Column

企業とSDGs(2)期待される役割と企業メリット

前回に引き続きSDGs(Sustainable Development Goals)をテーマ
にお届けします。今回はSDGs達成に向けて、企業に期待されている役割
と、SDGsに取り組むことによる企業メリットについて取り上げてみたい
と思います。
 
 少しおさらいをしますと、SDGsは、国連総会で採択されたアジェンダ
2030の中に示された「世界共通の2030年開発目標」で、開発と名は付く
ものの、開発途上国のみならず、全世界のあらゆる社会・経済・環境面
の課題を17のゴールで網羅した「人類・地球の目指す姿」でした。
各ゴールは相互に関係し合っており、統合的な解決が必要であること、
そのためにも、国際機関・政府だけでなく、企業・市民などあらゆる
主体の参加・協働が必要なことが謳われています。
 
 SDGsの中で企業についての記載がある箇所としては、まず、ゴール12
の持続可能な生産・消費があります。「大企業や多国籍企業などの企業
に対し、持続可能な取組を導入し、持続可能性に関する情報を定期報告
に盛り込むよう奨励する」(ターゲット6)と、企業への要求が示されて
います。

 また、SDGs達成のための実施手段とパートナーシップに関する記載の
中には、民間企業に期待する役割として、「全ての企業に対し、
社会課題解決のために創造性とイノベーションを発揮することを求める」
ということが記されています。(アジェンダ2030パラグラフ67)

 前目標のMDGsでは、国際機関や政府が主体となり、ODAなどの
公的資金を用いて取組が行われていました。一方、SDGsは目標の範囲
や規模が大きくなり、これまでの主体や資金では対応しきれません。
そこで、企業の持つ技術や知恵、資金を生かし、ビジネスとして課題解決
に貢献してもらうことに大きな期待が寄せられているのではないかと考えます。

 国連グローバルコンパクト他が、企業がSDGsを活用するための行動指針
をまとめた「SDG Compass」では、SDGsに取り組むことで、
企業にとっても多様なメリットがあることを訴えかけています。
数例を以下にまとめてみます。

 一つ目は、ビジネス機会の創出が期待できるという点。
SDGsが示す社会課題の解決は世界共通のニーズであり、解決につながる
技術や商品・サービスを開発できれば、新たな市場の開拓が期待できます。
特に、省エネ・再エネに関する革新的技術、情報通信技術などを活用した
CO2排出量の少ない技術、貧困層向けの生活改善(保険医療・教育・金融
など)製品・サービスなどが期待されるとのこと。さらに、SDGsは、
投資を持続可能性に資する方向に誘導することを目的としており※、
課題解決に取り組む企業は資本へのアクセスが容易になるというメリット
も期待できるとしています。
 
 二つ目は、企業の持続可能性に関わる価値の向上が期待できるという点。
SDGsへの取組が、操業の効率化(資源の節約など)につながったり、
企業のブランド力を高め、結果として、売上の向上・優秀な人材の獲得・
従業員の意欲アップ・地域社会などとの良好な関係などにつながる効果が
期待できるとしています。逆に、取組が不十分な場合には、不祥事や、
顧客・地域社会からの信頼失墜のリスクなども考えられます。
 
 三つ目は、政策と方向性を合わせることで対応力が構築できるという点。
SDGsは今後の政策の方向性を示しており、これに率先して取り組むことで
将来規制強化などがあった場合に発生しうるコスト高騰や制約に未然に対応
することができるというものです。
(社内カーボン・プライシングなどが良い例と言えます。)

 「SDG Compass」では、企業がこれらのメリットを生かし、
自社としての成功も収めながら、SDGsの達成に最大限貢献をしていくため
の取組ステップが示されています。
次回はその内容について取り上げてみたいと思います。

(次号に続く)

※SDGs達成に必要な資金は数兆ドルに及び、民間の投資をいかに持続
 可能性に資する方向に誘導するかが極めて重要であるとされています。
 (国際連合広報センターHP)
 関連する動きの一つとして、ESG投資推進に向けた投資家のイニシアチブ
 国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)
 が2017年に公開した「責任投資のビジョン」があります。
 向こう10年間のビジョンを示したものですが、
その中に「SDGsの実現」が盛り込まれており、SDGsに沿った投資活動
 を行うための手順の整備やツールの開発を行うことが宣言されています。
 近年高まりを見せるESG投資の中に、SDGsも組み込まれていく方向に
 進んでいきそうです。

参考資料:
・外務省「我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」
 www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
・GRI・国連グローバルコンパクト
 「SDG Compass SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか」
 (グローバルコンパクトネットワークジャパン・地球環境戦略研究機関和訳)
 http://ungcjn.org/sdgs/pdf/SDG_COMPASS_Jpn.pdf
・PRI「責任投資のビジョン」
 https://www.unpri.org/download?ac=2973

                         (執筆者:山本)

(2018年4月23日メルマガ)

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背景にあるのは、「サステナブル調達」の進展です。 企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体の人権・環境・倫理リスクを管理する責任を負うようになっています。 特に欧州では、2024年に成立したEU企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)により、サプライチェーン全体のESGリスク管理が法的義務として求められるようになっています。 しかし、すべての取引先を個別に監査することは現実的ではありません。そこで多くのサプライチェーンを抱える企業は、EcoVadisを使って取引先の評価・管理・育成をまとめて行っています。 また、EcoVadisはEラーニングコンテンツや改善提案レポートなど、評価だけでなくサプライヤー支援の機能も充実しています。他のサステナビリティ評価と比べても手厚く、日本企業にとってもまず回答してみるというハードルが比較的低い点が特徴です。 評価項目と特徴 EcoVadisは以下の4つテーマで構成されています。そして評価の特徴は「方針、指示、措置、認証、範囲(一定規模以上の企業のみ)、報告」の各評価項目について、「文章(根拠資料)」の提出が求められます。 例えば社員に対して持続可能な調達に関する研修を行っていることを報告したい場合、研修資料や研修を受けた社員の割合を示す資料を添付する必要があります。 そのため、うわべだけの回答ではなく、実際に仕組みとして管理されているかまで問われます。また、 他のサステナビリティ評価と比較すると、「評価項目がサステナビリティ全般」「目標や方針だけでなく、実現する体制や運用が評価される」「投資家向けではなく取引先向け」である点が特徴です。 業種・規模による違い EcoVadisでは、すべての企業に同じ設問が送られるわけではありません。企業が登録時に申告業種・所在国・企業規模をもとに対象となるサステナビリティ問題が特定されます。また、各テーマの評価ウエイトが変わります。 業種ごとにリスクの性質が異なることを考慮してこのような仕組みになっています。例えば、化学メーカーや繊維業であれば環境テーマ(有害物質・廃水・GHG)の比重が高く、人材サービスやIT業では労働・人権テーマや倫理テーマが重視されます。一例を以下に示します。このように業種ごとに与える影響が大きいと思われる項目について評価の対象になります。 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持続可能な調達テーマでは、社会・環境への有害な影響を軽減するサプライヤーと連携を図り、有益な影響を引き起こしていくことが求められています。特に持続可能な調達においては、企業が抱える課題がそれぞれ異なるため、マテリアリティ評価を実施することが求められています。 サプライヤー行動規範の策定、配布、同意取得 リスクの高いサプライヤーへの監査・調査の実施 調達担当者向けのサステナビリティ研修の実施 取り組む上での注意点・課題 よくある課題 EcoVadisの支援を行う上で課題としてよくあるのが、「日本企業として当然取り組んでいるが故に、明文化されていないことが多い」という点です。例えば、児童労働の防止について、「法律で規制されているから当然のこと」として、特に防止について社内方針として記載されていなかったり、チェック項目がなかったりします。そのため資料を添付できず、スコアを落とすケースが出てきます。 コンプライアンス研修や安全衛生管理についても、「やってはいるが記録が残っていない」「担当者の頭の中にはあるが文書化されていない」というケースが多く見られます。 また、初回回答には相応の工数がかかります。法務・人事・調達・環境など複数部門を横断した情報収集が必要になるため、担当者一人で対応しようとすると行き詰まることも。誰が何を担当するか、社内体制を先に整えておくことが大切です。 さらに、EcoVadisは単年評価ではなく、評価と改善のサイクルを回していく設計になっています。スコアが伸び悩む企業の多くは、初回回答後の継続的な改善が追いついていないというパターンが見られます。 EcoVadisで失敗しやすい落とし穴:「範囲」の壁 EcoVadisの評価軸は「方針・指示・措置・認証・報告」の5つが基本ですが、一定規模以上の企業(目安として従業員1,000名超)には、これに加えて「範囲」という評価軸が課されます。 この「範囲」とは、簡単に言うと「その取り組みが、どこまでの組織・拠点・従業員に適用されているか」を問うものです。たとえばISO 14001の認証を取得していても、「本社のみ」「国内拠点のみ」であれば、グループ全体の従業員数に占める対象範囲が低いと評価されます。同様に、ハラスメント防止研修を実施していても、「グループ会社の受講率が把握できていない」状態では範囲の評価が下がります。 一見、大企業のほうが取り組みが充実していそうに思えます。しかし実態としては、「取り組みの質」よりも「取り組みの展開範囲」の証明が難しいという構造的な問題があります。 ①グループ会社への展開状況の集計が困難 たとえば「サステナビリティ研修を実施しています」と回答する場合、EcoVadisは「どの法人の・何名が・全体の何%にあたるか」まで問います。国内外に数十〜数百社の子会社・関連会社を持つ大企業では、各社の受講状況を一元的に集計する仕組みがそもそも存在しないケースが多くあります。 ②認証取得の「穴」が目立つ ISO 14001やISO 45001などの認証を「グループとして取得している」と回答しようとすると、全グループ企業・拠点のうち何%が認証を取得しているかを示す必要があります。主要拠点は取得済みでも、小規模な海外子会社や物流関連会社が未取得であることが多く、グループ全体でみると取得率が中途半端な数字になることがよくあります。 ③措置の展開状況の証明が難しい 「範囲」の評価軸では、各措置が「グループ全体のどの範囲で実際に実施されているか」が問われます。たとえばリスクアセスメントや安全衛生研修を実施していると回答する場合、「本社のみ」ではなく、グループ各社・各拠点での実施状況を示す記録(実施記録、受講率、対象人数など)が証跡として求められます。「グループ共通の取り組みとして定めているから展開されているはず」という説明では評価されず、「実際に各社・各拠点で実施されているか」が問われます。 ④海外拠点の管理が特にネック 人権デューデリジェンスや労働安全衛生の取り組みについては、新興国拠点での状況がより厳しく問われます。日本本社では当たり前に実施している取り組みが、東南アジアや南アジアの製造拠点では形式的にしか導入されていないケースがあり、「展開はしているが記録がない・確認できない」という状況が失点につながります。 実際の支援の中でよく見られる失点パターンを整理すると、以下のようなものがあります。 コンプライアンス研修の受講率 本社・国内グループは管理できているが、海外子会社の受講記録が各社バラバラに管理されており、グループ合算の受講率を算出できない。結果として「研修はやっています」という回答に対して証跡を出せず、評価されない。 ISO認証のカバレッジ 本社と主要製造拠点はISO 14001を取得済みだが、物流子会社・販売会社・海外現地法人が未取得。「グループとして認証を取得しています」と回答したくても、カバレッジが低いため評価が限定的になる。 サプライヤー行動規範の配布状況 本社の購買部門は全サプライヤーへ配布しているが、子会社・関連会社の調達担当者が独自に取引しているサプライヤーへの配布が追いついていない。グループ全体のサプライヤー数のうち何%に配布済みかを問われると答えられない。 内部通報窓口のアクセシビリティ グループ共通のホットラインを設置しているが、海外子会社の従業員が自国語で利用できる環境が整っていない。「グループ全社員がアクセスできます」という回答が難しい。   ただし、範囲の考え方について、EcoVadisの評価では、カバレッジが100%でなくても、「現在の展開率と、今後の拡大計画」を明示できれば一定の評価を得られます。「グループ全体への展開が課題であることを認識しており、2026年度中に海外主要拠点への適用を完了させる計画がある」といった記載と、その裏付けとなる社内計画書や取締役会での承認記録を示すことで、評価につなげることができます。 また、そもそもグループ全体のカバレッジを把握・管理するための仕組み(グループ横断の報告フォーマット、定期的なモニタリング体制など)を構築することが、中長期的なスコア向上の基盤になります。EcoVadisが最終的に評価したいのは「今どこまでできているか」だけでなく、「継続的に改善できる管理体制があるか」です。 大手企業こそ「範囲」対策を先に設計する スモールスタートで対応するベンチャーや中小企業と異なり、グループ全体を抱える大手企業にとっては、この「範囲」の問題がスコアの天井になることが少なくありません。取り組みの中身(方針・措置・認証)を充実させた後に範囲の壁にぶつかるのではなく、最初からグループ横断の管理体制設計を組み込んだ形でEcoVadis対応を設計することが、結果的に効率的なスコアアップにつながります。 まとめ EcoVadisへの対応は、「顧客に言われたからやる」だけでは、なかなかスコアが上がりません。 自社の取り組みの現状をきちんと把握し、「すでにやっていることを見える化する」ところから始める。それが最も効率的な進め方です。 企業の多くは「やっているのに評価されていない」状態にあります。明文化・証跡整備という一手間が、スコアに大きく効いてきます。 EcoVadisへの取り組みを、自社のサステナビリティ経営を高度化する機会として捉えていただけると、対応のモチベーションも変わってくるはずです。 適切に取り組めば、「対応コスト」ではなく「経営価値向上」に転換することが可能です。 ウェイストボックスの支援アプローチ 当社はこれまで、気候変動領域を中心に、 ・GHG算定 ・SBT ・CDP などをご支援してきました。その中で培ったのは、「評価されることだけが目的にならない本質的な取組の推進」です。 EcoVadis支援においても、 ① 現状の可視化 ② 評価項目との紐付け ③ 実務として回る設計 ④ 継続改善の仕組み化 を一体で支援します。EcoVadisのスコアは、取り組みの質が高まるほど自然に上がります。そのため、評価対応と経営実務を切り離さず、両者をつなぐ設計を重視しています。 既にCDPやSBTへの対応を進めている企業であれば、それらの取り組みとEcoVadisの評価項目を効果的に連携させることで、効率的なスコアアップが可能です。 ご相談について ・EcoVadis対応をこれから始めたい ・スコアが伸び悩んでいる ・社内の進め方に課題がある といった場合には、ぜひ一度ご相談ください。 貴社の状況に合わせた具体的な進め方をご提案いたします。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 (執筆者:野村) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援事業|株式会社ウェイストボックス ・CDP質問書、TCFD・TNFD、SSBJ対応 開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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環境表示ガイドライン改定(2026年3月予定)グリーンウォッシュ回避に求められる実務対応

この記事を読んでほしい人 ・環境への取り組みを、単なるアピールにとどめず、企業ブランドへの信頼につなげたいと考えている方 ・意図せずグリーンウォッシュと受け取られてしまうことによるレピュテーションリスクに不安を感じている方   目次 ■環境表示のメリットとリスク  ・メリット:環境表示は消費者の行動に一定の影響を与える  ・リスク:グリーンウォッシュと指摘される可能性 ■グリーンウォッシュとは、無意識な「誇大表現」に注意  ・グリーンウォッシュの定義  ・リスクを孕む「危ういキーワード」 ■グリーンウォッシュの指摘事例から学ぶ ■EUの厳格な法規制「グリーン移行のための消費者支援指令(2024/825)」とは ■日本における環境表示ガイドライン改定の背景と方向性  ・改定の背景  ・改定の方向性 ■グリーンウォッシュの回避対策事例から学ぶ ■まとめ                                                                                                         はじめに 環境表示は、企業が取り組んできたサステナビリティの成果を、社会にきちんと伝えるための大切な手段です。いまやパッケージやECサイト、SNS、店頭POPなど、あらゆる場面で「環境に配慮しています」というメッセージを目にするようになりました。 しかしその伝え方ひとつで、企業への信頼が深まることもあれば、逆に疑念を持たれてしまうこともあります。良かれと思って発信した内容が、意図せずグリーンウォッシュと受け取られてしまうケースも少なくありません。 弊社にもこういった表現はグリーンウォッシュと指摘を受ける可能性がないか、 どういった表現であれば指摘を回避できるかといった相談をうけることもございます。 本稿では、なぜいまグリーンウォッシュがこれほど問題視されているのか、国内外の規制動向も踏まえながら整理します。そのうえで、実務の現場でどのような点に気をつけるべきかを具体的に解説していきます。   環境表示のメリットとリスク 自社の商品やサービス、あるいは企業活動について環境表示(自社の製品・サービス、あるいは企業活動が環境に配慮している旨を対外的に訴求する行為)は、いまや特別な取り組みではありません。むしろ、多くの企業にとって当たり前のコミュニケーションになりつつあります。しかし、消費者の解釈と企業側の意図に乖離が生じると、良かれと思った訴求が「誇大表示」や「不透明な主張」と見なされるリスクを孕みます。本章では、環境省の「環境表示に関する消費者の実態」を基に、その正負両面の影響を整理します。 環境表示は消費者の行動に一定の影響を与える  環境省の資料によると、消費者庁の調査において「環境に配慮されたマークのある食品・商品を選ぶ」との回答が23.9%に達しています。 この数値は、環境表示が特定の顧客層における「購買決定要因」として機能していることを表しています。全消費者が環境価値のみで選択するわけではありませんが、機能や価格以外の「付加価値」を補強するエビデンスとして、環境表示を戦略的に組み込む意義は大きいと言えるのではないでしょうか。 出典:環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf リスク:グリーンウォッシュと指摘される可能性 一方で、同資料では「広告やHP、SNS等の情報に接した際、約4割の消費者がグリーンウォッシュの疑念を抱いた経験がある」と報告されています。 環境への関心が高まる一方で、「本当にそうなのか」という目も確実に厳しくなっています。一度でも「実態が伴っていないのではないか」と思われてしまえば、その影響は小さくありません。対象商品の売上だけでなく、企業全体の信頼やESG評価にまで波及する可能性があります。 環境表示は、うまく機能すれば価値を生みますが同時に、グリーンウォッシュというリスクとも隣り合わせです。この両面を理解したうえで設計することが、これからの実務には求められています。 出典:環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf 次章では、こうしたグリーンウォッシュのリスクを構造的に理解し、それを回避するための表示のあり方や是非気を付けていただきたいポイントについて述べます。 グリーンウォッシュとは、無意識な「誇大表現」に注意 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よく見かけるキーワードについても使用に当たりまずその前提である使用条件を確認しておくことを推奨します。以下各ガイドラインで解釈や使用条件が定義されているキーワードがございます。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf 例えば、ISO14021では「節水」や「再使用可能」「詰替え可能」といった用語についても、具体的な使用条件が定められています。 「節水」と表示する場合は、製品使用時の水消費量を他製品と比較した削減量に基づかなければならず、製造工程での水削減は含めてはならないとされています。また、比較主張である以上、明確な基準と測定方法が求められます。 同様に「再使用可能」や「詰替え可能」といった表示も、単に物理的に可能というだけでは足りません。回収の仕組みや、購入者が実際に再使用・詰替えできる環境が整っていることが条件とされており、利用可能性が限定的である場合には、その旨を明確に伝える必要があります。 グリーンウォッシュの指摘事例から学ぶ グリーンウォッシュと指摘された国内外の事例を3つほどご紹介します。 【事例1】生分解性能を巡る優良誤認(エアガン用BB弾/日本) 製品パッケージに「地球環境にやさしい植物由来素材」「地表落下後に微生物によって水と二酸化炭素に分解される」と記載し、屋外利用の適性を強調して販売。 指摘された問題点: 過度な期待の醸成: 自然界において短期間で完全に分解されるかのような印象を与え、環境負荷を著しく低く見積もらせる表現であった。 合理的な根拠の欠如: 表示の裏付けとなる試験データや資料が提出されず、客観的な妥当性が認められなかった。 【事例2】抽象的なスローガンと事業実態の乖離(航空事業/英国) 航空機の機体とともに宇宙から見た地球の画像を配置し、「世界をつなぐ。その未来を守る」というメッセージを展開。 指摘された問題点: ビジュアルによる誤認: 地球の画像と「未来を守る」という強い文言の組み合わせにより、事業活動全体が環境にポジティブな影響を与えているという過度な認識を消費者に与えた。 技術的実現性の欠如: 排出量の多い航空業界において、当該スローガンを裏付ける商業的に実用可能な技術(SAFの十分な供給体制など)が現状では不十分であると判断された。 【事例3】リサイクル素材の含有率と部位の曖昧さ(スニーカー/フランス) 「プラスチック廃棄物をなくす」というロゴとともに、「50%リサイクル」と大きく掲出。注釈として「アッパー部分の50%に再生材料を使用」と記載。 指摘された問題点: 部位の混同: 一般消費者にとって「アッパー(甲被)」という用語は馴染みが薄く、製品全体が50%リサイクルされていると誤認させるリスクがあった。 絶対的表現の不備: 「プラスチック廃棄物をなくす」という包括的な主張に対し、実際の再生材使用状況が一部に留まっている点が、消費者の貢献実感を不当に高めると見なされた。 引用:環境表示について不適切と指摘された事例(環境省)000345669.pdf 上記の指摘事例に共通する要因を3つのポイントにまとめました。 ********************************************************* 断定的表現と前提条件の不一致: 言葉の強さに対し、適用される条件や限定句が不足している。 対象範囲(スコープ)の誤認: 「製品全体」なのか「一部のパーツ」なのか、範囲が曖昧である。 エビデンスの即時提示不可: 主張を裏付ける客観的・科学的な根拠が整備されていない。 ********************************************************* これらの事例が示すのは、「たとえ事実であっても、伝え方が不誠実であればグリーンウォッシュと見なされる」という厳しい現実です。 特に事例3のように、専門用語(アッパー等)を用いた注釈で免責を図る手法は、現在の規制当局や消費者からは「不誠実な隠蔽」と捉えられる可能性があります。次章では、こうしたリスクを未然に防ぐため、現在急速に進んでいる「規制の強化」と「ガイドラインの改定」について解説します。 EUの厳格な法規制「グリーン移行のための消費者支援指令(2024/825)」とは EUでは、グリーンウォッシュを単なる景品表示の問題ではなく、「循環型経済への移行を阻む不公正な商慣行」と位置付け、法的な規制枠組みを急速に整備しています。その中核となるのが、2024年3月に発効した指令(EU)2024/825です。 本指令は、EU加盟国に対して2026年3月27日までの国内法化を義務付けており、2026年9月27日から全面的に適用される予定です。本規制の特筆すべき点は、「環境に良い」といった主張そのものを一律に禁止するのではなく、「根拠を欠く、または消費者に誤認を与える典型的な表示パターン」を明確に類型化し、法的に禁止した点にあります。 主なポイントを紹介します。 1) 抽象的な環境主張(Generic Environmental Claims)の禁止 「エコ」「グリーン」「環境に優しい」「サステナブル」といった、具体的根拠を伴わない一般的かつ曖昧な表現が原則禁止されます。 実務上の要件: こうした表現を用いる場合、公的に認められた優れた環境性能(LEEDやBREEAMなどの第三者認証の取得、あるいは科学的に立証された定量データ)を同時に提示できなければ、不当表示と見なされます。 2) 「部分」の成果を「全体」へと飛躍させる表現の制限 製品の特定の構成要素や、事業活動の一部のみが環境に配慮されているにもかかわらず、あたかも「製品全体」や「企業全体」が環境優位性を持つかのような印象を与える表示が禁止されます。 実務上の要件: 訴求対象が「パッケージのみ」なのか「原材料の一部」なのか、その適用範囲(スコープ)を明確に区分して表示することが義務付けられます。 3) 排出オフセットに基づく「カーボンニュートラル」主張の制限 温室効果ガス(GHG)の排出オフセット(カーボンクレジットの購入等)のみを根拠に、製品が「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」「環境負荷ゼロ」であると謳うことは、消費者を誤導する慣行として原則禁止されます。 実務上の要件: 排出削減の「努力」と、やむを得ず行った「オフセット」を明確に切り分け、削減実態を伴わない安易なニュートラル宣言を排除する狙いがあります。 4) 将来の環境性能に関する主張への厳格な要件 「〇年までにCO2を〇割削減」「ネットゼロ達成」といった将来目標を対外的に公表する場合、以下の3点が求められます。 ・具体的かつ現実的な実施計画(Implementation Plan) ・測定可能かつ期限付きの中間目標 ・独立した第三者機関による定期的な検証 これらの裏付けがない将来目標は、規制対象になり得ます。 EUで活動する企業はもちろん、日本国内のみで事業を行う企業であっても、この規制は国内ガイドラインの改定に大きな影響を与えます。次章では、こうした国際的な潮流を受け、日本国内の環境表示ガイドラインがどのように変化しようとしているのか、その最新動向を整理します。 日本における環境表示ガイドライン改定の背景と方向性 欧州の厳格な規制強化に呼応するように、日本国内でも「環境表示ガイドライン」の改定が2026年3月下旬公表に向け大詰めを迎えています。(2026年2月時点)本章では、なぜ今アップデートが必要なのか、そして実務者が注視すべき「5つの基本原則」について解説します。 改定の背景 今回の改定の主眼は、環境主張の「拠り所」をより明確にし、実効性を高める点にあります。 現行のガイドライン(2013年改訂)は、国際規格であるISO 14021(自己宣言型環境表示)をベースとした枠組みを採用しており、誤認防止や検証可能性といった基本原則はすでに示されています。しかし近年、環境訴求が企業価値やブランド評価に直結するようになったことに加え、EUをはじめとする海外規制の強化や、デジタル媒体での情報発信の拡大など、表示を取り巻く環境は大きく変化しています。 その結果、従来の枠組みだけでは実務上の解釈に幅が生じやすく、グリーンウォッシュと指摘されるリスクを十分に抑制できないのではないかという議論が高まってきました。今回の改定は、ISO 14021の基本思想(誤認防止・検証可能性・比較の妥当性)を維持しつつ、より具体的で運用可能な指針へと補強することを目的としています。 改定の方向性 2026年2月公表の改定案では、環境表示を設計する際の指針として以下の5項目を提示しています。 1.あいまいな表現や環境主張は行わないこと 「地球にやさしい」といった抽象語を避け、再生材の配合率や削減量など、客観的かつ具体的な事実から訴求を組み立てることが求められます。 2.環境主張の内容に説明文をつけること 短いキャッチコピーが招く誤解を、最小限の補足情報で補完します。「どの部材に」「どのような条件で」といった情報を主張の近くに配置し、情報の非対称性を解消します。 3.製品のライフサイクル全体を考慮する 「特定の工程では良いが、別の工程で著しい環境負荷を与えている」といった、負の側面を隠蔽した訴求を制限します。製品のライフサイクル全体を見渡した「誠実な開示」が前提となります。 4.環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能で、情報にアクセスが可能であること 「言ったなら、説明できる」状態が必須です。物理的なスペースに制約があるパッケージでは、QRコード等を用いて詳細な算定根拠や第三者認証の情報へ誘導する「導線設計」までが表示の一部と見なされます。 5.製品または工程における比較主張はLCA評価、数値などにより適切になされていること 比較主張の妥当性確保 「従来比〇%削減」といった比較訴求を行う際は、LCAに基づいた等価な条件下での算出が不可欠です。数字の強さではなく、その「前提条件の整合性」が信頼の源泉となります。 引用:環境表示ガイドラインの改定要旨(案)について(環境省)000377631.pdf 今回示されている5つの基本項目は、日本国内だけを見据えたものではなく、各国の規制やガイドラインの動向も踏まえた内容になっています。 製品やサービスの販売先が海外に広がっている企業にとっては、国内ルールだけを意識すればよい時代ではありません。各国で強化が進む環境表示規制を踏まえたうえで、表示のあり方を検討することが前提になります。その意味でも、まずは改定予定の国内ガイドラインに沿って環境表示を整備することが、実務上の出発点になると考えられます。 以下表は日本の環境表示ガイドラインの各原則に対する各国ガイドラインの同等の原則を同列に整理したものとなります。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf   グリーンウォッシュの回避対策事例から学ぶ リスクを回避し、環境価値を信頼に変えている企業の取り組みについてもご質問いただくことがありました。企業はどのような対策をしているのでしょうか。事例を紹介します。 事例1:リサイクル素材の特性に関する能動的コミュニケーション リサイクルPET素材特有の「色味の変化」に対し、消費者の品質不安を予測した先回りの対応。 取り組み: ・ 店頭POP等で「再生材利用による色味の変化」を明記し、品質への影響がないことを周知。 ・表示の正確性を担保するため、全社共通の「環境訴求ガイドライン」を策定し、個人の感覚に頼らない審査体制を構築 事例2:独自マークの運用と算定基準の可視化 独自の環境配慮マークを導入するにあたり、その信頼性を客観的に担保。 取り組み: ・ ISO 14021に準拠した独自の運用基準を設定 ・表示の際は「対象範囲(容器か中身か)」や「環境貢献の内容(何を、どうしたか)」を定型化して併記することを徹底 上記の事例に共通しているのは、単に「正しい表示を行う」という点にとどまらず、その表示を支える社内体制まで整備していることです。 具体的には、 ① 根拠となるデータや基準を明確に整備すること(エビデンスの構築) ② 消費者が誤解なく理解できるよう情報の出し方を設計すること(説明導線の設計) ③ 担当者の判断に依存しない運用体制を築くこと(ガバナンスの強化) の3点が挙げられます。 環境表示においては、「どのような主張を行うか」という内容面だけでなく、 その判断基準を社内で共有し、継続的にチェックできる体制を構築することも極めて重要です。属人的な判断に頼らず、組織として一貫性を保てる仕組みを整えることが、結果としてグリーンウォッシュのリスク低減につながります。 まとめ 環境表示は、うまく活用すれば消費者の購買を後押しする大きな力になります。しかし一方で、使い方を誤ればブランドへの信頼を損なう可能性もあります。本コラムで紹介してきた事例や法規制の動向から見えてくるのは、環境表示がもはや単なるイメージづくりではなく、企業としての説明責任そのものだという点です。 最後に、実務で特に意識しておきたいポイントをあらためて整理します。 主張の根拠となるデータや資料をきちんと整え、求められたときにすぐ提示できるようにしておくこと。 誤解が生じる可能性を前提に、パッケージ・店頭・Webなど複数の接点を通じて、必要な情報にたどり着ける設計を行うこと。 担当者任せにせず、全社で共有された表示基準と確認体制を整え、継続的に運用していくこと。 これらを少しずつでも実践していけば、環境表示は「批判を避けるための対策」ではなく、「取引先や消費者の判断を支える信頼できる情報」へと変わっていきます。その積み重ねが、結果として企業価値の向上や、持続可能な社会の実現につながっていくのではないでしょうか。今後予定されているガイドラインの改定にも目を向けつつ、環境表示に取り組んでいくことをおすすめします。本稿が少しでも皆さまの実務の参考になれば幸いです。 参考資料: ・環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf ・環境表示ガイドラインの改訂要旨(案)について(環境省)000377631.pdf ・検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf ・欧州連合(EU)の公式法律データベース(EUR-Lex)Directive - EU - 2024/825 - EN - EUR-Lex (執筆者:小澤) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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ゼロから始めるサプライヤーエンゲージメント

 Scope3カテゴリ1の削減に向けた取り組みとしては、環境負荷の低い製品・サービスを優先的に選択する「グリーン調達」がよく知られています。一方で、もう一段“効く”手段として注目されているのが「サプライヤーエンゲージメント」です。 グリーン調達が“自社の購買行動の工夫”だとすると、サプライヤーエンゲージメントは“サプライヤーと一緒に脱炭素を進める仕組みづくり”です。サプライヤーと対話し、データを整え、改善の余地を見つけ、必要に応じて支援しながら、サプライチェーン全体で排出削減を進めます。これにより、自社だけでは手が届きにくい調達段階の排出にも、現実的にアプローチできます。  また、サプライヤーエンゲージメントを設計するうえでは、国際的な枠組みや先行事例の参照が有効です。特に、SBTiが公表しているガイダンス「Engaging Supply Chains on the Decarbonization Journey(Version 1.1, July 2025)」は、働きかけの考え方や段階的な進め方を整理した実務的な指針として参照されることが多い資料です。  本コラムでは、サプライヤーアンケートで「何を聞くべきか」、アンケート実施後に「どうフォローするべきか」まで、具体的なステップとして整理します。読み終えるころには、サプライヤーエンゲージメントの解像度が一段上がるはずです。 「サプライヤーエンゲージメント」とは何か  サプライヤーエンゲージメントは、ただの“データ回収”でも“お願いごと”でもありません。排出削減の成果をScope3に反映させるために、算定ロジック・データ・関係性をセットで整えていく取り組みです。まずは、考え方の核となるポイントを押さえます。  サプライヤー側で排出が下がったとしても、その効果が自動的に自社のScope3削減として表れるわけではありません。Scope3削減を実現するには、自社の算定ロジックを理解したうえで、サプライヤーの改善が適切に反映されるよう、算定方法やデータの取り扱いも段階的に整備していく必要があります。 サプライヤーエンゲージメントの考え方  サプライヤーエンゲージメントとは、原材料や製品・サービスを提供してくれているサプライヤーの皆さまと対話し、協力しながら排出量の把握や削減を進めていく取り組みです。  特に重要なのが、Scope3の中でも排出量が大きくなりやすいカテゴリ1(購入した製品・サービスの排出)です。カテゴリ1の排出は、自社の工場やオフィスではなく、サプライヤーの製造工程やエネルギー使用によって発生しています。そのため、自社だけで削減しようとしても限界が出やすいのが実情です。  ここで大切なのは、「一方的にお願いする」のではなく、同じゴールを共有しながら進め方を一緒につくることです。たとえば、データの定義を揃える、回答負荷を下げる、必要な支援策を用意する、こうした工夫が、協働を現実のものにします。 一次データを使うということ Scope3算定を始めたばかりの段階では、多くの企業が以下のような二次データで排出係数を設定しています。 業界平均値 国別平均値 LCAデータベースの代表値 これは悪いことではなく、初期段階では現実的で有効な方法です。ただし二次データは平均値なので、実際のサプライヤーの状況とズレる可能性があります。 同じ製品であっても、 使用電力が再エネ中心かどうか 設備の新しさ 製造プロセスの違い によって、実際の排出量は大きく変わります。そこで、サプライヤーから、 実際のエネルギー使用量 生産量(可能なら製品別) 排出量の算定結果(Scope1/2/3など) といった一次データ(実測・実態に基づくデータ)を共有してもらうことで、「平均的な排出係数」ではなく、そのサプライヤーに即した排出係数を使えるようになります。これが一次データ活用の基本です。 活動量ではなく排出係数そのものを削減する Scope3排出量を減らす方法には、大きく分けて2つあります。 1.活動量(購買量・購買金額・輸送量など)を減らす 2.排出係数(同じ活動量あたりの排出)を下げる 多くの企業では、金額ベースの経理データや重量・体積などの購買データを活動量として、産業連関表やAIST-IDEA等の二次データに基づく排出係数を掛け合わせる方法を採用しています。 ただし、二次データの排出係数は毎年勝手に下がるものではありません。この前提のまま削減目標だけを追うと、「活動量を減らす=事業規模を縮小する」方向に引っ張られてしまうケースも起こり得ます。 サプライヤーエンゲージメントの価値は、一次データを起点に、サプライヤーの改善(再エネ化、効率化、工程改善など)を“排出係数の低下”として捉え、Scope3算定にも反映しやすくするところにあります。事業と削減の両立を現実にするには、ここが重要な分岐点です。  すべてを一次データにすることは現実的ではない 一次データは強力ですが、すべてを一次データに置き換えるのは現実的ではありません。初年度から多くのサプライヤーに詳細データを求めれば、相手の負担も社内運用の負担も大きく、継続できなくなるリスクがあります。 そこで、段階的に反映する考え方が必要です。一次データをScope3算定に取り込む方法として、代表的に「ハイブリッド法」と「全体換算法」があります。 ハイブリッド法:一次データが取得できた部分だけ二次データから置き換え、それ以外は二次データを継続利用する方法。考え方がシンプルで、導入しやすいのが利点です。 全体換算法:一次データが得られた範囲をもとに、全体へ引き延ばして算定する方法。二次データを使わずに算定できる点はメリットですが、一次データの取得割合が低いと実態とかけ離れる可能性があります。 自社の目的(精緻化か、削減管理か、開示対応か)と取得状況を踏まえ、「まずはハイブリッドで進め、成熟に応じて拡張する」といった現実的な設計が望まれます。 「サプライヤーエンゲージメント」のステップ ここからは実務編です。サプライヤーエンゲージメントは、思いつきでアンケートを配るより、先に“勝ち筋”を決めた方がうまくいきます。ポイントは、何のために、誰に、何を、どう聞き、どう返すかを最初に設計することです。 どんなデータがほしいのか  サプライヤーエンゲージメントの目的は、Scope3算定や削減管理に活用できる「信頼性のあるデータ」を得て、削減行動につなげることです。そのため、収集対象となるデータの範囲と粒度を最初に整理しておきます。 実務上、まず押さえたいのは以下です。 サプライヤーのScope1・Scope2排出量(年度、境界、算定方法を含む) 可能なら、サプライヤーのScope3(上流側)の把握状況(カテゴリや範囲) 算定から除外している排出源の有無、前提条件(拠点範囲、連結範囲など) 原単位情報(売上高当たり、製品当たり等) 第三者検証の有無、保証範囲(どの範囲が保証対象か) この一式が揃うと、「数値の大小」だけでなく、「なぜその数値なのか」「改善の余地はどこか」まで見通しがよくなります。 また、一次データには大きく「組織ベース」と「製品ベース」の2つがあります。 組織ベース:サプライヤーのScope1・2(可能なら上流Scope3も含む)を総売上などで割り、サプライヤー固有の排出係数を算出。購買金額に掛けてカテゴリ1を算定します。サプライヤー側の負担が比較的低く、進めやすい一方、製品ごとの差は表現しにくい。 製品ベース:製品ごとのCFP(カーボンフットプリント)を用いて算定。精緻ですが、サプライヤー側負荷が大きく、対応できる企業が限られることがあります。 両者は排他的ではなく、成熟度に応じて併用も可能です。本記事では、取り組み初期〜中期でも現実的に進めやすい「組織ベースでの一次データ」を中心に説明します。 どんなサプライヤーにお願いするのか  取引先すべてに一律で依頼するのは現実的ではありません。まずは優先度の高いサプライヤーから確実に始めるのが定石です。代表的な選び方は次の通りです。 カテゴリ1排出量(影響度)が大きいサプライヤーを優先 自社Scope3に対する寄与が大きいほど、効果の説明もしやすく、社内の納得も取りやすいです。 業種・カテゴリでセグメントを切り、偏りを避ける 特定業種に偏ると、取得データが特定の業界になりがちです。セグメントごとに一定数を選ぶと、分析(セグメント平均・成熟度比較)にも使いやすくなります。 将来重要になる調達先を早めに巻き込む 今は排出量が小さくても、今後の調達計画で重要になるなら、早い段階から関係性をつくっておくと後が楽です。 脱炭素の成熟度/リスクも加味する サステナビリティ報告書、CDPスコア、第三者認証の状況などから、一定の見立てができます。成熟度が高い企業は早期に良いデータが取れる可能性があり、成熟度が低い企業は支援が必要だが改善余地が大きい可能性があります。 実務では、これらを組み合わせて「上位影響度+将来重要+数社の先進企業(ベンチマーク)」のように設計すると進めやすいです。 どんなアンケートを作成するのか データ収集の方法は大きく2つです。 標準化ツールを活用する(例:CDPサプライチェーン、EcoVadis等) 既に回答経験があるサプライヤーも多く、設計・運用コストを抑えやすい点がメリット。一方で、自社の目的に完全一致しない、質問が広くて回答負荷が高い、といった課題もあります。 自社独自アンケートを作成する 目的に合わせて設計でき、必要な情報に絞れるのがメリット。一方で、設計力と運用力(回収、問い合わせ対応、妥当性確認)が求められます。 以下のような要素をアンケートに含めると良いですが、すべてのデータを取得することは困難です。優先度を設定し、必須質問と任意質問を分けて設計するとスムーズでしょう。 対象年度 連結範囲/組織境界(拠点・子会社含むか) Scope1排出量(数値、算定方法) Scope2排出量(ロケーション/マーケットの扱い、数値) 売上高(排出係数換算に使う場合) 第三者検証の有無(あれば範囲も) 使用電力の内訳(再エネ比率など) 主要な削減施策(再エネ調達、設備更新等) 排出原単位(売上高当たり等) 算定から除外した排出源の有無 上流Scope3の把握状況(カテゴリ範囲) 製品CFPの有無、算定範囲、第三者保証の有無 こうして階層化すると、サプライヤーの成熟度の違いを吸収でき、回収率を落としにくくなります。また、こうした排出量情報の提示には、生産量や売上などの数字を推測される可能性があるため、慎重になるサプライヤーがいることも事実です。独自アンケートで収集する場合は、そういった点への配慮もしっかりしておく必要があるでしょう。 アンケートの実施 実施フェーズで効くのは、「社内の段取り」と「相手にとっての分かりやすさ」です。 1)社内合意を先に取る サプライヤーエンゲージメントはサステナ担当だけでは回りません。購買・調達、会計・財務、必要に応じて経営層も含め、次を合意しておきます。 取り組む意義(何のために、いつまでに、何を得たいか) サプライヤーの選定方針 回収〜妥当性確認〜反映までの役割分担 サプライヤーとのコミュニケーション体制(窓口、FAQ、説明会) 2)アンケート期間中は伴走が重要 未提出企業へのリマインド、問い合わせ対応、説明会など、現場対応が発生します。調達担当とサステナ担当が連携し、GHGに詳しくない担当者でも迷わない導線(説明資料、入力例、問い合わせ先)を用意するとスムーズです。 3)回収後に価値が出る(ここが本番) アンケートは取って終わりではありません。回収後に、 データの妥当性確認 結果のフィードバック 次年度に向けた改善ポイントの提示 を回すことで、継続的な削減につながります。 支援策としては、資料提供に加え、集合説明会、個別支援、eラーニングなどを組み合わせると効果的です。さらに、毎年進捗を見直し、Scope3構成変化を踏まえて重点サプライヤーを更新していくことで、取り組みが形骸化しにくくなります。 「サプライヤーエンゲージメント」で気を付けるべきポイント  サプライヤーエンゲージメントがうまくいかない典型は、だいたい同じところでつまずきます。ここでは、実務で起きがちな“落とし穴”を先回りして潰します。 答えやすさ・データの準備しやすさは注意!  サプライヤー側は、複数社から同様の依頼を受けていることが多く、アンケートが重なると負担が急増します。取組状況や担当者の体制も会社によってさまざまです。だからこそ、アンケートは「汎用的で、工数を抑えられる設計」が重要です。  既存のデータ収集システム(CDPサプライチェーン、EcoVadis等)を使うのも一つの手です。ただし、標準化された質問は広範になりやすく、自社目的に合わない項目や、回答負荷が高くなる項目が含まれることもあります。  最終的には、取りこぼしのない“最小限”と、相手の負担を増やしすぎない“現実性”のバランスです。入力例・単位・境界条件の説明を丁寧にすると、回収率とデータ品質が同時に上がります。 アンケートを取って終わり、ではないので注意!  一次データを集めること自体はスタート地点です。サプライヤーエンゲージメントの目的は、協働して削減を目指すことにあります。来年、再来年と継続してこそ価値が出ます。  次年度以降もスムーズにデータ提供と改善の議論ができるよう、関係性を整えることが大切です。可能であれば訪問やオンライン面談で、取り組み状況や課題をヒアリングすると、次の打ち手が具体化します。  また、サプライヤーの取り組みレベルをスコア化し、進捗を体系的に管理するのも有効です。トレーニングの優先順位付けや、支援メニューの設計がやりやすくなります。表彰や評価シートへの反映など“インセンティブ”設計も重要です。 データの信ぴょう性・妥当性には注意!  データ収集で重要なのは、集めたデータの信ぴょう性・妥当性の確認です。サプライヤーが時間をかけて回答してくれたとしても、単位違い、入力ミス、境界条件の取り違えがあると、現実的ではない排出係数になってしまうことがあります。 最低限、次をチェックすると事故が減ります。 単位(t-CO2e、kg-CO2e、MWh、GJなど)の整合 Scope2のロケーション/マーケットの扱い 対象年度・連結範囲・拠点範囲の整合 異常値(急増急減)の理由確認  異常値を見つけた場合は、いきなり「間違いですか?」よりも、「想定される原因(単位・範囲・年度差など)」を添えて再確認を依頼すると、コミュニケーションがスムーズです。 まとめ  脱炭素経営は、Scope1,2,3を算定し、目標を設定したあとのアクションが本番です。その中でも多くの企業にとって排出割合の大部分を占めるサプライヤーの排出量を削減することは、サプライチェーンの脱炭素化の肝です。  サプライヤーエンゲージメントは自社だけでは完結しない、サプライヤーを巻き込む取り組みであるため、実施するハードルが高いと感じる担当者様も多いことでしょう。当社はそうした企業の皆さまの伴走支援を行っています。お手伝いの方法は企業様のご要望によりそれぞれです。フルパッケージでご相談いただき、アンケート作成から回収後の分析までずっとお手伝いさせていただくケースもあります。一方で、アンケート質問内容だけ、仕組みづくりだけ、という部分的なご相談をすることで、次年度以降は自走していくという使い方もよくあるおすすめコースです。  「何から始めればいいかわからない」、「やってみたけれどもこれでいいのかわからない」など、お困りごとがございましたらぜひ一度ご相談ください。 (執筆者:久保・浦越)   【ウェイストボックスの関連サービス】 ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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CDP2026始動とCDPのこれから。企業はどうCDPを活用するか

 CDP2025のスコアが公開されました。回答企業の支援を行う弊社でも、回答提出からスコア発表までの時期は毎年そわそわ落ち着かない日々が続きます。回答企業のご担当者におかれましてはなおのことと思います。改めてCDP2025のご対応、大変お疲れ様でした。  さて、間髪を入れずにCDP2026が始動します。年末に2026年質問書の変更の方向性とスケジュールが発表されていますのでご紹介します。    また、CDPは2025年12月で25周年を迎えたということです。25年前に始まり環境情報開示をニッチから主流に押し上げグローバルでの浸透を成し遂げたCDP。CDPのこれまでの歩みから、今後向かう道、そして企業がCDPをどう活用できるかについて弊社が感じていることをまとめてみました。 CDP2026始動! CDP2026質問書変更の方向性 2025年12月に公開された「CDP2026情報開示サイクルに向けた準備」によると、2026年質問書では「データと行動の連携強化」を目的に、(1)自然分野の対象範囲拡大、(2)必須要件・スコアリングの改定、(3)国際基準との整合強化、(4)回答業務の簡素化が予定されています。さらなる詳細は新年の早い時期に発表予定となっています。 (1)自然分野の対象範囲拡大:オーシャンモジュール追加、フォレスト質問強化、中小企業(SME)版フォレスト・水セキュリティ追加、適応策とレジリエンスに関するデータ収集(既存質問を改良) 自然分野の新たな対象分野として、オーシャン(海洋)が新たなモジュールとして加わります。海洋は地表の70%、生命体が生存できるエリアでは99%を占め、全生物の80%が生息すると言います。またCO2や熱を吸収することで気候を調整し、海洋関連産業を通じ経済にも寄与しています。しかしその海洋は生息地破壊や乱獲等による直接的影響や、気候変動に起因する温度上昇や酸性化といった間接的影響により、生物多様性損失の危機に直面しています。また重金属や栄養素、プラスチック等の汚染の影響も受けています。オーシャンモジュールはフォレストや水セキュリティと同様、関連事業を行う企業が対象となります。オーシャンに関連する業種として想定されているものには、海産物・海上輸送・造船や海洋建造物等の直接影響を与える業種だけでなく、農業・食品、化学等海洋に影響を与える陸上事業、また海洋資源を原料としたり、海底ケーブルによる通信網や海水を冷却水に使用したりするデータセンター等バリューチェーン上で影響を与える業種も含まれます(但し2026はパイロットで対象は限定的になる予定の模様)。海洋の追加に加え、フォレスト質問の強化により陸上に関するデータ収集も強化され、またSME版フォレスト、水セキュリティが追加され回答対象者も広がる予定です。もう一点、物理的リスクへの備えや対応状況に関するデータのニーズを受け、適応策とレジリエンスに関してより多くのデータが得られるよう既存質問の一部が改良されるということです。 (2)必須要件・スコアリング改定 必須要件は、質問書変更を反映するため、加えてすべてのスコアレベルで評価基準と整合させるために限定的な変更を行う予定となっています。 またスコアリングについて、スコアリング対象分野は2025までと同じ、気候変動・フォレスト・水セキュリティで、プラスチック・生物多様性・オーシャンはスコアリング対象外です。フォレストでは2025まではスコアリング対象外だったカカオ・コーヒー・天然ゴムがスコアリング対象に変更となります。これにより従来のスコアリング対象である木材・パーム油・畜牛品、大豆に上記3つが加わり、7つの重要コモディティ(農産物)全てがスコアリング対象となります。加えてSME版のスコアリング基準に気候変動のリーダーシップレベルの評価が加わり、これまでは最高評価Bだったものが変わります。 (3)国際基準との整合強化 CDPは国際基準や主要国の情報開示規制との整合を進めてきていますが、2026質問書では、TNFD提言への完全整合(2025質問書で部分的には整合済)、GRI303:水と廃水基準、GHGプロトコル土地セクター・炭素ガイダンスへの整合のための質問変更が予定されています。なお、このように整合を進めている背景には、CDPが掲げる「Write once, read many(一度の報告が、何度も活用できる)」アプローチがあります。CDPへの開示データが様々な要請への回答、規制への対応に活用されることで、回答企業にとっては負担が軽減され、比較可能性も高まります。 (4)回答業務の簡素化:質問構成の洗練、データ取込機能強化、ガイダンスの更新、AIアシスタント(完成時期は未定) 質問書設定の際に自社に関連性の高い項目について開示を行うかどうかを選択できるより洗練された仕組み、また既存の過去回答がコピーされる機能に加えて企業が直接アップロードできる機能の追加、より読みやすい回答ガイダンスへの更新が準備されているということです。また完成時期は未定ですが、リアルタイムガイダンス、ナビゲーション支援、文脈に応じた説明を提供するAIアシスタントの導入準備も進んでいるということです。 CDP2026スケジュール(2026年1月時点) 現在公開されているスケジュールは以下の通りです。 2025とほぼ同じスケジュールで、スコア発表・スコア公開が若干早まっています。(2025年はスコア発表が12/10、スコア公開が1/8) 4月20日週 質問書公開 4月27日週 ガイダンス、スコアリング基準の公開         回答要請機関向けポータルオープン 6月15日週 回答企業向けポータルオープン 9月14日週 スコアリング対象回答提出期限 10月26日週 回答または修正提出期限 11月30日週 スコア発表、スコア公開   CDP25周年-これまでの歩みとこれから 企業はCDPをどう活用するか CDP25周年-これまでの歩みとこれから CDPは2025年12月で25周年を迎えたということです。2000年に英国で誕生したNPOですが、その始まりは「故Tessa Tennant氏(責任ある投資:SRIのパイオニア)、Paul Dickinson氏(現CDPストラテジックアドバイザー)、Jeremy Smith氏(現Energy Impact Partners, Rede Partnersシニアアドバイザー)の三人が、現在も続く『機関投資家に代わり企業から環境データを収集する』というアイディアをダウニング街10番地(首相官邸)に持ち込んだところから」だそうです。 2002年の最初の質問書はA4用紙1枚に質問が7問だけで、印刷し郵送で送付されたと言います。2002年当時の署名機関投資家は35名、FT500の500社に回答要請し、回答した企業は245社だったということです。2006年の責任投資原則(PRI)の誕生、ESG投資の高まり等とともに年々拡大を続け、2025年には世界の運用資産の4分の1に相当する640を超える機関投資家が署名機関となり、世界で22,100社を超える企業(世界の時価総額の半分以上)が回答しています。このように、今日CDPはESG情報開示のE(環境)の分野のグローバルスタンダードとしての地位を確立しています。 日本においては2006年にS&P150の150社が対象となり、2009年にはさらに500社に拡大、2011年以降FTSEジャパン500が対象となっています。その後、2022年からプライム市場上場企業を対象として一気に1,800社近くに増えました。2024年からは非上場も含む売上高一定以上の企業を対象として3,000社以上にさらに広がっています。 旧名Carbon Disclosure Projectの通り、当初は気候変動のみを対象に始まりましたが、2009年に水セキュリティ、2011年にフォレストも対象に加わりました。そして2022年には生物多様性、2023年にはプラスチックと環境分野の対象範囲も広がっています。 Japan Disclosure Webinars 2025: Introduction to Disclosing through CDP   CDPの2021-2025戦略を振り返ると、この5年間CDPが戦略に忠実に歩みを進めてきていることがわかります。2021-2025戦略では、2000年からの20年で環境情報開示をニッチから主流に引き上げたものの、「依然として開示ができていない企業が多く、また開示できている場合も、開示のみに留まらず説明責任や変革につなげていく必要がある」「気候変動はチャレンジの一部であり、持続可能な発展のためには気候危機と自然危機を同時解決する必要がある」という課題認識から、より広範なステークホルダーが参加し環境問題に関する透明性を大幅に向上させ、自然に与える影響を包括的かつ総合的に把握できる体制の構築を目指し、8つの戦略を掲げていました。 ①プラネタリーバウンダリーへの拡大:気候・土地・適応・生物多様性・廃棄物・水・海洋・淡水・森林・食料 ②科学に基づく移行の追跡:コミットメントの追跡(具体的計画を伴わせ進捗を追跡) ③新たなアクターへの拡大:より広範な上場・非上場企業への対象拡大 ④政策の野心を高めるための行動の促進 ⑤基準の大規模実装のための利用 ⑥地域に根差した行動の促進拡大 ⑦新たな技術の活用による透明性向上、複雑性削減 ⑧社会・ガバナンス指標の強化  *CDP_STRATEGY_2021-2025.pdf ①対象分野拡大は2026のオーシャン追加によって完成に近づきつつあり、残された大きなテーマは廃棄物と言えそうです。②コミットメントの追跡は移行計画の開示や進捗の開示といった質問に反映されていると言えますが、気候と自然のタイムリミットが近づくにつれより一層重視されるポイントとなっていくと言えそうです。 2025年1月、CDPは25周年の節目に新しいテーマとして「Earth Positive Economics(アースポジティブな経済)」を発表しています。アースポジティブとは「事業目標の達成と並行して、環境を保護・回復し、地球への悪影響を低減するような方法でアクションを起こすこと、また、他社にもアクションを促すことを意味します。アースポジティブな意思決定とは、地球の最善の利益を念頭に置いてアクションすることです。それは考え方であると同時にアクションへの指針でもあります」と定義し、アースポジティブな経済とは「地球の健全性が前提となる経済」と説明しています。2025までに築かれた透明性を土台に、2026からはデータに基づき意思決定しアクションを起こすことをより一層促す意思表明と受け取れます。 企業はCDPをどう活用するか  まず、CDP質問書は環境情報開示のグローバルスタンダードであり、回答することで投資家等が求める透明性の高い開示が可能となり、投資家・顧客コミュニケーションの一手段となります。そして、回答は評価・スコア付けされ投資家・購買企業に提供され、投資家は投融資の、購買企業はサプライヤー管理の意思決定の参考としています。よって、回答し、スコア向上を目指すことは、資本へのアクセス・ビジネス機会獲得につながる可能性があります。資本へのアクセスの例としては、CDPのスコアに基づいて特定の投資/融資商品が利用できたり、優遇金利が利用できたりというものがあります。国内でもCDPスコアをKPIとするサステナビリティリンクローン等の事例が見られるようになってきました。ビジネス機会の例としては、環境対応を調達要件に含めたり、サプライヤー選定の参考とする購買企業が増えてきて、CDPの回答状況やスコアが新たな取引の獲得や取引の継続につながる場合があるというものがあります。国内でもサプライヤーエンゲージメントが徐々に広がりを見せています。エンゲージメントの始めのステップではデータ収集をすることが多いですが、その中でサプライヤーのデータを比較して見始めている企業は増えていると感じています。Scope3を削減したり、サプライチェーン上のリスク管理をしていかなければならない購買企業にとっては、CDPに回答し高スコアを獲得していることは取引相手の魅力の一つと言えます。新規取引や取引継続といった意思決定にまではまだ結びついていなかったとしても、そのように好印象を与えられている可能性はあると考えています。 加えて、CDP質問書は「規制への準備」としても活用できます。日本のSSBJやEUのESRS等、環境を含む非財務情報の開示基準の整備と開示の規制化が進んでいます。CDP質問書はTCFD、TNFD等のフレームワーク、ISSB等の開示基準、主要国の開示規制との整合も進めていますので、CDP質問書に回答することは主要な基準や規制に対応した開示の準備にもなります。弊社では基準や規制の意図が良く理解できない時に、対応するCDP質問書やガイダンスを見て理解につながったことがあります。CDP質問書はガイダンスが豊富で、また各質問間のつながりを説明してくれている部分もあるため、このように基準や規制への深い理解にも役立つ場面があるのではないかと感じています。今後さらに規制を導入する地域が増え、また規制の対象範囲となる環境分野も広がっていく可能性があり、その中でCDP質問書への回答は心強い準備になると考えています。 最後に、これまでの活用方法は外部開示への活用方法でしたが、CDPの回答分析結果によると、高スコアを獲得しているリーダー企業は、CDP開示を内部での計画やアクションにつなげ、排出削減等の取組を進めていると言います。CDP質問書は毎年最新の科学的知見、最新の主要な基準・フレームワーク、そしてグローバルのベストプラクティスを参考にして更新されています。毎年の質問変更への対応は大変ですが、それを追っていくことで、グローバルで重要視され始めている取組や求められているレベル等、環境対応の最前線を網羅して追っていくことができる、いわば最新の「環境対応ガイド」であると感じています。気候変動だけでも最新動向を追い続けるのは大変なことですが、環境分野のカバー範囲が広がり、環境分野を広く網羅して最新動向を押さえられることはとても価値があることと思います。また、CDPの質問書は「ガバナンス」→「リスク管理」→「戦略への落とし込み(計画)」→「実行と進捗管理」といった、企業がとるべきステップに沿っています。質問書自体が各分野で企業が対応すべきロードマップを示していると言えます。何から始めればよいかわからないという企業も、CDP質問書を参考にすると対応すべきステップが見えてくることがあります。各ステップの中でのベストプラクティスも更新されていくため、それを自社の次の計画やアクションに活かしていくことができる可能性があります。これからは特に「戦略への落とし込み(計画)」、「実行と進捗管理」のステップが重要であり、CDPの新たな意思表明の通り、この分野での示唆を多く得られることを期待しています。 弊社がCDP支援を本格的に開始したのは2018年でした。初めてCDPのスキームを知ったとき、弊社も掲げている「環境と経済の両立」を実現できる大発明なのではないかととても感動したのを覚えています。そこから8年、弊社もまさにCDPをガイドとして知見を積んできました。今後さらに多くの日本企業がCDP質問書への回答とともに、CDPをガイドとして環境とビジネスの両立・相乗効果を力強く進めていっていただきたい、また弊社はそのような企業を力強く支援していきたいと改めて誓った2026年の年明けでした。 出典 *Preparing_for_Disclosure_Cycle_2026__Japanese_version_.pdf CDP Worldwide-Japan「CDP回答をアクションに生かす~2026年サイクルの方向性~」 CDP2026開示サイクル - CDP Japan Disclosure Webinars 2025: Introduction to Disclosing through CDP *CDP_STRATEGY_2021-2025.pdf 透明性からアクションへ:CDP がアースポジティブな未来に向けてブランドを刷新 - CDP Transforming Markets: The Rise of Earth-Positive Economics - CDP 環境データを開示する理由 - CDP (執筆者:山本(裕)) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・CDP質問書、TCFD・TNFD開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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カーボン・クレジットに関する動向

 これまでもカーボン・クレジットの基礎(2024年7月投稿)やScope 3とカーボン・クレジットとの関連性(2024年10月投稿)に関して、弊社業界動向コラムで説明してまいりました。気候変動全般の話題同様、カーボン・クレジットにおいてもSBTi、VCMI、ICVCM、ISO、パリ協定第6条、日本国内のGXリーグなど、さまざまな国内外のイニシアティブやルールを取り巻く状況がめまぐるしく変わっています。  ネットゼロを掲げる企業にとって、「クレジットを使うかどうか」はもはや選択肢ではなく、「どう使うか」が問われる段階に入っています。かつては、「安いクレジットを買って埋め合わせ(カーボン・オフセット)すればよい」という感覚でも通用していましたが、今はカーボン・クレジットの質、使い方、そして主張の仕方が非常に重要になっています。  本記事では、改めてカーボン・クレジットの基礎のおさらいから最新の各イニシアティブ等での全体像、最新ルールの全体像、そして企業がとるべき実務的なスタンスについて説明いたします。カーボン・クレジットを既に活用している企業の皆さまにとっても、今後、カーボン・クレジットの購入や活用を検討している企業の皆さまにとっても良いヒントとなれば幸いです。 カーボン・クレジット基本のおさらい カーボン・クレジットとは  カーボン・クレジットとは、図1に示すように省エネルギー、再生可能エネルギー、森林管理などの活動で削減・吸収された温室効果ガスを方法論と呼ばれるルール従って計算・認証することで数値化し、クレジット(証書)の形にして、売買できるようにしたものです。​ 図1.ベースライン&クレジットの考え方  カーボン・クレジットは大きく分けて2つの要素でできています。1つ目が発行を行う制度の運営主体です。図2に示すように、カーボン・クレジットの発行や制度運営主体で分けると、国連・政府主導(CDM、JCM、J-クレジットなど)と、民間主導のボランタリークレジット(VCS、Gold Standard、ACRなど)に分けられます。この運営主体によって、クレジットの仕様方法が異なることもあるため、まずはどの運営主体によって発行されたカーボン・クレジットであるかを把握する必要があります。  そして、2つ目がカーボン・クレジットの種類、いわゆる、どの種類のプロジェクトで創出された、何由来の価値かという部分です。カーボン・クレジットは図3に示すように「排出回避/削減」か「固定吸収/貯留」かに大きく分けられます。その中でもNbs (Nature-based solution)と呼ばれる自然ベースか技術ベースかに分類されます。とりわけ、自然ベースのカーボン・クレジットは、生物多様性や地域コミュニティへの貢献といったコベネフィットと呼ばれる「共便益」を併せ持つ点が評価され、最近のトレンドにもなっています。  カーボン・クレジットを使用する際には、使用目的に合わせたクレジットを選択する必要があります。カーボン・クレジットにおいては、①制度の運営主体、②カーボン・クレジットの創出方法(何由来の価値か)を理解する必要があります。 図2.カーボン・クレジットの運営主体の区分 図3.カーボン・クレジットの種類 制度の運営主体  海外の代表的なクレジット制度(レジストリ)として、CDM(クリーン開発メカニズム)由来の京都議定書時代の国連主導クレジットであるCER、Verraという民間団体が運営するVCS/VCU、Gold Standard、ACR(American Carbon Registry)などがあります。​最近では、Plan Vivoなどのようなコベネフィットや社会的なプロジェクトをより重視したレジストリや、PuroEarth、Isometricといった新興レジストリも出てきています。  また、CDP29ではCDMの後継であるPACM(パリ協定クレジットメカニズム)の主要ルールが採択され、CDMプロジェクトのPACM移転手続き等が開始された。また、二国間クレジットについても詳細が詰められ、本格的な運用段階に移っています。日本でもJCMクレジットとして創出が行われており、近年は民間主体のJCMクレジット創出の取組も開始されています。 CDM(Clean Development Mechanism)/CER(Certified Emission Reduction):京都議定書時代の国連主導クレジット。京都議定書自体の役割を終え、後継としてPCAMが開発された。 PACM(Paris Agreement Crediting Mechanism)/A6.4ER(第6条4項メカニズム排出削減量):CDMの後継メカニズムであり、CDMからの移転手続きが進められている。一方で、移行の成否は新たな基準(特に方法論分野)への対応等が必要であることから、課題も多い。 第6条2項(協力的アプローチ)クレジット:パリ協定第6条2項に基づき、二国間の協力で生まれたクレジットを国どうしで移転・分け合う仕組みの総称である。日本が運用しているJCM(Joint Crediting Mechanism)はこの代表的な枠組みであり、日本とパートナー国のプロジェクトから生じた削減・吸収量をクレジット化し、両国の貢献度合いに応じて配分する仕組みとなっている。 VCS/VCU:森林・土地利用、REDD+などに強く、CCB ※1やSD VISta※2によりSDGs・生物多様性等の価値を上乗せできるのが特徴。​ Gold Standard:持続可能な開発と排出削減の両立を重視し、再生可能エネルギーやクックストーブ等のプロジェクトで強い実績を持つ。​ ACR(American Carbon Registry):世界初の民間ボランタリーレジストリ。カリフォルニア州ETSのオフセットにも使われるなど、コンプライアンス・ボランタリーの両方で活用することが可能。  ※1 CCB(Climate, Community Biodiversity):気候・コミュニティ・生物多様性の基準。気候変動への対応、地域コミュニティや小規模農家への支援、生物多様性の保全を同時に行っていることを証明するもの  ※2 SD VISta: 持続可能な開発認証インパクト・スタンダード。社会的・環境的プロジェクトの持続可能な開発効果を認証するための最高基準   カーボン・クレジットの最新動向 J-クレジットやボランタリークレジットの価格推移  近年カーボン・ニュートラル実現に向けて、世界各国で市場メカニズムを活用したカーボンプライシングに関する取り組むが活性化しています。世界銀行が公開しているカーボンプライシングダッシュボードを確認すると、図4に示すように52か国でETS等のコンプライアンスメカニズムが導入され、17か国でカーボン・クレジット市場が運用されています(2025年12月公開情報より)。こうした制度は、2024年に世界全体で1,000億ドルを超える公的歳入を生み出しています。  図4. コンプライアンスメカニズム及びカーボン・クレジット市場を有する国 Carbon Pricing Dashboard | Up-to-date overview of carbon pricing initiatives  日本国内においても、2023年10月に東京証券取引所がカーボン・クレジット市場を開設され、GX-ETSの本格運用に向けて様々な議論が活発になされています。実際に相談のお問合せも増加傾向にあり、クレジット制度全般に関する関心の高まりを感じています。  このような盛り上がりの影響もあって、日本のカーボン・クレジット制度であるJ-クレジットでは、前述した東証における価格が2025年から急上昇しています。図5に示すように特に省エネクレジットについては、2023年の年末時点と比較すると2025年12月時点では3倍以上の価格が上昇しています。 図5. J-クレジット(省エネクレジット)の価格推移 出所:日本取引所グループ 市場開設以降の売買状況  この価格上昇については、様々な機関・企業が分析し、見解を公表しています。これらの情報を収集し、以下に整理しました。結論としては、市場の流動性が限られていることから、適正価格が不透明であることが原因と考えています。  今後の価格予想については、短期的には、需要拡大の一因であるGX-ETSにおける排出枠に関して、12月上中旬に実施予定の経済産業省における排出量取引制度小委員会で上下限価格の具体的な水準について議論予定であることから、その結果の影響が大きいと考えています。長期的な価格動向については図6に示す世界銀行が公開しているカーボンプライシングダッシュボードに記載されている各国のETS価格水準が参考になると考えています。  こうした価格の変動は、需要家側にとっては長期的な調達戦略等を考える課題になりますが、創出側にとってはこれまで採算が合わなかった小規模プロジェクト等の拡大にもつながります。J-クレジット制度を活用することで、より脱炭素投資を拡大することにもつながりますので、興味をお持ちの際は相談窓口にご連絡ください。 直近のJ-クレジットの認証量は無効化量を大きく上回っており、実際に利用する企業が増加して市場に流通するクレジットの在庫不足によって価格が上昇したものではないと考えられる。 GX-ETSの排出枠の代替目的などの将来の利用や転売を見越した需要の拡大及び投機目的の購入の影響があると推測される。 カーボン・オフセット都市ガス等これまでなかった利用方法の拡大 図6.各国のETS価格 価格 |カーボンプライシングダッシュボード 信頼性・質へのシフト(除去系への関心拡大)   カーボン・クレジットの需要が高まるにつれ、カーボン・クレジットそのものの中身や質が問われるようになってきています。  カーボン・クレジットの発行が増えるにつれ、カーボン・クレジットの過大発行やプロジェクト地域における先住民族に対する人権問題など、グリーンウォッシュの事例も出てきています。例えば、2024年10月に起きた事例では、ブラジル・パラ州の先住民族・地域団体38団体は同州のアマゾン熱帯雨林保護を支援するため、アマゾンやウォルマートといった米国多国籍企業とカーボン・クレジット売買契約を締結する前に州政府から事前に十分な協議を受けていなかったと共同声明を発表しています。これは、いわゆる、FPIC(Free, Prior and Informed Consent)と呼ばれる、十分かつ事前の同意を得ていなかった例です。その後、2024年10月の報道を受け、パラ州政府は今後、先住民族との対話を開始すると発表しています。しかし、ブラジルでは、2025年7月にも、Verra などの大手クレジットレジストリに登録されたアマゾン地域の森林保全プロジェクトを対象に、Ibama(ブラジル環境政府機関)による過去の違法伐採歴がある人物・団体が関与していた事例が少なくとも 36のうち、24プロジェクトあったとの報道も出ており、カーボン・プロジェクトの質に関わる問題は山積みとなっています。  また、同じく2024年10月に起きた事例では、米国商品先物取引委員会(CFTC)が米国ワシントン州に拠点を置くカーボン・クレジットプロジェクト開発会社がボランタリーカーボン・クレジットに関連する詐欺および虚偽・誤解を招く・不正確な報告を行ったとして、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に訴状を提出しています。このプロジェクト開発会社が、2019年以降少なくとも2023年12月までサハラ以南アフリカ、アジア、中米において、より効率的な調理用コンロやLED電球の設置などで排出削減を目的とするとして開発したプロジェクトに関連し、欺瞞的な計画に関与したと言われています。実際には、炭素クレジットの検証・発行に関連し、虚偽・誤解を招く・不正確な情報を不正に報告し、権利を有する量より数百万単位多いカーボン・クレジットが発行されていました。このプロジェクト開発会社が虚偽に発行したカーボン・クレジットは取消され、罰金や取引禁止などの制裁が科されています。  企業は、プロジェクト種類、ビンテージ、方法論などの基礎的な要素のみならず、例えば、政治的安定性や法規制・整備などのプロジェクト実施国のリスク、過去の実績、コンプライアンスなどのプロジェクト開発者のリスク、人権、先住民との関係性、生物多様性や水リスクといったSDGs関連のリスクなど、様々な側面からデューデリジェンスを行ったうえで、カーボン・クレジットを調達する必要があります。  ボランタリーカーボン・クレジット市場では、取引量が減少する一方で、厳格な基準を満たした「高品質クレジット」への選好や需要集中が顕著になっており、平均価格は比較的底堅く推移しています。 上記で述べたようなVerraの発行するCCB(Climate, Community Biodiversity)気候・コミュニティ・生物多様性基準、SD Vistaなどの追加的なラベル付のカーボン・クレジットを組織のクレジット調達の要件の一つにしている企業も多くみられます。  また、上述のようなグリーンウォッシュの事例にも対応していくために、より高品質なカーボン・クレジットの「世界共通ラベル」を作ろうとする世界的な動きもあります。それが、ICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)です。同評議会はCore Carbon Principles(CCPs)を定め、​下記2つのレベルで評価し、CCP-eligible/CCP-approvedを経てCCPラベル付与に進む仕組みを整えています。2025年10月に発行されたICVCMのImpact Report 2025によれば、2025年10月時点で、Verraなどのレジストリで、森林管理 (Improved Forest Management: IFM)、バイオ炭 (Biochar)、植林/再植林 (Afforestation / Reforestation)、炭素除去 (CDR)などの36もの方法論がCCP適格として、承認されています。今後、5,100万tCO2規模のCCPラベル付きクレジットが市場に出てくる見込みとされています。この数値は、2024年市場発行量のおよそ 4% にあたる量です。 プログラムレベル(Verra、GS、ACR、CARなど) カテゴリ/方法論レベル(REDD+、ARR、IFM、埋立てガス、クックストーブ等)  VCMIは、原則として「ICVCMのCCPラベルまたはA6.4ERs」を高品質クレジットとして認める方向性を示しています。企業側から見ると、「とりあえずVerraやGold Standardで安価なプロジェクトを買えば良い」フェーズから「しっかりとICVCM・VCMIの要件も満たしているプロジェクトかどうか」も確認したうえでカーボン・クレジットを調達することが重要というフェーズに変わりつつあります。  加えて、カーボン・クレジットに対して格付けを行う機関やツールも出てきています。客観的且つ信頼性の高い情報が不足しており、クレジットの質や現地情報の確認等まで全て自社で行うには限界もあります。例えば、BeZeroやSylvera(シルベラ)といったクレジット格付け機関は、様々なレジストリの世界各地のカーボン・プロジェクトの品質を科学的かつ透明性の高い手法で格付けし、その格付け結果を自社のツールで公表しています。  例えば、Sylveraは、人工衛星データやAI、アカデミック手法を組み合わせた独自方法により、600以上ものプロジェクトをGHG削減・除去量の実効性、追加性、永続性、コベネフィットなどの観点から評価し、AAA(最高品質)~D(最低品質)の格付を提供しています。これらのカーボン・クレジット格付けツールは実際に政府や企業にも幅広く活用されています。 ブロックチェーン等デジタル技術の活用に関する動向  カーボン・クレジットの信頼性に関する課題として、「二重計上の防止」や「トレーサビリティの向上」が挙げられています。この課題の解決策としてブロックチェーンに関する技術が注目されています。これまで導入に慎重であったVerraについても、今年エコシステムを推進しているHedera Foundationと提携し、Hederaのブロックチェーン基盤(Guardian など)を活用したカーボン市場のデジタル変革プロジェクトを開始すると発表しており、段階的にデジタル化を進めています。また、J-クレジットでも、トークン化に関する法的論点の整理・分析に関するレポートが公開されています。  レポートでも言及されていますが、過去には償却済みクレジットのトークンが流通することで、償却を行った者を Verra 等の制度管理者側で把握・管理することができなくなるおそれがあるという問題が生じており、Verra が償却済みのクレジットのブリッジを禁止する等の動きもあり、まだまだ課題が多いものの、前述したメリットも大きいことから、今後の進展に着目して行く必要があると考えています。  また、ブロックチェーンと合わせて着目されているのが、MRVのデジタル化です。MRVはMeasurement, Reporting and Verification(測定・報告・検証)の略称であり、IoTセンサー・衛星リモセン・AI解析などのデータを用いて削減量を自動計測・レポーティングし、クレジット発行の手続きの省力化への貢献が期待されています。  日本でもJ-クレジットにおいてMRV支援システムの導入が進められています。制度事務局では、MRV支援システムの利用により、モニタリングから認証申請までの業務効率化が見込まれるほか、従来であれば人手で実施していたIoT機器等の情報の取りまとめや排出削減量の算定をシステムが行うことにより、改ざんや転記ミス等のリスク低減が見込まれています。現在株式会社日立製作所等の3社がMRV支援システム運営者として登録されています。現時点ではMRV支援システムを使用した事例は登録されていないものの、今後事例が増えていくと想定しています。  こうした取り組みが拡大していくことは、カーボン・クレジットの創出に関する負担軽減、信頼性向上に寄与すると考えています。 カーボン・クレジットの使用方法 カーボン・クレジットの利用方法  カーボン・クレジットはどのように利用されるのでしょうか。現在の主なクレジットの仕様方法は表1のようになっており、組織は、利用目的に合わせてカーボン・クレジットを調達する必要があります。 表1. 目的別カーボン・クレジットの活用方法   ISOカーボン・ニュートラル対応  具体的な使用方法の一つとして、ISOカーボン・ニュートラル基準への対応があります。カーボン・ニュートラルやネットゼロは国際的な規格であるISO化が進んでいます。現在、カーボン・クレジットを使用しての企業としてカーボン・ニュートラルを主張することができるISO14068-1が存在します。これはBSI(The British Standards Institution、英国規格協会)が定めていたカーボン・ニュートラルの規格であるPAS2060の進化版になります。IPCCレベルではカーボン・ニュートラルとネットゼロはほぼ同義ですが、ISOではより細かく定義が分けられています。 カーボン・ニュートラル(ISO14068-1):組織・製品・サービスも対象。削減+除去+オフセットでフットプリントをゼロにする概念。 ネットゼロ(Net Zero Guidelines/ISO14060.2):国家や組織にフォーカスし、長期的に残余排出量以外を削減したうえで、残余排出量のみを除去系のカーボン・クレジットで中和するという、より厳格なフレーム。​  ISO14068-1では直接的もしくは間接的GHG 排出量を削減(reduce)し、さらにGHG 除去(removal)の強化に優先順位を付け、活動の後に残っているカーボンフットプリントについてのみ、カーボン・オフセットを行うことによるカーボン・ニュートラルを認証するものです。PAS2060との違いは細かくあるものの、要件として一番難しいのはクレジットの要件の部分が挙げられます。既存のISOにおいては主張をする期間の開始より5年以内に創出されたのカーボン・クレジットの使用かつ、相当調整(corresponding adjustment)※3がされている必要がある点が一番の難点となります。これはパリ協定が適応される前のビンテージのものについては考慮しなくてよいのですが、適応される年度以降については考慮する必要があります。なお、現時点ではJ-クレジットは適応対象外の可能性が高いと考えられています。 ※3 相当調整:排出削減成果(ITMOs)を他国に移転する際に、ホスト国(クレジット創出国)が自国のNDC(国が決定する貢献)からその分を差し引く会計上の調整のこと。同じ排出削減または除去が、同一の会計システム内で2つの異なる主体によって目標達成のために主張されることを指す。例えば、一度は国や地方自治体などが緩和目標達成のために排出削減量として報告し、もう一度は企業などがカーボン・クレジットを償却して自社の排出削減達成として主張する、といったケース カーボン・オフセット認証の紹介    上述のISOは海外の認証ですが、日本国内でも環境省によるカーボン・オフセット認証、カーボン・ニュートラル認証という仕組みがあります。これは、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」(平成26年3月31日環境省)を受けて、平成29年6月1日(Ver1.0)「カーボン・オフセット第三者認証プログラム実施規則」にカーボン・オフセット第三者認証プログラムが定められたものです。様々な企業が自社の排出量や製品の認証に取組んでおり、認証を取ることで環境配慮型企業としてのPR、取引先・顧客からの評価向上、社内の温暖化対策への意識向上といった効果を期待しています。 SBTネットゼロでの評価(BVCMについてもここで紹介)  SBTiからも企業のネットゼロスタンダードv2が公開されています。このネットゼロスタンダードv2では、企業は、ネットゼロへの移行の過程で継続的な排出に責任を持ち、ネットゼロ目標年およびその後に残余排出の影響を中和することが求められています。  現在公開されている第2回コンサルテーションドラフトでは、企業の継続排出量への責任は2035年まで任意となりますが、その後はカテゴリーA企業がこれらの排出量に対し段階的に責任を負うことが義務付けられています。また、全企業は、ネットゼロ達成年までに、残存排出量の100%を中立化するか、間接的なバリューチェーン排出量については、バリューチェーンの取引先がこれらを中和することを保証しなければなりません。ネットゼロ目標年以降、全ての企業がスコープ1~3残余排出量をCO2除去により中立化し、ネットゼロ目標年において、残余排出量の41%以上が長寿命貯留層で除去・貯留される必要があります(2035年は17%想定)。 ※カテゴリーA企業:高所得地域で事業を行う大企業および中規模企業。ネットゼロスタンダードv2では、企業はこのカテゴリーAとカテゴリーB(低所得地域で事業を行う中小企業)に分けられる。 出所:CNZS-V2-_-Detailed-Explanatory-Guide_Japanese.pdf  上記を含むSBTiにおける変更により、オフセット目的でのクレジット使用は依然認められていないものの、残余排出の中和の手段の一つでもある、残余排出の中和手段として、高品質なカーボン・クレジットの購入、炭素貯留・除去技術への投資、マングローブ林や泥炭地の保全などの企業のバリューチェーン外の貢献(BVCM:Beyond Value Chain Mitigation)に関する取り組みが正式に認められる形となっています。SBTiネットゼロスタンダードでは、企業が炭素除去をより拡大し、気候資金を動員する機会といった、残余排出量に対処するためのオプションが提案されています。  これまでは、このBVCMの活動について取り組む企業側のインセンティブがなく、自主性に任せられてきました。今回の改定案では一定のルールに基づいてBVCMに取り組む企業に対して差別化を図ることができる認定フレームワークの設計が議論されています。  例えば自社の排出量の1%以上分のカーボン・クレジットの購入や、脱炭素技術への支援を行うことで、追加的な認定を得ることができるというような仕組みが考えられています。この制度により、より気候変動に積極的に取り組む企業の差別化がなされます。  BVCMに取り組む企業にとっては、貴重な資金を投入するため、よりPRにつながるクレジットの購入や取り組みへの投資を検討する必要があります。 出所:ABOVE AND BEYOND: AN SBTI REPORT ON THE DESIGN AND IMPLEMENTATION OF BEYOND VALUE CHAIN MITIGATION (BVCM) まとめ  今回のコラムではカーボン・クレジット全般の動向を整理しました。日本では国内のコンプライアンス市場であるGX-ETSの本格稼働に向けて様々なルールの議論が始まっています。また、ボランタリー市場においても、ISOやSBTiでのクレジット利用方法についても具体的な指針が出てきています。そのため、クレジット利用する場合には、まず目的を明確にし、その目的に応じた信頼性と追加性の高いカーボン・クレジットを調達する必要があります。  クレジットの調達方法にお悩みの際には、是非お気軽にご相談ください。 (執筆者:野村・大橋) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・カーボン・クレジット創出事業 ・カーボンニュートラル・BVCM ・アドバイザリーサービス

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SBTiを取り巻く急速な変化と、企業がいま取るべき対応

  気候変動やSBTをめぐる「変化の速さ」に企業が戸惑う時代  気候変動対策をめぐる世界の動きの速さは、企業の皆さまも日々実感されているのではないでしょうか。 なかでもSBTi(Science Based Targets initiative)は、企業が科学的根拠に基づいて温室効果ガス削減目標を設定するための国際的なイニシアティブとして確固たる地位を築きました。しかし同時に、その基準や運用ルールの改定スピードが非常に速いのも特徴です。 地球温暖化の進行とSBT認定取得企業の急増を受け、SBTiの役割と影響力はこれまで以上に拡大しています。それに伴い、SBTi基準のマイナーチェンジや各種ガイダンスの発行、申請手順や料金体系の変更、さらには専用ポータルの導入など、制度運用のアップデートが継続的に行われています。特に2025年3月に「SBTiネットゼロ基準v2」のドラフトが公開されて以降は、「いつ短期目標を申請すべきか」「ネットゼロ目標の追加はいつが最適か」「ネットゼロ基準v2の正式リリースを待ってから申請すべきか」といったご相談が急増しています。 本記事では、2025年11月初旬時点での最新動向を踏まえ、企業のステータスに応じて今取るべき対応の方向性と、その考え方のヒントをご紹介します。   SBTi基準改定の最新動向と実務への影響 SBTiネットゼロ基準v2が示す「実行と透明性」への転換  2025年3月に公表されたSBTiネットゼロ基準 v2(ドラフト)では、スコープ1・2・3を含むバリューチェーン全体での排出量削減に対し、より高いレベルの進捗管理・実行責任・業種横断的ガイダンスの強化が示されています。 具体的には、企業が「目標を設定して終わり」ではなく、目標達成までの実行力と透明性を求められる点が大きな特徴です。「排出量データの第三者保証」や「進捗の定期的な報告・開示」の要件化が提示され、説明責任と透明性の一層の強化が求められています。 さらに、バリューチェーン排出量(スコープ3)への対応は、企業の脱炭素化における最大の課題のひとつと位置づけられています。SBTiは、スコープ3の目標設定と実施の有効性を高めるために複数の方法を検討しており、企業がバリューチェーンにおける目標設定・進捗報告・排出量管理に活用できるよう、より幅広い指標・手法・ツールの導入を視野に入れています。 また、残余排出への対応として、除去(Removal)やバリューチェーンを超えた緩和(Beyond Value Chain Mitigation)の活用方針も整理されました。こうした変更は、SBTiが企業に対して「ネットゼロの実現を宣言するだけでなく、その過程を測定し、報告し、改善し続けること」を求めている姿勢を明確に示しています。 申請・検証プロセスの変更   2024年末に導入された「SBTiサービス検証ポータル」により、申請および検証の手続きは段階的にオンライン化が進められています。導入当初から、コミットメントやSBT申請の前段階として企業登録手続きとSBTi側の承認が必要となり、従来のコミットメントレターは廃止。ポータル内から直接コミットメントを提出する形式へと変更されました。 さらに、2025年6月には従来のExcelやWord形式の申請フォームが廃止され、同年9月には、これまでEメールで行われていた検証時のSBTiとのやり取りもポータル内で実施されるようになるなど、SBT申請に関する入力およびコミュニケーションの大部分がポータル内で完結する仕組みへと移行しています。  これらの変更により、SBT申請から検証開始までの待機期間は、かつて4〜6か月を要していたものが約1か月へと大幅に短縮されました。さらに、検証自体も提示されたスケジュール通り30営業日以内に完了するケースが増加しています。  一方、従来はSBTi公式サイトから申請フォームをダウンロードし、事前に質問項目などの内容を確認することができましたが、現在は申請に必要な質問項目がポータル内でのみ閲覧可能となっています。 また、GHGインベントリを中心に申請内容の詳細化が進んでいることから、企業側の準備工数や入力負担は以前より増加しているのが実情です。 SBT取得の時期を明確に定めている企業ほど、最新の仕組みを正確に理解し、信頼できるデータと根拠に基づいて計画的に準備を進めることが重要です。 検証料金の改定と企業への影響  2026年1月5日より、SBTiの検証料金体系が大幅に改定されます。 従来の「2段階(通常ティア・プレミアムティア)」から「4段階(ティア 1~4)」へと再編され、申請企業の規模や売上に応じてよりきめ細かい料金設定となります。 この改定は、SBTiサービスが提供するすべての検証サービス(短期目標・ネットゼロ目標・セクター別目標など)に適用されます。  新料金体系における申請企業の売上区分は、ティア1:年間売上1 billionユーロ未満、ティア2:年間売上1〜10 billionユーロ、ティア3:年間売上10〜30 billionユーロ、ティア4:年間売上30 billionユーロ超と定義されています。  新料金表では、すべてのティアで価格が引き上げられており、とりわけ大規模企業に該当するティアほどコストインパクトが大きくなります。 特に直近で申請を予定している企業は、年内申請か、あるいは追加予算の確保かについて、早期に判断することをおすすめします。 5年ごとレビューの明確化とステータス分類の拡充  すでに要件として定められていた5年ごとの目標レビューについて、2025年7月に公表された新ガイダンスにより、その期限と手順が明確化されました。 これにより、SBT認定企業は、認定後も定期的に自社の目標が最新のSBTi基準および科学的知見に適合しているかを確認し、その結果をSBTiサービス検証ポータル内で提出することが求められます。  レビューの「トリガー日」は、各目標の検証(公表)日から5年後の月末と定められています。企業はこのトリガー日を起点として、まず6か月以内にレビュー結果をSBTiサービス検証ポータル内で提出しなければなりません。そのレビュー結果により、既存の目標が最新のSBTi基準に適合していないと判断された場合は、トリガー日から12か月以内に目標の更新申請(再検証)を行う必要があります。  さらにSBTiは、企業の気候変動対応状況をより明確に可視化するため、SBTi公式ホームページのダッシュボード上での新たなステータス分類体系を導入しました。 これにより、企業のステータスは「Active(有効)」「Updated(更新済)」「Expired(期限切れ)」「Withdrawn(撤回)」などに細分化され、投資家やステークホルダーが企業の取り組み状況をより的確に把握できるようになります。5年の必須レビュー期限を超過した場合、企業のSBTステータスは「Previous Targets」として表示されることになります。  こうした動きは、SBTiが「認定を取得して終わり」ではなく、継続的なレビューと透明性の確保を重視する方向へ進化していることを示しています。 SBTiの動向が企業経営に与える影響 CDPスコアとSBT認定の関係性  SBT認定は、企業の外部評価にも直接的な影響を与えます。2025年版CDPコーポレート完全版質問書のスコアリングにおいては、スコアリングカテゴリのうち「目標」カテゴリが全体スコアの14%という高いウェイトを持ち、多くのセクターでSBT認定の有無がリーダーシップレベルの評価に反映されます。 なお、あくまでも従来のCDPコーポレート完全版質問書での採点基準という前提ではありますが、SBT認定取得前の段階であっても、SBT取得のコミットメントを表明している場合や、SBTiへの申請済で検証中のステータスである場合には加点要素となります。そのため、例年CDPの報告対象年度内にこれらのステータス取得を目指す企業も少なくありません。  また、2025年CDPコーポレート完全版質問書の各企業へのスコアリリース日は12月10日と発表されています。 当社ではスコア通知後の失点要因の分析や改善施策の立案支援も行っており、次年度に向けたスコア向上を目指す企業に対して、実践的かつ効果的なサポートを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。 世界的な広がりと投資家の注目    SBTiは2025年初め、ついに参加企業1万社を突破しました。その時価総額は世界全体の41%に達し、SBTiはいまや“企業の信頼指標”として国際的に確立された存在となっています。 投資家やサプライチェーン上の主要取引先は、SBT認定の有無をリスク判断の重要な基準としており、実際にここ2〜3年は「お客様や投資家からの要請で、〇年〇月までにSBTを取得しなければならない」というご相談が急増しています。SBT認定の取得を求められる企業側も、主要取引先との関係維持においてSBT対応が取引継続の前提条件となるケースが増えています。  一方で、SBTiへの取り組みは、単なる外部要請への対応にとどまりません。SBT認定の取得は、企業価値そのものを高める「攻めの戦略」とも言えます。SBTiの「Trend Tracker 2025」によると、SBT認定またはコミットメント企業は、すでに世界の時価総額の41%、総収益の25%を占めており、気候変動対策を実践する企業群が経済の中核を担いつつあります。 ここで注目すべきは、収益比よりも時価総額比が高い点であり、市場がSBT認定取得企業を「持続的成長やリスク管理に優れた企業」として評価していることを示しています。すなわち、SBT認定取得の取り組みは、気候対応という枠を超え、企業の将来価値・投資家からの信頼・ブランド力の向上につながる戦略的行動です。  日本企業にとってもこの潮流は避けられず、もはや気候変動対策は「社会的責任」ではなく「経営戦略そのもの」として位置づける時代に入っています。   企業の状況別に見る「今取るべき一手」 (1)新規でSBT短期目標設定を検討している企業 ▶ 取るべき一手:  GHGインベントリ(特にスコープ3を含む)を早期に整備し、現行のSBTi基準(V1.3/V5.3)での認定取得を優先的に検討することを推奨します。 一方で、インベントリがまだ整っていない場合は、SBTiネットゼロ基準v2の公表後に申請するスケジュールも含めて検討するのが現実的です。 背景と詳細:  SBTiは、新規でSBT短期目標設定を検討する企業に対し、現行SBTi基準での早期認定取得を推奨しています。公式サイトでは「2025年および2026年に新たに短期目標を設定する企業は、現行のSBTiネットゼロ基準V1.3および短期基準V5.3を用いて申請可能」と明記されています。 なお、目標年については、2025年9月のV5.3更新で、「目標年は申請から5〜10年先」とされていたところに、「目標年は2030年を推奨」との追記が行われました。 ただし、冒頭でも述べたように、SBT申請の前提としてスコープ3を含むGHGインベントリが不可欠であるため、現状で未整備の場合は次期v2基準のリリース後を見据えた準備計画を立てる選択肢もあります。   (2)SBT短期目標認定取得済でSBTネットゼロ目標の追加を検討中の企業 ▶ 取るべき一手:  SBTiが予定している、既存認定企業向けの移行手続きに関する詳細のリリースを待ちながら、社内でネットゼロ目標に向けた方針の整理やデータ基盤の整備を進めることも、一つの選択肢と考えられます。 背景と詳細:  SBTiは、2025年11月6日に公開したネットゼロ基準v2に関する第2回コンサルテーションの記事の中で、既存の認定企業に対する移行手続きの詳細については、適切な時期に移行ガイダンスを公表するとしています。したがって現時点では、社内でネットゼロ目標設定に向けた合意形成やデータ準備を進めつつ、正式なガイダンスを待って対応方針を検討するのが妥当です。 前段でも触れたとおり、現行のSBTiネットゼロ基準と、協議中のSBTiネットゼロ基準v2(ドラフト)では、要求される要件が大きく異なる見込みです。そのため、早期にSBTネットゼロ目標の認定取得を目指す場合は、現行のSBTiネットゼロ基準のうちに申請を完了しておくほうが、手続きや要件の面で比較的スムーズに進められる可能性があります。 一方で、SBTiネットゼロ基準改定後の新ルール下での対応を見据える企業においては、最新のSBTiネットゼロ基準への適合を見据え、GHG排出データやサプライチェーン情報の整備など、基礎データの更新および社内準備に早期に着手しておくことが望まれます。 なお、SBTiの公式情報によれば、既存の短期目標は2030年、または目標期間の終了時点まで有効とされています。   (3)まもなく認定から5年経過・アップデート申請が必要な企業 ▶ 取るべき一手:  自社のSBT認定時期を確認し、2026年前後に必須レビューの時期を迎える場合(=2021年前後に認定を取得した企業)は、早めに最新のSBTi基準の確認とGHGインベントリの更新を開始することを推奨します。特に、セクター別ガイダンスの対象企業は、追加算定や新たな目標設定が求められる可能性があります。 背景と詳細:  2025年7月に公表されたガイダンスにより、SBT認定企業には5年ごとの必須レビュー手続きが適用開始されます。対象となるのは、おおむね2021年以降に短期目標を設定した企業で、早い場合には2026年前後に初回レビューの時期を迎える見込みです。 レビューでは、セクター別ガイダンス(例:FLAG、ビルディングセクターなど)の要件確認が求められる場合があり、必要に応じて追加算定や新たな目標設定が発生します。そのため、レビュー前に最新のSBTi基準および自社インベントリを再確認し、データの更新・整備を進めておくことが望ましいといえます。 なお、レビューの結果、既存目標が最新のSBTi基準に適合していると判断された場合には、アップデート申請は不要です。   最新動向を踏まえたウェイストボックスの支援体制 豊富な支援実績とSBTi認定エキスパートによる確かな専門性  当社では、2020年以降、SBTiへの申請準備中の企業を含め、60件を超えるSBT申請支援を行っており、そのうち50件以上がすでにSBT認定を取得しています。支援企業のセクターは多岐にわたり、各セクターにおける実務課題を熟知しています。 当社では、SBT申請支援を途切れることなく継続的に承っており、最新のSBTi動向をリアルタイムでキャッチアップできる体制を維持しています。 さらに2025年9月、SBTiは科学的根拠に基づく目標設定の認定エキスパート登録制度を正式に開始しました。この制度は、SBTiのトレーニングおよび評価プログラムを通じて、SBTiの基準・手順・最新ガイダンスに関する高度な専門知識を公式に認定するものです。SBTiによれば、この制度の目的は「企業が信頼できる専門的サポートを受けながら、より高い精度でSBT目標を策定・実施できるようにすること」とされています。 当社には、このSBTi認定エキスパートが在籍しており、SBTiの最新基準に基づく目標設定支援、申請プロセスの最適化、検証対応時のアドバイスなどを、公式認定に裏打ちされた専門性と実績をもって提供しています。SBTi基準が高度化・複雑化する中で、SBTi認定エキスパートの存在は、企業が確実かつ効率的にSBT目標を達成するための心強いパートナーとなります。   まとめ  SBT認定の取得は、企業にとってひとつの大きなチャレンジです。申請から認定に至るまでのプロセスは決して容易ではなく、相応の時間と労力を要します。 しかし、私たちはその先にこそ本質的な価値があると考えています。SBT認定の取得はゴールではなく、脱炭素の道のりにおける本格的な削減活動の第一歩です。 毎年のGHG算定、削減活動、目標に対する進捗確認、そして情報開示の積み重ねを通じて、企業は自社の取り組みを可視化し、社会からの信頼を高めていくことができます。当社は、そうした企業の皆さまの歩みを専門的知見と継続的な伴走支援によって支え続けています。 SBT認定の取得から、その先の削減活動や情報開示に至るまで、脱炭素経営の確かな道筋をともに描いていけることに、私たちはこの上ない喜びと使命感を感じています。 無料オンライン相談のご案内   現在、当社ではメルマガ読者の皆さま限定で、30分間の無料オンライン相談を実施しています。SBTに関するさまざまなご相談──たとえば「いつ申請すべきか」「最新基準との整合性」など──について、個別にアドバイスいたします。 SBTの基準やルールが複雑化する今こそ、専門家とともに確実な一歩を踏み出す時です。 ぜひお気軽に、ウェイストボックスまでお問い合わせください。 出典 https://sciencebasedtargets.org/developing-the-net-zero-standard https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/SBTi-criteria.pdf https://sciencebasedtargets.org/blog/whats-new-minor-updates-to-enhance-usability-across-sbti-target-setting-resources https://docs.sbtiservices.com/resources/TargetValidationServicesOfferingsV6.pdf?v=6.1 https://sciencebasedtargets.org/faqs#3118310 https://sciencebasedtargets.org/blog/forging-the-next-chapter-sbti-releases-new-guidance-for-five-year-target-reviews-and-expanded-status-categories https://sciencebasedtargets.org/reports/sbti-trend-tracker-2025 https://sbtiservices.com/services/certification Key resources - Science Based Targets Initiative https://www.cdp.net/ja/disclosure-2025 https://www.cdp.net/ja/disclose/how-to-disclose (執筆者:小島)   【ウェイストボックスの関連サービス】 ・SBT目標設定・気候移行計画策定 ・アドバイザリーサービス ・CDP質問書、TCFD・TNFD開示支援|株式会社ウェイストボックス

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