2026.06.16
SBTネットゼロ基準v2発表。認定済大企業(カテゴリA)が押さえるべき移行の全体像と重要ポイント
2026.06.16
はじめに 先日、SBTイニシアチブ(SBTi)より、新たな基準である「Corporate Net-Zero Standard version 2(以下、ネットゼロ基準v2)」に関連する各種ドキュメントが発表されました。大幅な改定が予告されていたこともあり、「自社の次の目標更新はどうなるのか」「ネットゼロ基準v2へどのように移行したらよいのか途方に暮れている」というお声を多く頂戴しております。 本コラムでは、SBT大企業版の認定取得支援を行っている弊社の視点から、この度発表されたネットゼロ基準v2の概要と、すでに認定目標を持つ企業様が直面する移行プロセスについて、公式発表ドキュメントの記載内容に基づいて、押さえるべきポイントを解説します。 なお、今回の基準改定は非常に多岐にわたります。本稿では、原文で定義されている事実に基づき、特に大企業(新設された「カテゴリA」)に対する要求事項を中心に整理しています。 1. ネットゼロ基準v2の全体像と「カテゴリA」の導入 今回のネットゼロ基準v1.3.1からネットゼロ基準v2へのアップデートは、非常に大規模な改定です。ネットゼロ基準v2のセクションのうち42%は完全に新規のものとして追加され、残りの58%も既存アプローチの修正や拡張となっています。 まず押さえておくべき最大の変更点のひとつが、企業分類の再整理です。ネットゼロ基準v2では、企業は排出量、財務指標、地理的条件に基づき、「カテゴリA」または「カテゴリB」に分類されます。以降の解説では、より多くの要求事項が適用される「カテゴリA」企業への要求事項に焦点を当てます。 また、ネットゼロ基準v2では、「SBTi 保証モデル(Assurance Model)」が導入されました。これは、SBTi認定検証機関による「Target Validation(目標の検証)」および「End-of-cycle Assessment(目標サイクル終了時評価)」を含む枠組みであり、企業のネットゼロに向けた取組における継続的改善の評価を支援するものとして位置付けられています。 これとは別に、ネットゼロ・ガバナンスおよび移行計画に関する新たな要求事項も設けられています。具体的には、企業の取締役会などの最高統治機関によるSBTi目標の設定・提出に関する内部承認、SBTi目標およびその実施監督に対する全体責任、目標の監督・実施に関するガバナンス構造の提出・報告、ならびに科学に基づく目標をどのように実施するかを示す移行計画の策定・維持が求められます。なお、カテゴリA企業については、目標検証完了後15カ月以内に、ネットゼロ基準v2のC2.1に定められた要素を含む移行計画を開示することも求められます。 さらに「Ongoing Emissions Responsibility(継続的な排出責任)」については、2035年までは任意の認定プログラムとして位置付けられています。一方で、2035年以降はカテゴリA企業に対し、継続排出量の少なくとも1%について、長期貯留の除去を含む形で責任を負う要件が示されています。 2. v2への移行タイムラインと目標更新の考え方 すでにSBT認定を取得している企業にとって、最も懸念されるのがスケジュールの問題です。今後のネットゼロ基準v2移行に関するマイルストーンは以下の通り設定されています。 2026年10月1日:ネットゼロ基準v2の検証リソースが公開 2027年2月1日:ネットゼロ基準v2に基づく検証の受付開始 2028年1月31日:現行のネットゼロ基準v1.3.1に基づく検証の受付終了 検証済目標を有する企業の移行タイミング 検証済目標を有する企業がSBTiシステム上でアクティブな状態を維持する場合、必要となる再検証提出日は、目標年への到達または必須の5年レビューのトリガー日により決まります。目標年に達する場合は、目標年の翌年末までに再検証提出が必要です。必須の5年レビューについては、トリガー日から6カ月以内にレビューを完了し、その結果として新たな目標が必要と判断された場合は、トリガー日から12カ月以内に新目標を提出することになります。 【移行期間中の取扱い】必須の5年レビューのトリガー日が2026年6月30日から2027年12月31日の間に到来する場合、目標提出期限はトリガー日から1年とされ、ネットゼロ基準v1.3.1またはネットゼロ基準v2のいずれも適格とされています。ただし、ネットゼロ基準v2は検証サービス開始後の2027年2月1日以降に提出する場合に選択可能であり、ネットゼロ基準v1.3.1は2028年2月1日より前に提出する場合に限り選択可能です。 直近の目標設定・更新に関する推奨事項 2028年1月31日までに目標設定または更新する企業 目標設定を遅らせないことが推奨されています。この期間においてネットゼロ基準v1.3.1を活用することも選択肢として認められます。この場合、設定した目標は当該目標サイクルを通じて有効とされ、次の目標サイクルに入った段階でネットゼロ基準v2に基づいた目標設定を行うことになります。 2030年以降の目標年を有する企業 現在の目標を維持することが推奨されています。その上で、次の目標サイクルである「2030年~2035年」に向けてネットゼロ基準v2への移行を計画の上、2028年から新たな目標を設定すべきとされています。 3. スコープ別の目標設定ルールと変更点 ネットゼロ基準v2では、基準年の定義が「入手可能な直近の包括的なデータに基づく『目標基準年』とする」と変更されました。Scope 1, 2, 3それぞれの目標設定アプローチにおける主要な要件は以下の通りです。 なお、Scope 1およびScope 2については、目標設定の基礎となる物理的GHGインベントリに基づき、各スコープの総排出量を対象として目標を設定します。Scope 1およびScope 2の短期目標はいずれも、それぞれの排出量の100%を対象とすることが求められます。また、Scope 1およびScope 2について、インベントリおよび目標境界から活動または排出量を除外していないことが目標検証時に確認されます。 Scope 1の目標設定 Scope 1の短期目標については、「排出削減目標」「排出原単位目標」「資産移行目標」の手法を用いて目標設定を行います。 Scope 2の目標設定 Scope 2の短期目標については、「低炭素電力(LCE)整合性目標」または「Scope 2絶対量削減目標」のいずれか、または双方を用いて設定します。なお、熱・蒸気・冷熱に係る排出がある企業については、当該排出に対して絶対量削減アプローチを用いることが求められます。 また、電力関連データについては、総電力消費量の報告が求められます。この総電力消費量には、自社が管理する発電源からの電力と、自社が管理しない発電源からの電力が含まれます。さらにカテゴリA企業については、Scope 2目標設定に関連して、合理的かつ透明性のある前提に基づき、目標期間にわたる電力消費量の予測を見積もり、提出することが求められます。なお、カテゴリA企業のうち、目標サイクルにおける予測平均年電力消費量増加率が20%を超える企業は、Scope 2絶対量削減目標を設定することが求められます。この場合、追加の低炭素電力整合性目標の設定は任意とされています。 Scope 3の目標設定 カテゴリA企業に対しては、バリューチェーン内に存在する排出集約活動(Emissions-intensive activities:EIAs)の特定と、利用可能な最良データに基づくScope 3物理的GHGインベントリ排出量の定量化が求められます。Scope 3(カテゴリ1~14)排出量の5%以上を占める排出集約活動は「重要な排出集約活動」とされ、当該排出集約活動の絶対排出量およびScope 3総排出量に占める割合を報告することになります。 カバー範囲としては、Scope 3(カテゴリ1~14)排出量の5%以上を占めるすべてのスコープ3カテゴリのカバーが義務付けられました。 ただし、ネットゼロ基準v2のC14.2に列挙された特定の活動については、短期目標から除外できる場合があります。対象には、カテゴリ1・2における中古品のCradle-to-gate排出、カテゴリ3、7、8、9、10、14に関する特定の排出が含まれます。除外する場合、企業は該当する除外条件、除外が自社の状況に当てはまる理由、除外排出量、ならびに当該排出の緩和に向けた行動を報告することが求められます。 Scope 3の短期目標については、対象となる排出や活動の性質に応じて、全体的なScope 3絶対量削減目標、全体的なサプライヤー/顧客整合性目標、またはカテゴリ別・カテゴリ内の活動別目標のいずれかを用いることになります。カテゴリ別・活動別目標では、排出量削減目標(絶対量または原単位)、ボリューム整合性目標、サプライヤー整合性目標、製品使用段階における整合性目標、製品のライフサイクル終了時整合性目標、顧客整合性目標などが示されており、これらは個別または組み合わせて適用することが可能です。なお、カテゴリ別・活動別目標については、Scope 3カテゴリごとに適用可能な目標種類が示されています。 ネットゼロ基準v1.3.1でScope 3の目標設定手法として示されていた「物理的原単位削減」および「経済的原単位削減」は、ネットゼロ基準v2のScope 3目標設定手法一覧には含まれていません。 目標サイクルの明確化 ネットゼロ基準v2では、前述の通り、目標の検証と目標サイクル終了時評価を含むサイクル型の検証・評価モデルが導入されました。短期目標の目標期間は5年とされ、ネットゼロ基準v2の枠組みでは、従来の5年ごとの必須レビューに代わり、目標サイクルの終了時評価と次サイクルの目標設定を通じて、ネットゼロ経路との継続的な整合を図る仕組みとなっています。 4. 新設された「目標の実施」基準とScope 2評価の分離 ネットゼロ基準v2における大きな変化として、新たに「目標の実施」についての基準が定められました。 ここでは、まず企業自身およびバリューチェーンにおける活動レベルのアクションを優先することが求められます。排出が活動プール内で生じる場合には、当該活動プール内でのアクションを取ることができます。また、構造的制約により活動レベルまたは活動プールレベルで十分なアクションが取れない場合には、セクターレベルのアクションを取ることができます。 Scope 2におけるアプローチの分離 ネットゼロ基準v2では、Scope 2について「排出削減目標の設定方法」と「企業がどのように行動して目標達成に向けて進捗させるか」という問題が分離されました。 物理的排出インベントリ:省エネやオンサイト低炭素発電のような削減に関する主張はこちらで実現されます。 マーケット手段での取り組み(目標の実施):低炭素電力購入契約(PPA)やその他のマーケット手段での取り組みは別途報告されます。これにより、企業自身の低炭素電力への投資がシステムの脱炭素化をいかに加速させるかを、透明性をもって伝えることが可能となっています。 マーケット基準でのScope 2については、この「目標の実施」セクションでの取り扱いとなります。電力への適用においては、使用可能なマーケット手段(例:フィジカル/バーチャルPPA、低炭素電力契約、エネルギー属性証書など)と、活動プールでの適格基準(例:デリバビリティ、稼働15年制限など)が定義されています。なお、時間単位マッチングはScope 2の目標進捗に対する必須要件とはされていません。一方で、カテゴリA企業については、活動プール内の年間電力消費量が10GWh以上となる重要な電力使用について、Scope 2電力消費量のうち低炭素電力と時間単位で一致した割合を算定・報告することが求められます。また、一定水準の時間単位マッチングを達成する企業向けに、任意の認定プログラムが設けられています。 ※「目標の実施」に関する追加ガイダンスは、2026年末にリリースされる予定です。 5. 検証プロセスで求められる厳格な証拠(エビデンス)要件 ネットゼロ基準v2では、カテゴリA企業に対して、目標基準年GHGインベントリおよび関連する目標設定指標について、独立した第三者保証が求められます。また、SBTiが公表した「最低限必要なエビデンス(暫定版)」では、ネットゼロ基準v2の目標検証プロセスで使用されるエビデンスについて、一般的なガイドとして最低限必要な内容が示されています。ここでは、その一例として、代表的な証拠文書・情報を紹介します。なお、以下は同文書に示された内容の一部であり、必要となるエビデンスを網羅するものではありません。 企業の取締役会相当機関の説明責任の裏付けとなる「日付入りの文書」 SBTiが列挙する要素を含む、「日付入りの移行計画文書」 目標基準年の低炭素電力割合の算定報告に関する「日付入りの文書」 日付入り署名済の第三者保証書:目標基準年のScope1, 2, 3排出量の100%、低炭素電力算定、重要な排出集約活動の排出量、その他の目標設定指標を対象とするもの。 目標基準年と目標年の設定例 証拠提出にあたり、基準年と目標年の設定ルールも明確化されています。 目標基準年について 提出日から2年前以降とされています。(例:2027年に提出する場合、目標基準年は2026年または2025年)。次の目標サイクルも同様に、都度新たな目標基準年を直近2年前から選択します。 目標年について 初回検証時は「直近の報告期間の開始日から5年以内」と規定されています。その後の目標検証は、目標サイクル間の継続性を確保するため「前回の目標年度の直後の年の開始日からちょうど5年後」と規定されました。 (例:2027年初回検証時に「2026年を目標基準年」とする場合は、目標年として2028~2031年を選択します。ここで2031年以外を選択する場合はその説明が必要です) おわりに 本コラムでは、SBTネットゼロ基準v2の全体像と、大企業(カテゴリA)が直面する主要な変更点について、公式発表ドキュメントの記載内容に基づいて解説いたしました。 第三者保証の義務化、Scope 3対象範囲の厳格化、Scope 2マーケット手段の分離報告など、ネットゼロ基準v2への移行は企業のサステナビリティ開示プロセスに大きな影響を与えます。 特に、既にSBT認定目標を有する企業にとっては、自社の目標年度や5年レビュートリガー日を踏まえ、いつ、どの基準で、どのような準備を進めるべきかを早期に整理することが重要です。ネットゼロ基準v2では、目標設定そのものに加え、ガバナンス体制、移行計画、第三者保証、エビデンス文書の整備など、従来以上に多面的な対応が求められるため、移行スケジュールと対応事項をあらかじめ可視化しておくことが有効です。 弊社には、SBTi認定エキスパートが2名在籍しており、SBTi認定エキスパートおよびSBTi実務に精通したコンサルタントが、貴社のネットゼロ基準v2移行に向けたスケジュールやTODOの整理について、30分の無料相談を承っております。 また、ネットゼロ基準v2移行に向けた目標更新方針の検討、Scope 1・2・3の算定・目標設定、移行計画や必要文書の整備、第三者保証対応を見据えた準備など、各種コンサルティングサービスもご用意しております。 ネットゼロ基準v2移行に向けた具体的なご相談や、各種文書整備のサポートが必要な際は、ぜひ弊社までお問い合わせください。 出典 SBTi Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Guide Transition Corporate Net-Zero Standard V2 Continuing-Use-of-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-1.3.1-and-Transition-to-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2 Preliminary-Minimum-Evidence-Required-for-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2.0 Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Main-Changes-Document Corporate-Net-Zero-Standard-V2-FAQs Understanding-Scope-2-in-the-Updated-Corporate-Net-Zero-Standard-V2.0 Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Basis-for-Conclusions (執筆者:小島) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・SBT目標設定・気候移行計画策定|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス
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