Column

2020年11月

温室効果ガス排出量「2050年ネットゼロ」へ

 2020年10月26日、菅総理大臣による総理就任後初めての所信表明演説の中で、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、カーボンニュートラルを目指す」ことを宣言し、大きな話題となりました。  細かい要件などは後述しますが、ここで言う「カーボンニュートラル」は、化石燃料の燃焼など人為的な温暖化ガス排出量に対し、人為的な森林吸収量の増大やCCSなどによる除去量を差し引いて全体としてゼロにすることを意味します。また、同様の意味で用いられる表現として「ネットゼロ(正味ゼロ)」「実質ゼロ」「脱炭素」などがあります。  日本政府はこれまで、2016年5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」に基づき、2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減する長期目標を掲げてきました。一方で、2016年10月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」では、気候変動を1.5℃未満に抑えるためには、2050年頃に世界の温室効果ガス排出量をネットゼロにする必要があることが示されました。この報告書を受け、日本政府は新たに「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2019年6月に閣議決定し、今世紀後半のなるべく早い段階で脱炭素を目指すことを掲げましたが、同戦略においては、具体的な目標年は示されませんでした。従って、今回の菅総理大臣による「2050年カーボンニュートラル宣言」は、日本の気候変動対策の方向性をより明確にし、その取組を着実に一歩前進させたものといえます。  また、全国の自治体においても、「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明する動きが広がっています。2020年11月3日時点で、これを表明した自治体は169(23都道府県、91市、2特別区、43町、10村)となり、これらの自治体人口の合計は日本の総人口の半数を超える8,013万人にものぼります。  一方、世界では既に121カ国・1地域が、2050年ネットゼロを政策目標に掲げており、これらの国における世界全体の温室効果ガス排出量に占める割合は約18%になります(「気候変動に関する国際情勢」(2020年10月 経済産業省))。また、今月のアメリカ大統領選挙で当選確実が報じられたバイデン氏も2050年ネットゼロを公約に掲げており、もし今後アメリカが宣言をした場合、2050年ネットゼロにコミットする国は、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めることとなります。  また、企業版2℃目標と呼ばれるSBT(Science Based Targets)は、IPCCの1.5℃特別報告書を受けてより高いハードルが設けられ、現在は1.5℃水準での目標設定がトレンドとなっています。2020年11月現在でSBTに参加する企業(2年以内に目標設定をコミットする企業を含む)は世界全体で1,000を超え、さらにその先の2050年ネットゼロを長期目標に見据える企業も増えています。2019年9月には、国連グローバル・コンパクト、SBTイニシアチブ、We Mean Businessの呼びかけによる、世界の平均気温の上昇を、産業革命以前と比べ1.5℃に抑え、2050年のネットゼロを目指す国際的なキャンペーン「Business Ambition For 1.5℃」がスタートし、グローバル企業を中心に300社以上が賛同を表明しています(弊社も2020年10月に賛同表明)。  「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」という言葉は、前述したとおり、大まかには人為的な温暖化ガス排出量に対し森林吸収などによる除去量を差し引いて全体としてゼロにすることを指しますが、これまで国や企業によりその使われ方や意味合いが異なることもあり、共通の細かい定義などはありませんでした。こうしたことから、現在、SBTイニシアチブにおいて、新たにネットゼロの定義が整理されつつあります。詳細は2021年に示されることとなっていますが、現時点で公表されているCDPの資料によると、ネットゼロは、「1.5°Cの経路に沿ってバリューチェーンの温室効果ガス排出量を削減し、残りのGHG排出の影響については適切な量の炭素除去を行うことで達成される」とされています。つまり、まずは1.5℃水準の傾きで自社のScope1,2,3を削減しつつ、ゼロにできない分をCCS/CCUSなどのネガティブエミッション技術や植林などで除去するという考え方です。また、カーボン・オフセットや削減貢献量、REDD+などは自社のバリューチェーン外での取組であるため、SBTの削減には考慮されませんが、追加的にこれらを行うことは推奨されており、ネットゼロにおけるオフセットの位置づけや要件なども整理されつつあります。  企業が国際的な水準でネットゼロやカーボンニュートラルに取り組むうえでは、今後SBTイニシアチブから示される定義を踏まえ、ガイダンス等に従って取組を進めることが重要になると考えられます。   【参考】 環境省 「地球温暖化対策計画」(2016年5月) 環境省 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月) 環境省 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況 経済産業省 「気候変動に関する国際情勢」「第2回 グリーンイノベーション戦略推進会議」資料(2020年10月) CDP 「1.5℃を目指す企業:SBTと2050年までのネットゼロを目指して」オンラインセミナー資料(2020年6月)  CDP 「ネットゼロとSCOPE3」オンラインセミナー資料(2020年10月)  

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