2018.12.07
プラスチックごみ問題の現状と世界の動き
2018.12.07
現代消費社会のあらゆる側面においてプラスチックは必要不可欠な存在です。 しかし近年、適切に処理されなかったプラスチックごみが海洋生物に危害を加えているという事態を受けて、新たな環境問題として世界中がその対策に動き出しています。 国連環境計画(UNEP)環境技術センター(IETC)のレポートによると、世界で生産されているプラスチックは年間約4億トンで(2015年データ)、大半は使い捨て梱包・容器用です。そのうち79%はリサイクルされずに埋立地に廃棄されています。 プラスチックごみとは、ビニール袋やペットボトルのような目に見えるものに限りません。大きさが5mm以下のものをマイクロプラスチックと呼びますが、その起源は大きく2つ考えられます。 1つ目は、製造時点で既に5mm以下の洗顔料や歯磨き粉に含まれるマイクロビーズや洗濯などによって衣類から脱落した合成繊維などです。2つ目は、プラスチック製品が劣化して小さくバラバラになったものです。 こうしたプラスチックごみが川や海に流出し、世界全体で毎年約1,300トンに上ると言われています。特にマイクロプラスチックは有害物質を吸着しやすく、体内に蓄積されると、重大な被害につながる恐れがあると言われています。 国際社会では、2015年エルマウ・サミットで海洋ごみが世界的な問題であることが認識されて以降、毎年サミットで取り上げられています。6月に開催されたシャルルボワ・サミットでは、イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・カナダの5カ国とEUが、自国でのプラスチック規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」に署名しました。 また、EUは2018年1月、「欧州プラスチック戦略」を採択。「2030年までにEU市場に流通するすべてのプラスチック容器包装をリユース・リサイクル可能にする」、「使い捨てプラスチック製品の削減」を目標に掲げました。 こうした国際社会の動きにいち早く反応し、業界大手企業が次々と対策に乗り出しています。 まず、プラスチック製品を大量に消費する外食産業が動き出しました。 マクドナルド(米)は、今年6月、イギリス・アイルランドにある全店舗でプラスチック製ストローを紙製に切り替えることを宣言(2019年までに全店舗で完了見込み)。7月にはスターバックス(米)が、世界28,000以上の店舗で2020年までにプラスチック製ストローの提供中止を発表。既にシアトルの一部店舗ではストローが無くても飲みやすい新型の蓋を導入しています。 日本では、すかいらーくホールディングスが、2020年までに国内外約3,200店でプラスチック製ストローの利用を止めることを発表。年内に「ガスト」約1,370店でストローを廃止し、必要に応じて代替ストローの導入を検討中です。 一般に紙製の容器などはプラスチック製に比べて価格が高いので、できるところから手を着けるというアプローチでストローを選択する企業が多いようです。 消費側が使用を制限する一方、製造側も対策を打ち出しています。 ユニリーバ(英蘭)は、2017年1月に2025年までに「すべてのプラスチック容器をリユース可能・リサイクル可能・堆肥化可能なプラスチックに切り替えること」、「使用するプラスチックの25%以上を再生プラスチックに切り替えること」を宣言。同社が実施した調査結果で明らかになった、環境や社会に配慮した商品を望む消費者のニーズに応えるための目標でもあります。 また、プラスチックに代わる製品の開発も進んでいます。 カネカ(東京・大阪)の「カネカ生分解性ポリマーPHBH」は100%植物由来のバイオプラスチックであり、海でも分解しやすい特徴があります。プラスチック規制が進む欧州からの注文増加を受け、今年8月に生産能力の増強を発表しました。 日本製紙(東京)では、プラスチックからの代替需要を狙った紙製品の開発・販売を推進する組織の新設を発表し、第1弾として「ストロー」のプロジェクトが始動しています。 また、紙なのに酸素・香りを通さないバリア性を持たせた新素材「シールドプラス」は、2017年11月に販売を開始し既にシリアルの容器に採用されています。 このように、今年は世界の国や企業のプラスチックごみ問題に対する活動が目立つようになりました。日本ではまだ意識が低いように感じますが、今後の動きに注視したいです。 EUは「欧州プラスチック戦略」の中で、プラスチック規制を新たな機会の創出と捉え、それによる経済成長とイノベーションの促進も目標に掲げています。このような前向きな捉え方をすると、危機にありながらも、未来が明るく見える気がします。 参考資料: ・相馬隆宏.“海洋プラ対策、規制の先を行け”.日経ESG. 日経BP社. 2018、10、p.22-34. ・吉田鶴子. “やめよう、プラスチック汚染”.国際連合広報センター. 2018. http://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/28946/ (執筆者:山森) (2018年10月03日メルマガ)
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