2018.12.07
企業とSDGs(3)取組手順と参考事例
2018.12.07
前回のメルマガでは、SDGsの達成に向けて、企業によるビジネスを通じた課題解決への貢献に大きな期待がかかっていること、そしてSDGsに取り組むことは企業にとってもメリットが大きいこと(ビジネス機会の創出とリスク回避)をお伝えしました。 今回は、これからSDGsに取り組もうと検討されている事業者の方向けに、『SDG Compass SDGsの企業行動指針―SDGsを企業はどう活用するか―』(国連グローバルコンパクト他作成、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン他和訳)にまとめられている取組手順について簡単にご紹介するとともに、取組の参考としていただけそうな先進事例や資料などを合わせてご紹介したいと思います。 『SDG Compass』では、企業がSDGsに最大限貢献するための取組手順について、以下の5つのステップに分けて解説しています。 ステップ1:知る まずは、前々回、前回のメルマガで取り上げたような、SDGsの概要や、なぜ取り組むべきなのかについて理解します。 ステップ2:優先課題を特定する 自社のバリューチェーンを俯瞰し、SDGs諸課題に対して、直接的、間接的に、特に大きな負の影響や正の影響を与えている(もしくは与える可能性のある)領域について、大まかに把握する「マッピング」を行います。その際、外部ステークホルダーの意見、社内での内部評価を取り入れることで、把握の精度を高めます。 次に、それぞれの領域において、企業の活動とそれがSDGs課題に与える影響の関係を表す指標※を設定し、影響を定量的に把握します。その上で、影響の規模や可能性、また自社にとってのリスクや機会を踏まえ、優先課題を特定します。 ※SDG Compass HPに、一般的な指標がまとめられています。 (SDG Compass HP(英語)Business Indicators) ステップ3:目標を設定する 各優先課題において、進捗を管理するためのKPI(Key Performance Indicator:主要業績評価指標)を選択し(ステップ2で設定した影響評価指標など)、ベースラインと目標を設定します。目標設定にあたっては、アウトサイド・イン・アプローチ※を用いて、野心的な目標設定を行うことで、イノベーションや創造性の促進、宣伝効果や、同業者に働きかけ業界全体を動かす効果が期待できるとしています。 ※アウトサイド・イン・アプローチとは、まず外部的なニーズ(世界、社会の ニーズ)に基づき目標を設定し、その後現状とのギャップを埋める手立てを考えていく手法。 ステップ4:経営へ統合する 目標達成に向けては経営への統合が重要です。なぜ取り組むのかについて社内で理解を共有すること、達成度評価や報酬の体系に組み込むことなどに より、目標を社内に定着させます。全社目標を各部門に落としこむ、部門横断的なプロジェクトチームを設立するなどして、全ての部門を巻き込んで いきます。 さらに、企業単独では効果的な課題解決ができないケースも多々あり、バリューチェーン内や業界内の企業、その他様々な団体(行政、市民など)とのパートナーシップの検討も推奨しています。 組織改革を伴うため、経営トップのリーダーシップが期待されます。 ステップ5:報告とコミュニケーション 取組の進捗状況を定期的に報告します。効果的な報告を行うには、国際的な基準(GRI:Global Reporting Initiative、CDPなど)に沿うことが重要です。 優先課題の決定過程、目標と実績、目標達成に向けた戦略と実践などに関する情報開示を行います。 最後に、先進企業の取組事例と、参考資料をご紹介します。 株式会社伊藤園 「茶畑から茶殻まで」を合言葉にバリューチェーン全体での価値創造に取り組み、第1回ジャパンSDGsアワード「パートナーシップ賞」受賞。 報告書にはバリューチェーンにおけるマッピングがわかり易く示されています。 www.itoen.co.jp/files/user/pdf/company/corporatebook/backnumber/2017/itoen_report_all_2017.pdf (統合レポート2017) 味の素株式会社 Ajinomoto Shared Value(ASV)という独自の社会・環境価値の提供に取り組み、栄養不足による成長不良が深刻な途上国の子供向けサプリメント「KOKO Plus」の開発なども行っています。報告書には、特に課題特定のプロセスなどがわかり易くまとめられています。 https://www.ajinomoto.com/jp/activity/csr/pdf/2017/ajinomoto_csr17.pdf (サステナビリティデータブック2017) SOMPOホールディングス株式会社 グループCSR-KPIとして社会・環境課題のKPIを設定し進捗を管理。グループ会社の損害保険ジャパン日本興亜株式会社では、気候変動の影響を受ける途上国の小規模農家向け「天候インデックス保険」を開発。報告書には、『SDG Compass』の各ステップに沿った取組内容の詳細や、優先課題毎のKPIと目標、実績も整理されており、参考になります。 https://www.sompo-hd.com/~/media/hd/files/csr/communications/pdf/2017/report2017.pdf (CSRコミュニケーションレポート2017) グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)HP SDGsページ 『SDGs調査レポート』(日本企業の取組動向と課題をまとめ、取組事例も多数紹介)、『SDG Industry Matrix』(産業・テーマ別に世界の取組事例を紹介)、今回のメルマガで参照した『SDG Compass』など、SDGs関連資料が豊富に揃っています。 http://ungcjn.org/sdgs/index.html 先日、2011年にエジプトで起きたアラブの春の一因が気候変動ではないかと問うドキュメンタリー番組を見ました。デモで叫ばれていたのは、実は「パンをくれ」で、当時アメリカなどの小麦の産地で起きた異常気象により収穫量が激減し、国民の主食であるパンの原料を輸入に頼っていたエジプトで、パンが手に入らずデモに至ったという解説でした。 もともとあった政治や経済の課題に、気候変動が決定的な打撃を与えたような状況だったのではないかと思います。改めて、気候変動が影響を与える範囲の広さ、他の課題と相互に影響し事態を悪化させる複雑さを感じ、SDGsを参考に広い視野を持つことの必要性を実感しました。 今後もSDGsの動向を注視し、弊社としても、達成に少しでも貢献できるような取り組みをしていければと思います。 (執筆者:山本) (2018年5月24日メルマガ)
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