かれていれば、話は続きます。 まとめ 今回は、ESG対応をどこで評価するかという観点から整理しました。今期の損益だけで見れば、ESG対応の多くは費用です。しかし、企業の見通しに影響しうるものとして開示基準が挙げているのは、キャッシュ・フロー、ファイナンスへのアクセス、資本コストの三つで、時間軸も短期から長期にわたります。本稿は、この区分を支出の効き先を整理するために用いました。基準がESG施策の効果を保証しているわけではありませんが、社内で話をするときの共通の言葉にはなります。 この見方が当面いちばん役に立つのは、投資家との対話の場ではなく、社内の議論の場であると考えます。効き先と時間軸を具体的に示すことで、今期の売上がいくら増えるのかという問いだけで評価される状態から抜け出せます。東証の要請によって資本コストが全上場会社の経営課題として設定されていることも、社内では使える材料です。 一方で、社内の説明に「投資家が求めているから」を持ち出すことには慎重であったほうがよいと考えます。ESGをやれば企業価値が上がると言い切る資料と同じで、社内で一度は歓迎されても、実際の対話の内容と食い違えば、詰められた段階で崩れます。本稿が断定を避けてきたのもそのためで、曖昧さを残したまま議論の場に乗せるほうが、長い目で見れば担当者の立場を守ることになると考えます。 ESG対応をコストとしてのみ評価することは、その支出が効きうる先の一部しか見ていないことになります。ほかの効き先について語る余地はありますが、その語り方が確立しているわけではありません。自社の事情に即して、どこにどう効くのかを組み立てていくところに、担当者の仕事があるのだと思います。 参考資料 東京証券取引所/日本取引所グループ ・「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日) https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html ・「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(プライム・スタンダード市場)」(フォローアップ情報) https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html ・「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデートについて」(2026年4月28日) https://www.jpx.co.jp/news/1020/20260428-01.html サステナビリティ基準委員会(SSBJ) ・サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」(2025年3月5日公表、2026年3月13日改正)第4項(6) https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/20260313_01.pdf 経済産業省 ・「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」(SX研究会報告書、2022年8月31日) https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/itoreport3.0_r.pdf ・「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス2.0(価値協創ガイダンス2.0)」(2022年8月) https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/Guidance2.0.pdf ・価値協創ガイダンス 解説ページ https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/ESGguidance.html (執筆者:久保(隆))   【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握と情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス|株式会社ウェイストボックス

read more

SBTネットゼロ基準v2に向けて、今から何を準備する? 2022~2024年に2030年目標でSBT認定を取得した企業の皆様へ

SBTネットゼロ基準v2を、「知る」段階から「自社で動く」段階へ  2026年6月にネットゼロ基準v2がリリースされて以降、様々なウェビナーや解説記事を通じて、「何が変わるのか」については一通り情報収集された企業の皆様も多いのではないでしょうか。 一方で、最近私たちが企業の皆様とお話ししている中で非常に多いのが、「基準の内容は何となく分かった。でも、結局自社はいつから、何を始めればいいのでしょうか?」というご質問です。 私たちは、現在も常に複数のSBT支援案件を抱えており、またSBT取得後も年間契約で継続的にご支援している企業の皆様と、ネットゼロ基準v2に向けた準備について日々お話ししています。企業の皆様との会話を通じ、SBTiの基準で何が要求されているのかということだけでなく、企業の皆様が実際にその要求を自社の実務に落とし込もうとしたとき、どこで困るのかということも少しずつ見えてきました。 本記事では、2022年、2023年、2024年に2030年目標でSBT認定を取得済みの企業の皆様を主な対象として、必須の5年レビューやネットゼロ基準v2での目標申請を見据え、どのように実務を進めていくのかを整理していきたいと思います。 10月に入り、v2申請に向けた準備がかなり具体的にできるようになりました ネットゼロ基準v2での目標提出受付開始を約4か月後に控え、10月初めには、ネットゼロ基準v2での目標提出時に必要となる情報の詳細がリリースされました。 ネットゼロ基準v2の6月リリース時にも、「企業ネットゼロ基準v2向け最低限必要なエビデンス(暫定版)」というドキュメントで、目標提出時に各要件に対して必要となるエビデンスの概要は示されていましたが、今回10月には、Submission Formの形式でより企業の皆様に分かりやすい形で示されています。これはまだ最終決定版ではないということではありますが、かなり事前準備の助けになる印象です。 また、これに先立ち8月には、必須の5年レビューガイダンスの改訂がありました。ここでは、更新が必要だということを認識している企業、つまり最新の基準に適合していないことが分かっている企業については、必須の5年レビューの提出を省略し、直接新しい目標の提出に進むことができるということが追加で規定されました。ここで、新しい目標の提出期限がトリガー日から1年以内、という点については変更ありません。 そのため、まずは自社の現在のSBT認定目標が、「いつ5年レビューの時期を迎えるのか」を確認するところから始める必要があります。 まずは、自社の「5年レビュートリガー日」を確認 具体的には、2022年に2030年目標年でSBT認定取得し、その後目標更新等を行っていない場合は、通常は認定目標公開日の5年後の月末、つまり2027年の認定月月末がトリガー日となります。 2027年についてはネットゼロ基準v1.3.1とv2.0の併用期間となりますので、現在の目標がv1.3.1に合致している場合は、必須の5年レビューフォームを提出して「新たな目標が不要である」の判定を受けることになります。 一方で、ネ ットゼロ基準v1.3.1にも明らかに合致していないことが企業側で分かっている場合は、v1.3.1あるいはv2.0での目標設定が必要になりますので、必須の5年レビューの提出を省略して、直接トリガー日の1年後までに目標提出を行うことができるという内容になります。ただし、ネットゼロ基準v1.3.1に基づいた目標を提出できるのは2028年1月までとなっておりますので、ご注意ください。 一方、2023年(2月以降)や2024年に2030年目標年でSBT認定取得した企業の皆様は、対応が異なってきます。この企業の皆様は、5年後のトリガー日にはネットゼロ基準v2.0適用義務化となっている時期に該当します。そのため、そのまま5年レビューを実施するとv2.0に対して不適合と判定される可能性が高いですが、一方で同ガイダンスでは、トリガー日から2年以内に目標年がある場合は免除を申請し、5年レビューの完了を省略することができるというルールがあります。この免除申請がSBTi Servicesより承認された場合には、必須の5年レビューを免除し、目標年の翌年末までに新たな目標を提出することが可能です。2030年目標であれば、例えば2031年末までの提出となります。 この辺りは、「2022年取得だからこう」「2024年取得だからこう」と認定年だけで判断するのではなく、実際の目標公開日と目標年を確認したうえで、自社の場合どのルートになるのかを整理いただくのがよいと思います。 必須の5年レビュー自体は、それほど難しいものではありません 必須の5年レビューはどのようなものか、については、必須の5年レビューマニュアルがありますので、そちらを参考にしていただくと分かりやすいです。弊社も2020年にSBT取得済みですので、実際に5年レビューの提出を行い、「新たな目標が不要である」の判定を受けています。どのようなレビュー項目があるのかについては、マニュアル内に具体的な質問項目と回答例が掲載されています。目標の更新が必要だとあらかじめ分かっている場合は5年レビューを省略することもできるため、フォームを提出するのは主に既存の目標が基準に適合している企業となり、基本的には回答例に近い回答を行っていくことが想定されます。そのため、難易度としてはSBTの申請ほど高くはありません。ただし、エビデンスとして年次報告等の添付が要求されている点には注意が必要です。 現在のところ提出方法は2種類用意されており、SBTi Services Validation Portalあるいは専用のオンラインフォームからの提出となります。特に2022年~2024年前半頃にSBTに目標提出された企業の皆様は、SBTi Services Validation Portalへの登録を行っていない場合も多いと思います。SBTi Services Validation Portalへの企業登録にはSBTi Servicesの審査が入ることから、一定の時間を要します。現時点では専用のオンラインフォームからの提出も可能ですが、今後Validation Portalへの一本化の可能性も否定できませんので、必須の5年レビュートリガー日が近づきましたら、最新情報をご確認いただくことをお勧めいたします。 では、ネットゼロ基準v2に向けて何を準備すればよいのでしょうか ここからは、ネットゼロ基準v2申請に向けてどのような準備を進めればよいか、という点に触れていきます。 私たちが最近よく感じるのは、ネットゼロ基準v2の概要について理解されている企業はかなり増えている一方で、それを実際の自社のスケジュールに置き直すところで、少し難しさが出ているということです。例えば、「第三者保証が必要になる」ということはご存じでも、「では何年度のデータで保証を取る必要があるのか?毎年?」「何のデータに対しての保証が必要なのか?」「このデータを実際第三者保証機関は保証してくれるのか?」という疑問と共にスケジュールの見通しが行き詰ってしまうケースがあります。情報がないというより、情報はかなり集まってきたので、今度はそれを自社の工程表にしていく段階に入ってきたのではないかと思います。 目標設定だけではなく、社内のエビデンス準備にも時間がかかりそうです 10月にリリースされた「企業ネットゼロ基準v2.0向け審査手順」の中では、SBTi Servicesの審査範囲と、初回審査に必要な書類が一覧表でそれぞれ示されています。特に必要書類として、「最高意思決定機関がSBT目標の説明責任を負うことを示す日付入り文書」「署名済みのコーポレートガバナンス体制の文書、レビュー体制や進捗報告に関する方針文書」「移行計画が戦略や方針に組み込まれていることを証明する日付入り文書」といったものが取り上げられています。これらについては、多くの企業の皆様にとって、必要な内容自体を検討するだけでなく、実際に「添付文書」という形式にすることにも時間がかかることが想定されます。自社のネットゼロ基準v2に沿った目標の提出時期から遡って、自社の決裁承認スケジュールを考慮して、計画的に準備を進めていく必要があります。 また、審査期間についても従来より長くなることが想定されます。オンラインミーティングや審査ラウンドの回数も増えるため、目標提出日だけを見るのではなく、審査期間まで含めて少し長めに考えておくことをお勧めします。 Scope1,2,3の目標設定方法も現行版から大きく変わります ネットゼロ基準v2では目標設定の方法も現行バージョンから大幅に変更になります。既にこの辺りは様々なウェビナーや文字媒体から情報入手されている企業様も多いかと思います。 具体的には、Scope1は絶対排出量削減、排出強度削減(セクター固有の場合のみ)、資産移行の3種類、Scope2は絶対排出量削減と低炭素電力整合の2種類となります。熱・蒸気・冷熱については絶対排出量削減のみとなります。Scope3については、Scope3カテゴリー1~14に占める割合が5%以上のカテゴリーを重要カテゴリーとして抽出し、絶対排出量削減、サプライヤー/顧客整合、量の整合、製品使用の整合、製品寿命の整合といった目標設定方法から、カテゴリーごとに選択可能な方法を確認したうえで、包括的に、またはカテゴリーごとに設定していくことになります。 そのため、実務の進め方としては、まず自社の直近年度のScope1、2、3インベントリを整理したうえで、Scope2向けには低炭素電力の現状比率の確認、Scope3向けには5%以上の重要カテゴリーの抽出、さらに各カテゴリーでどの目標を選択するのかという検討と、その目標で使用する現状の指標データの確認、と進めていく必要があります。例えばサプライヤー整合目標を設定しようとする場合には、ネットゼロ移行中のサプライヤーの比率をどのように把握するのか、といった検討も必要になります。 基準の文章だけを見ると「こういう目標設定方法があります」という話なのですが、実際に自社で選ぼうとすると、その目標を設定するためのデータを本当に保有しているのか、というところから確認する必要があります。この辺りは、実務として進めてみると意外と時間がかかるところだと思います。 Preliminary Submission Formを一度見ておくことをお勧めします 今回のリリース文書の中には、「Preliminary Submission Form CNZSV2」という、提出フォームの準備に活用できるExcelファイルが含まれています。この後、質問や形式など内容の変更がある可能性があり、2027年2月のネットゼロ基準v2での目標提出受付開始の前に最終版が公開されるということですので、その点はご留意ください。 一方で、このExcelファイルを活用することで、現時点で不足している情報やエビデンス資料について把握することができます。Excelファイルの中には「ガイダンス」として、6月のネットゼロ基準v2リリース時に同時公開された「企業ネットゼロ基準v2向け最低限必要なエビデンス(暫定版)」のエビデンス例示がおおむね転記されています。そのため、このガイダンスを参照することで、エビデンス書類のイメージは比較的掴みやすくなっています。各エビデンス書類については、書類名と参照ページ、必要に応じて補足のコメントを記載する必要があります。「最終版が出てから確認しよう」としてしまうよりは、まず現在の暫定版で、自社に何があり、何が足りていないのかだけでも確認しておくとよいと思います。 特に早めに動いておきたいのが第三者保証です ネットゼロ基準v2では、カテゴリーA企業は各目標指標に対する目標基準年の第三者保証の添付が必要となります。この第三者保証機関についても、名称、独立性、認定機関と認定機関のグローバル基準適合性に関するエビデンス、保証基準、認定の詳細といった情報が必要となります。 目標提出時点で、目標基準年の各目標指標に対する第三者保証の保証書添付が必要になるため、目標をいつ頃提出するのか、目標基準年を何年度と設定するのか、その年度の保証を取得するにはいつから動くべきなのか、ということを逆算する必要があります。 また、今回第三者保証が必要となるのは、Scope1、2、3のインベントリだけでなく、低炭素電力の計算、重要なEIAからの排出量、その他目標設定に用いる指標も対象となります。第三者保証機関によっては、Scope1、2、3以外の目標指標について保証取得が可能かどうか、事前に協議しておいた方がよいケースも出てくることが考えられます。この辺りは、早期着手がお勧めのポイントとなります。 2022年、2023年ころにSBT認定取得した企業は、インベントリ入力も早めの確認を 2022年、2023年SBT認定取得企業の皆様は、それ以降に更新等の申請を行っていない場合、WordでのSubmission Formのご提出であったはずです。その後、Submission FormがExcel版、さらにはSBTi Services Validation Portal 版と改訂を繰り返している中で、Scope1、2、3インベントリ質問項目は、2023年以前のWord版Submission Formと比較してかなり細かく増加しています。 そのため、初申請当時に整理したインベントリの内容を、そのままネットゼロ基準v2での入力の際に活用できないことも想定されますので、インベントリ入力についても早めにご確認いただくことをお勧めいたします。 なお、提出の際は「目標設定ツール」「Submission Form」「エビデンス書類」の3つで構成され、ツールに入力した情報は原則としてSubmission Formで再度質問されないとされています。 「目標設定ツール」については、6月のネットゼロ基準v2リリース時にベータ版が公開されていますが、このベータ版は審査で求められる機能やデータ項目をまだ反映しておらず、最終的な入力データの目安としては使用しないよう明記されています。ツールへの入力データの準備には、10月に公開された「企業ネットゼロ基準v2.0目標設定ツールの入力データ項目(暫定版)」を参照することをお勧めします。実際の提出に使用できる最初の運用版は、2027年2月のネットゼロ基準v2での目標提出受付開始の前に公開される予定です。 ここまでの話をまとめると ネットゼロ基準v2への対応というと、どうしても新しい目標設定方法の方に目が行きがちですが、実際に企業の皆様に準備いただく内容はそれだけではありません。 まずは、下記の順番で検討を進めていただくことが考えられます。 1.自社の5年レビュートリガー日を確認する 直近のSBT認定目標公開日から5年後のトリガー日を確認し、現在設定している目標年との関係を整理します。 2.5年レビューをどうするか、次の目標をいつ提出するか決める トリガー日から半年以内に必須の5年レビューを提出するか、目標年が近いため免除申請をするか(免除申請もレビューフォームから半年以内に行います)、あるいは現在の目標が最新基準に適合していないことが明らかなため、レビューを省略して直接トリガー日の1年以内に次の目標提出を行うかを決定します。 3.ネットゼロ基準v2で目標提出する場合は、提出時期から逆算して準備する いつ目標提出をするのかによって目標基準年を見定め、目標を検討・決定し、目標指標のデータ収集、第三者保証機関との調整、ガバナンス体制等のエビデンス書類の手配を順次進めていきます。すべてをすぐに準備する必要はありませんが、少なくとも自社がいつ頃までに何を決める必要があるのか、一度全体を並べてみることをお勧めします。 最近一番多いのは「では、自社の場合はどうなるのか」というご相談です ネットゼロ基準v2のリリース以降、様々なメディアでウェビナーや文章での解説を目にしてこられたかと思います。それらを通じて一通り概要はつかめたものの、「では実際自社においてはどうなるのか」という点がいまいち確証が持てない企業様からのお問い合わせが、特にこの夏以降急増しております。 例えば、「自社の場合、次の目標はネットゼロ基準v2に沿っていないとダメなのでしょうか」「自社の場合、2030年目標年のため5年レビューの免除の対象になるのでしょうか」「自社の場合、ネットゼロ基準v2で申請する場合、いつまでに提出すればよいのでしょうか」といったご質問です。つまり基準の内容を全く知らないということではなく、むしろかなり情報収集されたうえで、最後に「自社の場合」を確認したい、というご相談が多い印象です。 まず入口となる疑問や不安については、弊社のSBT30分無料相談の中で一旦整理し、「気持ちが落ち着いた」「具体的にやるべきことが見えてきた」というお声も頂戴しております。無料相談の中で、企業様の目標公開日や目標年を確認しながらかなり具体的なスケジュールまで一緒に整理してしまうこともあり、「ちょっとサービスしすぎなのでは」と思うこともありますが(笑)、この最初の交通整理がかなり重要なのだと思っています。 ネットゼロ基準v2に向けた「具体的な進め方」をテーマにウェビナーを開催します 今回、実務の進め方についての具体的な情報がかなりリリースされてきたこのタイミングで、ネットゼロ基準v2への対応をテーマとした、弊社メルマガ読者限定ウェビナーを開催する予定です。 今回のウェビナーでは、ネットゼロ基準v2の要求事項をもう一度最初から解説するというよりも、「では実際、自社はいつから、何を、どの順番で進めればよいのか」というところを中心に取り上げたいと考えています。SBTi認定エキスパートが登壇する予定です。 この記事をここまで読んでいただき、「考え方は分かったけれど、自社の場合はどうなるのか、まだ少し分からない」という皆様には、ぜひご参加いただければ幸いです。ウェビナー開催まで待てない、という方は、お気軽にSBT30分無料相談へお申し込みください。 【参照文献】 ・Mandatory Five-Year Review Guidance(SBTi) ・Mandatory Five-Year Review Manual(SBTi Services) ・SBTi Commitment and Target Statuses(SBTi) ・Preliminary Submission Form CNZSV2(SBTi Services) ・Validation Schedule for CNZSV2(SBTi Services) ・Validation Procedures for CNZSV2(SBTi Services) ・Preliminary Data Points for the Target-Setting Tool CNZSV2(SBTi Services) ・Corporate Net-Zero Standard Version 2.0(SBTi) ・Preliminary Minimum Evidence Required for Corporate Net-Zero Standard Version 2.0(SBTi) ・Continuing Use of Corporate Net-Zero Standard Version 1.3.1 and Transition to Corporate Net-Zero Standard Version 2(SBTi) (執筆者:小島) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・SBT認定取得支援|株式会社ウェイストボックス ・気候移行計画策定支援|株式会社ウェイストボックス ・SBT申請前準備段階支援|株式会社ウェイストボックス

read more