Column

企業とSDGs(2)期待される役割と企業メリット

前回に引き続きSDGs(Sustainable Development Goals)をテーマ
にお届けします。今回はSDGs達成に向けて、企業に期待されている役割
と、SDGsに取り組むことによる企業メリットについて取り上げてみたい
と思います。
 
 少しおさらいをしますと、SDGsは、国連総会で採択されたアジェンダ
2030の中に示された「世界共通の2030年開発目標」で、開発と名は付く
ものの、開発途上国のみならず、全世界のあらゆる社会・経済・環境面
の課題を17のゴールで網羅した「人類・地球の目指す姿」でした。
各ゴールは相互に関係し合っており、統合的な解決が必要であること、
そのためにも、国際機関・政府だけでなく、企業・市民などあらゆる
主体の参加・協働が必要なことが謳われています。
 
 SDGsの中で企業についての記載がある箇所としては、まず、ゴール12
の持続可能な生産・消費があります。「大企業や多国籍企業などの企業
に対し、持続可能な取組を導入し、持続可能性に関する情報を定期報告
に盛り込むよう奨励する」(ターゲット6)と、企業への要求が示されて
います。

 また、SDGs達成のための実施手段とパートナーシップに関する記載の
中には、民間企業に期待する役割として、「全ての企業に対し、
社会課題解決のために創造性とイノベーションを発揮することを求める」
ということが記されています。(アジェンダ2030パラグラフ67)

 前目標のMDGsでは、国際機関や政府が主体となり、ODAなどの
公的資金を用いて取組が行われていました。一方、SDGsは目標の範囲
や規模が大きくなり、これまでの主体や資金では対応しきれません。
そこで、企業の持つ技術や知恵、資金を生かし、ビジネスとして課題解決
に貢献してもらうことに大きな期待が寄せられているのではないかと考えます。

 国連グローバルコンパクト他が、企業がSDGsを活用するための行動指針
をまとめた「SDG Compass」では、SDGsに取り組むことで、
企業にとっても多様なメリットがあることを訴えかけています。
数例を以下にまとめてみます。

 一つ目は、ビジネス機会の創出が期待できるという点。
SDGsが示す社会課題の解決は世界共通のニーズであり、解決につながる
技術や商品・サービスを開発できれば、新たな市場の開拓が期待できます。
特に、省エネ・再エネに関する革新的技術、情報通信技術などを活用した
CO2排出量の少ない技術、貧困層向けの生活改善(保険医療・教育・金融
など)製品・サービスなどが期待されるとのこと。さらに、SDGsは、
投資を持続可能性に資する方向に誘導することを目的としており※、
課題解決に取り組む企業は資本へのアクセスが容易になるというメリット
も期待できるとしています。
 
 二つ目は、企業の持続可能性に関わる価値の向上が期待できるという点。
SDGsへの取組が、操業の効率化(資源の節約など)につながったり、
企業のブランド力を高め、結果として、売上の向上・優秀な人材の獲得・
従業員の意欲アップ・地域社会などとの良好な関係などにつながる効果が
期待できるとしています。逆に、取組が不十分な場合には、不祥事や、
顧客・地域社会からの信頼失墜のリスクなども考えられます。
 
 三つ目は、政策と方向性を合わせることで対応力が構築できるという点。
SDGsは今後の政策の方向性を示しており、これに率先して取り組むことで
将来規制強化などがあった場合に発生しうるコスト高騰や制約に未然に対応
することができるというものです。
(社内カーボン・プライシングなどが良い例と言えます。)

 「SDG Compass」では、企業がこれらのメリットを生かし、
自社としての成功も収めながら、SDGsの達成に最大限貢献をしていくため
の取組ステップが示されています。
次回はその内容について取り上げてみたいと思います。

(次号に続く)

※SDGs達成に必要な資金は数兆ドルに及び、民間の投資をいかに持続
 可能性に資する方向に誘導するかが極めて重要であるとされています。
 (国際連合広報センターHP)
 関連する動きの一つとして、ESG投資推進に向けた投資家のイニシアチブ
 国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)
 が2017年に公開した「責任投資のビジョン」があります。
 向こう10年間のビジョンを示したものですが、
その中に「SDGsの実現」が盛り込まれており、SDGsに沿った投資活動
 を行うための手順の整備やツールの開発を行うことが宣言されています。
 近年高まりを見せるESG投資の中に、SDGsも組み込まれていく方向に
 進んでいきそうです。

参考資料:
・外務省「我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」
 www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
・GRI・国連グローバルコンパクト
 「SDG Compass SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか」
 (グローバルコンパクトネットワークジャパン・地球環境戦略研究機関和訳)
 http://ungcjn.org/sdgs/pdf/SDG_COMPASS_Jpn.pdf
・PRI「責任投資のビジョン」
 https://www.unpri.org/download?ac=2973

                         (執筆者:山本)

(2018年4月23日メルマガ)

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製品カーボンフットプリントあれこれ

 企業が気候変動対応を迫られる中、組織の排出量であるScope1,2,3の開示に加え、製品・サービスあたりの排出量である製品カーボンフットプリントを算定する企業が増えています。しかし、製品カーボンフットプリントと一口に言っても、それらを算定する背景や目的は企業によって大きく異なります。本稿では、バラエティに富む製品カーボンフットプリント算定の実態と、今後の展望について考察します。 カーボンフットプリント算定の実態と課題  製品カーボンフットプリントの算定は、製品やサービスのライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を可視化し、効果的な削減策を講じるための基盤となります。一方で、算定において参照する規格やガイドラインは多岐に渡り、また、カーボンフットプリントの算定対象製品、算定範囲、算定目的等も各企業によってさまざまです。そのため、これから算定を考えている人、他社の算定結果を見る側の人、多くの担当者が“正解”がわからず苦慮している実態があります。こうした場合、まず認識を改めなければならないのは、製品カーボンフットプリントの算定においてただ一つの“正解”はないということです。以下に製品カーボンフットプリントに関連する主な規格、ガイドラインを挙げます。   ・ ISO 14040/14044:ライフサイクルアセスメント(LCA)算定の要求事項と指針を示す。 ・ ISO 14067:カーボンフットプリント算定の要求事項と指針を示す。 ・ PCR:Product Category Rules。製品カテゴリ別のLCA算定ルール。EPD(ISO14025に基づく環境ラベル)等、比較を前提とした算定の際に使用される。 ・ Pathfinder Framework:WBCSD主催のPACTが定めるLCA算定とデータ交換のための指針を示す。 ・ 各国の規制に基づく算定ガイダンス: CBAM、電池規則など ・ その他:化学や電子・電子機器等の業界団体によるガイダンス、CFP算定ガイドライン(経済産業省)など  これら規格、ガイドラインにより算定方法(組織境界の設定、カットオフ基準、活動量及び排出原単位の設定方法など)が異なるため、同じ製品であっても算定結果は変わり得ます。従って、算定する側も算定結果を見る側も、どのような規格に基づいて算定するか、あるいは算定されたものであるかを理解する必要があります。また、どの規格、ガイドラインを用いて算定するかについては、算定する目的によって決まることから、算定目的の明確化が重要となります。以下に算定の背景・目的に応じた参照規格の概略図を示します。 今後の製品カーボンフットプリント算定の方向性  これまで、企業の製品カーボンフットプリントの目的は、自社製品の優位性を対外的に示すなど、自主的な算定が主流といえましたが、近年は顧客へのデータ提供のための製品カーボンフットプリント算定が進んでいます。その背景には、顧客が自社のScope3や製品カーボンフットプリントの削減することが目的にあります。また、各国の規制への対応としては、EUバッテリー規則、EU-CBAMに対応するための製品カーボンフットプリント算定も進められています。  また、業種別でみると、特に建設セクターにおいて、LEED認証やEU建設資材規則などの規制やイニシアティを背景に、EPD取得を目的とした算定や、EN15804+A2等の規格への準拠性を重視した算定が進んでいます。こうしたケースでは、製品カーボンフットプリントのみならず、大気汚染物質や水質汚濁物質など、気候変動以外の環境への影響も算定するLCAが求められる点に注意が必要です。また、これら欧州を中心とした規格に基づく算定においては、日本の排出原単位データベースやLCA算定システムでは対応できない場合も多く、海外の排出原単位データベース、LCA算定ソフトウェアの使用が必要となる場面が高まっていることも認識しておく必要があります。以下に代表的なLCA算定ソフトウェアを示します。 ・ SimaPro:世界で最も広く使用されるLCAソフトウェア。オランダの環境コンサルタントPRe Sustainability社が開発。排出原単位データベースとしてEcoinventを搭載しています。 ・ LCA for Expert(Gabi):世界でも広く使われているLCAソフトフェア。ドイツSphera Solutions GmbH社が開発し、Sphera社独自開発の原単位データベースも整備しています。 ・ One Click LCA:フィンランドのOne Click LCA社開発の建設業界に特化したLCAソフトウェア。Ecoinvent等の汎用データベースの他、200,000以上のグローバルのEPD情報を網羅しています。  顧客の要請や対応する規格によっては、算定した数値に対して第三者検証が必要となります。現在、第三者検証まで実施、または実施を予定している企業が増加しており、今後もこの傾向は続くものと考えられます。 まとめ  今回は製品カーボンフットプリント算定の実態と課題、今後の方向性について記載しました。単に“製品カーボンフットプリント”と言うだけでは不十分であり、コミュニケーションの際には何に基づくカーボンフットプリントであるかをしっかりと示すことが重要といえます。また、製品カーボンフットプリントの数値にただ一つの“正解”はありません。ISO14044,14067では条件の異なる他社の開示内容との比較主張は厳しく制限されています。これは他社の算定結果を見る側も、安易な比較はできないという点を十分理解すべきであり、製品カーボンフットプリントを算定する側、結果を見る側双方のリテラシー向上が求められます。  製品カーボンフットプリントについては、新たな規格、ガイドラインの策定が現在も進められており、今後これらを注視していく必要がありますが、算定目的によって最適な規格、ガイドラインが決まるという部分は変わりません。“カーボンフットプリント”を算定する際は算定目的を明確化し、最適な規格、ガイドライン参照することで、その製品にとっての“正解”にたどり着くものと考えます。   (執筆者:久保(隆))    

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再生可能エネルギー電力の調達方法について(前編)

 気が付くともう師走。秋をあまり実感できないまま、コートや暖房が必要な季節を迎えてしまいましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。  電気・ガス料金の負担軽減策が、来年1月~3月の使用分に限り再開されることが決定し、筆者宅では(気が緩んで?)12月の電気・ガスの使用から増えている状況ですが、企業では外的な要因に影響されることなく、持続的に気候変動への取組みを進めていく必要があります。  これまで数回にわたり、スコープ3削減やカーボン・クレジットに焦点を置いていましたが、今回は自社で取り組めるスコープ2の削減策である「再生可能エネルギー電力の調達方法」についてご紹介します。 再生可能エネルギーの調達タイプ RE100で認められており、CDPでもスコアリングの対象となる調達方法は、日本では4つのタイプに大別されます。   ①自家発電(自社で設備を保有して発電) ②直接調達(発電事業者と自社の契約)―フィジカルPPA、バーチャルPPA ③電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約、小売供給契約 ④ 電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達 ① 自家発電  発電設備を自社の敷地内(または近隣)に設置する形態です。  自社の責任と負担で発電設備の設置・運転(委託も可)するものです。 ②-1 フィジカルPPA(PPA: Power Purchase Agreement(電力購入(販売)契約))  フィジカルPPAとは、発電設備で発生した電気と環境価値をセットで購入する契約形態を指し、2つの形態があります。  一つ目はオンサイトPPAと呼ばれるもので、発電設備を自社の敷地内(オンサイト)に設置する形態です。  自社の敷地内に設備を設置し、電力と環境価値をセットで自社施設に直接供給するという点では自家発電と同じです  が、発電事業者と自社とで「長期契約かつ固定価格」で購入契約を結ぶというところが大きな違いです。  自家発電と同様、送配電線を使用するための託送料金や再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)がかか  らないことから、通常の電力契約と比べて自社が負担するエネルギー料金が安くなる可能性があります。  一方で、敷地内の空き地や屋根など限られた場所に発電設備を設置することから、発電設備の規模(発電量)が限られ  ます。    【オンサイトPPA(電力使用量の20%の発電設備を設置した場合)】  二つ目はオフサイトPPAと呼ばれるもので、自社の電力を必要とする場所から離れた土地など(自社の敷地外=オフサ  イト)に、発電事業者が発電設備を建設し、自社が電力と環境価値をセット(長期契約かつ固定価格)で購入する形態  です。  (フィジカルPPAは、このオフサイトPPAをイメージする(指す)方も多いかもしれません。)  このオフサイトPPAは、送配電線を使用することから小売電気事業者※を介する必要があり、託送料金や再エネ賦課金  がかかることから、現行のエネルギー料金が安くできるとは限りません。  一方で、気候変動を抑制する「追加性」という視点を、RE100やCDP等でも重要視していることから、環境意識の高い企  業としての評価が得られます。  また、設置場所の制約を受けないことから、発電事業者などとの協議により規模の大きな発電設備を導入することがで  きます。  ※現在供給を受けている小売電気事業者以外の小売電気事業者からオフサイトPPAの電力供給を受ける(分割供給)   ことは可能です。(供給の形態には制約があります。)   ②-2 バーチャルPPA  これまでの電力と環境価値をセットで購入する形態と異なり、発電事業者と自社の間で電力を伴わない環境価値のみ  を購入する形態であることから、仮想の電力購入契約(バーチャルPPA)と呼ばれています。  フィジカルPPAと違い、既存の電力契約を変更することなく、環境価値のみ購入できるのも特徴のひとつです。  一方で、バーチャルPPAでは、発電事業者は発電した電力をすべて卸電力市場に売却(売電)することから、その売電収  入は市場価格により変動します。  発電事業者の収益が一定になるように、発電事業者と自社における「電力+環境価値」の取引価格を固定価格し、固定    価格と市場価格の差額を精算する(電力価格分を差し引く)仕組みが活用されることもありますが、その場合には自社    がその変動リスクを負うことになります。  このため、この変動リスクへの対応策として、FIP(Feed-in-Premium)制度を組み合わせるという方法が活用されて  います。  FIPとは、発電設備の認定を取得することで、発電事業者が国から市場価格に基づくプレミアム(補助額)を受けること  ができる制度です。  また、このバーチャルPPAも発電事業者との契約期間は、20年程度と長期にわたることから、小売電気事業者を介在  させる(手数料は上乗せされる)ことでその信頼性を向上させることも可能です。 まとめ  今回ご紹介した新たな発電設備を建設する自家発電やPPAは、RE100でも推奨されている追加性のある調達方法であり、発電設備の建設には時間を有することから、直ちに対応できるものではありません。後編では、追加性のある調達方法の「つなぎ」として、直ぐに始められる調達方法についてまとめます。 参考資料:自然エネルギー財団 コーポレートPPAの 最新動向(2024年度版) (執筆者:佐藤)        

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企業のESG評価

 朝晩の冷え込みが厳しくなってまいりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。10月末にもかかわらず台風のニュースが流れるなど、不安定な気候に振り回される日々が続いております。私自身も週末に改めて避難経路や防災セットの確認を行い、災害への備えを整えました。  個人としてはこのように対策を講じておりますが、皆様の会社ではいかがでしょうか。このような災害への備えも企業の気候変動対策(物理リスク)に含まれており、投資家やステークホルダーは「この企業は気候変動にしっかりと備えているか?」という観点から評価を行っています。  このように、企業の取り組みを環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点から評価する動きが進んでいます。この評価をESG評価と呼び、結果はESGスコアとして表されます。このESGスコアは投資家の判断やサプライチェーンの選定などにも活用されており、企業価値を高める重要な指標となっています。 以下に、代表的なESG評価の種類をご紹介いたします。 CDP  CDPは2000年にロンドンで設立された環境NGO団体で、気候変動、水セキュリティ、森林減少リスクに関する情報開示のプラットフォームを提供しています。CDPは機関投資家、サプライチェーンメンバー、銀行の要請に基づき、全世界15,000社以上に質問書を送付し、企業はこれに回答することで評価を受けます。CDPの特徴は以下の通りです。   【対象カテゴリ】  気候変動・水セキュリティ・森林(生物多様性・プラスチック) 【評価方法】  業種ごとにカスタマイズされた質問書 への回答 【評価の尺度】  D-~Aまでの8段階+F(無回答企業)で評価 【強み・特徴】  ・スコアリング基準が公開されており、自社の取組状況をベストプラクティスに照らして振り返ることができる。  ・GRIやSASBなどの標準化機関と連携しているため、包括的な情報開示を促進できる。 EcoVadis  EcoVadisは、調達企業に対して自社及びサプライヤーの持続可能性を評価するサービスを提供しています。企業はEcoVadisを通じてサプライヤーに回答を要請し、評価結果を管理やコミュニケーションに役立てることができます。評価は「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野に分かれて実施されています。EcoVadisの特徴は以下の通りです。 【対象カテゴリ】  「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野 【評価方法】  業種と企業規模に応じてカスタマイズされた質問書 への回答と公開されている情報等を踏まえた評価。 【評価の尺度】  0~100の点数制で評価。ランキングに応じてメダルが付与される。 【強み・特徴】  ・調達企業はプラットフォームを通じ、サプライヤーの取組状況を把握するとともに、改善状況等についてコミュニケーションをとることができる。  ・調達企業は評価結果を活用することで、持続可能性の高いサプライヤーを選定することができる。 S&P Global ESG Scores  アメリカの大手金融機関S&P Globalが開示しているESG評価スコアであるS&P Global ESG Scoresは、企業の開示情報、メディアおよびステークホルダー分析、業界固有のアンケート(CSA)を通じて評価されます。S&P Global ESG Scoresの特徴は以下の通りです。 【対象カテゴリ】  環境・社会・ガバナンス全般 【評価方法】  企業の開示情報、メディアおよびステークホルダー分析、業界固有のアンケート(CSA)を踏まえた総合評価 【評価の尺度】  0~100の点数制。 【強み・特徴】    ・質問書だけでなく、企業の財務情報や開示情報も含めた包括的な分析    ・金融市場との連携の強さ Sustainalytics  アメリカの金融サービス企業モーニングスター社の子会社であるSustainalyticsのESGリスクレーティングは、企業の管理不可能なESGリスクの程度を評価し、機関投資家にレーティングを提供しています。また、40を超える産業分類において分野横断的な専門知識を持つ800名以上のアナリストを有しており、日本を含む世界16拠点において、数百社におよぶ世界有数の資産運用会社や年金基金と提携しています。Sustainalyticsの特徴は以下の通りです。 【対象カテゴリ】  環境・社会・ガバナンス全般のリスクに着目 【評価方法】  企業の開示情報に基づいて評価。 【評価の尺度】  0~100の点数制(点数が高いほど高リスクと評価)。 【強み・特徴】  ・機関投資家が財務的に重要(マテリアル)なESGリスク特定・理解することを支援するために設計されている。  ・企業は、サステイナリティクスのESGリスクレーティングの確認、マーケティングやIRへの活用ができる(有償)。 さいごに  このように、ESG評価にはさまざまな種類があります(参考資料参照)。金融サービスによるESG評価は公開資料に基づいて評価されるものが多いですが、CDPやEcoVadisは質問書に回答することで評価が行われるため、必要とされる活動が明確に把握できます。ESG経営にお悩みの際は、こうした評価機関の活用も一つの手段です。当社ではCDP及びEcoVadisの回答支援を行っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。 参考資料: ESG評価機関等の紹介|日本取引所グループ (執筆者:野村)

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Scope 3とカーボン・クレジット -企業の気候変動対策における課題と可能性-

 企業の気候変動対策において、Scope 3排出量の削減が重要な課題となっています。一方で、追加的な削減を主張するための手段としてカーボン・クレジットが注目されています。 Scope 3の削減もカーボン・クレジットの活用も「他者の排出削減」という点では共通していますが、両者の位置づけは異なるものです。  本稿では、Scope 3とカーボン・クレジットに焦点を充て、現状課題と今後の展望について考察します。 Scope3排出量の重要性と課題  2024年7月にSBTiが公表したScope 3 discussion paperによると、2023年度末時点で世界の時価総額の39%にのぼる4,205社の企業がSBTiにより目標の検証を受け、または目標のコミットメントをしており、そのうち97%がScope 3目標を掲げています。その一方で、多くの企業がその削減や進捗管理に苦慮している実態があり、Scope 3 discussion paperは、Scope 3の削減や評価について以下のような課題を提起しています。 データの信頼性と入手可能性:多くの企業が二次データや推計値に依存しており、正確な排出量の把握が困難である。 集計された排出量指標の限界:Scope3排出量は15のカテゴリにわたる多様な排出源を単一の指標に集約するため、個別の排出源の特性や時間軸の違いが見えにくくなる。 目標設定方法の限界:現在の目標設定方法は、排出量の絶対値や原単位の線形的な削減を想定しており、バリューチェーンの動的な性質を十分に反映できない。 影響力の程度の考慮不足:現在のアプローチでは、企業が各排出源に対してどの程度の影響力を持っているかが十分に考慮されていない。 進捗状況の測定:進捗状況の測定は、データの制約、排出量の変動性、緩和行動とGHGインベントリの変化を直接結びつけることの難しさなどから複雑である。    これらの課題に対応するため、Scope 3 discussion paperにおいては、新たなアプローチが検討されています。具体的には、排出量だけでなく、調達や収益活動の気候目標との整合性を評価する成果ベースの指標の導入や、気候変動への影響が大きい活動に焦点を当てた目標設定境界の見直しなどが提案されています。 図:Scope 3 discussion paper   カーボン・クレジットの位置づけとScope 3との関連性  カーボン・クレジットは、削減できなかった自社の排出量を相殺したり、追加的な削減に貢献したりするための手段として注目されています。ここで重要なことは、Scope 3は企業のバリューチェーン内の排出であるのに対し、カーボン・クレジットはBeyond Value Chain Mitigation (BVCM)、つまり企業のバリューチェーン外での排出削減や除去の位置づけであるという点です。つまり、両者を混在させず別の枠組みとしてそれぞれ開示することが従来の基本的な考え方であるといえます。  一方で、Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative (VCMI)は、この点について柔軟で包括的な方針を示しています。同イニシアチブは、企業がネットゼロ移行過程においてカーボン・クレジットを活用するための行動規範を示しており、その一環として、昨年11月、Scope 3 Flexibility Claimを、今年9月にはその発展形としてScope 3 Claim(ベータ版)を公表しました。これは、スコープ1と2の排出削減に進展があるものの、Scope 3の削減に課題を抱える企業向けに設計された方法論です。具体的には、以下の要件を満たしたうえで、企業がScope 3目標と実績のギャップを埋めるためにカーボン・クレジットを購入・償却することが規定されています。 Scope 3排出削減の障壁と、克服のための行動計画を公開すること Scope 3排出量ギャップの全量以上の高品質な炭素クレジットを償却すること ギャップは24%を超えてはならず、2038年までに段階的に解消すること 科学に基づく短期排出削減目標を設定・公開すること 2050年ネットゼロを公約するとともに、短期目標達成に向けた進捗を示すこと パリ協定の目標を支持する公共政策提言を行うこと カーボン・クレジットの品質基準を満たすこと: VCMIのモニタリング・報告・保証(MRA)フレームワークに従って第三者保証を取得すること Scope 3 Claim(ベータ版)は、現在パブリックコンサルテーション中であり、2025年初頭に最終版が公開される予定です。  また、前述のScope 3 discussion paperにおいては、Scope 3の削減を主張する手段として、トレーサビリティが確保された信頼性の高い「環境属性証明書」を用いることが提案されており、その一つとして、バリューチェーン内で創出されたカーボン・クレジットの可能性が示唆されています。SBTiにおいても、今後これらを含めた検討が進められ、2024年第4四半期末にScope 3の要件に関連する変更を組み込んだ企業ネットゼロ基準の草案が公開される予定です。   まとめ  今回ご紹介したScope 3 discussion paperとScope 3 Claim(ベータ版)との共通点として、Scope 3削減と評価が企業にとって大きな課題であるとともに非常に困難であることが背景にあります。  しかしながら、過度にカーボン・クレジットに依存することで、Scope 3削減への取り組みが阻害されたり、適切な運用がなされないことで見せかけの環境対策(グリーン・ウォッシング)になったりすることも懸念され、慎重な検討が必要といえます。  こうしたカーボン・クレジットとScope 3を関連付けるアプローチに関しては、さまざまな議論や批判があります。本稿ではその是非を評価するものではありませんが、いずれにしても、まずはバリューチェーン内の排出(Scope 1,2,3)の削減を最大限進め、カーボン・クレジットは補完的な位置づけとするという基本的な順序は厳守すべきであり、その方向性は、Scope 3 discussion paperもScope 3 Claim(ベータ版)も変わるものではありません。  Scope 3及びカーボン・クレジットについては、GHGプロトコルを含め各イニシアチブにおいて、新たなルールの策定や既存のルールの見直しの議論が進められているさなかであり、今は大きな転換期にあるといえます。私たちはこれらの議論を注視していく必要がありますが、企業の気候変動対策には、包括的で透明性が高く、野心的な戦略が不可欠であることは明らかです。そのための取り組みとして、サプライヤーや顧客と協働したScope 3の削減や、適切で戦略的なカーボン・クレジットの活用は、企業の脱炭素経営において大きな機会にもなり得るものといえます。 参考資料: Scope 3 discussion paper Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative (VCMI) Scope 3 Flexibility Claim Scope 3 Claim(ベータ版) (執筆者:木塚)    

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カーボンクレジットとは何か? カーボンクレジットに関連する基礎用語を知ろう

 2024年も半分以上が過ぎ、残暑もまだ続く9月ですね。年も半分を過ぎたということで、改めてカーボンクレジットとは何か?クレジットに関連する用語について、メルマガで執筆をさせていただこうという次第です。  まず、なぜ今更、基礎という方も勿論いらっしゃることは重々承知の上ではございますが、今年の4月からSustainabilityや環境関連部、もしくは各プロジェクトに初参加された方々にも是非この、わかりづらすぎるクレジットの世界について少しでもご理解を深めていただければという事が今回の主旨でございます。(私自身も、大量の情報、大量の英語の頭文字に毎度苦しめられておりますので、少しでも助けになれば幸いです)  では…、カーボンクレジットの基礎について学んでいきましょう! カーボンクレジットとは?  まずはカーボンクレジットとは一体全体何なのでしょうか。 カーボンクレジットとは一般に、ベースラインと比較した時の温室効果ガス排出削減量や吸収量をクレジットとして認証したものを指します。 つまり、プロジェクトを通して温室効果ガスの排出削減や吸収の増大に貢献した価値をクレジットとして創出して、売買できるようにしているということです。 ベースラインって何?  次に、カーボンクレジットについて、話すと出てくるのが、「ベースライン」ですね。では、「ベースライン」とは何でしょうか? ベースラインとは削減・吸収プロジェクト活動の比較対象となるものです。プロジェクト活動のGHG削減量は、「ベースライン排出量ープロジェクト活動からの排出量」の式で定量化されます。ベースライン排出量の算定方法には複数ありますが、ここではよく見られるベースラインシナリオによる方法をご紹介します。  ベースラインシナリオとは、地球温暖化防止の対策を全く考慮しない場合に、最も起こりやすいと考えられる状況のことです。例えば、再エネが導入されずに、化石燃料を使用している状況=ベースラインシナリオです。「GHG プロトコル」では、次の3つのシナリオがベースラインシナリオになり得るとあります。 プロジェクト活動で用いられるのと同様の技術や実施方法が使用されるシナリオ ベースライン候補が実施されるシナリオ(代替技術等) 現在の活動、技術、実施方法が継続され、(該当する場合には)プロジェクト活動と同様の種類、 量、品質の製品やサービスを提供するシナリオ(効率改善、森林経営活動等)   追加性はなぜ重要なのか?  次に、追加性についても、簡単に基本的な概念にだけ、ここで触れておきます。 追加性について、経産省では下記の様に示しています。  ・プロジェクトベースの排出削減・炭素吸収・炭素除去は、 そのプロジェクトが実施されなかった場合に発生したであろう排出削減・炭素吸収・炭素除去から、追加的なものでなければならない。  ・ カーボンファイナンスが利用できなければプロジェクトは行われなかったことを実証しなければならない。  追加性が重要な理由として、GHG排出量取引制度があります。排出量取引制度を導入している国・地域の多くは、排出量取引制度とセットでクレジット制度も導入しています。排出量取引制度では各施設に排出量の上限を設け、上限を超えてしまった場合には、クレジット制度で創出された「オフセット・クレジット」で超過分を相殺できるようになっています。クレジット制度では排出量取引制度の対象外であるGHG削減や吸収量増大プロジェクトからクレジットが創出されます。  つまり、オフセット・クレジットでの相殺は、各施設にクレジットと同量の排出を認めることであり、その代わりに別の場所で排出削減、吸収量増大が行われることを前提としています。しかし、GHG削減や吸収量増大のプロジェクトの中には排出量取引制度が無かったとしても当たり前に行われていたはずのものもあります。成り行きベースで減る予定だったものを担保に施設に追加的な排出を認めてしまったら、地球全体の排出量は増えてしまいます。そのため、このクレジット制度がなかったら行われていなかったものを対象としてクレジットが作られる必要があります。 相当調整やArticle6とは?  Article6は、パリ協定に基づく国際的な炭素市場を設立し、各国が炭素クレジットを取引できるようにするものです。Article6では、売却国が許可した排出削減量を他国に売却できますが、その削減量を自国のNDCに含めるのは1カ国のみです。これにより、二重計上を避けて世界全体の排出削減量が過大評価されないようにすることが重要です。 二重計上を防ぐための「相当調整」という算定方法も設けられています。この調整は、コンプライアンス市場だけでなく、自主的な炭素市場にも適用される可能性があるものの、まだまだ、議論中のトピックが数多く存在し、次のCOPでの議論が待たれるところです。 カーボンクレジットはどこで使えるのか?  カーボンクレジットは、以下の場面で使用されます。(今回は自主的な取り組みを対象に整理します。このほかに規制対応の用途も考えられますがここでは割愛します。) 1)ネットゼロ目標達成近辺(2050年ごろ)  ネット・ゼロ目標達成時に削減できない温室効果ガス(GHG)の影響を、大気中のCO2を永久に除去・貯蔵することで中和(neutralization)する際に使用。このCO2削減は、バリューチェーンの内外で行うことができます。  ⇒ちなみにここで使えるクレジットは自然由来・および技術由来のRemoval系のクレジットです。なぜならば、中和(neutralization)には「CO2を長期的に固定する永続性」が求められるからです。クレジットの種類については、後で少し触れます。 2)BVCM(バリューチェーンの外側)  こちらは、皆様すでにご購入されている、もしくは検討されている部分ですね。こちらは今からでも始めていただく事が出来ます。これは、皆様のバリューチェーン内での排出で削減できていない部分を、バリューチェーンの外へ投資(クレジットを購入し、無効化)することで、気候変動へ社会全体という大きな視点から貢献するものです。 あくまでもボランティアの部分ではありますが、外部からの評価ポイントの一つとなっていく可能性もあります。 クレジットにはどんな種類があるのか?  では最後に、カーボンクレジットといってもどんな種類があるのか?というところですね。こちらも大きく分けて下記2つにわけられます。     1)「排出回避/削減(Avoidance/Reduce)」  2)「固定吸収/貯留(Removal)」  この2つのカテゴリがさらに、自然ベース・技術ベースで分かれていきます。例えば、自然ベース「排出経費・削減」に入るのがREDD++、技術ベースが燃料転換、輸送効率改善。一方で、固定吸収系の自然ベースは「植林、再植林」、技術ベースは「Direct Air Carbon Capture and Storage(DACCS)」などがあげられます。  その名の通りといってはなのですが、回避や削減クレジットは、ダイエットでいうところの「ジムや食生活改善」で減らしていくイメージで、固定吸収系は「脂肪吸引」のような、改善というより実力行使に近いものと言えるかもしれません(植林とかは少し違いますが…)。そして、やはりこういう実力行使系は値段が高いですよね。ですが、このようなクレジットが必要ですし、今はこのクレジットを普及させるために様々な会社が投資を行っているわけです。美容やダイエットの分野でも、脂肪吸引や整形は以前よりもどんどん金額が下がり、クオリティは上がっていると思います。固定吸収系・貯留系のクレジットもこのようになっていくのが理想です。  さて、今回はクレジットについての基礎知識のコラムを書いてみました。いかがでしたか? いよいよClimate New York、COPと年末にかけてたくさんのイベントが目白押しです。クレジットの動向についても要注意となりますので、ぜひ目を光らせて、見ていきましょう! 参考資料: The GHG Protocol for Project Accounting, The Greenhouse Gas Protocol Project Protocol |GHG Protocol SBTi ,Above and Beyond: An SBTi report on the design and implementation of beyond value chain mitigation (BVCM) 経済産業省:カーボンクレジット・レポート,20220628003-f.pdf (meti.go.jp) (執筆者:銭谷)    

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