2018.12.11
IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』~2.0℃の先を見据えて~
2018.12.11
先週から国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)がポーランドにて開催されています。 2020年のパリ協定始動に向け、運用ルールについての協議や、各国削減目標の引き上げを目的としたタラノア対話(促進的対話。情報共有を通して取組意欲の向上を目指す)が行われているということです。 それに先立ち、10月8日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が特別報告書『1.5℃の地球温暖化』を発表しました。パリ協定では「世界平均気温上昇を産業革命前と比べ2.0℃より十分低く、1.5℃未満に抑える」という目標に合意がなされましたが、2.0℃の温暖化の影響や排出経路は前年発行のIPCC第5次報告書で明らかになっていたものの、1.5℃のそれは未知でした。そのため、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)がIPCCに報告を求めていたものです。 報告書では、温暖化の現状、1.5℃の温暖化が与える気候変動やその影響(2.0℃の場合と比較して)、1.5℃未満に抑えるための排出経路、温暖化と持続可能な開発の関係性についての研究結果がまとめられています。 まず、温暖化の現状として、世界平均気温は既に産業革命前と比較し約1.0℃上昇しており、現状のペースでは2030~2052年の間に1.5℃に到達することが予測されています。 次に、1.5℃の温暖化では、気候変動(平均気温上昇や極端な高温、豪雨・干ばつなど)やそれが与える影響・リスク(海面上昇、生物多様性損失、食糧・水リスクなど)が2.0℃の場合よりも低くなるということを複数の具体例を挙げて示しています。 【主な具体例】 ・人の居住地域での極端な高温、中緯度地域では1.5℃の場合+3.0℃、2.0℃の場合+4.0℃ ・2100年までの海面上昇は1.5℃の場合0.26~0.77mで、2.0℃の場合よりも0.1m低い (これにより最大10,000人の海面上昇に関連するリスク回避) ・1.5℃の場合、昆虫の6%,植物の8%,脊椎動物の4%の種の生息域が半減 (2.0℃の場合、昆虫の18%,植物の16%,脊椎動物の8%の種の生息域が半減) ・夏に北極海から氷が消える頻度、1.5℃の場合100年に1回、2.0℃の場合10年に1回 ・サンゴ礁は1.5℃の場合で70~90%減少、2.0℃の場合ほぼ絶滅 ・世界の年間漁獲量、1.5℃の場合150万トン減少、2.0℃の場合300万トン減少 ・2050年までに気候関連リスクに曝され貧困の影響を受ける人々(特に発展途上国などの先住民や農業従事者など)、1.5℃の場合、2.0℃より最大数億人少なく ・気候変動による水不足に曝される世界人口、1.5℃の場合、2.0℃よりも最大50%減少 など 続いて、温暖化を1.5℃未満に抑える排出経路(オーバーシュート無しもしくは限定的※)として、2030年までに人為的CO2排出量を2010年比45%減、2050年までに実質ゼロとする必要があると報告。 (2.0℃の場合、2030年までに20%減、2075年までに実質ゼロ。) そのためには、エネルギー、土地利用、都市、インフラ(交通・建物など)、産業システムにおいて、急速で広範な移行が必要であり、具体例として、2050年までの低炭素エネルギーシェア大幅拡大(電力は2050年に70~85%再エネ化)、産業部門からの排出2050年に2010年比65~90%削減(電化、水素、バイオ由来原料・代替品利用、二酸化炭素回収・利用・貯蔵などを組み合わせて活用)などを挙げています。 現在提出されている各国削減目標では、2030年以降に大幅な削減を行ったとしても1.5℃未満に抑えることはできず、2100年までに3℃の上昇が予想されています。 オーバーシュート無し、もしくは限定的にするためには、2030年までの確実な削減が不可欠であること、それ以上のオーバーシュートは現状の課題からして達成不可能なレベルの規模と速度での二酸化炭素除去に頼らざるを得ないこと、削減が遅くなればなるほどコストが増大し、将来のオプションの柔軟性がなくなり、発展レベルの異なる国々の間での不均衡が拡大することを警告しています。 最後に、持続可能な開発との関係性について、1.5℃の温暖化の場合、2.0℃の場合よりも、持続可能な開発に対して気候変動が与える悪影響をより多く回避できるとのこと。 但し、温暖化対策には持続可能な開発とシナジー(相乗効果)があるものとトレードオフ(引き換え)となるものがあり、前者を最大化し、後者を最小化する必要があるとしています。 (例えば、エネルギー需要や材料消費を減少することは、持続可能性を高めることにもなりシナジーがあるが、吸収量を増やすための新規植林やバイオエネルギー用の農地開発は、適切な管理がされないと生態系保全や食糧確保などの持続可能性を損ねるトレードオフとなるなど。) また、持続可能な開発が、1.5℃未満を実現するための社会変革を助けることになるとも訴えます。国際協力が行われ、不平等・貧困が解決された社会の方が、温暖化対策における課題もコストも小さくなるという理由からです。 報告書はCOP24における科学的資料となり、タラノア対話に活かされることになります。 パリ合意の「1.5℃未満に抑える」という文言は、発展途上国などの温暖化の影響をより強く受ける国々の要望により追加されたと言います。 2.0℃と1.5℃、0.5℃の差が明らかにされた今、特に先進国の国々の削減目標引き上げを求める声がますます強くなることは避けられないことと考えられます。 一方、企業などの非国家主体においても、パリ協定以降、国家以上に活発な取組が行われていますが、こちらの動きにも影響を与えることが予想されます。 パリ協定レベルの削減目標を自主的に定めるScience Based Targets(SBT:科学的根拠に基づく目標・企業版2℃目標)の動きが一例ですが、現状パリ協定レベルとして採用されているのは2℃未満のシナリオです。2050年までに2010年比約40~70%削減し、今世紀後半にゼロとするイメージでしたが、これが1.5℃未満シナリオですと、2030年までに45%削減し、2050年にゼロとする大幅な前倒しが必要となります。 報告書が締約国に承認されたことを発表したIPCCのプレスリリースにおける第2作業部会共同議長デブラ・ロバーツ氏のコメント「これからの数年間はおそらく、私たちの歴史上、最も重要な時期となるでしょう。」は非常に印象的でした。私たちには2℃か1.5℃かの議論に多くの時間を割ける余裕は無く、2.0℃の先である1.5℃を見据えながら、行動を起こし始めなければならない時期が既に来ているのだと感じています。 ※オーバーシュート: ある特定の数値を超えることで、ここでは気温上昇が1.5℃を超えることを指します。 気温上昇は大気中の二酸化炭素濃度に比例しており、一度超えてしまった気温を戻すには二酸化炭素除去に頼らざるを得ないことになります。 参考文献 ・『Global Warming of 1.5℃ Summary for policymakers』(2018)IPCC(英語) ・IPCCプレスリリース「IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約を締約国が承認」国際連合広報センター ・『1.5℃の地球温暖化 政策決定者向け要約の概要』(2018) ・『気候変動に関する政府間パネルの第48回サマリー』(2018)公益財団法人地球環境戦略研究機関他 (執筆者:山本) (2018年12月11日メルマガ)
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