Column

2023年7月

SBTi FLAG目標について(前編)

  SBTi FLAG目標とは? パリ協定が求める水準と整合した企業の排出削減目標に認定を与えるSBTi(Science Based Target initiative)では、一部セクターを対象に、セクター特有の目標設定のルール「セクター別ガイダンス」を開発しています。昨年その一つとして、「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」のセクターガイダンスが発表されました。それを受け、今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。これまで企業の排出量算定・目標設定においては、エネルギー起源や工業プロセスの排出量が中心に考慮されてきましたが、それとは別に土地由来の排出量等を考慮することが求められる大きな変更と言えます。そこで今回と次回の2回に分け、SBTi FLAG目標の概要について整理してみたいと思います。   FLAGとは? ガイダンス開発の背景 FLAGとはForest, Land and Agriculture(森林、土地、農業)という名前の通り、林業や農業等の土地集約型セクターのことを指しています。自然由来で環境負荷は小さいセクターのようにも思えますが、世界のGHG排出量の約1/4(22%)を占める重要な排出源です。このうちの半分は農業、残り半分は林業やその他の土地利用、土地利用変化からの排出です。農業では家畜の飼養や合成肥料の使用等からGHGが排出されます。世界人口増加に伴い、農業生産量は2050年までに倍増することが予想されており、排出削減対策の必要性はより高まっています。森林や土壌はCO2を吸収したり貯留したりする機能を持っています。森林伐採等、土地を従来と別の用途で使用するために開発すると、CO2の排出(貯留されていたCO2が大気中に戻ってしまう)となるリスクがあります。一方で、適切に管理し自然由来の炭素除去(CO2を大気中から取り除くこと)を増やしていくことは、ネットゼロ達成のチャンスになります。炭素除去は、排出削減を進めてもどうしても残ってしまう残存排出量を中立化し、世界全体のネットゼロ達成に貢献するとても重要な役割があるためです。 しかし、このセクターの算定や目標設定の考え方は特殊で難しく、これまで統一ルールが存在しなかったため、現状多くの企業の排出量計算や排出削減目標には考慮されていない状況です。この状況を打開するため、FLAGセクターの排出量算定・報告ルール「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」の開発がGHGプロトコルによって進められています。(現在ドラフト版は発表済。2024年半ばに最終版発表予定)一方、FLAGセクターの目標設定のルールとしてSBTiにより開発されたのが「SBTi FLAGセクターガイダンス」です。   FLAG排出量とは? FLAGに関連する排出量は以下の3つに分類されます。 ・土地利用変化に伴う排出量:転用に伴う土地からの排出量(森林や土壌の炭素の損失)  例:森林伐採・森林劣化、沿岸湿地・泥炭地・草原の転換等 ・土地管理に伴う排出量:農業等の土地の利用・管理に伴う排出量  例:家畜の飼養(消化管内発酵・糞尿管理)、肥料の使用、水田管理、廃棄物焼却等 ・炭素除去量:森林CO2吸収等、生物由来のCO2除去と貯留  例:森林再生、森林管理改善、土壌炭素貯留等 上の2つは大気中にGHGが追加されるプラスの排出量です。一方、下の炭素除去は逆に大気中からGHGを取り除く量(マイナスの排出量)です。これらについて算定し目標設定することになります。 FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」を対象範囲としています。ファームゲートより先の排出量は、従来把握してきた排出量(非FLAG排出量:エネルギー起源や工業プロセス由来等のFLAG以外の排出量)として整理されます。このように、FLAG排出量と非FLAG排出量は切り離し、算定も目標設定も別々に行うことになります。   FLAGセクターの対象企業は? 農産物や畜産物を生産していたり、それらの一次産品を使用した製品を作っていたり、またFLAGセクターからの調達品を使用していたり、その他の重大な土地利用・土地利用変化による排出量がある場合に該当する可能性があります。 具体的には、セクターガイダンスでは以下の企業を対象とし、FLAG目標の設定を求めています。 ・森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売(外食も含む)、タバコセクターの企業 ・その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業   申請手続き 手続きの流れは従来と同じですが、申請書類が追加になります。目標申請時には、従来のNear-termの申請書(主に非FLAGに関する内容を記載)に加えて、FLAG Annexという申請書(FLAGに関する内容を記載)も提出します。審査費用も追加になりますのでご注意ください。   対応スケジュール SBT目標を初めて設定する企業、また既に認定取得済の目標を更新する企業でFLAGの対象となる企業は、既に(2023年4月30日以降)FLAGへの対応が求められています。(まだFLAGの算定ルールとなるGHGプロトコル土地セクターガイダンスの最終版が発表されていない状況ですが、ドラフト版に沿って排出量を算定し目標設定することが求められています。) 一方、認定取得済で直近の目標更新の予定がないFLAG対象企業は、「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」が発行された後6カ月以内に申請し、FLAG目標を設定する必要があります。「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」の発行は現在2024年半ばに予定されています。   後編では目標設定方法についてまとめます。   参考資料 SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf SBTi 「GETTING STARTED GUIDE FOR THE SBTi FOREST, LAND AND AGRICULTURE GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/FLAG-Getting-started-guide.pdf SBTi FLAG Project: New Implementation Timelines Announced https://sciencebasedtargets.org/blog/sbti-flag-project-new-implementation-timelines-announced   (執筆者:山本(裕))

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