Column

企業とSDGs(2)期待される役割と企業メリット

前回に引き続きSDGs(Sustainable Development Goals)をテーマ
にお届けします。今回はSDGs達成に向けて、企業に期待されている役割
と、SDGsに取り組むことによる企業メリットについて取り上げてみたい
と思います。
 
 少しおさらいをしますと、SDGsは、国連総会で採択されたアジェンダ
2030の中に示された「世界共通の2030年開発目標」で、開発と名は付く
ものの、開発途上国のみならず、全世界のあらゆる社会・経済・環境面
の課題を17のゴールで網羅した「人類・地球の目指す姿」でした。
各ゴールは相互に関係し合っており、統合的な解決が必要であること、
そのためにも、国際機関・政府だけでなく、企業・市民などあらゆる
主体の参加・協働が必要なことが謳われています。
 
 SDGsの中で企業についての記載がある箇所としては、まず、ゴール12
の持続可能な生産・消費があります。「大企業や多国籍企業などの企業
に対し、持続可能な取組を導入し、持続可能性に関する情報を定期報告
に盛り込むよう奨励する」(ターゲット6)と、企業への要求が示されて
います。

 また、SDGs達成のための実施手段とパートナーシップに関する記載の
中には、民間企業に期待する役割として、「全ての企業に対し、
社会課題解決のために創造性とイノベーションを発揮することを求める」
ということが記されています。(アジェンダ2030パラグラフ67)

 前目標のMDGsでは、国際機関や政府が主体となり、ODAなどの
公的資金を用いて取組が行われていました。一方、SDGsは目標の範囲
や規模が大きくなり、これまでの主体や資金では対応しきれません。
そこで、企業の持つ技術や知恵、資金を生かし、ビジネスとして課題解決
に貢献してもらうことに大きな期待が寄せられているのではないかと考えます。

 国連グローバルコンパクト他が、企業がSDGsを活用するための行動指針
をまとめた「SDG Compass」では、SDGsに取り組むことで、
企業にとっても多様なメリットがあることを訴えかけています。
数例を以下にまとめてみます。

 一つ目は、ビジネス機会の創出が期待できるという点。
SDGsが示す社会課題の解決は世界共通のニーズであり、解決につながる
技術や商品・サービスを開発できれば、新たな市場の開拓が期待できます。
特に、省エネ・再エネに関する革新的技術、情報通信技術などを活用した
CO2排出量の少ない技術、貧困層向けの生活改善(保険医療・教育・金融
など)製品・サービスなどが期待されるとのこと。さらに、SDGsは、
投資を持続可能性に資する方向に誘導することを目的としており※、
課題解決に取り組む企業は資本へのアクセスが容易になるというメリット
も期待できるとしています。
 
 二つ目は、企業の持続可能性に関わる価値の向上が期待できるという点。
SDGsへの取組が、操業の効率化(資源の節約など)につながったり、
企業のブランド力を高め、結果として、売上の向上・優秀な人材の獲得・
従業員の意欲アップ・地域社会などとの良好な関係などにつながる効果が
期待できるとしています。逆に、取組が不十分な場合には、不祥事や、
顧客・地域社会からの信頼失墜のリスクなども考えられます。
 
 三つ目は、政策と方向性を合わせることで対応力が構築できるという点。
SDGsは今後の政策の方向性を示しており、これに率先して取り組むことで
将来規制強化などがあった場合に発生しうるコスト高騰や制約に未然に対応
することができるというものです。
(社内カーボン・プライシングなどが良い例と言えます。)

 「SDG Compass」では、企業がこれらのメリットを生かし、
自社としての成功も収めながら、SDGsの達成に最大限貢献をしていくため
の取組ステップが示されています。
次回はその内容について取り上げてみたいと思います。

(次号に続く)

※SDGs達成に必要な資金は数兆ドルに及び、民間の投資をいかに持続
 可能性に資する方向に誘導するかが極めて重要であるとされています。
 (国際連合広報センターHP)
 関連する動きの一つとして、ESG投資推進に向けた投資家のイニシアチブ
 国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)
 が2017年に公開した「責任投資のビジョン」があります。
 向こう10年間のビジョンを示したものですが、
その中に「SDGsの実現」が盛り込まれており、SDGsに沿った投資活動
 を行うための手順の整備やツールの開発を行うことが宣言されています。
 近年高まりを見せるESG投資の中に、SDGsも組み込まれていく方向に
 進んでいきそうです。

参考資料:
・外務省「我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」
 www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
・GRI・国連グローバルコンパクト
 「SDG Compass SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか」
 (グローバルコンパクトネットワークジャパン・地球環境戦略研究機関和訳)
 http://ungcjn.org/sdgs/pdf/SDG_COMPASS_Jpn.pdf
・PRI「責任投資のビジョン」
 https://www.unpri.org/download?ac=2973

                         (執筆者:山本)

(2018年4月23日メルマガ)

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2絶対量削減目標」のいずれか、または双方を用いて設定します。なお、熱・蒸気・冷熱に係る排出がある企業については、当該排出に対して絶対量削減アプローチを用いることが求められます。 また、電力関連データについては、総電力消費量の報告が求められます。この総電力消費量には、自社が管理する発電源からの電力と、自社が管理しない発電源からの電力が含まれます。さらにカテゴリA企業については、Scope 2目標設定に関連して、合理的かつ透明性のある前提に基づき、目標期間にわたる電力消費量の予測を見積もり、提出することが求められます。なお、カテゴリA企業のうち、目標サイクルにおける予測平均年電力消費量増加率が20%を超える企業は、Scope 2絶対量削減目標を設定することが求められます。この場合、追加の低炭素電力整合性目標の設定は任意とされています。 Scope 3の目標設定 カテゴリA企業に対しては、バリューチェーン内に存在する排出集約活動(Emissions-intensive activities:EIAs)の特定と、利用可能な最良データに基づくScope 3物理的GHGインベントリ排出量の定量化が求められます。Scope 3(カテゴリ1~14)排出量の5%以上を占める排出集約活動は「重要な排出集約活動」とされ、当該排出集約活動の絶対排出量およびScope 3総排出量に占める割合を報告することになります。 カバー範囲としては、Scope 3(カテゴリ1~14)排出量の5%以上を占めるすべてのスコープ3カテゴリのカバーが義務付けられました。 ただし、ネットゼロ基準v2のC14.2に列挙された特定の活動については、短期目標から除外できる場合があります。対象には、カテゴリ1・2における中古品のCradle-to-gate排出、カテゴリ3、7、8、9、10、14に関する特定の排出が含まれます。除外する場合、企業は該当する除外条件、除外が自社の状況に当てはまる理由、除外排出量、ならびに当該排出の緩和に向けた行動を報告することが求められます。 Scope 3の短期目標については、対象となる排出や活動の性質に応じて、全体的なScope 3絶対量削減目標、全体的なサプライヤー/顧客整合性目標、またはカテゴリ別・カテゴリ内の活動別目標のいずれかを用いることになります。カテゴリ別・活動別目標では、排出量削減目標(絶対量または原単位)、ボリューム整合性目標、サプライヤー整合性目標、製品使用段階における整合性目標、製品のライフサイクル終了時整合性目標、顧客整合性目標などが示されており、これらは個別または組み合わせて適用することが可能です。なお、カテゴリ別・活動別目標については、Scope 3カテゴリごとに適用可能な目標種類が示されています。 ネットゼロ基準v1.3.1でScope 3の目標設定手法として示されていた「物理的原単位削減」および「経済的原単位削減」は、ネットゼロ基準v2のScope 3目標設定手法一覧には含まれていません。 目標サイクルの明確化 ネットゼロ基準v2では、前述の通り、目標の検証と目標サイクル終了時評価を含むサイクル型の検証・評価モデルが導入されました。短期目標の目標期間は5年とされ、ネットゼロ基準v2の枠組みでは、従来の5年ごとの必須レビューに代わり、目標サイクルの終了時評価と次サイクルの目標設定を通じて、ネットゼロ経路との継続的な整合を図る仕組みとなっています。 4. 新設された「目標の実施」基準とScope 2評価の分離 ネットゼロ基準v2における大きな変化として、新たに「目標の実施」についての基準が定められました。 ここでは、まず企業自身およびバリューチェーンにおける活動レベルのアクションを優先することが求められます。排出が活動プール内で生じる場合には、当該活動プール内でのアクションを取ることができます。また、構造的制約により活動レベルまたは活動プールレベルで十分なアクションが取れない場合には、セクターレベルのアクションを取ることができます。 Scope 2におけるアプローチの分離 ネットゼロ基準v2では、Scope 2について「排出削減目標の設定方法」と「企業がどのように行動して目標達成に向けて進捗させるか」という問題が分離されました。 物理的排出インベントリ:省エネやオンサイト低炭素発電のような削減に関する主張はこちらで実現されます。 マーケット手段での取り組み(目標の実施):低炭素電力購入契約(PPA)やその他のマーケット手段での取り組みは別途報告されます。これにより、企業自身の低炭素電力への投資がシステムの脱炭素化をいかに加速させるかを、透明性をもって伝えることが可能となっています。 マーケット基準でのScope 2については、この「目標の実施」セクションでの取り扱いとなります。電力への適用においては、使用可能なマーケット手段(例:フィジカル/バーチャルPPA、低炭素電力契約、エネルギー属性証書など)と、活動プールでの適格基準(例:デリバビリティ、稼働15年制限など)が定義されています。なお、時間単位マッチングはScope 2の目標進捗に対する必須要件とはされていません。一方で、カテゴリA企業については、活動プール内の年間電力消費量が10GWh以上となる重要な電力使用について、Scope 2電力消費量のうち低炭素電力と時間単位で一致した割合を算定・報告することが求められます。また、一定水準の時間単位マッチングを達成する企業向けに、任意の認定プログラムが設けられています。 ※「目標の実施」に関する追加ガイダンスは、2026年末にリリースされる予定です。 5. 検証プロセスで求められる厳格な証拠(エビデンス)要件  ネットゼロ基準v2では、カテゴリA企業に対して、目標基準年GHGインベントリおよび関連する目標設定指標について、独立した第三者保証が求められます。また、SBTiが公表した「最低限必要なエビデンス(暫定版)」では、ネットゼロ基準v2の目標検証プロセスで使用されるエビデンスについて、一般的なガイドとして最低限必要な内容が示されています。ここでは、その一例として、代表的な証拠文書・情報を紹介します。なお、以下は同文書に示された内容の一部であり、必要となるエビデンスを網羅するものではありません。 企業の取締役会相当機関の説明責任の裏付けとなる「日付入りの文書」 SBTiが列挙する要素を含む、「日付入りの移行計画文書」 目標基準年の低炭素電力割合の算定報告に関する「日付入りの文書」 日付入り署名済の第三者保証書:目標基準年のScope1, 2, 3排出量の100%、低炭素電力算定、重要な排出集約活動の排出量、その他の目標設定指標を対象とするもの。 目標基準年と目標年の設定例 証拠提出にあたり、基準年と目標年の設定ルールも明確化されています。 目標基準年について 提出日から2年前以降とされています。(例:2027年に提出する場合、目標基準年は2026年または2025年)。次の目標サイクルも同様に、都度新たな目標基準年を直近2年前から選択します。 目標年について 初回検証時は「直近の報告期間の開始日から5年以内」と規定されています。その後の目標検証は、目標サイクル間の継続性を確保するため「前回の目標年度の直後の年の開始日からちょうど5年後」と規定されました。 (例:2027年初回検証時に「2026年を目標基準年」とする場合は、目標年として2028~2031年を選択します。ここで2031年以外を選択する場合はその説明が必要です) おわりに 本コラムでは、SBTネットゼロ基準v2の全体像と、大企業(カテゴリA)が直面する主要な変更点について、公式発表ドキュメントの記載内容に基づいて解説いたしました。 第三者保証の義務化、Scope 3対象範囲の厳格化、Scope 2マーケット手段の分離報告など、ネットゼロ基準v2への移行は企業のサステナビリティ開示プロセスに大きな影響を与えます。 特に、既にSBT認定目標を有する企業にとっては、自社の目標年度や5年レビュートリガー日を踏まえ、いつ、どの基準で、どのような準備を進めるべきかを早期に整理することが重要です。ネットゼロ基準v2では、目標設定そのものに加え、ガバナンス体制、移行計画、第三者保証、エビデンス文書の整備など、従来以上に多面的な対応が求められるため、移行スケジュールと対応事項をあらかじめ可視化しておくことが有効です。 弊社には、SBTi認定エキスパートが2名在籍しており、SBTi認定エキスパートおよびSBTi実務に精通したコンサルタントが、貴社のネットゼロ基準v2移行に向けたスケジュールやTODOの整理について、30分の無料相談を承っております。 また、ネットゼロ基準v2移行に向けた目標更新方針の検討、Scope 1・2・3の算定・目標設定、移行計画や必要文書の整備、第三者保証対応を見据えた準備など、各種コンサルティングサービスもご用意しております。 ネットゼロ基準v2移行に向けた具体的なご相談や、各種文書整備のサポートが必要な際は、ぜひ弊社までお問い合わせください。 出典 SBTi Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Guide Transition Corporate Net-Zero Standard V2 Continuing-Use-of-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-1.3.1-and-Transition-to-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2 Preliminary-Minimum-Evidence-Required-for-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2.0 Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Main-Changes-Document Corporate-Net-Zero-Standard-V2-FAQs Understanding-Scope-2-in-the-Updated-Corporate-Net-Zero-Standard-V2.0 Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Basis-for-Conclusions (執筆者:小島) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・SBT目標設定・気候移行計画策定|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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GX-ETS本格稼働!制度概要とSHK制度・GHGプロトコルとの算定・報告方法比較

この記事を読んでほしい人 ・GX-ETS対応準備を進めているご担当者 目次 ■はじめに ■GX-ETSの概要  ・GX-ETSとは?  ・対象事業者  ・対象事業者の義務と年間サイクル ■排出量実績算定・報告方法―SHK制度、GHGプロトコルとの比較  ・算定対象範囲  ・算定方法・モニタリング・検証  ・クレジット利用                                                     はじめに  GX-ETSの義務的な第2フェーズがいよいよスタートしました。対象企業は、これまで取り組んできた省エネ法定期報告と温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(以降「SHK制度」)や、GHGプロトコルに沿った算定・報告に加えて、GX-ETSに対応した排出量の算定・報告が求められます。そこで今回は、GX-ETSの制度概要をおさらいした上で、GX-ETSの算定・報告ルールのポイントについて、SHK制度やGHGプロトコルと比較しながら整理したいと思います。 GX-ETSの概要 GX-ETSとは?  GX-ETS(Green Transformation Emissions Trading System)とは、日本の排出量取引制度(Emission Trading System)です。排出量が一定規模以上の事業者に排出枠(排出してよい量)が割り当てられ、その範囲内での排出が求められます。対象事業者は毎年度の排出量を算定し、その実績と同量の排出枠を自社口座に保有する必要があります。排出実績が割り当てられた排出枠を上回る場合には、不足分を他社から調達したり、負担金を支払ったりする必要があります。逆に排出実績が排出枠を下回る場合は、排出枠の余剰分を他社に売却することもできます。 *202604_setsumeikai_1.pdf  排出量取引制度は、炭素に価格を付けて削減を促すカーボンプライシングの一種であり、国等の温室効果ガス削減の手段として世界各地で導入が進んでいます。 カーボンプライシングには主に「炭素税」と「排出量取引制度」の2種類があり、前者は炭素すなわちCO2等の温室効果ガス(GHG)排出に対して課税することで削減を促すものです。日本では既に化石燃料を対象とした課税である「地球温暖化対策税」が導入されていますが、その水準は1トンあたり289円と国際的に見て低い水準にとどまっていると指摘されています。一方、排出量取引制度は、企業等に対し排出量の上限を定め、企業等の間で過不足を売買する市場メカニズムを通じて削減を促す仕組みです。日本では東京都や埼玉県等一部の自治体で導入済みですが、国レベルでの制度化は長らく議論が続きつつも実現していませんでした。世界銀行のレポートによると、2025年時点で世界には43の炭素税と37の排出量取引制度が導入されており、これらによって世界の排出量の約28%がカバーされ、対象地域のGDPは世界全体の約3分の2に相当するとされています。 GX-ETSは、このような背景を踏まえ、日本として初めて全国的に導入される本格的な排出量取引制度となっています。  GX-ETSは「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」に基づいています。 2020年の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、まずグリーン成長戦略が策定され、その中で成長に資するカーボンプライシングの検討として炭素税や排出量取引制度等の検討が盛り込まれました。その後、カーボンニュートラルと経済成長を同時実現する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」が掲げられ、2023年にGX基本方針およびGX推進法が決定されました。  GX推進法では、GX推進戦略の策定と実行、GX経済移行債の発行、成長志向型カーボンプライシングの導入、GX推進機構の設立、進捗評価と必要な見直し等、GXを推進するための枠組みが定められています。成長志向型カーボンプライシングの一環として、政府は2026年度からの排出量取引制度の本格導入や、2028年度からの化石燃料賦課金の導入に向けた検討を進めてきました。また、GX推進法の下、自主的参加によるGXリーグが設立され、その中でGX-ETSの試験運用が進められてきました。これがGX-ETSの第1フェーズと呼ばれています。その後、2025年のGX推進法改正により排出量取引制度が法定化され、排出量が一定規模以上の事業者に対して、2026年度からGX-ETSへの参加が義務付けられることとなりました。 これが、全国的な排出量取引制度として位置づけられるGX-ETS第2フェーズです。 20251219_1.pdf 対象事業者  GX-ETS第2フェーズの対象となるのは、「CO₂の直接排出が10万tCO2以上」の事業者です。対象のGHGについて、算定報告公表制度やGHGプロトコルでは7種類のGHG全てが対象ですが、GX-ETSでは「CO2のみ」が対象です。直接排出とは、自社の工場や車両等での燃料使用による「エネルギー起源CO2排出量」や、セメント製造等の工業プロセスから化学的に排出されるCO₂(非エネルギー起源排出量。GX-ETSでは「原材料起源排出量」と呼ぶ)を指します。10万tCO2以上で対象となるかどうかの判定は毎年度行います。毎年度9月30日までに前年度までの直近3年度の平均(これを「年度平均排出量」と呼ぶ)を算定し、対象となる場合は、排出枠割当のための届出を行います。事業者とは国内の法人が主な対象で、企業単位で考えます(子会社や関連会社等は原則として別事業者)。  直接排出量が年間で10万トンCO₂以上の企業としては、電力、鉄鋼・化学・セメント等を中心とした製造業、運輸等のエネルギー多消費産業を中心とした国内の大手企業が幅広く含まれることが想定されます。日本全体で300~400社程度がGX-ETSの対象となり、これら対象者の排出量が日本全体の温室効果ガス排出量の約60%近くを占めると見込まれています。 対象事業者の義務と年間サイクル  対象事業者は毎年度、①排出枠の割当の基となる届出、②排出実績の算定・報告、③排出枠の保有、及び④移行計画の作成・提出という4つの義務を負います。 ①排出枠の割当ての基となる届出では、制度対象であるかの判定に用いた年度平均排出量と、排出目標量等合計量を提出します。 排出目標量等合計量とは、主に工場や輸送手段ごとに算出した個別の排出目標量を合計した値です。 GX-ETSでは、排出枠割当てのベースとなる排出目標量の算定方法として、ベンチマーク方式とグランドファザリング方式の2種類が用意されており、どの方式が適用されるかは業種や活動ごとにあらかじめ定められています。一般に、エネルギー多消費産業ではベンチマーク方式が中心となります。一定規模以上の工場や輸送手段は、それぞれ指定された方式で個別排出目標量を算定し、それらを合計したものが排出目標量等合計です。これらの内容は登録確認機関による確認を受けたうえで、対象年度の9月30日までに届出を行い、その届出量を基に政府が排出枠を割り当てます。(排出目標量等合計量には排出目標量以外に勘案事項も考慮される場合があります。) ②排出実績の算定・報告では、対象年度(4月〜翌年3月)の排出実績量を算定し、翌年の9月30日までに報告します。この実績値についても登録確認機関の確認が必要です。報告内容を基に11月30日までに当該年度の排出枠の保有義務量が確定します。なお、「排出実績量=実排出量-クレジット無効化量」で計算します。すなわち実排出量が割り当てられた排出枠を超える場合、クレジットで調整し報告することができるようになっています。 ③排出枠の保有では、保有義務量と同量の排出枠を1月31日までに自社口座に保有しておく必要があります。排出枠に不足がある場合にはそれまでに排出枠取引市場等で追加の排出枠を調達する必要があります。1月31日以降、保有義務量分の排出枠が口座から償却されます(口座から消滅する)。保有義務量に対して口座の排出枠が不足している場合には、未償却相当負担金(排出枠の不足分×排出枠上限価格×1.1に相当する金額)の納付が課されます。 ④移行計画については、排出枠の届出と同じく対象年度の9月30日までに提出することが求められます。移行計画には、2030年度までの排出量目標、毎年度の排出実績、目標達成のための投資計画等を記載します。提出後、一部の内容は公表されます。 これらの手続きは全て排出量取引管理システム(ERMS)において行われる予定です。 以上が基本的な年間サイクルですが、制度開始初年度である2026年度については、排出枠の割当時期が1年後ろ倒しになる特例スケジュールが設けられています。2026年度分については、2026年9月30日までに年度平均排出量を算定し制度対象である旨の届出と移行計画の提出を行いますが、排出目標量等合計量の届出は1年後の2027年9月30日までに行います。2026年度排出量実績の算定・報告は基本サイクルと同様、翌年の2027年9月30日までに行います。すなわち、2027年9月に届出と実績報告を同時に行い、11月30日までに排出枠割当と保有義務量の通知が同時に行われることになります。また、2027年度の届出も基本サイクル通り2027年9月30日までに行いますので、2027年度分の届出も同じタイミングで行うことになります。 以上を踏まえ、企業が2026年度中にやらなければならないことは以下と整理できます。 年度平均排出量(2023、2024、2025年度の3年平均)を算定し対象事業者となるかどうかを判定する。 (対象事業者に該当する場合) 届出を行う。(~2026年9月30日) 移行計画を提出する。(~2026年9月30日) 2026年度実績の算定準備、登録機関の選定・契約を進める。 ※年度平均排出量は登録機関の確認は不要だが、2027年9月30日までに行う排出量目標等合計量及び2026年度実績には登録機関の確認が必要なため。   排出量実績算定・報告方法-SHK制度、GHGプロトコルとの比較  前述の通り、いよいよGX-ETSの算定ルール(排出量実績算定・報告)に沿った算定が必要となります。多くの企業がこれまでにSHK制度やGHGプロトコルに沿って算定・報告を行ってきましたが、それらと大部分は重なるものの、異なる点も多々あります。そこで以降ではGX-ETSの算定・報告ルールのポイントを、SHK制度及びGHGプロトコルと比較しながら、整理してみたいと思います。  算定対象範囲  排出量算定の対象とすべき範囲について、まずGHGの対象は、GHGプロトコル・SHK制度が「CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3」の7つの指定ガスを対象とするのに対し、GX-ETSは「CO2のみ」を対象としています。組織の範囲は、GHGプロトコルが財務会計と同様に「連結グループ全体」を基本とするのに対し、SHK制度・GX-ETSは「法人単位」を基本とします。算定対象とする活動の範囲である活動境界は、GHGプロトコルが最も広く、「直接排出、間接排出(購入電力・熱の使用、その他の間接排出):Scope1,2,3」、次に広いのがSHK制度で「直接排出、間接排出(購入電力・熱の使用)(概ねScope1,2と対応)」なのに対して、GX-ETSは「工場等における直接排出のみ(Scope1の一部)」と限定的になっています。地理的範囲は、GHGプロトコルが国内外問わず組織の全てを対象とするのに対し、SHK制度・GXは各制度の適用対象となる国内の事業所に限られます。時間的範囲はいずれも一年間ですが、GHGプロトコルは「任意の12か月間」、SHK制度・GXは決められた「4月~翌年3月」の期間を対象とします。 他に細かな範囲の違いの例として3点ピックアップします。一つ目は(輸送事業者以外の一般事業者における)車両です。GHGプロトコルでは自社が所有・管理する車両の排出は全て対象です。一方、SHK制度・GX-ETSでは工場等の敷地内で使われる車両(フォークリフト等)が対象で、敷地の外で使われる車両(営業車等)は通常は対象外とされています。次にテナントとして入居している場合について、GHGプロトコルでは連結対象グループの範囲設定に用いた組織境界設定基準(出資比率基準、財務/経営支配力基準)に基づき、「支配関係に応じてScope1,2もしくはScope3(カテゴリ8等)のいずれか」に分類します。SHK制度では「テナント専用部のエネルギー使用を全て対象」とします。一方、GX-ETSでは「自社が管理権原(設備の設置・更新権限があり、使用量を特定できる)を有する設備のみ」対象とする限定的な範囲になっています。最後に、電力や熱を創出し他社に提供している場合について、GHGプロトコルでは他社に提供する電力・熱の生成に係る排出も自社の排出(Scope1)としてカウントします。一方、SHK制度では自家発電等により燃料を使用して発生させた電気や熱を他人に供給した場合は、エネルギー起源CO2排出量合計から、供給量見合い分のCO2排出量を控除します。GX-ETSはGHGプロトコルと同様で、自社の直接排出としてカウントし、SHK制度のような控除は行いません。  最後に、少量排出源の取り扱い方も差異があるため要注意です。GHGプロトコルでは、原則として関連する全ての活動からの排出が算定対象です。一方、SHK制度ではガス種類ごとに閾値を超える場合は算定・報告が必要ですが、閾値に満たない場合は不要です。つまり、ガス種類によっては、排出はあるものの閾値に満たないため算定せず、SHK制度上の事業者合計の排出量に含まれていない場合があります。また、排出量がごく少量の拠点は前年度等と同値での報告が可能(つまり毎年の更新が不要)となっています。GX-ETSは、SHK制度のようなガス種類ごとの裾切値等はなく、算定対象である直接排出に関連する活動の排出量は全て算定し合算する必要があります。また、SHK制度のような、前年度等と同値の使用により算定更新を省略できるというようなルールも規定されていません。 算定方法・モニタリング・検証   算定の基本は、いずれも「活動量×排出係数×(GWP:地球温暖化係数)」という式による算定で共通しています。排出係数について、GHGプロトコルでは、国や地域、業界団体等が公表する排出係数等、合理的と認められる係数を企業が選択して用いることとされています。一方、SHK制度、GX-ETSでは、一定の条件のもとで測定等に基づく設定も可能ですが、制度ごとに利用可能なデフォルト値が整備されています。GX-ETSの排出係数は、大部分がSHK制度と同値となっているように見受けられますが、GX-ETS固有の要件に応じて一部の係数や扱いが調整される可能性も考えられますので、SHK制度の係数だけでなく、GX-ETSの算定報告マニュアルや施行規定で最新の内容を確認できると良いでしょう。  モニタリング(活動量の計測)については、GHGプロトコルは、高品質なデータに基づく算定を原則とし、データ品質や不確実性の評価を行い、その結果を開示することを推奨しています。また、SHK制度もデータ品質向上を求めており、体制整備やデータチェック等を通じて精度の確保を促していますが、いずれも計量器の精度のような具体的要件までは定めていません。一方、GX-ETSでは望ましいモニタリングの目安精度が定められており、排出量報告と併せて計量器の情報(現状の器差等)も報告が必要です。また、割当区分ごとの排出量報告に合わせて、複数の事業活動を行っている場合は割当区分ごとに活動量のモニタリングを行う必要があります。  第三者審査機関による排出量数値の検証については、GHGプロトコルは推奨しているものの任意ですが、CDP等、保証を得た信頼性の高い数値の開示を求める動きが強まっており、特にScope1,2については検証を受ける企業は増えています。一般的には限定的保証水準(検証手続きやサンプリング数等を絞ったうえで、「重大な誤りがあるとは認められない」といった消極的意見表明を行う水準)で実施されることが多いです。SHK制度も制度として検証を要件とはしていません。一方、GX-ETSでは登録確認機関による確認が必須です。この確認は、ISO14064-3、ISSA5000に基づく保証業務に該当し、限定的保証水準相当と整理されています。 クレジット利用  カーボン・クレジットの利用については、GHGプロトコルでは排出量インベントリ(実排出量)とは切り離してクレジット無効化分を報告し、実排出量からクレジット無効化分を控除することは認めていません。SHK制度でも、基礎排出量(実排出量)とは別に、調整後排出量の報告においてクレジット無効化分を反映します。調整後排出量は基礎排出量からクレジット分等を控除した値として報告されます。利用可能なクレジット種類には、Jクレジット、国内クレジット、J-VER、グリーンエネルギー二酸化炭素削減相当量認証制度、JCMがあります。制度上、利用するクレジット量に上限は定められていません。報告年度及び翌年の6月までに無効化されたクレジットについて報告することが可能です。GX-ETSでは、排出量実績の算定時にクレジットの利用が可能となっており、実排出量に対する排出枠が不足している場合にクレジットで補填ができる仕組みになっています。GX-ETS上の排出量実績は実排出量からクレジット量を控除した数値として扱われます。利用可能なクレジット種類は、Jクレジット、JCMに限定されています、また、クレジットの利用量には、各年度の排出量(GX-ETSの算定対象排出量)の10%までという上限が定められています。割当年度もしくはその翌年度に無効化したクレジット量が利用可能です。 *1 他人又は自らの旅客又は貨物の輸送を、業として、エネルギーを使用して行っている場合 *2 輸送は一部裾切値あり *3 SHK裾切値:エネ起源CO2:原油換算1500kl/年以上、非エネCO2・CH4・N2O・HFCs・PFCs・SF6・NF3:ガス種類ごとに3,000tCO2e以上であり、事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上)  まとめると、GX-ETSはGHGプロトコルやSHK制度と比べると算定対象範囲は限定的ですが、漏れなく精度の高い算定とクレジットの報告を義務として初めて行っていくことになります。GHGプロトコルに沿った報告やSHK制度の報告とも並行して行っていくこととなり企業にとっては新たな負荷とはなりますが、先述の通り重なる部分も多いため、効率的な算定計画を立てて取り組んでいけるとよいでしょう。GX-ETSは日本のGX戦略の目玉施策の一つであり、実効性のある排出削減を後押しする仕組みとして、うまく軌道に乗っていくことを期待したいです。   出典 経済産業省「排出量取引制度 手続の全体像(セットアップマニュアル)」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets_setup.pdf 経済産業省「排出量取引制度 届出・排出目標量等算定マニュアル」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets_todokede.wariate.pdf 経済産業省「排出量取引制度 排出量算定・報告マニュアル」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets_santeihoukoku.pdf 温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver6.1) (令和8年3月) 環境省_マニュアル・様式 |「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」ウェブサイト GHGプロトコル「事業者排出工算定報告基準」 https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2022-12/corporaterevised-edition-japanese.pdf GHGプロトコル「企業のバリューチェーン(スコープ3)算定と報告の標準」 Scope3_Guideline.pdf (執筆者:山本) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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EcoVadisの概要と支援サービス

この記事を読んでほしい人 ・EcoVadisの対応を求められており、全体像を把握したい方 ・自社の取り組みがEcovadisの評価にうまく反映されていないと感じている方 ・サステナビリティ対応が求められているが、何から取り組むべきか悩んでいる方   目次 ■はじめに ■EcoVadisとは ■各テーマの概要 ■取り組む上での注意点・課題 ■まとめ ■ウェイストボックスの支援アプローチ ■ご相談について                                                                                                        はじめに 近年、企業に求められるサステナビリティ対応は急速に高度化しています。 気候変動への対応に加え、人権・倫理・サプライチェーン管理など、対象領域は広がり続けており、それに伴い企業を評価する枠組みも多様化しています。 特に近年は、EcoVadisをはじめとしたサプライチェーン評価が急速に広がり、単なる開示対応ではなく「実際に運用されているか」が問われる場面が増えています。その結果、これまでの取り組みがそのままでは評価につながらない、というケースも出てきています。 本稿では、EcoVadisとは何かという基本的な説明を行い、他のESG評価との違いを体系的に整理したうえで、スコアを伸ばす上での課題と対応策を解説します。 EcoVadisへの対応が単なる顧客対応に留まらず、「戦略的な取り組み」に繋がるヒントとして、少しでも参考になれば幸いです。   EcoVadisとは EcoVadisは、企業のサステナビリティ(ESG)への取り組みを評価する第三者評価プラットフォームです。現在では世界185カ国以上・250以上の業種・15万社以上に利用されています。 他のESG評価と大きく異なる点は、利用目的です。EcoVadisは、投資家向けでも開示評価でもなく、「取引先として信頼できるか」という「サプライチェーンマネジメント」のインフラの役割を担っています。 特に欧州企業を中心に、取引先に対してEcoVadisスコアの提出を求める動きが一般化しており、日本企業にとっても徐々に「対応していないと取引に影響する」段階に入っています。 なぜ広がっているのか 背景にあるのは、「サステナブル調達」の進展です。 企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体の人権・環境・倫理リスクを管理する責任を負うようになっています。 特に欧州では、2024年に成立したEU企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)により、サプライチェーン全体のESGリスク管理が法的義務として求められるようになっています。 しかし、すべての取引先を個別に監査することは現実的ではありません。そこで多くのサプライチェーンを抱える企業は、EcoVadisを使って取引先の評価・管理・育成をまとめて行っています。 また、EcoVadisはEラーニングコンテンツや改善提案レポートなど、評価だけでなくサプライヤー支援の機能も充実しています。他のサステナビリティ評価と比べても手厚く、日本企業にとってもまず回答してみるというハードルが比較的低い点が特徴です。 評価項目と特徴 EcoVadisは以下の4つテーマで構成されています。そして評価の特徴は「方針、指示、措置、認証、範囲(一定規模以上の企業のみ)、報告」の各評価項目について、「文章(根拠資料)」の提出が求められます。 例えば社員に対して持続可能な調達に関する研修を行っていることを報告したい場合、研修資料や研修を受けた社員の割合を示す資料を添付する必要があります。 そのため、うわべだけの回答ではなく、実際に仕組みとして管理されているかまで問われます。また、 他のサステナビリティ評価と比較すると、「評価項目がサステナビリティ全般」「目標や方針だけでなく、実現する体制や運用が評価される」「投資家向けではなく取引先向け」である点が特徴です。 業種・規模による違い EcoVadisでは、すべての企業に同じ設問が送られるわけではありません。企業が登録時に申告業種・所在国・企業規模をもとに対象となるサステナビリティ問題が特定されます。また、各テーマの評価ウエイトが変わります。 業種ごとにリスクの性質が異なることを考慮してこのような仕組みになっています。例えば、化学メーカーや繊維業であれば環境テーマ(有害物質・廃水・GHG)の比重が高く、人材サービスやIT業では労働・人権テーマや倫理テーマが重視されます。一例を以下に示します。このように業種ごとに与える影響が大きいと思われる項目について評価の対象になります。 また、企業規模によって変わります。中小企業(目安:従業員1,000名未満)では一部の評価軸(「範囲」など)の設問が省略・簡略化される場合があります。 出典:Ecovadisレーティング評価手法:概要と原則より 手厚いサポート体制 Ecovadisと他のESG評価を比較した時に個人的に感じた大きな特徴として、学習・改善支援コンテンツの充実度です。他のサステナビリティ評価と比較しても、この点はEcoVadisが際立っています。 ①EcoVadis Academy(Eラーニング) EcoVadisは「EcoVadis Academy」と呼ばれるEラーニングプラットフォームを提供しています。主なコンテンツは以下の通りです。 評価の仕組みと4テーマの基礎知識 各テーマの評価項目ごとの詳細解説 回答の書き方・証跡の準備方法 スコアアップのための実践的なガイド これらのコンテンツは、評価担当者だけでなく、法務・人事・調達・環境など各部門の担当者が自分の領域に関係するテーマを学ぶための入口として活用できます。「何を準備すればいいかわからない」という状態から脱するための最初のステップとして非常に有効です。 また、これまでの経験から、EcoVadisへの対応を効果的に進めるうえでEラーニングを活用するタイミングは大きく2つあります。 初回回答前 まず担当者がEcoVadis Academyの基礎コンテンツを一通り視聴することで、「何が問われているか」の全体像を把握できます。これをせずにいきなり回答に入ると、求められていることの解釈がずれたまま進んでしまうリスクがあります。 回答後・スコア受領後 改善アクションプランと合わせてEラーニングを活用することで、「なぜその項目でスコアが低かったか」「次回に向けて何を準備すればいいか」を体系的に理解できます。このサイクルを回すことが、継続的なスコアアップの鍵になります。 ②改善アクションプラン(Corrective Action Plan) スコアカードとあわせて提供される「改善アクションプラン」では、自社の評価結果をもとに「何が不足していたか」「次回に向けて何をすべきか」が具体的に示されます。単に点数を知るだけでなく、改善の道筋が示される点が、他の評価と大きく異なります。 また取り組むべき優先度についても高、中、低と三段階に分かれて設定されており、自社の課題を明確に把握することができます。 また、是正措置計画という項目を使用することで、サプライチェーン上の企業に向けて来年度に向けた改善の取り組みを周知することもできます。 ③ベンチマーク機能 テーマごとに同業種・同規模の企業との比較データが提供されるため、「業界平均と比べて自社がどの位置にいるか」を把握できます。スコアの絶対値だけでなく、相対的な位置づけを理解することで、他社と比較して遅れている点を把握することができます。   各テーマの概要 環境 環境テーマでは、自社の事業活動が環境に与える影響を管理・低減するための仕組みと実績が評価されます。製造業・化学・食品・物流など、多くの業種で最も重みが大きいテーマであると考えます。 主な評価項目の例を以下に示します。大手企業の場合、概ね対応していることが多いですが、まだまだ削減目標や計画等が策定できてない企業も多いと思います。また、環境方針等についても定期的な見直しが求められているため、改めて社内の状況を整理する必要があります。 GHG排出量の把握・目標設定・削減実績 エネルギー消費量の管理・再生可能エネルギーの活用 廃棄物の分別・削減管理 有害化学物質の管理 生物多様性への配慮 労働と人権 労働・人権テーマは、日本企業にとって「当たり前すぎて明文化していない」ことが最も多いカテゴリです。法律で禁じられているから当然と思っている取り組みでも、文書化・仕組み化されていなければ評価されません。また、研修の記録等も証拠として提出する必要があります。 労働条件(労働時間・最低賃金・残業管理の遵守等) 強制労働・児童労働の禁止方針と確認の仕組み キャリアマネジメントと教育 多様性、平等、包括性の確保 倫理 倫理テーマでは、企業の経営・取引における誠実性・透明性が評価されます。IT・金融・コンサルティングなどのサービス業では、このテーマの比重が高くなると考えられます。 腐敗行為や贈賄防止に関する方針・社員への周知 情報セキュリティへの対応 内部通報制度の設置等 持続可能な調達 持続可能な調達テーマでは、社会・環境への有害な影響を軽減するサプライヤーと連携を図り、有益な影響を引き起こしていくことが求められています。特に持続可能な調達においては、企業が抱える課題がそれぞれ異なるため、マテリアリティ評価を実施することが求められています。 サプライヤー行動規範の策定、配布、同意取得 リスクの高いサプライヤーへの監査・調査の実施 調達担当者向けのサステナビリティ研修の実施 取り組む上での注意点・課題 よくある課題 EcoVadisの支援を行う上で課題としてよくあるのが、「日本企業として当然取り組んでいるが故に、明文化されていないことが多い」という点です。例えば、児童労働の防止について、「法律で規制されているから当然のこと」として、特に防止について社内方針として記載されていなかったり、チェック項目がなかったりします。そのため資料を添付できず、スコアを落とすケースが出てきます。 コンプライアンス研修や安全衛生管理についても、「やってはいるが記録が残っていない」「担当者の頭の中にはあるが文書化されていない」というケースが多く見られます。 また、初回回答には相応の工数がかかります。法務・人事・調達・環境など複数部門を横断した情報収集が必要になるため、担当者一人で対応しようとすると行き詰まることも。誰が何を担当するか、社内体制を先に整えておくことが大切です。 さらに、EcoVadisは単年評価ではなく、評価と改善のサイクルを回していく設計になっています。スコアが伸び悩む企業の多くは、初回回答後の継続的な改善が追いついていないというパターンが見られます。 EcoVadisで失敗しやすい落とし穴:「範囲」の壁 EcoVadisの評価軸は「方針・指示・措置・認証・報告」の5つが基本ですが、一定規模以上の企業(目安として従業員1,000名超)には、これに加えて「範囲」という評価軸が課されます。 この「範囲」とは、簡単に言うと「その取り組みが、どこまでの組織・拠点・従業員に適用されているか」を問うものです。たとえばISO 14001の認証を取得していても、「本社のみ」「国内拠点のみ」であれば、グループ全体の従業員数に占める対象範囲が低いと評価されます。同様に、ハラスメント防止研修を実施していても、「グループ会社の受講率が把握できていない」状態では範囲の評価が下がります。 一見、大企業のほうが取り組みが充実していそうに思えます。しかし実態としては、「取り組みの質」よりも「取り組みの展開範囲」の証明が難しいという構造的な問題があります。 ①グループ会社への展開状況の集計が困難 たとえば「サステナビリティ研修を実施しています」と回答する場合、EcoVadisは「どの法人の・何名が・全体の何%にあたるか」まで問います。国内外に数十〜数百社の子会社・関連会社を持つ大企業では、各社の受講状況を一元的に集計する仕組みがそもそも存在しないケースが多くあります。 ②認証取得の「穴」が目立つ ISO 14001やISO 45001などの認証を「グループとして取得している」と回答しようとすると、全グループ企業・拠点のうち何%が認証を取得しているかを示す必要があります。主要拠点は取得済みでも、小規模な海外子会社や物流関連会社が未取得であることが多く、グループ全体でみると取得率が中途半端な数字になることがよくあります。 ③措置の展開状況の証明が難しい 「範囲」の評価軸では、各措置が「グループ全体のどの範囲で実際に実施されているか」が問われます。たとえばリスクアセスメントや安全衛生研修を実施していると回答する場合、「本社のみ」ではなく、グループ各社・各拠点での実施状況を示す記録(実施記録、受講率、対象人数など)が証跡として求められます。「グループ共通の取り組みとして定めているから展開されているはず」という説明では評価されず、「実際に各社・各拠点で実施されているか」が問われます。 ④海外拠点の管理が特にネック 人権デューデリジェンスや労働安全衛生の取り組みについては、新興国拠点での状況がより厳しく問われます。日本本社では当たり前に実施している取り組みが、東南アジアや南アジアの製造拠点では形式的にしか導入されていないケースがあり、「展開はしているが記録がない・確認できない」という状況が失点につながります。 実際の支援の中でよく見られる失点パターンを整理すると、以下のようなものがあります。 コンプライアンス研修の受講率 本社・国内グループは管理できているが、海外子会社の受講記録が各社バラバラに管理されており、グループ合算の受講率を算出できない。結果として「研修はやっています」という回答に対して証跡を出せず、評価されない。 ISO認証のカバレッジ 本社と主要製造拠点はISO 14001を取得済みだが、物流子会社・販売会社・海外現地法人が未取得。「グループとして認証を取得しています」と回答したくても、カバレッジが低いため評価が限定的になる。 サプライヤー行動規範の配布状況 本社の購買部門は全サプライヤーへ配布しているが、子会社・関連会社の調達担当者が独自に取引しているサプライヤーへの配布が追いついていない。グループ全体のサプライヤー数のうち何%に配布済みかを問われると答えられない。 内部通報窓口のアクセシビリティ グループ共通のホットラインを設置しているが、海外子会社の従業員が自国語で利用できる環境が整っていない。「グループ全社員がアクセスできます」という回答が難しい。   ただし、範囲の考え方について、EcoVadisの評価では、カバレッジが100%でなくても、「現在の展開率と、今後の拡大計画」を明示できれば一定の評価を得られます。「グループ全体への展開が課題であることを認識しており、2026年度中に海外主要拠点への適用を完了させる計画がある」といった記載と、その裏付けとなる社内計画書や取締役会での承認記録を示すことで、評価につなげることができます。 また、そもそもグループ全体のカバレッジを把握・管理するための仕組み(グループ横断の報告フォーマット、定期的なモニタリング体制など)を構築することが、中長期的なスコア向上の基盤になります。EcoVadisが最終的に評価したいのは「今どこまでできているか」だけでなく、「継続的に改善できる管理体制があるか」です。 大手企業こそ「範囲」対策を先に設計する スモールスタートで対応するベンチャーや中小企業と異なり、グループ全体を抱える大手企業にとっては、この「範囲」の問題がスコアの天井になることが少なくありません。取り組みの中身(方針・措置・認証)を充実させた後に範囲の壁にぶつかるのではなく、最初からグループ横断の管理体制設計を組み込んだ形でEcoVadis対応を設計することが、結果的に効率的なスコアアップにつながります。 まとめ EcoVadisへの対応は、「顧客に言われたからやる」だけでは、なかなかスコアが上がりません。 自社の取り組みの現状をきちんと把握し、「すでにやっていることを見える化する」ところから始める。それが最も効率的な進め方です。 企業の多くは「やっているのに評価されていない」状態にあります。明文化・証跡整備という一手間が、スコアに大きく効いてきます。 EcoVadisへの取り組みを、自社のサステナビリティ経営を高度化する機会として捉えていただけると、対応のモチベーションも変わってくるはずです。 適切に取り組めば、「対応コスト」ではなく「経営価値向上」に転換することが可能です。 ウェイストボックスの支援アプローチ 当社はこれまで、気候変動領域を中心に、 ・GHG算定 ・SBT ・CDP などをご支援してきました。その中で培ったのは、「評価されることだけが目的にならない本質的な取組の推進」です。 EcoVadis支援においても、 ① 現状の可視化 ② 評価項目との紐付け ③ 実務として回る設計 ④ 継続改善の仕組み化 を一体で支援します。EcoVadisのスコアは、取り組みの質が高まるほど自然に上がります。そのため、評価対応と経営実務を切り離さず、両者をつなぐ設計を重視しています。 既にCDPやSBTへの対応を進めている企業であれば、それらの取り組みとEcoVadisの評価項目を効果的に連携させることで、効率的なスコアアップが可能です。 ご相談について ・EcoVadis対応をこれから始めたい ・スコアが伸び悩んでいる ・社内の進め方に課題がある といった場合には、ぜひ一度ご相談ください。 貴社の状況に合わせた具体的な進め方をご提案いたします。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 (執筆者:野村) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援事業|株式会社ウェイストボックス ・CDP質問書、TCFD・TNFD、SSBJ対応 開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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環境表示ガイドライン改定(2026年3月予定)グリーンウォッシュ回避に求められる実務対応

この記事を読んでほしい人 ・環境への取り組みを、単なるアピールにとどめず、企業ブランドへの信頼につなげたいと考えている方 ・意図せずグリーンウォッシュと受け取られてしまうことによるレピュテーションリスクに不安を感じている方   目次 ■環境表示のメリットとリスク  ・メリット:環境表示は消費者の行動に一定の影響を与える  ・リスク:グリーンウォッシュと指摘される可能性 ■グリーンウォッシュとは、無意識な「誇大表現」に注意  ・グリーンウォッシュの定義  ・リスクを孕む「危ういキーワード」 ■グリーンウォッシュの指摘事例から学ぶ ■EUの厳格な法規制「グリーン移行のための消費者支援指令(2024/825)」とは ■日本における環境表示ガイドライン改定の背景と方向性  ・改定の背景  ・改定の方向性 ■グリーンウォッシュの回避対策事例から学ぶ ■まとめ                                                                                                         はじめに 環境表示は、企業が取り組んできたサステナビリティの成果を、社会にきちんと伝えるための大切な手段です。いまやパッケージやECサイト、SNS、店頭POPなど、あらゆる場面で「環境に配慮しています」というメッセージを目にするようになりました。 しかしその伝え方ひとつで、企業への信頼が深まることもあれば、逆に疑念を持たれてしまうこともあります。良かれと思って発信した内容が、意図せずグリーンウォッシュと受け取られてしまうケースも少なくありません。 弊社にもこういった表現はグリーンウォッシュと指摘を受ける可能性がないか、 どういった表現であれば指摘を回避できるかといった相談をうけることもございます。 本稿では、なぜいまグリーンウォッシュがこれほど問題視されているのか、国内外の規制動向も踏まえながら整理します。そのうえで、実務の現場でどのような点に気をつけるべきかを具体的に解説していきます。   環境表示のメリットとリスク 自社の商品やサービス、あるいは企業活動について環境表示(自社の製品・サービス、あるいは企業活動が環境に配慮している旨を対外的に訴求する行為)は、いまや特別な取り組みではありません。むしろ、多くの企業にとって当たり前のコミュニケーションになりつつあります。しかし、消費者の解釈と企業側の意図に乖離が生じると、良かれと思った訴求が「誇大表示」や「不透明な主張」と見なされるリスクを孕みます。本章では、環境省の「環境表示に関する消費者の実態」を基に、その正負両面の影響を整理します。 環境表示は消費者の行動に一定の影響を与える  環境省の資料によると、消費者庁の調査において「環境に配慮されたマークのある食品・商品を選ぶ」との回答が23.9%に達しています。 この数値は、環境表示が特定の顧客層における「購買決定要因」として機能していることを表しています。全消費者が環境価値のみで選択するわけではありませんが、機能や価格以外の「付加価値」を補強するエビデンスとして、環境表示を戦略的に組み込む意義は大きいと言えるのではないでしょうか。 出典:環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf リスク:グリーンウォッシュと指摘される可能性 一方で、同資料では「広告やHP、SNS等の情報に接した際、約4割の消費者がグリーンウォッシュの疑念を抱いた経験がある」と報告されています。 環境への関心が高まる一方で、「本当にそうなのか」という目も確実に厳しくなっています。一度でも「実態が伴っていないのではないか」と思われてしまえば、その影響は小さくありません。対象商品の売上だけでなく、企業全体の信頼やESG評価にまで波及する可能性があります。 環境表示は、うまく機能すれば価値を生みますが同時に、グリーンウォッシュというリスクとも隣り合わせです。この両面を理解したうえで設計することが、これからの実務には求められています。 出典:環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf 次章では、こうしたグリーンウォッシュのリスクを構造的に理解し、それを回避するための表示のあり方や是非気を付けていただきたいポイントについて述べます。 グリーンウォッシュとは、無意識な「誇大表現」に注意 そもそも、グリーンウォッシュとは何を指すのでしょうか。なぜ今、それが企業の存続を左右するほどの重大なリスクと見なされているのか。そして、具体的にどのような表現が「リスクの火種」となりやすいのかを整理します。 グリーンウォッシュの定義 「グリーンウォッシュ」とは、環境配慮の実態が伴っていない、あるいは根拠が不十分であるにもかかわらず、消費者に「環境に配慮している」という過度な期待や誤認を与える行為を指します。語源は「Green(環境)」と「Whitewashing(ごまかし)」を組み合わせた造語であり、現代ではESG投資やサステナブル経営の根幹を揺るがす重大な不誠実行為として定義されています。 グリーンウォッシュがここまで問題視されるのは、単に「表現が大げさだから」という理由ではありません。 不正確な環境表示は、消費者の適切な選択を妨げるだけでなく、真剣に取り組む企業が正当に評価されないという不公平を生み出します。さらに、誤認を招く主張が広がれば、市場そのものへの信頼が揺らぎます。その結果、本当に環境性能の高い製品や技術に資金や支持が集まりにくくなり、社会全体の脱炭素の取り組みを遅らせるおそれがあります。つまり、グリーンウォッシュの問題は一企業のリスクにとどまらず、市場の健全性や脱炭素の進展そのものに影響する構造的な課題ともいえます。 リスクを孕む「危ういキーワード」 実務において、特に注意を払うべき表現、キーワードについて紹介します。 ・包括的・抽象的なキーワード(曖昧な定義) について 「環境にやさしい」「グリーン」「エコ」といった言葉は、具体的な対象範囲や根拠が不明瞭です。こうした曖昧な表現は、「何が、どの工程で、どれだけ寄与しているのか」を説明できない場合、即座に不当表示のリスクを負うことになります。下記は各ガイドラインであいまいな表現として例示されている用語です。貴社のPRとして使われているキーワードは含まれていないでしょうか。その際にはどのような意図で使用しているのか説明ができるか改めて確認いただくことを推奨します。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf ・解釈や使用条件が定義されているキーワードについて よく見かけるキーワードについても使用に当たりまずその前提である使用条件を確認しておくことを推奨します。以下各ガイドラインで解釈や使用条件が定義されているキーワードがございます。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf 例えば、ISO14021では「節水」や「再使用可能」「詰替え可能」といった用語についても、具体的な使用条件が定められています。 「節水」と表示する場合は、製品使用時の水消費量を他製品と比較した削減量に基づかなければならず、製造工程での水削減は含めてはならないとされています。また、比較主張である以上、明確な基準と測定方法が求められます。 同様に「再使用可能」や「詰替え可能」といった表示も、単に物理的に可能というだけでは足りません。回収の仕組みや、購入者が実際に再使用・詰替えできる環境が整っていることが条件とされており、利用可能性が限定的である場合には、その旨を明確に伝える必要があります。 グリーンウォッシュの指摘事例から学ぶ グリーンウォッシュと指摘された国内外の事例を3つほどご紹介します。 【事例1】生分解性能を巡る優良誤認(エアガン用BB弾/日本) 製品パッケージに「地球環境にやさしい植物由来素材」「地表落下後に微生物によって水と二酸化炭素に分解される」と記載し、屋外利用の適性を強調して販売。 指摘された問題点: 過度な期待の醸成: 自然界において短期間で完全に分解されるかのような印象を与え、環境負荷を著しく低く見積もらせる表現であった。 合理的な根拠の欠如: 表示の裏付けとなる試験データや資料が提出されず、客観的な妥当性が認められなかった。 【事例2】抽象的なスローガンと事業実態の乖離(航空事業/英国) 航空機の機体とともに宇宙から見た地球の画像を配置し、「世界をつなぐ。その未来を守る」というメッセージを展開。 指摘された問題点: ビジュアルによる誤認: 地球の画像と「未来を守る」という強い文言の組み合わせにより、事業活動全体が環境にポジティブな影響を与えているという過度な認識を消費者に与えた。 技術的実現性の欠如: 排出量の多い航空業界において、当該スローガンを裏付ける商業的に実用可能な技術(SAFの十分な供給体制など)が現状では不十分であると判断された。 【事例3】リサイクル素材の含有率と部位の曖昧さ(スニーカー/フランス) 「プラスチック廃棄物をなくす」というロゴとともに、「50%リサイクル」と大きく掲出。注釈として「アッパー部分の50%に再生材料を使用」と記載。 指摘された問題点: 部位の混同: 一般消費者にとって「アッパー(甲被)」という用語は馴染みが薄く、製品全体が50%リサイクルされていると誤認させるリスクがあった。 絶対的表現の不備: 「プラスチック廃棄物をなくす」という包括的な主張に対し、実際の再生材使用状況が一部に留まっている点が、消費者の貢献実感を不当に高めると見なされた。 引用:環境表示について不適切と指摘された事例(環境省)000345669.pdf 上記の指摘事例に共通する要因を3つのポイントにまとめました。 ********************************************************* 断定的表現と前提条件の不一致: 言葉の強さに対し、適用される条件や限定句が不足している。 対象範囲(スコープ)の誤認: 「製品全体」なのか「一部のパーツ」なのか、範囲が曖昧である。 エビデンスの即時提示不可: 主張を裏付ける客観的・科学的な根拠が整備されていない。 ********************************************************* これらの事例が示すのは、「たとえ事実であっても、伝え方が不誠実であればグリーンウォッシュと見なされる」という厳しい現実です。 特に事例3のように、専門用語(アッパー等)を用いた注釈で免責を図る手法は、現在の規制当局や消費者からは「不誠実な隠蔽」と捉えられる可能性があります。次章では、こうしたリスクを未然に防ぐため、現在急速に進んでいる「規制の強化」と「ガイドラインの改定」について解説します。 EUの厳格な法規制「グリーン移行のための消費者支援指令(2024/825)」とは EUでは、グリーンウォッシュを単なる景品表示の問題ではなく、「循環型経済への移行を阻む不公正な商慣行」と位置付け、法的な規制枠組みを急速に整備しています。その中核となるのが、2024年3月に発効した指令(EU)2024/825です。 本指令は、EU加盟国に対して2026年3月27日までの国内法化を義務付けており、2026年9月27日から全面的に適用される予定です。本規制の特筆すべき点は、「環境に良い」といった主張そのものを一律に禁止するのではなく、「根拠を欠く、または消費者に誤認を与える典型的な表示パターン」を明確に類型化し、法的に禁止した点にあります。 主なポイントを紹介します。 1) 抽象的な環境主張(Generic Environmental Claims)の禁止 「エコ」「グリーン」「環境に優しい」「サステナブル」といった、具体的根拠を伴わない一般的かつ曖昧な表現が原則禁止されます。 実務上の要件: こうした表現を用いる場合、公的に認められた優れた環境性能(LEEDやBREEAMなどの第三者認証の取得、あるいは科学的に立証された定量データ)を同時に提示できなければ、不当表示と見なされます。 2) 「部分」の成果を「全体」へと飛躍させる表現の制限 製品の特定の構成要素や、事業活動の一部のみが環境に配慮されているにもかかわらず、あたかも「製品全体」や「企業全体」が環境優位性を持つかのような印象を与える表示が禁止されます。 実務上の要件: 訴求対象が「パッケージのみ」なのか「原材料の一部」なのか、その適用範囲(スコープ)を明確に区分して表示することが義務付けられます。 3) 排出オフセットに基づく「カーボンニュートラル」主張の制限 温室効果ガス(GHG)の排出オフセット(カーボンクレジットの購入等)のみを根拠に、製品が「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」「環境負荷ゼロ」であると謳うことは、消費者を誤導する慣行として原則禁止されます。 実務上の要件: 排出削減の「努力」と、やむを得ず行った「オフセット」を明確に切り分け、削減実態を伴わない安易なニュートラル宣言を排除する狙いがあります。 4) 将来の環境性能に関する主張への厳格な要件 「〇年までにCO2を〇割削減」「ネットゼロ達成」といった将来目標を対外的に公表する場合、以下の3点が求められます。 ・具体的かつ現実的な実施計画(Implementation Plan) ・測定可能かつ期限付きの中間目標 ・独立した第三者機関による定期的な検証 これらの裏付けがない将来目標は、規制対象になり得ます。 EUで活動する企業はもちろん、日本国内のみで事業を行う企業であっても、この規制は国内ガイドラインの改定に大きな影響を与えます。次章では、こうした国際的な潮流を受け、日本国内の環境表示ガイドラインがどのように変化しようとしているのか、その最新動向を整理します。 日本における環境表示ガイドライン改定の背景と方向性 欧州の厳格な規制強化に呼応するように、日本国内でも「環境表示ガイドライン」の改定が2026年3月下旬公表に向け大詰めを迎えています。(2026年2月時点)本章では、なぜ今アップデートが必要なのか、そして実務者が注視すべき「5つの基本原則」について解説します。 改定の背景 今回の改定の主眼は、環境主張の「拠り所」をより明確にし、実効性を高める点にあります。 現行のガイドライン(2013年改訂)は、国際規格であるISO 14021(自己宣言型環境表示)をベースとした枠組みを採用しており、誤認防止や検証可能性といった基本原則はすでに示されています。しかし近年、環境訴求が企業価値やブランド評価に直結するようになったことに加え、EUをはじめとする海外規制の強化や、デジタル媒体での情報発信の拡大など、表示を取り巻く環境は大きく変化しています。 その結果、従来の枠組みだけでは実務上の解釈に幅が生じやすく、グリーンウォッシュと指摘されるリスクを十分に抑制できないのではないかという議論が高まってきました。今回の改定は、ISO 14021の基本思想(誤認防止・検証可能性・比較の妥当性)を維持しつつ、より具体的で運用可能な指針へと補強することを目的としています。 改定の方向性 2026年2月公表の改定案では、環境表示を設計する際の指針として以下の5項目を提示しています。 1.あいまいな表現や環境主張は行わないこと 「地球にやさしい」といった抽象語を避け、再生材の配合率や削減量など、客観的かつ具体的な事実から訴求を組み立てることが求められます。 2.環境主張の内容に説明文をつけること 短いキャッチコピーが招く誤解を、最小限の補足情報で補完します。「どの部材に」「どのような条件で」といった情報を主張の近くに配置し、情報の非対称性を解消します。 3.製品のライフサイクル全体を考慮する 「特定の工程では良いが、別の工程で著しい環境負荷を与えている」といった、負の側面を隠蔽した訴求を制限します。製品のライフサイクル全体を見渡した「誠実な開示」が前提となります。 4.環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能で、情報にアクセスが可能であること 「言ったなら、説明できる」状態が必須です。物理的なスペースに制約があるパッケージでは、QRコード等を用いて詳細な算定根拠や第三者認証の情報へ誘導する「導線設計」までが表示の一部と見なされます。 5.製品または工程における比較主張はLCA評価、数値などにより適切になされていること 比較主張の妥当性確保 「従来比〇%削減」といった比較訴求を行う際は、LCAに基づいた等価な条件下での算出が不可欠です。数字の強さではなく、その「前提条件の整合性」が信頼の源泉となります。 引用:環境表示ガイドラインの改定要旨(案)について(環境省)000377631.pdf 今回示されている5つの基本項目は、日本国内だけを見据えたものではなく、各国の規制やガイドラインの動向も踏まえた内容になっています。 製品やサービスの販売先が海外に広がっている企業にとっては、国内ルールだけを意識すればよい時代ではありません。各国で強化が進む環境表示規制を踏まえたうえで、表示のあり方を検討することが前提になります。その意味でも、まずは改定予定の国内ガイドラインに沿って環境表示を整備することが、実務上の出発点になると考えられます。 以下表は日本の環境表示ガイドラインの各原則に対する各国ガイドラインの同等の原則を同列に整理したものとなります。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf   グリーンウォッシュの回避対策事例から学ぶ リスクを回避し、環境価値を信頼に変えている企業の取り組みについてもご質問いただくことがありました。企業はどのような対策をしているのでしょうか。事例を紹介します。 事例1:リサイクル素材の特性に関する能動的コミュニケーション リサイクルPET素材特有の「色味の変化」に対し、消費者の品質不安を予測した先回りの対応。 取り組み: ・ 店頭POP等で「再生材利用による色味の変化」を明記し、品質への影響がないことを周知。 ・表示の正確性を担保するため、全社共通の「環境訴求ガイドライン」を策定し、個人の感覚に頼らない審査体制を構築 事例2:独自マークの運用と算定基準の可視化 独自の環境配慮マークを導入するにあたり、その信頼性を客観的に担保。 取り組み: ・ ISO 14021に準拠した独自の運用基準を設定 ・表示の際は「対象範囲(容器か中身か)」や「環境貢献の内容(何を、どうしたか)」を定型化して併記することを徹底 上記の事例に共通しているのは、単に「正しい表示を行う」という点にとどまらず、その表示を支える社内体制まで整備していることです。 具体的には、 ① 根拠となるデータや基準を明確に整備すること(エビデンスの構築) ② 消費者が誤解なく理解できるよう情報の出し方を設計すること(説明導線の設計) ③ 担当者の判断に依存しない運用体制を築くこと(ガバナンスの強化) の3点が挙げられます。 環境表示においては、「どのような主張を行うか」という内容面だけでなく、 その判断基準を社内で共有し、継続的にチェックできる体制を構築することも極めて重要です。属人的な判断に頼らず、組織として一貫性を保てる仕組みを整えることが、結果としてグリーンウォッシュのリスク低減につながります。 まとめ 環境表示は、うまく活用すれば消費者の購買を後押しする大きな力になります。しかし一方で、使い方を誤ればブランドへの信頼を損なう可能性もあります。本コラムで紹介してきた事例や法規制の動向から見えてくるのは、環境表示がもはや単なるイメージづくりではなく、企業としての説明責任そのものだという点です。 最後に、実務で特に意識しておきたいポイントをあらためて整理します。 主張の根拠となるデータや資料をきちんと整え、求められたときにすぐ提示できるようにしておくこと。 誤解が生じる可能性を前提に、パッケージ・店頭・Webなど複数の接点を通じて、必要な情報にたどり着ける設計を行うこと。 担当者任せにせず、全社で共有された表示基準と確認体制を整え、継続的に運用していくこと。 これらを少しずつでも実践していけば、環境表示は「批判を避けるための対策」ではなく、「取引先や消費者の判断を支える信頼できる情報」へと変わっていきます。その積み重ねが、結果として企業価値の向上や、持続可能な社会の実現につながっていくのではないでしょうか。今後予定されているガイドラインの改定にも目を向けつつ、環境表示に取り組んでいくことをおすすめします。本稿が少しでも皆さまの実務の参考になれば幸いです。 参考資料: ・環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf ・環境表示ガイドラインの改訂要旨(案)について(環境省)000377631.pdf ・検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf ・欧州連合(EU)の公式法律データベース(EUR-Lex)Directive - EU - 2024/825 - EN - EUR-Lex (執筆者:小澤) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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ゼロから始めるサプライヤーエンゲージメント

 Scope3カテゴリ1の削減に向けた取り組みとしては、環境負荷の低い製品・サービスを優先的に選択する「グリーン調達」がよく知られています。一方で、もう一段“効く”手段として注目されているのが「サプライヤーエンゲージメント」です。 グリーン調達が“自社の購買行動の工夫”だとすると、サプライヤーエンゲージメントは“サプライヤーと一緒に脱炭素を進める仕組みづくり”です。サプライヤーと対話し、データを整え、改善の余地を見つけ、必要に応じて支援しながら、サプライチェーン全体で排出削減を進めます。これにより、自社だけでは手が届きにくい調達段階の排出にも、現実的にアプローチできます。  また、サプライヤーエンゲージメントを設計するうえでは、国際的な枠組みや先行事例の参照が有効です。特に、SBTiが公表しているガイダンス「Engaging Supply Chains on the Decarbonization Journey(Version 1.1, July 2025)」は、働きかけの考え方や段階的な進め方を整理した実務的な指針として参照されることが多い資料です。  本コラムでは、サプライヤーアンケートで「何を聞くべきか」、アンケート実施後に「どうフォローするべきか」まで、具体的なステップとして整理します。読み終えるころには、サプライヤーエンゲージメントの解像度が一段上がるはずです。 「サプライヤーエンゲージメント」とは何か  サプライヤーエンゲージメントは、ただの“データ回収”でも“お願いごと”でもありません。排出削減の成果をScope3に反映させるために、算定ロジック・データ・関係性をセットで整えていく取り組みです。まずは、考え方の核となるポイントを押さえます。  サプライヤー側で排出が下がったとしても、その効果が自動的に自社のScope3削減として表れるわけではありません。Scope3削減を実現するには、自社の算定ロジックを理解したうえで、サプライヤーの改善が適切に反映されるよう、算定方法やデータの取り扱いも段階的に整備していく必要があります。 サプライヤーエンゲージメントの考え方  サプライヤーエンゲージメントとは、原材料や製品・サービスを提供してくれているサプライヤーの皆さまと対話し、協力しながら排出量の把握や削減を進めていく取り組みです。  特に重要なのが、Scope3の中でも排出量が大きくなりやすいカテゴリ1(購入した製品・サービスの排出)です。カテゴリ1の排出は、自社の工場やオフィスではなく、サプライヤーの製造工程やエネルギー使用によって発生しています。そのため、自社だけで削減しようとしても限界が出やすいのが実情です。  ここで大切なのは、「一方的にお願いする」のではなく、同じゴールを共有しながら進め方を一緒につくることです。たとえば、データの定義を揃える、回答負荷を下げる、必要な支援策を用意する、こうした工夫が、協働を現実のものにします。 一次データを使うということ Scope3算定を始めたばかりの段階では、多くの企業が以下のような二次データで排出係数を設定しています。 業界平均値 国別平均値 LCAデータベースの代表値 これは悪いことではなく、初期段階では現実的で有効な方法です。ただし二次データは平均値なので、実際のサプライヤーの状況とズレる可能性があります。 同じ製品であっても、 使用電力が再エネ中心かどうか 設備の新しさ 製造プロセスの違い によって、実際の排出量は大きく変わります。そこで、サプライヤーから、 実際のエネルギー使用量 生産量(可能なら製品別) 排出量の算定結果(Scope1/2/3など) といった一次データ(実測・実態に基づくデータ)を共有してもらうことで、「平均的な排出係数」ではなく、そのサプライヤーに即した排出係数を使えるようになります。これが一次データ活用の基本です。 活動量ではなく排出係数そのものを削減する Scope3排出量を減らす方法には、大きく分けて2つあります。 1.活動量(購買量・購買金額・輸送量など)を減らす 2.排出係数(同じ活動量あたりの排出)を下げる 多くの企業では、金額ベースの経理データや重量・体積などの購買データを活動量として、産業連関表やAIST-IDEA等の二次データに基づく排出係数を掛け合わせる方法を採用しています。 ただし、二次データの排出係数は毎年勝手に下がるものではありません。この前提のまま削減目標だけを追うと、「活動量を減らす=事業規模を縮小する」方向に引っ張られてしまうケースも起こり得ます。 サプライヤーエンゲージメントの価値は、一次データを起点に、サプライヤーの改善(再エネ化、効率化、工程改善など)を“排出係数の低下”として捉え、Scope3算定にも反映しやすくするところにあります。事業と削減の両立を現実にするには、ここが重要な分岐点です。  すべてを一次データにすることは現実的ではない 一次データは強力ですが、すべてを一次データに置き換えるのは現実的ではありません。初年度から多くのサプライヤーに詳細データを求めれば、相手の負担も社内運用の負担も大きく、継続できなくなるリスクがあります。 そこで、段階的に反映する考え方が必要です。一次データをScope3算定に取り込む方法として、代表的に「ハイブリッド法」と「全体換算法」があります。 ハイブリッド法:一次データが取得できた部分だけ二次データから置き換え、それ以外は二次データを継続利用する方法。考え方がシンプルで、導入しやすいのが利点です。 全体換算法:一次データが得られた範囲をもとに、全体へ引き延ばして算定する方法。二次データを使わずに算定できる点はメリットですが、一次データの取得割合が低いと実態とかけ離れる可能性があります。 自社の目的(精緻化か、削減管理か、開示対応か)と取得状況を踏まえ、「まずはハイブリッドで進め、成熟に応じて拡張する」といった現実的な設計が望まれます。 「サプライヤーエンゲージメント」のステップ ここからは実務編です。サプライヤーエンゲージメントは、思いつきでアンケートを配るより、先に“勝ち筋”を決めた方がうまくいきます。ポイントは、何のために、誰に、何を、どう聞き、どう返すかを最初に設計することです。 どんなデータがほしいのか  サプライヤーエンゲージメントの目的は、Scope3算定や削減管理に活用できる「信頼性のあるデータ」を得て、削減行動につなげることです。そのため、収集対象となるデータの範囲と粒度を最初に整理しておきます。 実務上、まず押さえたいのは以下です。 サプライヤーのScope1・Scope2排出量(年度、境界、算定方法を含む) 可能なら、サプライヤーのScope3(上流側)の把握状況(カテゴリや範囲) 算定から除外している排出源の有無、前提条件(拠点範囲、連結範囲など) 原単位情報(売上高当たり、製品当たり等) 第三者検証の有無、保証範囲(どの範囲が保証対象か) この一式が揃うと、「数値の大小」だけでなく、「なぜその数値なのか」「改善の余地はどこか」まで見通しがよくなります。 また、一次データには大きく「組織ベース」と「製品ベース」の2つがあります。 組織ベース:サプライヤーのScope1・2(可能なら上流Scope3も含む)を総売上などで割り、サプライヤー固有の排出係数を算出。購買金額に掛けてカテゴリ1を算定します。サプライヤー側の負担が比較的低く、進めやすい一方、製品ごとの差は表現しにくい。 製品ベース:製品ごとのCFP(カーボンフットプリント)を用いて算定。精緻ですが、サプライヤー側負荷が大きく、対応できる企業が限られることがあります。 両者は排他的ではなく、成熟度に応じて併用も可能です。本記事では、取り組み初期〜中期でも現実的に進めやすい「組織ベースでの一次データ」を中心に説明します。 どんなサプライヤーにお願いするのか  取引先すべてに一律で依頼するのは現実的ではありません。まずは優先度の高いサプライヤーから確実に始めるのが定石です。代表的な選び方は次の通りです。 カテゴリ1排出量(影響度)が大きいサプライヤーを優先 自社Scope3に対する寄与が大きいほど、効果の説明もしやすく、社内の納得も取りやすいです。 業種・カテゴリでセグメントを切り、偏りを避ける 特定業種に偏ると、取得データが特定の業界になりがちです。セグメントごとに一定数を選ぶと、分析(セグメント平均・成熟度比較)にも使いやすくなります。 将来重要になる調達先を早めに巻き込む 今は排出量が小さくても、今後の調達計画で重要になるなら、早い段階から関係性をつくっておくと後が楽です。 脱炭素の成熟度/リスクも加味する サステナビリティ報告書、CDPスコア、第三者認証の状況などから、一定の見立てができます。成熟度が高い企業は早期に良いデータが取れる可能性があり、成熟度が低い企業は支援が必要だが改善余地が大きい可能性があります。 実務では、これらを組み合わせて「上位影響度+将来重要+数社の先進企業(ベンチマーク)」のように設計すると進めやすいです。 どんなアンケートを作成するのか データ収集の方法は大きく2つです。 標準化ツールを活用する(例:CDPサプライチェーン、EcoVadis等) 既に回答経験があるサプライヤーも多く、設計・運用コストを抑えやすい点がメリット。一方で、自社の目的に完全一致しない、質問が広くて回答負荷が高い、といった課題もあります。 自社独自アンケートを作成する 目的に合わせて設計でき、必要な情報に絞れるのがメリット。一方で、設計力と運用力(回収、問い合わせ対応、妥当性確認)が求められます。 以下のような要素をアンケートに含めると良いですが、すべてのデータを取得することは困難です。優先度を設定し、必須質問と任意質問を分けて設計するとスムーズでしょう。 対象年度 連結範囲/組織境界(拠点・子会社含むか) Scope1排出量(数値、算定方法) Scope2排出量(ロケーション/マーケットの扱い、数値) 売上高(排出係数換算に使う場合) 第三者検証の有無(あれば範囲も) 使用電力の内訳(再エネ比率など) 主要な削減施策(再エネ調達、設備更新等) 排出原単位(売上高当たり等) 算定から除外した排出源の有無 上流Scope3の把握状況(カテゴリ範囲) 製品CFPの有無、算定範囲、第三者保証の有無 こうして階層化すると、サプライヤーの成熟度の違いを吸収でき、回収率を落としにくくなります。また、こうした排出量情報の提示には、生産量や売上などの数字を推測される可能性があるため、慎重になるサプライヤーがいることも事実です。独自アンケートで収集する場合は、そういった点への配慮もしっかりしておく必要があるでしょう。 アンケートの実施 実施フェーズで効くのは、「社内の段取り」と「相手にとっての分かりやすさ」です。 1)社内合意を先に取る サプライヤーエンゲージメントはサステナ担当だけでは回りません。購買・調達、会計・財務、必要に応じて経営層も含め、次を合意しておきます。 取り組む意義(何のために、いつまでに、何を得たいか) サプライヤーの選定方針 回収〜妥当性確認〜反映までの役割分担 サプライヤーとのコミュニケーション体制(窓口、FAQ、説明会) 2)アンケート期間中は伴走が重要 未提出企業へのリマインド、問い合わせ対応、説明会など、現場対応が発生します。調達担当とサステナ担当が連携し、GHGに詳しくない担当者でも迷わない導線(説明資料、入力例、問い合わせ先)を用意するとスムーズです。 3)回収後に価値が出る(ここが本番) アンケートは取って終わりではありません。回収後に、 データの妥当性確認 結果のフィードバック 次年度に向けた改善ポイントの提示 を回すことで、継続的な削減につながります。 支援策としては、資料提供に加え、集合説明会、個別支援、eラーニングなどを組み合わせると効果的です。さらに、毎年進捗を見直し、Scope3構成変化を踏まえて重点サプライヤーを更新していくことで、取り組みが形骸化しにくくなります。 「サプライヤーエンゲージメント」で気を付けるべきポイント  サプライヤーエンゲージメントがうまくいかない典型は、だいたい同じところでつまずきます。ここでは、実務で起きがちな“落とし穴”を先回りして潰します。 答えやすさ・データの準備しやすさは注意!  サプライヤー側は、複数社から同様の依頼を受けていることが多く、アンケートが重なると負担が急増します。取組状況や担当者の体制も会社によってさまざまです。だからこそ、アンケートは「汎用的で、工数を抑えられる設計」が重要です。  既存のデータ収集システム(CDPサプライチェーン、EcoVadis等)を使うのも一つの手です。ただし、標準化された質問は広範になりやすく、自社目的に合わない項目や、回答負荷が高くなる項目が含まれることもあります。  最終的には、取りこぼしのない“最小限”と、相手の負担を増やしすぎない“現実性”のバランスです。入力例・単位・境界条件の説明を丁寧にすると、回収率とデータ品質が同時に上がります。 アンケートを取って終わり、ではないので注意!  一次データを集めること自体はスタート地点です。サプライヤーエンゲージメントの目的は、協働して削減を目指すことにあります。来年、再来年と継続してこそ価値が出ます。  次年度以降もスムーズにデータ提供と改善の議論ができるよう、関係性を整えることが大切です。可能であれば訪問やオンライン面談で、取り組み状況や課題をヒアリングすると、次の打ち手が具体化します。  また、サプライヤーの取り組みレベルをスコア化し、進捗を体系的に管理するのも有効です。トレーニングの優先順位付けや、支援メニューの設計がやりやすくなります。表彰や評価シートへの反映など“インセンティブ”設計も重要です。 データの信ぴょう性・妥当性には注意!  データ収集で重要なのは、集めたデータの信ぴょう性・妥当性の確認です。サプライヤーが時間をかけて回答してくれたとしても、単位違い、入力ミス、境界条件の取り違えがあると、現実的ではない排出係数になってしまうことがあります。 最低限、次をチェックすると事故が減ります。 単位(t-CO2e、kg-CO2e、MWh、GJなど)の整合 Scope2のロケーション/マーケットの扱い 対象年度・連結範囲・拠点範囲の整合 異常値(急増急減)の理由確認  異常値を見つけた場合は、いきなり「間違いですか?」よりも、「想定される原因(単位・範囲・年度差など)」を添えて再確認を依頼すると、コミュニケーションがスムーズです。 まとめ  脱炭素経営は、Scope1,2,3を算定し、目標を設定したあとのアクションが本番です。その中でも多くの企業にとって排出割合の大部分を占めるサプライヤーの排出量を削減することは、サプライチェーンの脱炭素化の肝です。  サプライヤーエンゲージメントは自社だけでは完結しない、サプライヤーを巻き込む取り組みであるため、実施するハードルが高いと感じる担当者様も多いことでしょう。当社はそうした企業の皆さまの伴走支援を行っています。お手伝いの方法は企業様のご要望によりそれぞれです。フルパッケージでご相談いただき、アンケート作成から回収後の分析までずっとお手伝いさせていただくケースもあります。一方で、アンケート質問内容だけ、仕組みづくりだけ、という部分的なご相談をすることで、次年度以降は自走していくという使い方もよくあるおすすめコースです。  「何から始めればいいかわからない」、「やってみたけれどもこれでいいのかわからない」など、お困りごとがございましたらぜひ一度ご相談ください。 (執筆者:久保・浦越)   【ウェイストボックスの関連サービス】 ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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CDP2026始動とCDPのこれから。企業はどうCDPを活用するか

 CDP2025のスコアが公開されました。回答企業の支援を行う弊社でも、回答提出からスコア発表までの時期は毎年そわそわ落ち着かない日々が続きます。回答企業のご担当者におかれましてはなおのことと思います。改めてCDP2025のご対応、大変お疲れ様でした。  さて、間髪を入れずにCDP2026が始動します。年末に2026年質問書の変更の方向性とスケジュールが発表されていますのでご紹介します。    また、CDPは2025年12月で25周年を迎えたということです。25年前に始まり環境情報開示をニッチから主流に押し上げグローバルでの浸透を成し遂げたCDP。CDPのこれまでの歩みから、今後向かう道、そして企業がCDPをどう活用できるかについて弊社が感じていることをまとめてみました。 CDP2026始動! CDP2026質問書変更の方向性 2025年12月に公開された「CDP2026情報開示サイクルに向けた準備」によると、2026年質問書では「データと行動の連携強化」を目的に、(1)自然分野の対象範囲拡大、(2)必須要件・スコアリングの改定、(3)国際基準との整合強化、(4)回答業務の簡素化が予定されています。さらなる詳細は新年の早い時期に発表予定となっています。 (1)自然分野の対象範囲拡大:オーシャンモジュール追加、フォレスト質問強化、中小企業(SME)版フォレスト・水セキュリティ追加、適応策とレジリエンスに関するデータ収集(既存質問を改良) 自然分野の新たな対象分野として、オーシャン(海洋)が新たなモジュールとして加わります。海洋は地表の70%、生命体が生存できるエリアでは99%を占め、全生物の80%が生息すると言います。またCO2や熱を吸収することで気候を調整し、海洋関連産業を通じ経済にも寄与しています。しかしその海洋は生息地破壊や乱獲等による直接的影響や、気候変動に起因する温度上昇や酸性化といった間接的影響により、生物多様性損失の危機に直面しています。また重金属や栄養素、プラスチック等の汚染の影響も受けています。オーシャンモジュールはフォレストや水セキュリティと同様、関連事業を行う企業が対象となります。オーシャンに関連する業種として想定されているものには、海産物・海上輸送・造船や海洋建造物等の直接影響を与える業種だけでなく、農業・食品、化学等海洋に影響を与える陸上事業、また海洋資源を原料としたり、海底ケーブルによる通信網や海水を冷却水に使用したりするデータセンター等バリューチェーン上で影響を与える業種も含まれます(但し2026はパイロットで対象は限定的になる予定の模様)。海洋の追加に加え、フォレスト質問の強化により陸上に関するデータ収集も強化され、またSME版フォレスト、水セキュリティが追加され回答対象者も広がる予定です。もう一点、物理的リスクへの備えや対応状況に関するデータのニーズを受け、適応策とレジリエンスに関してより多くのデータが得られるよう既存質問の一部が改良されるということです。 (2)必須要件・スコアリング改定 必須要件は、質問書変更を反映するため、加えてすべてのスコアレベルで評価基準と整合させるために限定的な変更を行う予定となっています。 またスコアリングについて、スコアリング対象分野は2025までと同じ、気候変動・フォレスト・水セキュリティで、プラスチック・生物多様性・オーシャンはスコアリング対象外です。フォレストでは2025まではスコアリング対象外だったカカオ・コーヒー・天然ゴムがスコアリング対象に変更となります。これにより従来のスコアリング対象である木材・パーム油・畜牛品、大豆に上記3つが加わり、7つの重要コモディティ(農産物)全てがスコアリング対象となります。加えてSME版のスコアリング基準に気候変動のリーダーシップレベルの評価が加わり、これまでは最高評価Bだったものが変わります。 (3)国際基準との整合強化 CDPは国際基準や主要国の情報開示規制との整合を進めてきていますが、2026質問書では、TNFD提言への完全整合(2025質問書で部分的には整合済)、GRI303:水と廃水基準、GHGプロトコル土地セクター・炭素ガイダンスへの整合のための質問変更が予定されています。なお、このように整合を進めている背景には、CDPが掲げる「Write once, read many(一度の報告が、何度も活用できる)」アプローチがあります。CDPへの開示データが様々な要請への回答、規制への対応に活用されることで、回答企業にとっては負担が軽減され、比較可能性も高まります。 (4)回答業務の簡素化:質問構成の洗練、データ取込機能強化、ガイダンスの更新、AIアシスタント(完成時期は未定) 質問書設定の際に自社に関連性の高い項目について開示を行うかどうかを選択できるより洗練された仕組み、また既存の過去回答がコピーされる機能に加えて企業が直接アップロードできる機能の追加、より読みやすい回答ガイダンスへの更新が準備されているということです。また完成時期は未定ですが、リアルタイムガイダンス、ナビゲーション支援、文脈に応じた説明を提供するAIアシスタントの導入準備も進んでいるということです。 CDP2026スケジュール(2026年1月時点) 現在公開されているスケジュールは以下の通りです。 2025とほぼ同じスケジュールで、スコア発表・スコア公開が若干早まっています。(2025年はスコア発表が12/10、スコア公開が1/8) 4月20日週 質問書公開 4月27日週 ガイダンス、スコアリング基準の公開         回答要請機関向けポータルオープン 6月15日週 回答企業向けポータルオープン 9月14日週 スコアリング対象回答提出期限 10月26日週 回答または修正提出期限 11月30日週 スコア発表、スコア公開   CDP25周年-これまでの歩みとこれから 企業はCDPをどう活用するか CDP25周年-これまでの歩みとこれから CDPは2025年12月で25周年を迎えたということです。2000年に英国で誕生したNPOですが、その始まりは「故Tessa Tennant氏(責任ある投資:SRIのパイオニア)、Paul Dickinson氏(現CDPストラテジックアドバイザー)、Jeremy Smith氏(現Energy Impact Partners, Rede Partnersシニアアドバイザー)の三人が、現在も続く『機関投資家に代わり企業から環境データを収集する』というアイディアをダウニング街10番地(首相官邸)に持ち込んだところから」だそうです。 2002年の最初の質問書はA4用紙1枚に質問が7問だけで、印刷し郵送で送付されたと言います。2002年当時の署名機関投資家は35名、FT500の500社に回答要請し、回答した企業は245社だったということです。2006年の責任投資原則(PRI)の誕生、ESG投資の高まり等とともに年々拡大を続け、2025年には世界の運用資産の4分の1に相当する640を超える機関投資家が署名機関となり、世界で22,100社を超える企業(世界の時価総額の半分以上)が回答しています。このように、今日CDPはESG情報開示のE(環境)の分野のグローバルスタンダードとしての地位を確立しています。 日本においては2006年にS&P150の150社が対象となり、2009年にはさらに500社に拡大、2011年以降FTSEジャパン500が対象となっています。その後、2022年からプライム市場上場企業を対象として一気に1,800社近くに増えました。2024年からは非上場も含む売上高一定以上の企業を対象として3,000社以上にさらに広がっています。 旧名Carbon Disclosure Projectの通り、当初は気候変動のみを対象に始まりましたが、2009年に水セキュリティ、2011年にフォレストも対象に加わりました。そして2022年には生物多様性、2023年にはプラスチックと環境分野の対象範囲も広がっています。 Japan Disclosure Webinars 2025: Introduction to Disclosing through CDP   CDPの2021-2025戦略を振り返ると、この5年間CDPが戦略に忠実に歩みを進めてきていることがわかります。2021-2025戦略では、2000年からの20年で環境情報開示をニッチから主流に引き上げたものの、「依然として開示ができていない企業が多く、また開示できている場合も、開示のみに留まらず説明責任や変革につなげていく必要がある」「気候変動はチャレンジの一部であり、持続可能な発展のためには気候危機と自然危機を同時解決する必要がある」という課題認識から、より広範なステークホルダーが参加し環境問題に関する透明性を大幅に向上させ、自然に与える影響を包括的かつ総合的に把握できる体制の構築を目指し、8つの戦略を掲げていました。 ①プラネタリーバウンダリーへの拡大:気候・土地・適応・生物多様性・廃棄物・水・海洋・淡水・森林・食料 ②科学に基づく移行の追跡:コミットメントの追跡(具体的計画を伴わせ進捗を追跡) ③新たなアクターへの拡大:より広範な上場・非上場企業への対象拡大 ④政策の野心を高めるための行動の促進 ⑤基準の大規模実装のための利用 ⑥地域に根差した行動の促進拡大 ⑦新たな技術の活用による透明性向上、複雑性削減 ⑧社会・ガバナンス指標の強化  *CDP_STRATEGY_2021-2025.pdf ①対象分野拡大は2026のオーシャン追加によって完成に近づきつつあり、残された大きなテーマは廃棄物と言えそうです。②コミットメントの追跡は移行計画の開示や進捗の開示といった質問に反映されていると言えますが、気候と自然のタイムリミットが近づくにつれより一層重視されるポイントとなっていくと言えそうです。 2025年1月、CDPは25周年の節目に新しいテーマとして「Earth Positive Economics(アースポジティブな経済)」を発表しています。アースポジティブとは「事業目標の達成と並行して、環境を保護・回復し、地球への悪影響を低減するような方法でアクションを起こすこと、また、他社にもアクションを促すことを意味します。アースポジティブな意思決定とは、地球の最善の利益を念頭に置いてアクションすることです。それは考え方であると同時にアクションへの指針でもあります」と定義し、アースポジティブな経済とは「地球の健全性が前提となる経済」と説明しています。2025までに築かれた透明性を土台に、2026からはデータに基づき意思決定しアクションを起こすことをより一層促す意思表明と受け取れます。 企業はCDPをどう活用するか  まず、CDP質問書は環境情報開示のグローバルスタンダードであり、回答することで投資家等が求める透明性の高い開示が可能となり、投資家・顧客コミュニケーションの一手段となります。そして、回答は評価・スコア付けされ投資家・購買企業に提供され、投資家は投融資の、購買企業はサプライヤー管理の意思決定の参考としています。よって、回答し、スコア向上を目指すことは、資本へのアクセス・ビジネス機会獲得につながる可能性があります。資本へのアクセスの例としては、CDPのスコアに基づいて特定の投資/融資商品が利用できたり、優遇金利が利用できたりというものがあります。国内でもCDPスコアをKPIとするサステナビリティリンクローン等の事例が見られるようになってきました。ビジネス機会の例としては、環境対応を調達要件に含めたり、サプライヤー選定の参考とする購買企業が増えてきて、CDPの回答状況やスコアが新たな取引の獲得や取引の継続につながる場合があるというものがあります。国内でもサプライヤーエンゲージメントが徐々に広がりを見せています。エンゲージメントの始めのステップではデータ収集をすることが多いですが、その中でサプライヤーのデータを比較して見始めている企業は増えていると感じています。Scope3を削減したり、サプライチェーン上のリスク管理をしていかなければならない購買企業にとっては、CDPに回答し高スコアを獲得していることは取引相手の魅力の一つと言えます。新規取引や取引継続といった意思決定にまではまだ結びついていなかったとしても、そのように好印象を与えられている可能性はあると考えています。 加えて、CDP質問書は「規制への準備」としても活用できます。日本のSSBJやEUのESRS等、環境を含む非財務情報の開示基準の整備と開示の規制化が進んでいます。CDP質問書はTCFD、TNFD等のフレームワーク、ISSB等の開示基準、主要国の開示規制との整合も進めていますので、CDP質問書に回答することは主要な基準や規制に対応した開示の準備にもなります。弊社では基準や規制の意図が良く理解できない時に、対応するCDP質問書やガイダンスを見て理解につながったことがあります。CDP質問書はガイダンスが豊富で、また各質問間のつながりを説明してくれている部分もあるため、このように基準や規制への深い理解にも役立つ場面があるのではないかと感じています。今後さらに規制を導入する地域が増え、また規制の対象範囲となる環境分野も広がっていく可能性があり、その中でCDP質問書への回答は心強い準備になると考えています。 最後に、これまでの活用方法は外部開示への活用方法でしたが、CDPの回答分析結果によると、高スコアを獲得しているリーダー企業は、CDP開示を内部での計画やアクションにつなげ、排出削減等の取組を進めていると言います。CDP質問書は毎年最新の科学的知見、最新の主要な基準・フレームワーク、そしてグローバルのベストプラクティスを参考にして更新されています。毎年の質問変更への対応は大変ですが、それを追っていくことで、グローバルで重要視され始めている取組や求められているレベル等、環境対応の最前線を網羅して追っていくことができる、いわば最新の「環境対応ガイド」であると感じています。気候変動だけでも最新動向を追い続けるのは大変なことですが、環境分野のカバー範囲が広がり、環境分野を広く網羅して最新動向を押さえられることはとても価値があることと思います。また、CDPの質問書は「ガバナンス」→「リスク管理」→「戦略への落とし込み(計画)」→「実行と進捗管理」といった、企業がとるべきステップに沿っています。質問書自体が各分野で企業が対応すべきロードマップを示していると言えます。何から始めればよいかわからないという企業も、CDP質問書を参考にすると対応すべきステップが見えてくることがあります。各ステップの中でのベストプラクティスも更新されていくため、それを自社の次の計画やアクションに活かしていくことができる可能性があります。これからは特に「戦略への落とし込み(計画)」、「実行と進捗管理」のステップが重要であり、CDPの新たな意思表明の通り、この分野での示唆を多く得られることを期待しています。 弊社がCDP支援を本格的に開始したのは2018年でした。初めてCDPのスキームを知ったとき、弊社も掲げている「環境と経済の両立」を実現できる大発明なのではないかととても感動したのを覚えています。そこから8年、弊社もまさにCDPをガイドとして知見を積んできました。今後さらに多くの日本企業がCDP質問書への回答とともに、CDPをガイドとして環境とビジネスの両立・相乗効果を力強く進めていっていただきたい、また弊社はそのような企業を力強く支援していきたいと改めて誓った2026年の年明けでした。 出典 *Preparing_for_Disclosure_Cycle_2026__Japanese_version_.pdf CDP Worldwide-Japan「CDP回答をアクションに生かす~2026年サイクルの方向性~」 CDP2026開示サイクル - CDP Japan Disclosure Webinars 2025: Introduction to Disclosing through CDP *CDP_STRATEGY_2021-2025.pdf 透明性からアクションへ:CDP がアースポジティブな未来に向けてブランドを刷新 - CDP Transforming Markets: The Rise of Earth-Positive Economics - CDP 環境データを開示する理由 - CDP (執筆者:山本(裕)) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・CDP質問書、TCFD・TNFD開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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