Column

2022年12月

最新の気候科学をおさらい ~IPCC第6次評価報告書の概要(後編)~

先月エジプトにて開催された気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)。会議に合わせ、その議論のベースとなる共通認識である最新の気候科学、IPCC「第6次評価報告書(AR6)」のポイントを2回に分けておさらいしています。今回はその後編です。    第6次評価報告書(AR6)のポイント③  ~私たちはどうすればよいのか~  AR6の最善のシナリオが今世紀末までの気温上昇を1.5℃に抑える、世界が目指す1.5℃目標です。これにより気候変動の悪影響を最小限に留めることができます。1.5℃実現のためには排出量は遅くとも2025年までにピークを迎え、2030年までに2019年比4割削減、2050年代初頭にCO2を正味ゼロ排出にすることが必要です。 2010-2019年の世界排出量増加率は2000-2009年と比べると減少しました。 (+2.1%→+1.3%) 欧米を中心とする少なくとも18か国が10年以上継続して排出削減を維持しており、この削減は政策や経済構造の変化によるもので、エネルギー供給の脱炭素化、エネルギー効率向上、エネルギー需要の削減が関連しているといいます。世界的にも低炭素技術の低コスト化とそれに伴う導入量の増加(太陽光や風力、リチウムイオン電池等)が進み、第5次評価報告書等を受けて世界中で排出削減に関する様々な政策や法律(ex. 炭素税、排出量取引)が施行されてきました。しかしこれらでは世界全体での排出量の増加分を相殺することはできていません。 1.5℃の経路にのるためにはエネルギー・産業・運輸等、あらゆる部門で早期の大幅削減が必要とされています。対策オプションはあるといいます。緩和策の部門別の評価によると、100米ドル/t-CO2以下での緩和策によって2030年の世界GHG排出量を2019年比で少なくとも半減させるポテンシャルがあるとしています。さらにその中の半分は20米ドル/t₋CO2e以下の緩和策が占めます。20⽶ドル/t₋CO2eの緩和策で排出削減への寄与が⼤きいものには、エネルギー部門の太陽光や⾵⼒発電、メタン排出削減(石炭採掘、石油・ガス田)、産業部門でのエネルギー効率改善、農林業・⼟地利⽤部門での⾃然⽣態系の転換の減少等があります。ネットゼロを達成するには、削減が困難な排出量を相殺するためCDR(Carbon Dioxide Removal:大気中の二酸化炭素を除去して地中・地上・海洋や製品に貯蔵する人為的な活動)の導入も避けられません。CDRには既に広く行われている新規植林、再植林、森林経営の向上、アグロフォレストリー、土壌炭素隔離等の他に、まだ成熟度やポテンシャル、コスト面の課題はありますが、ブルーカーボン管理や海洋アルカリ化、DACCS(Direct air capture with carbon storage:直接空気回収・貯留)等があります。このようにして1.5℃目標の達成を追求してもGDPが停滞することはないといわれています。2050年の世界GDPは2020年と比べて2倍程度になると予測されていますが、緩和策の実行によりそこから3~4%減少することが予測されています。1.5℃目標は緩和策だけでなく、SDGsと組み合わせることで削減機会が増え、達成しやすくなります。さらに目標達成の過程でいかなる人々・労働者・場所・部門・国・地域も取り残されないようにする「公正な移行(Just Transition)」を目指すことで、この目標がより広く受け入れられ達成につながると考えられています。 COP27に先立ち国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が発表した報告書では、現在の各国の目標を足し合わせても今世紀末までに2.5℃の気温上昇になるという見通しがされていました。COP27ではこれを1.5℃の経路にのせるための目標引き上げや着実な実施に向けての議論が期待されていましたが、残念ながら大きな進展はありませんでした。気候変動対応には排出削減や吸収対策を行う「緩和」以外にも、気候変動の影響に対応していくための「適応」、適応によっても回避できない「損失と損害」への対応があります。COP27ではこの「損失と損害」への対応として、気候変動の影響に特に脆弱な発展途上国を対象とする基金創出という歴史的合意がされたことが評価されています。今年も洪水や森林火災等、気候変動に起因すると考えられる災害が多く発生しましたが、このような災害による被害に対応していくものであり、重要な第一歩を踏み出すことができたと言えます。一方で十分な緩和策なしに気温上昇が続けば、適応や損失と損害への対応に必要な費用も膨らみ続けてしまいます。2020年代は1.5℃目標達成に向け決定的に重要な勝負の10年間と言われています。とはいえ簡単には加速できない状況に焦りは募りますが、とにかく必要なのは行動の開始、排出削減の宣言から実行段階へとステージを移し、着実に削減を進めていくことであると強く感じます。   【出典】 IPCC 第6次報告書 第3作業部会 報告書 政策決定者向け要約 解説資料 https://www-iam.nies.go.jp/aim/pdf/IPCC_AR6_WG3_SPM_220405.pdf IPCC 第 6 次評価報告書 第 3 作業部会報告書 気候変動 2022:気候変動の緩和 政策決定者向け要約(SPM) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global2/about_ipcc/ipccwg3spm_202211.pdf 『NDC統合報告書』最新版を発表:気候計画は依然として不十分 さらに野心的な行動が今すぐ必要(2022年10月26日付 UNFCCCプレスリリース・日本語訳) https://www.unic.or.jp/news_press/info/45350/

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