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2℃目標の達成とCCS(BECCS)技術

 パリ協定で、産業革命以前と比較して世界平均気温の上昇を2℃未満に抑える、いわゆる「2℃目標」が合意され、各国が目標達成に向け、取り組んでいます。IPCCは第5次報告書の中で、目標達成のためには、CO2排出量を今世紀の後半には世界全体でマイナスとする、ネガティブ・エミッション(炭素固定・炭素除去)シナリオを達成する必要があることを報告しています。

今回は、ネガティブ・エミッション実現に大きく貢献し得るとされるCCS技術についてご紹介いたします。

 

 「CCS」とは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれます。火力発電所等などから出る排気ガスを大気に放出せず、排ガスからCO2を分離して集め、高い圧力をかけることでCO2を地中深くの水を含んだ地層へ送り貯留するものです。この地層の上には密度が高く固い地層があるため貯留されたCO2は漏れ出さないと言われます。

 CO2の隔離方法は、アルカリ性溶液にCO2を吸収させることで他の成分と分離する「化学吸収法」が多く用いられますが、多孔質の個体に吸着させたり、凝縮温度の違いによって分離する方法などもあります。

またCO2の貯留方法は、主に帯水層貯留とEOR(石油増進回収)があります。帯水層貯留は、CO2をタンカーやパイプラインで輸送して、地下の帯水層へ圧入し、貯留します。帯水層とは、粒子間の空隙が大きい砂岩等からなり、水または塩水で飽和されている地層のことです。日本での実施に当たって想定される方法です。

EORは、地下の油層にCO2を圧入する方法です。原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留します。石油の増産につながり投資費用の回収が期待できます。2018年現在、世界には18の大規模プロジェクトが稼働しており、その他5施設が建設中、20施設が開発段階にあります。その大半がEORです。

 

 国際エネルギー機関(IEA)の報告書(※1)によると、「2℃⽬標」を達成するため、2060年までの累積CO2削減量の合計のうち14%をCCSが担うことが期待されています。米国、カナダ、欧州諸国の2050年に向けた長期戦略においても、各国とも削減目標達成の手段としてCCSを位置づけています。しかし「2℃目標」は、現状から見ても、達成が非常に厳しい目標であるため、その達成にはCO2排出量をマイナスにするような技術が必要とされています。その一つとしてBECCSが注目を集めています。

 

 BECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage)とは、CCSにバイオエネルギー利用を組み合わせてCO2を回収する技術です。

バイオマスを燃焼または発酵させることでCO2が排出されますが、そこに含まれる炭素は光合成で大気中から吸収したCO2なので、バイオマスを燃焼または発酵させてエネルギー利用をしても、大気中のCO2は増加しません(カーボン・ニュートラル)。さらにCCSを組み合わせることで、CO2を回収・貯留するため、CO2排出量は差し引き正味で負になり、「ネガティブ・エミッション」を達成することができます。

 

 BECCSに用いるバイオマスとしては様々なものが利用可能です。主に、食用作物による第1世代バイオエネルギー作物(サトウキビ、トウモロコシなど)、非食用である第2世代バイオエネルギー作物(ススキ、ナンヨウアブラギリ、ポプラなど)、廃棄物(廃食用油、食品廃材、下水汚泥)、農作物の残渣(稲わら、トウモロコシの茎など)、木材及び林業での残渣、藻類(研究開発中)などがあります。バイオマスエネルギーの供給量は、将来的には増加すると考えられていますが、BECCSに利用できるバイオマス量は、食料需給との関係やエネルギー効率などの様々な要因によって制約を受けます。

 

 現在、世界で5つのBECCSプロジェクトが稼働中です。合わせると年間約150万トンのCO2を貯留しています。

大規模(※2)プロジェクトであるイリノイCCSプロジェクトは、ADM社(Archer Daniels Midland)により米国イリノイ州Decaturにおいて実施されています。トウモロコシからエタノールを製造する工場において生じるCO2を分離し、発酵過程で回収します。回収能力は、年間100万トン。回収されたCO2はパイプラインで輸送され地下へ注入されます。

残り4つのプロジェクトは、小規模エタノール製造工場で実施されていて、大半がEORに活用されます。(Kansas Arkalon(米):回収能力200,000トン/年(EOR)、Bonanza CCS(米):回収能力100,000トン/年(EOR)、Husky Energy CO2 injection(カナダ):回収能力250トン/年(EOR)など)

 

 BECCSの可能性への期待の一方で、課題も多くあります。例えば、バイオエネルギー大規模利用に関しては、土地利用、食糧競合などの持続可能性に関するリスクがあります。また、バイオエネルギー生成時の電力・熱等の利用や原料の収集活動によって化石燃料が消費され、CO2が発生する場合もあるため、カーボン・ニュートラルに対するライフサイクル的視点も重要となります。さらに、CCS有望貯留地選定に対する地域住民の理解や長期にわたるCO2貯留のリスクモニタリングにも留意して実施する必要があります。

 また、気候変動に対し、どれだけ寄与するか不確実な部分も多くあります。GCCSI(※3)の報告書では、BECCSのような技術を排出削減努力に取って代わるものとしてではなく、あくまでもそれを補うものとして捉えるべきだと示唆されています。

 従って、「まずCO2排出削減努力によりゼロ排出に近づける」ことが前提にあることを忘れず、削減努力を継続していく必要があるのだと思います。

 

※1 IEA EPT(Energy Technology Perspectives)2017に基づく。

※2 Global CCS Institute の定義によると大規模とは産業用施設で年間400,000t-CO2以上、発電施設で年間800,000t-CO2の回収と貯留があること。

※3 Global CCS Institute:オーストラリア政府が資金を提供して設立

 

<参考>

Global CCS Institute

https://www.globalccsinstitute.com/resources/

 

2019 PERSPECTIVE BIOENERGY AND CARBON CAPTURE AND STORAGE(Global CCS Institute)

https://www.globalccsinstitute.com/wp-content/uploads/2019/03/BECCS-Perspective_FINAL_PDF.pdf

 

ネガティブ・エミッションの達成にむけた全球炭素管理(国立環境研究所)

https://www.nies.go.jp/kanko/news/34/34-4/34-4-04.html

 

II-3 ネガティブ・エミッション(国立環境研究所)

http://www.nies.go.jp/ica-rus/report/detail_2014/ica-rus_report_2014_detail_negative_emission.pdf

 

IPCC第5次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約(文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省)

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_spmj.pdf

 

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SBTスコープ3削減におけるエンゲージメントのヒント

 SBTを申請する際には、目標の種類や水準、基準年排出量の情報に加え、スコープ1,2の削減計画、スコープ3の削減計画をSubmission Formに記載する必要があります。また、弊社の支援先の企業様からは、「社内的に一定程度の削減計画や見通しが立っていないとSBT申請を行うことができない」という声もよくお聞きします。今回のコラムでは、SBT申請でどの程度の削減計画が必要なのか、また削減手段の1つであるエンゲージメント活動を行う上で活用できるSBTリソースについてお伝えします。 SBT申請の際に要求される削減計画のレベル  SBT申請にこれから取り組まれる企業様の中には、「完璧な削減計画がない限り、SBTの認定を受けることができない」と誤解をされている場合があります。実際には「完璧な削減計画」は要求されません。それは、もともとSBTが「野心的」な目標であり、多くの企業にとってかなり難易度の高い水準であることが前提であるためです。Submission Formでは、目標を達成するために計画されている主な対策を簡潔に説明する(briefly describe the main measures)形での回答が要求されており、自由記述となっています。 総量削減とエンゲージメント  スコープ1,2はともかく、スコープ3の削減にはどのように取り組めばよいのかが悩みの種です。スコープ3の目標としては、多くの企業が総量削減目標かエンゲージメント目標のいずれか、または組み合わせで目標設定をしています。よく相談を受けるのが、「総量削減の手段の1つとしてエンゲージメントを行うべきか?」というものです。スコープ3は自社の事業活動に関連する他社の排出なので、自社のサプライヤー側や顧客側で削減が行われることで、自社にとってのスコープ3削減につながることになります。その観点から、総量削減の手段としてエンゲージメント活動を行うことは、有効な削減策の1つとなります。 エンゲージメントとは?  SBTにおける「エンゲージメント目標」というのは、自社のサプライヤーあるいは顧客に、SBT水準に沿った科学的根拠に基づく排出削減目標を持たせる目標です。一方、「エンゲージメント活動」は、以下のような幅広い活動が含まれます。 ・排出削減目標を持たせる。 ・気候関連の情報収集を行う。 ・気候変動の教育を通じてベストプラクティスを提供する。 ・削減に貢献した場合にインセンティブを付与する。 SBTのエンゲージメント関連リソース①サプライヤーエンゲージメントガイダンス  上述の通り、SBTにおけるスコープ3の目標の選択肢の1つはエンゲージメント目標です。これを背景に、SBTではサプライヤーエンゲージメントの進め方に関するガイダンスを提供しています。(参考リンク:New Supplier Engagement Guidance: Unlocking the Power of Supply Chains for Decarbonization - Science Based Targets Initiative)このガイダンスの中では、対象サプライヤーの選定方法、社内関係者の巻き込み方、サプライヤーとのコミュニケーションの内容、進捗状況の追跡、サプライヤーへのフォローアップやインセンティブなど、エンゲージメント活動を成功させるためのヒントが記載されています。コンパクトに要点が凝縮されていますので、総量削減やエンゲージメント活動に取り組む皆様にはご一読をお勧めします。 SBTのエンゲージメント関連リソース②ケーススタディ    SBTではホームページ上でサプライヤーエンゲージメントのケーススタディを掲載しています。2024年5月現在、セールスフォース、アストラゼネカ、H&Mグループの3社が掲載されております。また、サプライヤーエンゲージメントガイダンスのリリースに合わせ、SBTi、We Mean Business Coalitionの共催で行われたサプライヤーエンゲージメントのベストプラクティスに関するウェビナーの中では、アストラゼネカ、フィリップスの両社が事例紹介を行っています(このウェビナーは、YouTubeのSBTiチャンネル内で公開されています。参考リンク: Supplier Cascade: How to accelerate supply chain climate action (youtube.com))。アストラゼネカは調達担当ディレクターがエンゲージメントの意義を熱弁しながら業界を巻き込む取り組みを披露し、フィリップスはサプライヤーへの細やかなフォローの事例を提供しています。日本企業の事例ではありませんが、ぜひエンゲージメント活動を進めるうえでの社内外の巻き込みのヒントにしていただければと思います。 さいごに  最近「取引先からSBT取得要請がきた」という理由でのSBT認定取得支援のお問い合わせが増えています。この取引先はSBTをエンゲージメント目標で認定取得したと考えられますが、このような取引先から取引先へSBT水準の目標設定の要請を行う動きのことを、We Mean Business CoalitionおよびSBTiは「サプライヤーカスケード」と表現しています。前述のウェビナーでもアストラゼネカの調達リーダーが「自社が1,000社と会話し、そのサプライヤーが1,000社に会話すれば100万社のサプライヤーと会話することになる。これが進むべきペースである」と強調していました。弊社自身も、お問い合わせの多さから、国内外の民間主導での脱炭素の取り組みの広がりを肌で感じています。弊社ではSBT認定取得支援はもちろん、サプライヤーエンゲージメント支援も実施しております。ぜひお気軽にお問い合わせください。  (執筆者:小島)

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企業の気候関連情報開示の今後の行方は?ISSB、そしてSSBJの草案について解説(前編)

 2024年3月29日にSSBJから公表されたサスティナビリティ開示基準案。その原型となったISSBが公表するサスティナビリティ開示基準は2023年6月26日に最終化されました。  本コラムではISSBやSSBJの基本的な情報に加え、今後取り組んでいくべき非財務情報開示について、前編後編に分け、解説します。これから非財務情報開示を検討している企業をはじめ、これまでTCFDのフレームワークに沿って開示していた情報をアップグレードしたい企業担当の方に参考となる情報ですので、気になる方はぜひご一読ください。 ISSBとはサスティナビリティ  ISSBとは(International Sustainability Standard Board)「国際サスティナビリティ基準審査会」及び同審議会により開発される基準のことで、サスティナビリティ関連財務情報の開示基準を開発する目的で設立されました。この背景にはさまざまなサスティナビリティ開示基準が錯綜していたというのがあります。当時SASBやCDSB、TCFDなどの開示基準があるなか、機関投資家が何をもって非財務情報を比較検討したらよいか不明瞭だったため、国際的に統一された開示基準を制定すべきといった要請の高まりからIFRS財団が主導で設立しました。 出典:SSBJ によるサスティナビリティ開示基準案の概要 これまでのIIRCやSASB、CDSBはIFRS財団に統合、TCFDは解散されましたが既存のフレームワークは踏襲され、IFRSのS1号、S2号の軸として取り込まれています。 ISSBが公表した2つのIFRSサスティナビリティ開示基準  ISSBが定めたサスティナビリティ開示基準は次の2つです。 IFRS S1号|サスティナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項 IFRS S2号|気候関連開示    IFRS S1号は①サスティナビリティ関連の開示を作成する際の、基本的な事項を定めた部分と②サスティナビリティ関連   のリスクおよび機会に関して開示すべき事項、で構成されています。    IFRS S2号は気候関連のリスクおよび機会に関する情報開示が要求されています。       出典:IFRS S1号及びIFRS S2号の全体像    前述したようにIFRSはTCFDの提言に基づいており、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの柱   が中核(コアコンテンツ)です。また産業別の指標についても開示を要請されているのも特徴の一つでしょう。 IFRS S1号|サスティナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項  IFRS S1号は投資家の投資判断に資する、サスティナビリティ関連のリスクと機会に関する情報開示が要求されています。具体的には短期、中期、長期にわたってのキャッシュフロー、資金調達へのアクセス、資本コストに影響を与えることが合理的に予想される全てのサスティナビリティ関連のリスクと機会に関する情報です。例えば次のような情報におけるサスティナビリティ関連情報となります。 資本制金融商品および負債制金融商品の購入、売却または継続保有 貸付金および他の形態による信用の供与、または決済 企業の経済的資源の利用に影響を与える企業の経営者の行動に対しての、投票または他の方法で影響を与える権利の行使  また全般的な要件には、企業はIFRSのサスティナビリティ開示基準に加え、SASBスタンダートの開示トピックを参照し、その適用可能性を考慮しなければなりません。さらに水、生物多様性に関するCDSBのフレームワークについても適用可能性も考慮する必要があります。  参考:IFRS S1 IFRS®Sustainability Disclosure Standard IFRS S2号|気候関連開示  IFRS S2号はサスティナビリティ情報のうち、特に気候に関連するリスク及び機会に関連する補足的要求事項を規定しています。TCFDフレームワークを踏襲し、要求事項はTCFDと概ね整合的ですが、より詳細な情報開示が求められる部分もあります。例えば初年度には適用されませんがScope3の開示や目標が第三者による検証の有無、産業別のガイダンスの適用可能性を参照し、検討しなければなりません。 すでにTCFDに対応している企業であれば開示情報の高度化を進め、対応していない企業おいては、まずTCFDフレームワークに沿った情報開示に取り組み、段階的にIFRSに対応していくといいでしょう。 後編ではSSBJ基準案や、ISSBにおける欧州サスティナビリティ基準(ESRS)との相互運用についてまとめます。  (執筆者:渡部)

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国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(後編) | 業界動向

国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(後編)

 2021年2月に一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が唯一のI-REC発行主体として指定され、日本でもI-RECを利用できるようになりました。前編では国際的なエネルギー属性証明の仕組みの1つである「I-REC」について、その特徴や非化石証書との違いに触れましたが、後編ではI-RECの購入方法や今後の展望についてご紹介します。   I-RECの購入方法  I-REC等の再エネ属性証書をRE100など国際イニシアチブへの報告等利活用するためには、再エネ発電事業者から需要家企業に証書の名義を変更し、再エネ発電事業者の取引口座から、需要家企業の取引口座に移す【移転】、移転後に保有する再エネ属性証書を無効化し、属性証明として使用することが【償却】の段階を踏む必要になります。I-RECは相対取引で売買され、発電設備の選定、売買交渉・契約から、移転・償却までを代行するプロバイダーが世界中におり、そのようなプロバイダーから購入する方法が主流ですが、自社で直接購入することも可能です。  I-RECでは世界共通でEVIDENT社のレジストリ(登録簿:証書の発行、移転、償却等を記録するためのシステム)が使用されています。このレジストリにParticipantとして登録すると、自社で直接証書を購入することが可能です。発電事業者との売買契約が成立したら、EVIDENT上で移転と償却を行い、I-REC償却証明書はEVIDENT上でPDF発行されます。自社で口座の開設やそれに伴う初期費用が必要になりますが、プロバイダーを介さないため、1MWh当たりの費用低く抑えられます。但し自社で再エネ発電事業者(売り手)を探し、売買交渉も行う必要があります。   EVIDENTでの直接購入の必要費用は以下となります。(2023年10月時点) ・証書購入代金(再エネ発電社が設定した価格) ・口座開設料EUR 500.00 (78,885円*1EUR=157.76 円) ・年間口座維持料EUR 2000.00 (315,520円 *1EUR=157.76 円) ・償却費用 EUR 0.06/MWh  (10円*1EUR=157.76 円) *料金改定等がある場合があります。 正確な金額等は直接お確かめください。https://www.irecstandard.org/fee-structure-for-market-players    日本のI-RECについては「EneTrack」を通じた購入も可能です。EneTrackは、I-REC国内向けプラットフォームです。プラットフォーム上でITサービス企業SCSKがプラットフォームオペレーターとして再エネ属性証書の取引(発行から移転、償却まで)のI-REC利活用に関するプロセスをワンストップで代行します。需要家企業は、価格や再エネ電源種別などの属性、産地、追加性(運転期間)等の希望条件に合った再エネ属性証書がEneTrack上でマッチングされるので、労力を掛けて再エネ発電事業者(売り手)を探す必要はありません。証書の購入や償却は、EneTrackのサービス提供時間内であれば、いつでも行うことができ①相対取引での購入時に必要な手続きの簡素化を実現し、日本におけるI-RECの取引の活性化、再エネ需要を高めることが考えられます。また、プラットフォームオペレーターの口座で再エネ属性証書を預かる運用を取るため口座開設は無料であり、基本的に初期費用はかかりません。   EneTrackを通じた購入の必要費用は以下となります。(2023年10月時点) ・証書購入代金(再エネ発電社が設定した価格) ・償却費用 20円/MWh トップ|EneTrack[エネトラック]国際的なエネルギー属性証明書「I-REC」の取引プラットフォーム (scsk.jp)     PowerPoint プレゼンテーション (localgood.or.jp) P20     今後の展望  日本政府は今後非化石証書を改善し、I-RECのような産地等の電源属性を証明する電源証明型にすることを検討しています。その結果、非化石証書が国際的に通用する電源証明になり、再エネごとに証書の価格差が生まれて地域貢献する再エネの価値が高まる仕組みになった場合には、日本でのI-REC発行の終了を検討しています。グローバルでの証書の潮流は「環境価値」にとどまらず「再エネ属性証書」に移行しています。 まとめ  現在日本では、再エネの電力がどのように生成されたのか、どの発電所から供給されているのかといった情報を追跡する仕組みが不足しているという課題があり、産地等の電源属性を証明する電源証明型のI-RECがそれを補填する形で国内では当面使用されることが考えられます。  また需要家から見て、I-RECは発電設備が特定でき、環境負荷が低く、発電方法踏まえ運転開始日が新しいものほど価格が高く評価されることでより応援したい電気を安心して、また信頼性のある再エネ証書を選ぶことができるというメリットがあります。再エネ属性証明に一番重要なことは信頼性です。証書という価値は物体として見えないものであるため詐称がないようにガバナンスで信頼性を担保することが重要です。そのためI-RECはグローバルで統一したEVIDENT上、十分な監視体制の元で取引されており、外部から見ても信頼性がある証書と言えます。I-RECは日本の証書の在り方を問いただし、国内の再エネ普及を加速させる存在になるのではないかと考えます。引き続き、その展望を弊社も追っていきたいと考えます。     ■参考資料 Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230906 (localgood.or.jp) トップ|EneTrack[エネトラック]国際的なエネルギー属性証明書「I-REC」の取引プラットフォーム (scsk.jp)   (執筆者:小澤)

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国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(前編)

   現在多くの企業が脱炭素へ取り組み、その実現に向け再生可能エネルギー(再エネ)を活用することが重要です。しかし、日本の再エネの利用には課題があります。具体的には、再エネの電力がどのように生成されたのか、どの発電所から供給されているのかといった情報を追跡する仕組みが不足していることです。この問題を解決するための国際的なエネルギー属性証明の仕組みの1つである「I-REC」を紹介します。 I-RECとは  「I-REC(International Renewable Energy Certificate)」は、欧州、北米を除く国で発行される国際的なエネルギー属性証明(電気等の環境面の特性を示す証書)です。欧州のGOや北米のRECといったエネルギー属性証明と同様の仕組みが他の国でも使えるように、オランダのNGO、The International REC Standard Foundation(I-REC Standard)が標準化、ルールを設け、そのルールの下に、国ごとに認定された発行体が運営を行い、証書を発行しています。証書を発行・管理するためのレジストリーも、I-REC Standardの出資先が運営するものを、各国共通で使用します。現在、世界約50か国・地域で使用されていますが、一部の国では政府が運営する証書とともに使用され、補完的な役割を担っています。 日本でも、2021年2月に一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が唯一のI-REC発行主体として指定され、この証書を利用できるようになりました。   I-RECの特徴  以下の主要な特徴があります。  ① CDP、SBT、RE100に利用可能 (日本国内制度では使用不可)  前述の通り、欧州のGOや北米のREC等を参考とした国際標準のルールの下に発行される証書であり、CDPや、RE100・SBTといった国際イニシアティブにおいて利用が認められています。 GHGプロトコルはScope2ガイダンスで、証書の品質基準を定めており、CDP、SBT、RE100はいずれもこれに準拠しています。I-RECはこの要件を満たしており、よって、いずれにおいても利用が認められています。(要件は以下表を参照ください。RE100はScope2ガイダンス準拠に加えてそれ以外の独自要件もあり。) 「RE100」では、RE100達成(再エネ電力100%達成)のための再エネ調達量として問題なく報告が可能です。同様に「CDP質問書」では【エネルギー属性証書】として、再エネ調達量としての回答が可能です。また、Scope2マーケット基準の報告では、排出係数0の電力として計算し報告が可能です。「SBT」でも同様に、基準年と進捗の評価にScope2マーケット基準を採用する場合には、排出係数0の電力として計算ができるため、Scope2の削減手段として利用が可能です。 電力証書が自然エネルギーを増やす:日本と海外で隔たる制度 (renewable-ei.org) P7    一方、地球温暖化対策推進法(温対法)など、一部の日本の制度ではI-RECを使ったオフセットが現在は認められていません。環境価値を主張する場合は、別途非化石証書を取得する必要があります。 「日本でのI-REC発行について」(2023年8月10日更新)- ローカルグッド創成支援機構 Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp) P13   ②相対取引による売買   I-RECは相対取引で売買されます。よって価格は固定されません。また、どのような発電方法でどのような場所で作られた再エネかといった、環境面の特性が証明されているため、環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいもの、地域貢献度の高いものなどがより評価され、高い価格で取引されるような仕組みになっています。     非化石証書との違い  大きな違いは以下2点ございます。 ①トラッキング情報、価格差  非化石証書は、I-RECのような国際的な再エネ属性証書とは異なり、証書の対象になる電力が FIT か非 FIT か、再エネ由来かそうでないか、という情報のみ把握でき、産地・電源種別等の情報がありません。解決策として、非化石証書を購入した後に、後付けでこれらの情報を追加する「トラッキング付き非化石証書」が導入されています。これにより、発電方法や運転開始日、所在地等の情報を把握できるようになりましたが、非化石証書の購入段階では把握できず、本来は評価が異なるはずのものが、一律の入札方式で同じ価格で取引されてしまいます。購入した結果、希望した条件にあうトラッキング情報がつかない可能性もあります。海外の証書は環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいものほど価格が高くなりますが日本で価格差が生じにくいのは上記の背景にございます。資源エネルギー庁は上記の背景により非化石証書も海外の証書と同様に、発行した時点でトラッキング情報を付与する形に変更を検討しています。   ②産地価値と特定電源価値    電力に付随する価値は複数あります。CO2排出削減等の環境価値や、特定地域で作られた産地価値、特定の電源で作られた特定電源価値等です。非化石証書にはこのうち、産地価値と特定電源価値 が含まれていません。日本ではこれらの価値は証書ではなく電気取引に付随すると整理されています。再エネの産地や電源について訴求したい場合、非化石証書に発電方法や発電所の所在地の情報が付与されていたとしても、それによって訴求してよいとは限らず、電力の取引契約とセットとなっている必要があります。先述の国際的な証書の要件の通り、本来はこれらの価値のすべてを集約すること(属性の集約)が求められています。資源エネルギー庁では、産地価値と特定電源価値を含むすべての属性を持つ証書の整備を検討しています。 https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_RE-Certificates.pdf P.40   後編ではI-RECの購入方法や今後の展望についてまとめます。   参考資料 ・電力証書が自然エネルギーを増やす日本と海外で隔たる制度 電力調達ガイドブック 第6版(2023年版):自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け | 報告書・提言 | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・電力調達ガイドブック 第6版(2023年版)自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・日本でのI-REC発行について(2023年8月10日 一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 ) Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp)   (執筆者:小澤)

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IFRS S1・S2基準の最終版への対応について | 業界動向

IFRS S1・S2基準の最終版への対応について

    2023年6月26日、ISSB(International Sustainability Standard Board、国際サステナビリティ基準審議会)は、最終化されたサステナビリティ開示基準を公表しました。 ISSB は、それまで複数存在していたサステナビリティ開示基準を統合し、国際的な一貫性及び比較可能性を実現することを目的として設立された組織です。 今回公表された基準は、(1) サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)と、(2) 気候関連開示(IFRS S2)から成り立っています。また、S2付録 B として「産業別要求事項」があります。 IFRS S1では、投資家の投資判断に資する、サステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報の開示が要求されています。開示タイミングや開示場所、不確実性に対する情報、誤謬の取り扱いなど、全般的な要件が定められています。 IFRS S2では気候変動関連の開示のより詳細な基準が定められています。今後は、「人的資本」「生物多様性」などほかのサステナビリティテーマに係る基準も公開される見込みです。ここでは気候変動への対応に焦点を絞ってお話しします。   基準側の動きとして、今回の公表と同タイミングで、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候変動関連財務情報開示タスクフォース)を運営する金融安定理事会は、気候変動開示に関するモニタリング機能を、ISSBへ移管すると発表しました。これによって、TCFD提言対応は、さらなる高度化を求められていくことになる見込みです。 さて、これらの動向に対して、本コラムでは大きく2つのことを強調できればと思います。 ■TCFDとIFRS S1・S2の関連 第一にお伝えしたいことは、TCFDが提唱したフレームワークの役割がなくなったわけではないということです。公表されたIFRS S1・S2は、TCFDフレームワークを土台に作成されています。企業が、ISSBの求める基準に対して足りない部分を明確にし、開示内容の充実に取り組む必要があるのは確かですが、まずはTCFDで定められた要件への対応が先決であることは変わりません。TCFDフレームワークは、2021年10月のコーポレートガバナンスコードの改訂で、日本のプライム企業には開示が実質的に義務化された事項です。TCFDへの対応が不十分な企業については、まずはTCFDフレームワークへの対応を通じて、段階的に開示案を検討していくことが重要です。TCFD対応については、環境省をはじめガイダンス資料も充実していますので、そちらを参考にされるとよいでしょう。なお、TCFDとIFRS S2との差異については、IFRSによる公式資料*が公表されています。   参考資料①:気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp) 参考資料②:「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0(TCFDガイダンス3.0)」を公表しました。 | TCFDコンソーシアム (tcfd-consortium.jp) ※ソース:Comparison IFRS S2 Climate-related Disclosures with the TCFD Recommendations   ■CDP質問書の活用 第二に、開示には、媒体やプラットフォームの特徴をうまく使い分けることが必要という点です。多くの企業では、サステナビリティ開示について似たような内容を異なる媒体で開示することが求められているかと思います。例えば、自社のサステナビリティレポートや有価証券報告書、Eco-VadisやCDPといったプラットフォーム、そして各取引先企業やメディアからの調査票などです。 その中で、IFRS S1 およびS2の開示案を検討する際に有効な補助ツールとなると考えられるのが、CDP質問書です。CDP質問書では、TCFDとCDPの関連性はもとより、すでにIFRSとの整合性を意識されて構成されています。そして、2024年度版からは、IFRS S2への準拠が正式に発表されています*。そのため、CDP質問書への回答がすでに充実している企業は、今後もCDP回答との対応を意識するとよいと考えられます。CDP質問書の内容や公開されているガイダンス、スコアリング基準は毎年更新されますので、これらを参考にすることで、IFRS基準での開示で評価されるポイントについての実務的な観点を補うことができると考えられます。 参考資料③:開示サポート - CDP ※ソース:https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/11/cdp-to-incorporate-issb-climate-related-disclosure-standard-into-global-environmental-disclosure-platform/   ■今後の日本企業の対応について 日本企業に関しては、2022 年7月に設立されたSSBJ(サステナビリティ基準委員会)主導で、日本版のサステナビリティ情報開示基準がISSBに準拠する方針で検討されています。2024年度中には確定基準が公表され、早くて2026年3月期から有価証券報告書への適用が見込まれます。有価証券報告書に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が新設され、「ガバナンス」「リスク管理」の開示を要求、「戦略」「指標及び目標」については各企業が重要性を踏まえ判断、という内容で検討されています。   参考資料④:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」   本コラムではいくつかの公開ガイダンスを紹介しました。IFRSの最終版は、これまでのサステナビリティ開示の論点を改めて明確化したという意味合いが強いですので、既存のガイダンスをうまく活用しつつ、対応していくことが重要と考えられます。   (執筆者:馬場)  

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