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企業の気候関連情報開示の今後の行方は?ISSB、そしてSSBJの草案について解説(前編)

 2024年3月29日にSSBJから公表されたサスティナビリティ開示基準案。その原型となったISSBが公表するサスティナビリティ開示基準は2023年6月26日に最終化されました。
 本コラムではISSBやSSBJの基本的な情報に加え、今後取り組んでいくべき非財務情報開示について、前編後編に分け、解説します。これから非財務情報開示を検討している企業をはじめ、これまでTCFDのフレームワークに沿って開示していた情報をアップグレードしたい企業担当の方に参考となる情報ですので、気になる方はぜひご一読ください。

  • ISSBとはサスティナビリティ

     ISSBとは(International Sustainability Standard Board)「国際サスティナビリティ基準審査会」及び同審議会により開発される基準のことで、サスティナビリティ関連財務情報の開示基準を開発する目的で設立されました。この背景にはさまざまなサスティナビリティ開示基準が錯綜していたというのがあります。当時SASBやCDSB、TCFDなどの開示基準があるなか、機関投資家が何をもって非財務情報を比較検討したらよいか不明瞭だったため、国際的に統一された開示基準を制定すべきといった要請の高まりからIFRS財団が主導で設立しました。

    出典:SSBJ によるサスティナビリティ開示基準案の概要

    これまでのIIRCやSASB、CDSBはIFRS財団に統合、TCFDは解散されましたが既存のフレームワークは踏襲され、IFRSのS1号、S2号の軸として取り込まれています。

  • ISSBが公表した2つのIFRSサスティナビリティ開示基準

     ISSBが定めたサスティナビリティ開示基準は次の2つです。

    • IFRS S1号|サスティナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項
    • IFRS S2号|気候関連開示

   IFRS S1号は①サスティナビリティ関連の開示を作成する際の、基本的な事項を定めた部分と②サスティナビリティ関連
  のリスクおよび機会に関して開示すべき事項、で構成されています。
   IFRS S2号は気候関連のリスクおよび機会に関する情報開示が要求されています。
  

   出典:IFRS S1号及びIFRS S2号の全体像

   前述したようにIFRSはTCFDの提言に基づいており、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの柱
  が中核(コアコンテンツ)です。また産業別の指標についても開示を要請されているのも特徴の一つでしょう。

  • IFRS S1号|サスティナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項

     IFRS S1号は投資家の投資判断に資する、サスティナビリティ関連のリスクと機会に関する情報開示が要求されています。具体的には短期、中期、長期にわたってのキャッシュフロー、資金調達へのアクセス、資本コストに影響を与えることが合理的に予想される全てのサスティナビリティ関連のリスクと機会に関する情報です。例えば次のような情報におけるサスティナビリティ関連情報となります。

    • 資本制金融商品および負債制金融商品の購入、売却または継続保有
    • 貸付金および他の形態による信用の供与、または決済
    • 企業の経済的資源の利用に影響を与える企業の経営者の行動に対しての、投票または他の方法で影響を与える権利の行使

     また全般的な要件には、企業はIFRSのサスティナビリティ開示基準に加え、SASBスタンダートの開示トピックを参照し、その適用可能性を考慮しなければなりません。さらに水、生物多様性に関するCDSBのフレームワークについても適用可能性も考慮する必要があります。
     参考:IFRS S1 IFRS®Sustainability Disclosure Standard

  • IFRS S2号|気候関連開示

     IFRS S2号はサスティナビリティ情報のうち、特に気候に関連するリスク及び機会に関連する補足的要求事項を規定しています。TCFDフレームワークを踏襲し、要求事項はTCFDと概ね整合的ですが、より詳細な情報開示が求められる部分もあります。例えば初年度には適用されませんがScope3の開示や目標が第三者による検証の有無、産業別のガイダンスの適用可能性を参照し、検討しなければなりません。
    すでにTCFDに対応している企業であれば開示情報の高度化を進め、対応していない企業おいては、まずTCFDフレームワークに沿った情報開示に取り組み、段階的にIFRSに対応していくといいでしょう。

    後編ではSSBJ基準案や、ISSBにおける欧州サスティナビリティ基準(ESRS)との相互運用についてまとめます。

 (執筆者:渡部)

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はじめてのSSBJ気候変動開示に今から必要な準備とは

第三者保証・開示から逆算した5つのステップと、つまずきがちな「あるある」への対応策 SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に公表したサステナビリティ開示基準が、2026年4月1日以後に開始する事業年度から、企業の平均時価総額[1]順に段階適用されていくことになります。具体的には、時価総額3兆円以上は2027年3月期、1兆円以上は2028年3月期の適用が義務化されています[2]。そして、時価総額5,000億円以上1兆円未満の企業は2029年3月期から、有価証券報告書での開示が義務付けられる見込みです(いずれも3月期決算企業の場合)。弊社の支援する企業様からも対応に関するお話をお聞きする機会も増えてきましたし、時価総額で義務対象外の企業様であっても、競合他社や投資家要請等の状況を踏まえ、前倒しで準備を始めたいというお声も聞いています。さらに、開示初年度の翌期からは第三者保証も段階導入され、当初はScope1・2排出量、ガバナンス、リスク管理を対象とした「限定的保証」から始まるとされています。 本コラムでは、初めて取り組む企業を念頭に、開示タイミングから逆算した実施時期の目安と実施ステップを示し、そのうえで準備の現場で起きがちな「あるある」と対応策、そして私たちがご支援できることを整理します。 全体像―開示するタイミングから逆算する ここでは、仮に時価総額5000億円規模の企業の場合を例に考えます。開示初年度(2029年3月期)の有価証券報告書は期末後3か月以内、つまり2029年6月頃に提出します。そして、その翌期(2030年3月期)から限定的保証の義務化の対象となります。保証義務化は準備負荷も踏まえて開示義務化から1年遅れとはなっていますが、CDPをはじめScope算定数値への保証が市場から求められていることから、SSBJへの対応と並行して保証対応準備を始められている企業様も多くいます。 [1] 平均時価総額とは、有報等を提出しようとする日の属する事業年度の直前事業年度の末日からさかのぼって5か年の時価総額の平均値により判定する。例えば、2027年3月期の適用の有無の判断に用いる平均時価総額は、2022年3月期~2026年3月期の各末日の時価総額の平均値で算定する。 (出典:第9回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ) [2] 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について:金融庁 以下の早見表は、開示タイミングから逆算した「実施時期の目安」と「実施ステップ」を並べたものです。自社の決算期に合わせて読み替えてご活用ください。 ■2029年3月期より適用開始(時価総額5000億円以上の企業)の場合の対応スケジュール(イメージ) 実施時期 の目安 実施ステップ 開示内容の準備 第三者保証対応 -2年度 (~2026年10月) Scope1,2算定システムの導入検討 -2年度 (〜2027年3月) ギャップ分析と全体計画 現行開示とSSBJ基準の差分を棚卸しし、不足するデータや原稿を特定。対応の優先度と役割分担を決定する。 ― -1年度 (2027年4月~2028年3月) データ収集体制の構築 次年度ガバナンス・リスク管理体制について整備・文書化する。Scope1,2をはじめとしたサステナビリティ開示数値の作成に迅速に着手できるように、効率的なデータ収集体制を構築する。 保証機関の選定、保証対応体制の構築 保証機関の選定は、財務監査との兼ね合いも考慮する。自社で保証対象データが出揃う時期に合わせた保証スケジュールを立てる。 保証用数値の準備、保証対応(プレ保証向け) 組織範囲や算定対象の決定、根拠資料に関して、保証機関によってGHGプロトコルの解釈や指摘の傾向が異なることもある。必要に応じてプレ保証を行う。 期中 (2028年10月~) 開示内容の精査 ギャップ分析に基づき、定性的な開示内容。決算後に反映する箇所を除く箇所について、開示方針を決定する。 保証用数値の準備、保証対応(本番保証向け) サステナビリティ開示数値を保証。指摘を踏まえてデータを修正し、最終化する あらかじめ必要な根拠資料や必須要件を握っておく。データ収集状況によっては、期中監査も検討する。 期末前後 (2029年3月期末~) 開示直前〜 (2029年4〜5月) 開示への落とし込み 有価証券報告書をはじめとする開示用フォーマットへ内容を統合し、財務開示との整合(コネクティビティ)を確保。   ※時期は3月期決算・2029年3月期を開示初年度とした場合の目安です。開示成熟度や体制により、各ステップの精緻度を段階的に高める進め方も現実的です。   ステップ別―準備でつまずく「あるある」と対応策 Scope1,2算定システムの導入検討 Scope1,2数値について、データ収集や保証時の改ざん防止の観点でシステムでの管理が効率的になる可能性があります。 あるある システムを使って算定を効率化したいが、そもそもシステムを導入するコストメリットはあるのか、システムに求める要件はなにか判断することが難しい 対応策 Scope1,2については、拠点数が多ければ多いほど、システムによりデータ収集が効率化できる余地が多くなります。なお、選定時に注意する点としては、保証を見据え、エネルギーデータや再エネ証書償却量などの管理方法を確認しましょう。CDPの設問に対応した換算が可能であることも魅力です。なお、Scope3については表計算ソフトでもコストや管理上のメリットは十分あるため、導入は慎重に検討するようにしましょう。 弊社で可能なご支援 Scope算定システム導入支援 ギャップ分析と全体計画 現行の開示内容とSSBJ基準を突き合わせ、両者の差分を棚卸します。その上で、不足しているデータや未着手の原稿を具体的に特定します。洗い出した課題については、対応の優先度を整理するとともに、社内での役割分担を明確に定めていきます。 あるある SSBJ要件が求める要件を具体的な開示に落とし込む際のイメージがつかず、用意すべき開示データの洗い出しに難渋している 連結全体のうち、Scope3算定の対象範囲から漏れている事業部や子会社がある どこまで詳細に開示を準備するべきかの判断と優先順位がついていない 要件のうち、社内対応が間に合わない項目がある 対応策 まず現行開示とSSBJ基準のギャップを棚卸しし、新たに対応が必要な項目とすでにあるデータから対応可能な項目を洗い出し、優先順位をつけていきます。要件のうち、社内方針などすぐの対応が難しい項目については、課題事項として整理しておきます。 私たちの支援 Scope算定拡大支援、TCFD/SSBJ要件ギャップ分析支援 データ収集体制の構築、保証機関の選定、保証対応体制の構築 次年度に向けて、ガバナンス体制およびリスク管理体制の整備と文書化を進めます。あわせて、Scope1,2,3をはじめとするサステナビリティ開示数値の作成に速やかに着手できるよう、関係部門と連携した効率的なデータ収集の仕組みを構築します。保証機関の選定にあたっては、財務監査との兼ね合いやスケジュールの整合性も考慮し、自社で保証対象となるデータが出揃う時期を見極めたうえで、無理のない保証スケジュールを立てましょう。 あるある 決算から有報開示までの短期間で、連結全体での排出量算定用のデータ収集から算定までを行う体制構築が難しい SSBJに基づく開示にあたり、非財務監査を財務監査と同じ機関にする社内方針となり、これまで排出量保証を依頼していた機関と方針が異なる可能性がある。 対応策 決算での数値確定後からの算定開始では時間的に間に合わない場合、たとえば期中でハードクローズを行い、監査自体を前半後半に分けるという方法があります。また、開示に収集が間に合わないデータについては見積もりで対応し、開示は速報値を用いて行い、データが出揃った後に確報値を公表するという手段もあります。いずれにしても、保証機関によって指摘事項や対応方針が異なるケースがあるため、社内のデータ収集・開示方針を早い段階で伝え、懸念事項を解消しておくことが重要です。 私たちの支援 第三者保証対応伴走支援、SSBJに向けたScope算定ロジック改善検討支援 開示内容の精査 ギャップ分析の結果を踏まえ、定性的な開示内容について検討します。決算後に反映する箇所を除いた部分を対象に、開示の方針を確定します。 あるある シナリオ分析は毎年実施が必要か、気候変動リスクに対する財務影響額の数値については開示が必要かなど、記述情報についてどこまでを記載すれば要件を満たすことになるのかが不明 対応策 シナリオ分析についてですが、更新頻度は「少なくとも企業の戦略計画サイクルに合わせて」とされています。一方、気候レジリエンス(自社の戦略・ビジネスモデルが気候変動下でも持続可能か)についての評価は、年次で更新が求められています。したがって、一度行ったシナリオ分析結果については数年スパンで参照可能と解釈できる一方、それに対する企業の対応については毎年最新の状況を開示する必要があると解釈できます。(気候基準第30-39項) 次に、財務影響額については、可能な限り定量的な情報を示すことが求められています。定量的開示が免除されるのは、①影響をリスクごとに区分して測定できない場合 や ②見積もりの不確実性が極めて高い場合です。その場合、「資産や事業活動の規模(大・中・小など)」など、影響の規模感を相対的に説明することでも基準を満たすとされています。そのような免除を適用した場合でも、代わりに定性的な説明を十分行い、定量開示が困難な理由を開示する必要があります。(気候基準第25-27項、BC185,186)このように、気候要件や関連ガイダンスとの参照を行うことで、開示内容の精査を行っていきます。 私たちの支援 シナリオ分析支援、SSBJ開示フォーマットに沿った開示案作成支援 保証用数値の準備、保証対応(プレ保証、保証本番) 保証に向けて、対象となる数値や根拠資料を準備します。組織範囲や算定対象の決定、根拠資料の整え方については、保証機関によってGHGプロトコルの解釈や指摘の傾向が異なる場合があるため、必要に応じてプレ保証を実施し、本番前に論点を洗い出しておきましょう。 あるある 保証機関による指摘で、財務支配力基準を採用している場合、リース資産を運用する際の燃料・電気をScope1,2にひとくくりにすることはできないと言われた。 Scope2に使用している電力排出係数について、環境省の算定・公表・報告制度の電気事業者別係数を使用していたが、送配電によるロス分による排出を除くよう指摘を受けた。 (Scope排出量に限らず)シナリオ分析結果、気候移行計画、クレジット調達方針といった開示に内容に対して、SSBJ要件との整合性に関する指摘を受けた 対応策 企業による算定は、業界慣習的に行われていることも多く、監査によってはじめてGHGプロトコルとの厳密な整合を認識することも少なくありません。一方で、GHGプロトコルが要求している以上の対応を求められるケースもあり、その場合は担当者にとって過剰な作業負担となってしまう可能性があります。 あるある1点目の、自社で借りているリース資産の算定カテゴリについては、財務支配力基準を採用するか、経営支配力基準を採用するかで対応が異なります。買い上げを前提としていない一時的なリース資産は、フィナンシャルリースではなくオペレーティングリースに分類されるケースが多いです。その場合、フィナンシャルリースのみを組織の責任範囲とする財務支配力基準下ではScope1,2の算定対象ではなく、Scope3カテゴリ8(上流リース)に分類されます。(出典:GHG Protocol Corporate Standard(改訂版)Appendix A.  Accounting for Emissions  from Leased Assets)したがって、既存の算定方法を正とする場合、採用基準を財務支配力基準から経営支配力基準へと変更することが、最短の対応策となることが多いです。 一方、あるある2点目の送配電ロスによる排出の計上については、解釈が分かれる余地があります。そもそも、送配電ロスというのは、電力が発電所から需要先に届くまでの送電線による抵抗によって、実際の発電量よりも何%か減損する実態を指します。したがって、発電所を出た時点(発電端)の排出係数よりも、需要先(受電端)の排出係数の方が、分母となる電力量が小さくなるため、ロス率分高くなります。GHGプロトコルでは、この送配電ロスによる排出分について、別途Scope3カテゴリ3の方で計上することとしています。(出典:Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions — Category 3 )一方、日本のScope2算定で使用されている環境省 電気事業者別排出係数は、受電端(=送配電ロスを含んだ)係数のため、送配電ロス分は最初からScope2の方に含まれる処理になります。この相違は、環境省も認識済みです。(環境省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン 参照)上記の指摘は、この差分を是正するために、環境省係数から送配電ロス分を切り出すべきというものです。 この対応の懸念点としては、GHGプロトコルに対応する名目で、公式な排出係数に企業独自の変更を加えることになっており、係数自体の妥当性が損なわれている可能性もあります。なにより、温対法等で一般的に使用されている係数と異なる係数で運用することにもなり、二重管理のデメリットも考えられます。このように、保証機関からの指摘は、GHGプロトコルの解釈によるものであるケースも多く、時には対応可否の判断を行うことも重要です。 また、Scope排出量に限らず、シナリオ分析や気候移行計画、クレジット調達方針などの開示内容の不備不足に対する指摘を受けるケースもあり、指摘に対応できるリソースをあらかじめ確保しておくことが重要です。 私たちの支援 第三者保証対応伴走支援、SSBJに向けたScope算定ロジック改善検討支援、シナリオ分析アップデート支援、気候移行計画作成支援、クレジット調達方針作成支援 開示への落とし込み 有価証券報告書をはじめとする各種開示フォーマットへ内容を統合します。財務開示との整合(コネクティビティ)を確保し、開示全体としての一貫性を担保することに注意します。 あるある  SSBJ気候基準の開示内容について、有価証券報告書上でどのような表現で開示をすべきかのイメージがわきづらい。 対応策 有価証券報告書上の開示フォーマットについては、サステナビリティ基準委員会が公表している、「有価証券報告書の作成要領」がまずは参考になるでしょう。ほかにも、先行開示事例を参考にできます。財務情報とのつながりや整合性が明確になるような開示を作成することが重要です。弊社でも、SSBJ開示フォーマットに対して企業独自の開示内容を落とし込んでいくような支援を進めています。 私たちの支援 SSBJ開示フォーマットに沿った開示案作成支援   最後に SSBJ気候基準の開示・保証対応は、これまでのボランタリー的な開示に比べ、より一層高度で厳密な算定・開示が求められています。私たちは、現状の状況を踏まえ、保証に耐える開示へと無理なく到達する道筋づくりをご支援します。自社でお悩みのポイントがあればお気軽にご相談ください。 ※本コラムは2026年6月時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の会計・法務判断を保証するものではありません。適用時期・保証制度は金融審議会WG等での議論段階の内容を含みます。最終的な算定・開示は、所管の監査法人・保証機関とご確認ください。 (執筆者:馬場) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・CDP質問書、TCFD・TNFD、SSBJ対応、EcoVadis回答支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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排出原単位は、製品とともにサプライチェーンを流れ始めた

「排出原単位」と聞くと、多くの実務担当者は、電力や燃料の使用量に掛ける係数を思い浮かべると思います。その使われ方が、いま大きく変わっています。 結論から述べます。これまで主に算定の係数として使われてきた排出原単位は、いま製品ごとの排出量データとして、取引や規制の場で直接やり取りされる単位に変わっています。当面の備えは、自社製品の排出量を業界平均ではなく自社の一次データで示せるようにしておくことです。 この変化と特に関わりが深いのは、鉄鋼・アルミなどCBAM対象財や、電池・素材をEU向けに供給している企業です。あわせて、取引先から製品のカーボンフットプリント(CFP)の提示を求められ始めた企業や、Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)を業界平均から自社の一次データへ切り替えたい企業にも、直接かかわります。これらに一つでも当てはまるなら、製品別の原単位を整えることが、これからの取引や規制への対応そのものになります。  この記事でわかること 排出原単位がもつ二つの意味(算定の係数と、製品別の炭素強度) CBAM、製品CFP、Scope3カテゴリ1で、企業に何が起きつつあるか 取引や規制に向けて、企業が準備しておくべきデータ 目次 「排出原単位」には二つの顔がある 「測る・比べる」から「受け渡す」へ CBAMでは、原単位が製品とともに受け渡される 規制でも業界でも、原単位は同じ向きに動く 受け取る側でも、原単位が中心になる 「同じ向き」でも、そのまま流用はできない 当面の備えは「製品別原単位を一次データで示すこと」 まとめ 主要参考資料   「排出原単位」には二つの顔がある 排出原単位とは、排出量を何らかの「単位」で割った値ですが、ここには役割の異なる二つの数値が含まれます。 一つは排出係数(emission factor)です。活動量に掛け合わせて排出量を推計するための数値で、「排出量=活動量×排出係数」の係数にあたります。電気1kWhあたり、燃料1Lあたりといった形で与えられ、多くは業界平均値が使われます。環境省も、サプライチェーン排出量の算定方法を、取引先から排出量の提供を受ける方法(一次データ)と、自社の活動量に排出原単位を掛け合わせる方法の二つに整理しています(環境省 排出原単位データベース)。 もう一つは製品別の炭素強度(carbon intensity)です。排出量を、つくり出したものの一単位あたりに直した数値で、鋼材1トンあたり、電池容量1Whあたりといった形で、製品一単位あたりのCO₂排出量を表します。排出係数が「掛けて自社の排出量を出す入力」であるのに対し、炭素強度は「割って得られる、製品あたりの結果」です。この製品あたりの炭素強度の代表例が、ライフサイクル全体の排出量を製品単位で表したCFPです(環境省 カーボンフットプリント)。 そして、この二つは地続きです。ある鋼材メーカーが算定した「鋼材1トンあたりの排出量」は、その鋼材を買って自動車をつくるメーカーにとっては、購入した材料の排出量を計算するための「排出係数」になります。同じ数値が、売り手には製品の結果(炭素強度)として、買い手には計算の入力(排出係数)として使われるわけです。日本語ではどちらも「原単位」と呼ぶため混同しやすいのですが、この二つを分けて考えることが出発点になります(買い手側の含意は後の章で改めて述べます)。 「測る・比べる」から「受け渡す」へ この二つのうち、いま使われ方が大きく変わっているのは、製品あたりの原単位(炭素強度)です。 これまで製品の原単位(CFP)は、主に「測って、表示し、比べる」ために使われてきました。自社製品の排出量を把握して削減のポイントを見つけ、消費者や取引先に開示する、という使い方です。排出原単位を「指標」として用いる段階でした。 ところがいま、製品の排出原単位は、その指標の段階を超えて、サプライチェーンを川上から川下へと受け渡され、規制や価格づけの前提として使われ始めています。脱炭素の実務が「測る」から「比べる・選ぶ・課す」段階へ移り、業界平均では足りず、製品ごと・自社の一次データに基づく原単位が、取引や規制の現場で直接使われるようになったためです。その変化が最もはっきり表れているのが、次に見るCBAMです。   CBAMでは、原単位が製品とともに受け渡される 排出原単位が申告と費用負担の根拠そのものになる最前線が、EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)です。2026年1月に本格適用が始まり、鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・電力・水素について、製品トンあたりの排出量の申告を求めます(欧州委員会 Carbon Border Adjustment Mechanism、基礎は規則(EU)2023/956)。申告義務を直接負うのはEU側の輸入者ですが、排出量データは生産者が握っているため、日本など域外の製造者も、輸入者を通じてデータ提供を求められる場面が増えていきます(ジェトロ「EUのCBAMに備える」)。 ここで求める排出量は、工場単位ではなく製品の単位生産量あたりです。鉄鋼を例にとれば、その製造には銑鉄など前段でつくられる材料が使われます。こうした前段の材料はCBAMで前駆体(precursor)と呼ばれ、複雑な製品の排出量は、前駆体に紐づく排出原単位を受け継いだうえで、自社工程の排出を加えて算定します。このように原単位は、川上から前駆体とともに引き継がれながら、製品とともに流れていきます。実測データがなければデフォルト値で算定され、申告にとどまらず証書の購入・償却という金銭的な負担も生じます。2026年の輸入分は、2027年9月30日が初回申告と証書償却の期限です(算定方法・デフォルト値・期限の詳細は欧州委員会 CBAM Legislation and Guidance)。なお、CBAMが求める排出量はライフサイクル全体を対象とする一般的なCFPより範囲が狭く、CFPの算定をそのまま流用すると過剰報告になりかねない点には注意が必要です(前掲ジェトロ)。 規制でも業界でも、原単位は同じ向きに動く 製品に原単位を載せて川下へ渡すという使い方は、強制力をもつCBAMにとどまらず、ほかの規制にも、業界主導の基盤にも広がっています。 規制の側:電池規則とデジタル製品パスポート 規制の側では、EUの電池規則が、電気自動車用電池などについて、電池モデル・製造拠点ごとのカーボンフットプリント宣言を段階的に義務づけ、電池パスポートが製品単位の炭素情報を川下へ受け渡す基盤になります(規則(EU)2023/1542、算定規則は欧州委員会JRC/EPLCA)。これはより広い枠組みの先行例でもあります。EUのエコデザイン規則(ESPR)は、製品の環境性能や炭素フットプリントを、製品とともに移動するデジタル製品パスポート(DPP)に載せる仕組みを導入しました(規則(EU)2024/1781)。対象は委任法令で順次広げる設計で、優先製品群とされた鉄鋼・アルミニウムはCBAMの対象財とも重なり、同じ製品が、国境でも製品情報の開示でも炭素データを問われることになります(欧州委員会 エコデザイン作業計画2025–2030)。 業界の側:EPDと共通データ基盤 業界の側でも、製品の環境データを取引先間で受け渡す基盤が整っています。代表的なのがEPD(環境製品宣言)で、製品ごとの排出量などを共通ルール(PCR)に沿って算定し、第三者検証を経て開示する宣言です(ISO 14025のタイプIII環境宣言。国内ではSuMPO EPDが運用されています)。これが原単位の受け渡しに直結するのが建築です。建物の排出量は、運用時のエネルギーに加え、建材に由来する体化炭素(エンボディドカーボン)の比重が大きく、建材ごとのEPDに記された原単位を建物全体で足し合わせて評価します。国内でも、運用段階は建築物省エネ法によって2025年4月から全新築で省エネ基準への適合が義務化され(国土交通省 建築物省エネ法)、建材側の体化炭素も、国土交通省が2028年度を目途に建築物のライフサイクルカーボン(LCA)の算定・評価を促す制度づくりを進めています(国土交通省 建築物LCA制度検討会)。 製造業でも、同じ受け渡しを共通形式で行う基盤が立ち上がっています。WBCSDのPACT(Partnership for Carbon Transparency)は、製品単位のCFPを一次データで取引先間でやり取りする方法論を整備し(WBCSD PACT Methodology Version 3)、自動車業界のCatena-Xも、製品の炭素データを共通ルールと標準形式で受け渡せるよう整えています(Catena-X Product Carbon Footprint Rulebook)。 その先の構想:賛否が割れる製品単位の炭素会計 さらにこの流れの先には、製品単位の炭素会計を世界規模で標準化しようとする構想もあります。2025年10月に発足した業界連合Carbon Measuresは、製品に紐づく炭素情報を会計の台帳のように扱い、二重計上を避けながら川下へ受け渡す枠組みを掲げています(Carbon Measures 発足発表、Trellis)。ただし、強制力をもつ規制とは異なり発足して間もない任意の取り組みで、責任を川下や最終消費者へ移し、Scope3を含む排出量全体の開示から注意を逸らすおそれがあるとの批判もあります(NewClimate Institute)。 立場も強制力も異なりますが、製品に紐づく排出原単位を川上から川下へ渡すという構造は共通しています。本稿が重視するのは個々の枠組みの是非ではなく、これらが同じ向きに進んでいる点です。 受け取る側でも、原単位が中心になる 視点を、原単位を渡す側から受け取る側へ移すと、もう一つの変化が見えます。買い手にとって、取引先から渡される製品CFPは、自社のScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)を計算するための一次データになります。冒頭で触れたとおり、ある製品の炭素強度は、それを買う側にとっては排出係数です。これまでカテゴリ1は業界平均の係数で埋めることが多かったのですが、それを取引先の実データに置き換える動きが進んでいます。 ただし、取引先のCFPですべてを置き換えられるわけではありません。製品CFPが得られない品目も多く、カテゴリ1は一次データと業界平均などの二次データの組み合わせで埋めるのが実情です。そのうえ、受け取ったCFPも、算定範囲や配分の仕方、検証の有無が供給者ごとに揃っていないと、自社の総量にそのまま整合させるのが難しい場合があります。 この足並みのばらつきを抑え、製品の原単位を受け渡せる形に揃えることこそ、PACTやCatena-Xのような算定・伝達のルールの役割です。送り出す側のこうした基盤と、受け取る側のカテゴリ1の一次データ化は、同じ受け渡しを裏と表から見たものといえます。もっとも、これらは任意の基盤で、検証の水準や、CBAM・電池規則など他制度との物差しの違いまでは揃えません。 「同じ向き」でも、そのまま流用はできない ここまで「同じ向き」と述べてきましたが、実務では、ある制度の数値を別の制度へそのまま流用したり足し合わせたりはできません。CBAMの排出量は原則として製造ゲートまでを対象とし、間接排出を算入するかどうかは製品によって異なります。一方、ISO 14067に基づくCFPは、調達から廃棄までライフサイクル全体を取り得ます。電池規則は「生涯提供エネルギー1kWhあたり」という独自の機能単位を使い、CBAMの「製品トンあたり」やPACTの製品単位とは比較の土台が違います。対象ガスや検証の水準もそろっていません。 つまり、製品原単位は同じ向きに動いてはいるものの、境界・単位・対象ガス・検証がまだ統一されておらず、共通の物差しは確立していません。だからこそ、自社の製品がどの制度向けに、どの境界・どの単位で原単位を示すべきかを区別して準備しておくことが要点になります。 当面の備えは「製品別原単位を一次データで示すこと」 この変化が新たに求めるのは、主に製品の原単位の側の備えです。自社の排出量を計算するための排出係数としての使い方は引き続き必要で、ここが大きく変わるわけではありません。新しい課題は、製品単位の原単位を、業界平均ではなく自社の一次データで、前駆体材料の分まで引き継いで示せるかどうかに集中しつつあります。 まず取り組めるのは、自社が使っている「排出原単位」を二つに分けて棚卸しすることです。自社の排出量を計算するための排出係数と、取引先へ製品ごとに説明するための原単位(CFP等)を区別し、後者については、対象となる製品、製造拠点、主要な原材料や前駆体材料、一次データの有無を整理します。業界平均の係数で代用している箇所を洗い出すと、どこから手をつけるべきかが見えてきます。 そのうえで、提出先ごとの段取りを押さえます。CBAMに該当する製品があれば、2026年の輸入分は2027年9月30日が初回申告と証書償却の期限ですので、ここに間に合うようEU輸入者とデータ受け渡しの段取りを確認します。自社の一次データを示せれば実態に近い値で申告でき、負担額の抑制にもつながります。取引先からCFPを求められる場合は、PACTやCatena-Xが想定するデータ形式と第三者検証の要否を確認します。Scope3カテゴリ1で供給者データへ切り替える際は、GHGプロトコルの一次データの要件に沿わせ、これまで用いてきた排出原単位データベース(環境省データベースやIDEA)からの移行を段階的に進めるのが現実的です。 業界平均の係数ではなく、自社製品に紐づく一次データを示せるかどうかが、これからの取引や規制対応の分かれ目になります。求められてから慌てるのではなく、対象になりやすい製品から準備しておくことが、現実的な備えといえます。 まとめ 排出原単位には、自社の排出量を計算するための係数(排出係数)と、製品を比べるための物差し(製品の炭素強度)という二つの顔が古くからあります。いま変わっているのは後者で、測って比べるための指標から、サプライチェーンを伝って受け渡され、取引や規制、価格づけの前提となるデータへと性格を変えています。送り出す側にとっては取引や規制で示すべき数値として、受け取る側にとっては自社のScope3カテゴリ1を支える一次データとして、同じ製品の原単位が使われ始めています。ただし境界も単位もまだ統一されておらず、制度をまたいでそのまま流用はできません。だからこそ、自社製品の原単位を、業界平均ではなく自社の一次データで、提出先に応じて示せるようにしておくことが、これからの数年の備えの中心になります。 主要参考資料 Regulation (EU) 2023/956(CBAM基本規則、EUR-Lex)https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/956/oj/eng Regulation (EU) 2023/1542(EU電池規則、EUR-Lex)https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1542/oj/eng Regulation (EU) 2024/1781(エコデザイン規則ESPR、EUR-Lex)https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1781/oj/eng 建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk4_000302.html PACT Methodology Version 3(WBCSD)https://www.wbcsd.org/resources/pact-methodology-version-3/ Why scope 3 emissions accounting matters and why industry-led Carbon Measures distracts from it(NewClimate Institute)https://newclimate.org/news/why-scope-3-emissions-accounting-matters-and-why-carbon-measures-distracts-from-it   (執筆者:木塚) 本稿に関連するテーマとして、製品別原単位(CFP)の算定、Scope3カテゴリ1の一次データ化、サプライヤーからのデータ収集、CBAM対応などがあります。関連するサービスは以下のとおりです。 【ウェイストボックスの関連サービス ・LCA、CFP算定、カーボン・オフセット事業 ・Scope3算定・排出量把握 ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減 ・アドバイザリーサービス

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SBTネットゼロ基準v2発表。認定済大企業(カテゴリA)が押さえるべき移行の全体像と重要ポイント

はじめに 先日、SBTイニシアチブ(SBTi)より、新たな基準である「Corporate Net-Zero Standard version 2(以下、ネットゼロ基準v2)」に関連する各種ドキュメントが発表されました。大幅な改定が予告されていたこともあり、「自社の次の目標更新はどうなるのか」「ネットゼロ基準v2へどのように移行したらよいのか途方に暮れている」というお声を多く頂戴しております。 本コラムでは、SBT大企業版の認定取得支援を行っている弊社の視点から、この度発表されたネットゼロ基準v2の概要と、すでに認定目標を持つ企業様が直面する移行プロセスについて、公式発表ドキュメントの記載内容に基づいて、押さえるべきポイントを解説します。 なお、今回の基準改定は非常に多岐にわたります。本稿では、原文で定義されている事実に基づき、特に大企業(新設された「カテゴリA」)に対する要求事項を中心に整理しています。 1. ネットゼロ基準v2の全体像と「カテゴリA」の導入 今回のネットゼロ基準v1.3.1からネットゼロ基準v2へのアップデートは、非常に大規模な改定です。ネットゼロ基準v2のセクションのうち42%は完全に新規のものとして追加され、残りの58%も既存アプローチの修正や拡張となっています。 まず押さえておくべき最大の変更点のひとつが、企業分類の再整理です。ネットゼロ基準v2では、企業は排出量、財務指標、地理的条件に基づき、「カテゴリA」または「カテゴリB」に分類されます。以降の解説では、より多くの要求事項が適用される「カテゴリA」企業への要求事項に焦点を当てます。 また、ネットゼロ基準v2では、「SBTi 保証モデル(Assurance Model)」が導入されました。これは、SBTi認定検証機関による「Target Validation(目標の検証)」および「End-of-cycle Assessment(目標サイクル終了時評価)」を含む枠組みであり、企業のネットゼロに向けた取組における継続的改善の評価を支援するものとして位置付けられています。 これとは別に、ネットゼロ・ガバナンスおよび移行計画に関する新たな要求事項も設けられています。具体的には、企業の取締役会などの最高統治機関によるSBTi目標の設定・提出に関する内部承認、SBTi目標およびその実施監督に対する全体責任、目標の監督・実施に関するガバナンス構造の提出・報告、ならびに科学に基づく目標をどのように実施するかを示す移行計画の策定・維持が求められます。なお、カテゴリA企業については、目標検証完了後15カ月以内に、ネットゼロ基準v2のC2.1に定められた要素を含む移行計画を開示することも求められます。 さらに「Ongoing Emissions Responsibility(継続的な排出責任)」については、2035年までは任意の認定プログラムとして位置付けられています。一方で、2035年以降はカテゴリA企業に対し、継続排出量の少なくとも1%について、長期貯留の除去を含む形で責任を負う要件が示されています。 2. v2への移行タイムラインと目標更新の考え方 すでにSBT認定を取得している企業にとって、最も懸念されるのがスケジュールの問題です。今後のネットゼロ基準v2移行に関するマイルストーンは以下の通り設定されています。 2026年10月1日:ネットゼロ基準v2の検証リソースが公開 2027年2月1日:ネットゼロ基準v2に基づく検証の受付開始 2028年1月31日:現行のネットゼロ基準v1.3.1に基づく検証の受付終了 検証済目標を有する企業の移行タイミング 検証済目標を有する企業がSBTiシステム上でアクティブな状態を維持する場合、必要となる再検証提出日は、目標年への到達または必須の5年レビューのトリガー日により決まります。目標年に達する場合は、目標年の翌年末までに再検証提出が必要です。必須の5年レビューについては、トリガー日から6カ月以内にレビューを完了し、その結果として新たな目標が必要と判断された場合は、トリガー日から12カ月以内に新目標を提出することになります。 【移行期間中の取扱い】必須の5年レビューのトリガー日が2026年6月30日から2027年12月31日の間に到来する場合、目標提出期限はトリガー日から1年とされ、ネットゼロ基準v1.3.1またはネットゼロ基準v2のいずれも適格とされています。ただし、ネットゼロ基準v2は検証サービス開始後の2027年2月1日以降に提出する場合に選択可能であり、ネットゼロ基準v1.3.1は2028年2月1日より前に提出する場合に限り選択可能です。 直近の目標設定・更新に関する推奨事項  2028年1月31日までに目標設定または更新する企業 目標設定を遅らせないことが推奨されています。この期間においてネットゼロ基準v1.3.1を活用することも選択肢として認められます。この場合、設定した目標は当該目標サイクルを通じて有効とされ、次の目標サイクルに入った段階でネットゼロ基準v2に基づいた目標設定を行うことになります。 2030年以降の目標年を有する企業 現在の目標を維持することが推奨されています。その上で、次の目標サイクルである「2030年~2035年」に向けてネットゼロ基準v2への移行を計画の上、2028年から新たな目標を設定すべきとされています。 3. スコープ別の目標設定ルールと変更点 ネットゼロ基準v2では、基準年の定義が「入手可能な直近の包括的なデータに基づく『目標基準年』とする」と変更されました。Scope 1, 2, 3それぞれの目標設定アプローチにおける主要な要件は以下の通りです。 なお、Scope 1およびScope 2については、目標設定の基礎となる物理的GHGインベントリに基づき、各スコープの総排出量を対象として目標を設定します。Scope 1およびScope 2の短期目標はいずれも、それぞれの排出量の100%を対象とすることが求められます。また、Scope 1およびScope 2について、インベントリおよび目標境界から活動または排出量を除外していないことが目標検証時に確認されます。 Scope 1の目標設定  Scope 1の短期目標については、「排出削減目標」「排出原単位目標」「資産移行目標」の手法を用いて目標設定を行います。 Scope 2の目標設定 Scope 2の短期目標については、「低炭素電力(LCE)整合性目標」または「Scope 2絶対量削減目標」のいずれか、または双方を用いて設定します。なお、熱・蒸気・冷熱に係る排出がある企業については、当該排出に対して絶対量削減アプローチを用いることが求められます。 また、電力関連データについては、総電力消費量の報告が求められます。この総電力消費量には、自社が管理する発電源からの電力と、自社が管理しない発電源からの電力が含まれます。さらにカテゴリA企業については、Scope 2目標設定に関連して、合理的かつ透明性のある前提に基づき、目標期間にわたる電力消費量の予測を見積もり、提出することが求められます。なお、カテゴリA企業のうち、目標サイクルにおける予測平均年電力消費量増加率が20%を超える企業は、Scope 2絶対量削減目標を設定することが求められます。この場合、追加の低炭素電力整合性目標の設定は任意とされています。 Scope 3の目標設定 カテゴリA企業に対しては、バリューチェーン内に存在する排出集約活動(Emissions-intensive activities:EIAs)の特定と、利用可能な最良データに基づくScope 3物理的GHGインベントリ排出量の定量化が求められます。Scope 3(カテゴリ1~14)排出量の5%以上を占める排出集約活動は「重要な排出集約活動」とされ、当該排出集約活動の絶対排出量およびScope 3総排出量に占める割合を報告することになります。 カバー範囲としては、Scope 3(カテゴリ1~14)排出量の5%以上を占めるすべてのスコープ3カテゴリのカバーが義務付けられました。 ただし、ネットゼロ基準v2のC14.2に列挙された特定の活動については、短期目標から除外できる場合があります。対象には、カテゴリ1・2における中古品のCradle-to-gate排出、カテゴリ3、7、8、9、10、14に関する特定の排出が含まれます。除外する場合、企業は該当する除外条件、除外が自社の状況に当てはまる理由、除外排出量、ならびに当該排出の緩和に向けた行動を報告することが求められます。 Scope 3の短期目標については、対象となる排出や活動の性質に応じて、全体的なScope 3絶対量削減目標、全体的なサプライヤー/顧客整合性目標、またはカテゴリ別・カテゴリ内の活動別目標のいずれかを用いることになります。カテゴリ別・活動別目標では、排出量削減目標(絶対量または原単位)、ボリューム整合性目標、サプライヤー整合性目標、製品使用段階における整合性目標、製品のライフサイクル終了時整合性目標、顧客整合性目標などが示されており、これらは個別または組み合わせて適用することが可能です。なお、カテゴリ別・活動別目標については、Scope 3カテゴリごとに適用可能な目標種類が示されています。 ネットゼロ基準v1.3.1でScope 3の目標設定手法として示されていた「物理的原単位削減」および「経済的原単位削減」は、ネットゼロ基準v2のScope 3目標設定手法一覧には含まれていません。 目標サイクルの明確化 ネットゼロ基準v2では、前述の通り、目標の検証と目標サイクル終了時評価を含むサイクル型の検証・評価モデルが導入されました。短期目標の目標期間は5年とされ、ネットゼロ基準v2の枠組みでは、従来の5年ごとの必須レビューに代わり、目標サイクルの終了時評価と次サイクルの目標設定を通じて、ネットゼロ経路との継続的な整合を図る仕組みとなっています。 4. 新設された「目標の実施」基準とScope 2評価の分離 ネットゼロ基準v2における大きな変化として、新たに「目標の実施」についての基準が定められました。 ここでは、まず企業自身およびバリューチェーンにおける活動レベルのアクションを優先することが求められます。排出が活動プール内で生じる場合には、当該活動プール内でのアクションを取ることができます。また、構造的制約により活動レベルまたは活動プールレベルで十分なアクションが取れない場合には、セクターレベルのアクションを取ることができます。 Scope 2におけるアプローチの分離 ネットゼロ基準v2では、Scope 2について「排出削減目標の設定方法」と「企業がどのように行動して目標達成に向けて進捗させるか」という問題が分離されました。 物理的排出インベントリ:省エネやオンサイト低炭素発電のような削減に関する主張はこちらで実現されます。 マーケット手段での取り組み(目標の実施):低炭素電力購入契約(PPA)やその他のマーケット手段での取り組みは別途報告されます。これにより、企業自身の低炭素電力への投資がシステムの脱炭素化をいかに加速させるかを、透明性をもって伝えることが可能となっています。 マーケット基準でのScope 2については、この「目標の実施」セクションでの取り扱いとなります。電力への適用においては、使用可能なマーケット手段(例:フィジカル/バーチャルPPA、低炭素電力契約、エネルギー属性証書など)と、活動プールでの適格基準(例:デリバビリティ、稼働15年制限など)が定義されています。なお、時間単位マッチングはScope 2の目標進捗に対する必須要件とはされていません。一方で、カテゴリA企業については、活動プール内の年間電力消費量が10GWh以上となる重要な電力使用について、Scope 2電力消費量のうち低炭素電力と時間単位で一致した割合を算定・報告することが求められます。また、一定水準の時間単位マッチングを達成する企業向けに、任意の認定プログラムが設けられています。 ※「目標の実施」に関する追加ガイダンスは、2026年末にリリースされる予定です。 5. 検証プロセスで求められる厳格な証拠(エビデンス)要件  ネットゼロ基準v2では、カテゴリA企業に対して、目標基準年GHGインベントリおよび関連する目標設定指標について、独立した第三者保証が求められます。また、SBTiが公表した「最低限必要なエビデンス(暫定版)」では、ネットゼロ基準v2の目標検証プロセスで使用されるエビデンスについて、一般的なガイドとして最低限必要な内容が示されています。ここでは、その一例として、代表的な証拠文書・情報を紹介します。なお、以下は同文書に示された内容の一部であり、必要となるエビデンスを網羅するものではありません。 企業の取締役会相当機関の説明責任の裏付けとなる「日付入りの文書」 SBTiが列挙する要素を含む、「日付入りの移行計画文書」 目標基準年の低炭素電力割合の算定報告に関する「日付入りの文書」 日付入り署名済の第三者保証書:目標基準年のScope1, 2, 3排出量の100%、低炭素電力算定、重要な排出集約活動の排出量、その他の目標設定指標を対象とするもの。 目標基準年と目標年の設定例 証拠提出にあたり、基準年と目標年の設定ルールも明確化されています。 目標基準年について 提出日から2年前以降とされています。(例:2027年に提出する場合、目標基準年は2026年または2025年)。次の目標サイクルも同様に、都度新たな目標基準年を直近2年前から選択します。 目標年について 初回検証時は「直近の報告期間の開始日から5年以内」と規定されています。その後の目標検証は、目標サイクル間の継続性を確保するため「前回の目標年度の直後の年の開始日からちょうど5年後」と規定されました。 (例:2027年初回検証時に「2026年を目標基準年」とする場合は、目標年として2028~2031年を選択します。ここで2031年以外を選択する場合はその説明が必要です) おわりに 本コラムでは、SBTネットゼロ基準v2の全体像と、大企業(カテゴリA)が直面する主要な変更点について、公式発表ドキュメントの記載内容に基づいて解説いたしました。 第三者保証の義務化、Scope 3対象範囲の厳格化、Scope 2マーケット手段の分離報告など、ネットゼロ基準v2への移行は企業のサステナビリティ開示プロセスに大きな影響を与えます。 特に、既にSBT認定目標を有する企業にとっては、自社の目標年度や5年レビュートリガー日を踏まえ、いつ、どの基準で、どのような準備を進めるべきかを早期に整理することが重要です。ネットゼロ基準v2では、目標設定そのものに加え、ガバナンス体制、移行計画、第三者保証、エビデンス文書の整備など、従来以上に多面的な対応が求められるため、移行スケジュールと対応事項をあらかじめ可視化しておくことが有効です。 弊社には、SBTi認定エキスパートが2名在籍しており、SBTi認定エキスパートおよびSBTi実務に精通したコンサルタントが、貴社のネットゼロ基準v2移行に向けたスケジュールやTODOの整理について、30分の無料相談を承っております。 また、ネットゼロ基準v2移行に向けた目標更新方針の検討、Scope 1・2・3の算定・目標設定、移行計画や必要文書の整備、第三者保証対応を見据えた準備など、各種コンサルティングサービスもご用意しております。 ネットゼロ基準v2移行に向けた具体的なご相談や、各種文書整備のサポートが必要な際は、ぜひ弊社までお問い合わせください。 出典 SBTi Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Guide Transition Corporate Net-Zero Standard V2 Continuing-Use-of-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-1.3.1-and-Transition-to-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2 Preliminary-Minimum-Evidence-Required-for-Corporate-Net-Zero-Standard-Version-2.0 Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Main-Changes-Document Corporate-Net-Zero-Standard-V2-FAQs Understanding-Scope-2-in-the-Updated-Corporate-Net-Zero-Standard-V2.0 Corporate-Net-Zero-Standard-V2-Basis-for-Conclusions (執筆者:小島) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・SBT目標設定・気候移行計画策定|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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GX-ETS本格稼働!制度概要とSHK制度・GHGプロトコルとの算定・報告方法比較

この記事を読んでほしい人 ・GX-ETS対応準備を進めているご担当者 目次 ■はじめに ■GX-ETSの概要  ・GX-ETSとは?  ・対象事業者  ・対象事業者の義務と年間サイクル ■排出量実績算定・報告方法―SHK制度、GHGプロトコルとの比較  ・算定対象範囲  ・算定方法・モニタリング・検証  ・クレジット利用                                                     はじめに  GX-ETSの義務的な第2フェーズがいよいよスタートしました。対象企業は、これまで取り組んできた省エネ法定期報告と温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(以降「SHK制度」)や、GHGプロトコルに沿った算定・報告に加えて、GX-ETSに対応した排出量の算定・報告が求められます。そこで今回は、GX-ETSの制度概要をおさらいした上で、GX-ETSの算定・報告ルールのポイントについて、SHK制度やGHGプロトコルと比較しながら整理したいと思います。 GX-ETSの概要 GX-ETSとは?  GX-ETS(Green Transformation Emissions Trading System)とは、日本の排出量取引制度(Emission Trading System)です。排出量が一定規模以上の事業者に排出枠(排出してよい量)が割り当てられ、その範囲内での排出が求められます。対象事業者は毎年度の排出量を算定し、その実績と同量の排出枠を自社口座に保有する必要があります。排出実績が割り当てられた排出枠を上回る場合には、不足分を他社から調達したり、負担金を支払ったりする必要があります。逆に排出実績が排出枠を下回る場合は、排出枠の余剰分を他社に売却することもできます。 *202604_setsumeikai_1.pdf  排出量取引制度は、炭素に価格を付けて削減を促すカーボンプライシングの一種であり、国等の温室効果ガス削減の手段として世界各地で導入が進んでいます。 カーボンプライシングには主に「炭素税」と「排出量取引制度」の2種類があり、前者は炭素すなわちCO2等の温室効果ガス(GHG)排出に対して課税することで削減を促すものです。日本では既に化石燃料を対象とした課税である「地球温暖化対策税」が導入されていますが、その水準は1トンあたり289円と国際的に見て低い水準にとどまっていると指摘されています。一方、排出量取引制度は、企業等に対し排出量の上限を定め、企業等の間で過不足を売買する市場メカニズムを通じて削減を促す仕組みです。日本では東京都や埼玉県等一部の自治体で導入済みですが、国レベルでの制度化は長らく議論が続きつつも実現していませんでした。世界銀行のレポートによると、2025年時点で世界には43の炭素税と37の排出量取引制度が導入されており、これらによって世界の排出量の約28%がカバーされ、対象地域のGDPは世界全体の約3分の2に相当するとされています。 GX-ETSは、このような背景を踏まえ、日本として初めて全国的に導入される本格的な排出量取引制度となっています。  GX-ETSは「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」に基づいています。 2020年の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、まずグリーン成長戦略が策定され、その中で成長に資するカーボンプライシングの検討として炭素税や排出量取引制度等の検討が盛り込まれました。その後、カーボンニュートラルと経済成長を同時実現する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」が掲げられ、2023年にGX基本方針およびGX推進法が決定されました。  GX推進法では、GX推進戦略の策定と実行、GX経済移行債の発行、成長志向型カーボンプライシングの導入、GX推進機構の設立、進捗評価と必要な見直し等、GXを推進するための枠組みが定められています。成長志向型カーボンプライシングの一環として、政府は2026年度からの排出量取引制度の本格導入や、2028年度からの化石燃料賦課金の導入に向けた検討を進めてきました。また、GX推進法の下、自主的参加によるGXリーグが設立され、その中でGX-ETSの試験運用が進められてきました。これがGX-ETSの第1フェーズと呼ばれています。その後、2025年のGX推進法改正により排出量取引制度が法定化され、排出量が一定規模以上の事業者に対して、2026年度からGX-ETSへの参加が義務付けられることとなりました。 これが、全国的な排出量取引制度として位置づけられるGX-ETS第2フェーズです。 20251219_1.pdf 対象事業者  GX-ETS第2フェーズの対象となるのは、「CO₂の直接排出が10万tCO2以上」の事業者です。対象のGHGについて、算定報告公表制度やGHGプロトコルでは7種類のGHG全てが対象ですが、GX-ETSでは「CO2のみ」が対象です。直接排出とは、自社の工場や車両等での燃料使用による「エネルギー起源CO2排出量」や、セメント製造等の工業プロセスから化学的に排出されるCO₂(非エネルギー起源排出量。GX-ETSでは「原材料起源排出量」と呼ぶ)を指します。10万tCO2以上で対象となるかどうかの判定は毎年度行います。毎年度9月30日までに前年度までの直近3年度の平均(これを「年度平均排出量」と呼ぶ)を算定し、対象となる場合は、排出枠割当のための届出を行います。事業者とは国内の法人が主な対象で、企業単位で考えます(子会社や関連会社等は原則として別事業者)。  直接排出量が年間で10万トンCO₂以上の企業としては、電力、鉄鋼・化学・セメント等を中心とした製造業、運輸等のエネルギー多消費産業を中心とした国内の大手企業が幅広く含まれることが想定されます。日本全体で300~400社程度がGX-ETSの対象となり、これら対象者の排出量が日本全体の温室効果ガス排出量の約60%近くを占めると見込まれています。 対象事業者の義務と年間サイクル  対象事業者は毎年度、①排出枠の割当の基となる届出、②排出実績の算定・報告、③排出枠の保有、及び④移行計画の作成・提出という4つの義務を負います。 ①排出枠の割当ての基となる届出では、制度対象であるかの判定に用いた年度平均排出量と、排出目標量等合計量を提出します。 排出目標量等合計量とは、主に工場や輸送手段ごとに算出した個別の排出目標量を合計した値です。 GX-ETSでは、排出枠割当てのベースとなる排出目標量の算定方法として、ベンチマーク方式とグランドファザリング方式の2種類が用意されており、どの方式が適用されるかは業種や活動ごとにあらかじめ定められています。一般に、エネルギー多消費産業ではベンチマーク方式が中心となります。一定規模以上の工場や輸送手段は、それぞれ指定された方式で個別排出目標量を算定し、それらを合計したものが排出目標量等合計です。これらの内容は登録確認機関による確認を受けたうえで、対象年度の9月30日までに届出を行い、その届出量を基に政府が排出枠を割り当てます。(排出目標量等合計量には排出目標量以外に勘案事項も考慮される場合があります。) ②排出実績の算定・報告では、対象年度(4月〜翌年3月)の排出実績量を算定し、翌年の9月30日までに報告します。この実績値についても登録確認機関の確認が必要です。報告内容を基に11月30日までに当該年度の排出枠の保有義務量が確定します。なお、「排出実績量=実排出量-クレジット無効化量」で計算します。すなわち実排出量が割り当てられた排出枠を超える場合、クレジットで調整し報告することができるようになっています。 ③排出枠の保有では、保有義務量と同量の排出枠を1月31日までに自社口座に保有しておく必要があります。排出枠に不足がある場合にはそれまでに排出枠取引市場等で追加の排出枠を調達する必要があります。1月31日以降、保有義務量分の排出枠が口座から償却されます(口座から消滅する)。保有義務量に対して口座の排出枠が不足している場合には、未償却相当負担金(排出枠の不足分×排出枠上限価格×1.1に相当する金額)の納付が課されます。 ④移行計画については、排出枠の届出と同じく対象年度の9月30日までに提出することが求められます。移行計画には、2030年度までの排出量目標、毎年度の排出実績、目標達成のための投資計画等を記載します。提出後、一部の内容は公表されます。 これらの手続きは全て排出量取引管理システム(ERMS)において行われる予定です。 以上が基本的な年間サイクルですが、制度開始初年度である2026年度については、排出枠の割当時期が1年後ろ倒しになる特例スケジュールが設けられています。2026年度分については、2026年9月30日までに年度平均排出量を算定し制度対象である旨の届出と移行計画の提出を行いますが、排出目標量等合計量の届出は1年後の2027年9月30日までに行います。2026年度排出量実績の算定・報告は基本サイクルと同様、翌年の2027年9月30日までに行います。すなわち、2027年9月に届出と実績報告を同時に行い、11月30日までに排出枠割当と保有義務量の通知が同時に行われることになります。また、2027年度の届出も基本サイクル通り2027年9月30日までに行いますので、2027年度分の届出も同じタイミングで行うことになります。 以上を踏まえ、企業が2026年度中にやらなければならないことは以下と整理できます。 年度平均排出量(2023、2024、2025年度の3年平均)を算定し対象事業者となるかどうかを判定する。 (対象事業者に該当する場合) 届出を行う。(~2026年9月30日) 移行計画を提出する。(~2026年9月30日) 2026年度実績の算定準備、登録機関の選定・契約を進める。 ※年度平均排出量は登録機関の確認は不要だが、2027年9月30日までに行う排出量目標等合計量及び2026年度実績には登録機関の確認が必要なため。   排出量実績算定・報告方法-SHK制度、GHGプロトコルとの比較  前述の通り、いよいよGX-ETSの算定ルール(排出量実績算定・報告)に沿った算定が必要となります。多くの企業がこれまでにSHK制度やGHGプロトコルに沿って算定・報告を行ってきましたが、それらと大部分は重なるものの、異なる点も多々あります。そこで以降ではGX-ETSの算定・報告ルールのポイントを、SHK制度及びGHGプロトコルと比較しながら、整理してみたいと思います。  算定対象範囲  排出量算定の対象とすべき範囲について、まずGHGの対象は、GHGプロトコル・SHK制度が「CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3」の7つの指定ガスを対象とするのに対し、GX-ETSは「CO2のみ」を対象としています。組織の範囲は、GHGプロトコルが財務会計と同様に「連結グループ全体」を基本とするのに対し、SHK制度・GX-ETSは「法人単位」を基本とします。算定対象とする活動の範囲である活動境界は、GHGプロトコルが最も広く、「直接排出、間接排出(購入電力・熱の使用、その他の間接排出):Scope1,2,3」、次に広いのがSHK制度で「直接排出、間接排出(購入電力・熱の使用)(概ねScope1,2と対応)」なのに対して、GX-ETSは「工場等における直接排出のみ(Scope1の一部)」と限定的になっています。地理的範囲は、GHGプロトコルが国内外問わず組織の全てを対象とするのに対し、SHK制度・GXは各制度の適用対象となる国内の事業所に限られます。時間的範囲はいずれも一年間ですが、GHGプロトコルは「任意の12か月間」、SHK制度・GXは決められた「4月~翌年3月」の期間を対象とします。 他に細かな範囲の違いの例として3点ピックアップします。一つ目は(輸送事業者以外の一般事業者における)車両です。GHGプロトコルでは自社が所有・管理する車両の排出は全て対象です。一方、SHK制度・GX-ETSでは工場等の敷地内で使われる車両(フォークリフト等)が対象で、敷地の外で使われる車両(営業車等)は通常は対象外とされています。次にテナントとして入居している場合について、GHGプロトコルでは連結対象グループの範囲設定に用いた組織境界設定基準(出資比率基準、財務/経営支配力基準)に基づき、「支配関係に応じてScope1,2もしくはScope3(カテゴリ8等)のいずれか」に分類します。SHK制度では「テナント専用部のエネルギー使用を全て対象」とします。一方、GX-ETSでは「自社が管理権原(設備の設置・更新権限があり、使用量を特定できる)を有する設備のみ」対象とする限定的な範囲になっています。最後に、電力や熱を創出し他社に提供している場合について、GHGプロトコルでは他社に提供する電力・熱の生成に係る排出も自社の排出(Scope1)としてカウントします。一方、SHK制度では自家発電等により燃料を使用して発生させた電気や熱を他人に供給した場合は、エネルギー起源CO2排出量合計から、供給量見合い分のCO2排出量を控除します。GX-ETSはGHGプロトコルと同様で、自社の直接排出としてカウントし、SHK制度のような控除は行いません。  最後に、少量排出源の取り扱い方も差異があるため要注意です。GHGプロトコルでは、原則として関連する全ての活動からの排出が算定対象です。一方、SHK制度ではガス種類ごとに閾値を超える場合は算定・報告が必要ですが、閾値に満たない場合は不要です。つまり、ガス種類によっては、排出はあるものの閾値に満たないため算定せず、SHK制度上の事業者合計の排出量に含まれていない場合があります。また、排出量がごく少量の拠点は前年度等と同値での報告が可能(つまり毎年の更新が不要)となっています。GX-ETSは、SHK制度のようなガス種類ごとの裾切値等はなく、算定対象である直接排出に関連する活動の排出量は全て算定し合算する必要があります。また、SHK制度のような、前年度等と同値の使用により算定更新を省略できるというようなルールも規定されていません。 算定方法・モニタリング・検証   算定の基本は、いずれも「活動量×排出係数×(GWP:地球温暖化係数)」という式による算定で共通しています。排出係数について、GHGプロトコルでは、国や地域、業界団体等が公表する排出係数等、合理的と認められる係数を企業が選択して用いることとされています。一方、SHK制度、GX-ETSでは、一定の条件のもとで測定等に基づく設定も可能ですが、制度ごとに利用可能なデフォルト値が整備されています。GX-ETSの排出係数は、大部分がSHK制度と同値となっているように見受けられますが、GX-ETS固有の要件に応じて一部の係数や扱いが調整される可能性も考えられますので、SHK制度の係数だけでなく、GX-ETSの算定報告マニュアルや施行規定で最新の内容を確認できると良いでしょう。  モニタリング(活動量の計測)については、GHGプロトコルは、高品質なデータに基づく算定を原則とし、データ品質や不確実性の評価を行い、その結果を開示することを推奨しています。また、SHK制度もデータ品質向上を求めており、体制整備やデータチェック等を通じて精度の確保を促していますが、いずれも計量器の精度のような具体的要件までは定めていません。一方、GX-ETSでは望ましいモニタリングの目安精度が定められており、排出量報告と併せて計量器の情報(現状の器差等)も報告が必要です。また、割当区分ごとの排出量報告に合わせて、複数の事業活動を行っている場合は割当区分ごとに活動量のモニタリングを行う必要があります。  第三者審査機関による排出量数値の検証については、GHGプロトコルは推奨しているものの任意ですが、CDP等、保証を得た信頼性の高い数値の開示を求める動きが強まっており、特にScope1,2については検証を受ける企業は増えています。一般的には限定的保証水準(検証手続きやサンプリング数等を絞ったうえで、「重大な誤りがあるとは認められない」といった消極的意見表明を行う水準)で実施されることが多いです。SHK制度も制度として検証を要件とはしていません。一方、GX-ETSでは登録確認機関による確認が必須です。この確認は、ISO14064-3、ISSA5000に基づく保証業務に該当し、限定的保証水準相当と整理されています。 クレジット利用  カーボン・クレジットの利用については、GHGプロトコルでは排出量インベントリ(実排出量)とは切り離してクレジット無効化分を報告し、実排出量からクレジット無効化分を控除することは認めていません。SHK制度でも、基礎排出量(実排出量)とは別に、調整後排出量の報告においてクレジット無効化分を反映します。調整後排出量は基礎排出量からクレジット分等を控除した値として報告されます。利用可能なクレジット種類には、Jクレジット、国内クレジット、J-VER、グリーンエネルギー二酸化炭素削減相当量認証制度、JCMがあります。制度上、利用するクレジット量に上限は定められていません。報告年度及び翌年の6月までに無効化されたクレジットについて報告することが可能です。GX-ETSでは、排出量実績の算定時にクレジットの利用が可能となっており、実排出量に対する排出枠が不足している場合にクレジットで補填ができる仕組みになっています。GX-ETS上の排出量実績は実排出量からクレジット量を控除した数値として扱われます。利用可能なクレジット種類は、Jクレジット、JCMに限定されています、また、クレジットの利用量には、各年度の排出量(GX-ETSの算定対象排出量)の10%までという上限が定められています。割当年度もしくはその翌年度に無効化したクレジット量が利用可能です。 *1 他人又は自らの旅客又は貨物の輸送を、業として、エネルギーを使用して行っている場合 *2 輸送は一部裾切値あり *3 SHK裾切値:エネ起源CO2:原油換算1500kl/年以上、非エネCO2・CH4・N2O・HFCs・PFCs・SF6・NF3:ガス種類ごとに3,000tCO2e以上であり、事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上)  まとめると、GX-ETSはGHGプロトコルやSHK制度と比べると算定対象範囲は限定的ですが、漏れなく精度の高い算定とクレジットの報告を義務として初めて行っていくことになります。GHGプロトコルに沿った報告やSHK制度の報告とも並行して行っていくこととなり企業にとっては新たな負荷とはなりますが、先述の通り重なる部分も多いため、効率的な算定計画を立てて取り組んでいけるとよいでしょう。GX-ETSは日本のGX戦略の目玉施策の一つであり、実効性のある排出削減を後押しする仕組みとして、うまく軌道に乗っていくことを期待したいです。   出典 経済産業省「排出量取引制度 手続の全体像(セットアップマニュアル)」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets_setup.pdf 経済産業省「排出量取引制度 届出・排出目標量等算定マニュアル」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets_todokede.wariate.pdf 経済産業省「排出量取引制度 排出量算定・報告マニュアル」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets_santeihoukoku.pdf 温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver6.1) (令和8年3月) 環境省_マニュアル・様式 |「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」ウェブサイト GHGプロトコル「事業者排出工算定報告基準」 https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2022-12/corporaterevised-edition-japanese.pdf GHGプロトコル「企業のバリューチェーン(スコープ3)算定と報告の標準」 Scope3_Guideline.pdf (執筆者:山本) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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EcoVadisの概要と支援サービス

この記事を読んでほしい人 ・EcoVadisの対応を求められており、全体像を把握したい方 ・自社の取り組みがEcovadisの評価にうまく反映されていないと感じている方 ・サステナビリティ対応が求められているが、何から取り組むべきか悩んでいる方   目次 ■はじめに ■EcoVadisとは ■各テーマの概要 ■取り組む上での注意点・課題 ■まとめ ■ウェイストボックスの支援アプローチ ■ご相談について                                                                                                        はじめに 近年、企業に求められるサステナビリティ対応は急速に高度化しています。 気候変動への対応に加え、人権・倫理・サプライチェーン管理など、対象領域は広がり続けており、それに伴い企業を評価する枠組みも多様化しています。 特に近年は、EcoVadisをはじめとしたサプライチェーン評価が急速に広がり、単なる開示対応ではなく「実際に運用されているか」が問われる場面が増えています。その結果、これまでの取り組みがそのままでは評価につながらない、というケースも出てきています。 本稿では、EcoVadisとは何かという基本的な説明を行い、他のESG評価との違いを体系的に整理したうえで、スコアを伸ばす上での課題と対応策を解説します。 EcoVadisへの対応が単なる顧客対応に留まらず、「戦略的な取り組み」に繋がるヒントとして、少しでも参考になれば幸いです。   EcoVadisとは EcoVadisは、企業のサステナビリティ(ESG)への取り組みを評価する第三者評価プラットフォームです。現在では世界185カ国以上・250以上の業種・15万社以上に利用されています。 他のESG評価と大きく異なる点は、利用目的です。EcoVadisは、投資家向けでも開示評価でもなく、「取引先として信頼できるか」という「サプライチェーンマネジメント」のインフラの役割を担っています。 特に欧州企業を中心に、取引先に対してEcoVadisスコアの提出を求める動きが一般化しており、日本企業にとっても徐々に「対応していないと取引に影響する」段階に入っています。 なぜ広がっているのか 背景にあるのは、「サステナブル調達」の進展です。 企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体の人権・環境・倫理リスクを管理する責任を負うようになっています。 特に欧州では、2024年に成立したEU企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)により、サプライチェーン全体のESGリスク管理が法的義務として求められるようになっています。 しかし、すべての取引先を個別に監査することは現実的ではありません。そこで多くのサプライチェーンを抱える企業は、EcoVadisを使って取引先の評価・管理・育成をまとめて行っています。 また、EcoVadisはEラーニングコンテンツや改善提案レポートなど、評価だけでなくサプライヤー支援の機能も充実しています。他のサステナビリティ評価と比べても手厚く、日本企業にとってもまず回答してみるというハードルが比較的低い点が特徴です。 評価項目と特徴 EcoVadisは以下の4つテーマで構成されています。そして評価の特徴は「方針、指示、措置、認証、範囲(一定規模以上の企業のみ)、報告」の各評価項目について、「文章(根拠資料)」の提出が求められます。 例えば社員に対して持続可能な調達に関する研修を行っていることを報告したい場合、研修資料や研修を受けた社員の割合を示す資料を添付する必要があります。 そのため、うわべだけの回答ではなく、実際に仕組みとして管理されているかまで問われます。また、 他のサステナビリティ評価と比較すると、「評価項目がサステナビリティ全般」「目標や方針だけでなく、実現する体制や運用が評価される」「投資家向けではなく取引先向け」である点が特徴です。 業種・規模による違い EcoVadisでは、すべての企業に同じ設問が送られるわけではありません。企業が登録時に申告業種・所在国・企業規模をもとに対象となるサステナビリティ問題が特定されます。また、各テーマの評価ウエイトが変わります。 業種ごとにリスクの性質が異なることを考慮してこのような仕組みになっています。例えば、化学メーカーや繊維業であれば環境テーマ(有害物質・廃水・GHG)の比重が高く、人材サービスやIT業では労働・人権テーマや倫理テーマが重視されます。一例を以下に示します。このように業種ごとに与える影響が大きいと思われる項目について評価の対象になります。 また、企業規模によって変わります。中小企業(目安:従業員1,000名未満)では一部の評価軸(「範囲」など)の設問が省略・簡略化される場合があります。 出典:Ecovadisレーティング評価手法:概要と原則より 手厚いサポート体制 Ecovadisと他のESG評価を比較した時に個人的に感じた大きな特徴として、学習・改善支援コンテンツの充実度です。他のサステナビリティ評価と比較しても、この点はEcoVadisが際立っています。 ①EcoVadis Academy(Eラーニング) EcoVadisは「EcoVadis Academy」と呼ばれるEラーニングプラットフォームを提供しています。主なコンテンツは以下の通りです。 評価の仕組みと4テーマの基礎知識 各テーマの評価項目ごとの詳細解説 回答の書き方・証跡の準備方法 スコアアップのための実践的なガイド これらのコンテンツは、評価担当者だけでなく、法務・人事・調達・環境など各部門の担当者が自分の領域に関係するテーマを学ぶための入口として活用できます。「何を準備すればいいかわからない」という状態から脱するための最初のステップとして非常に有効です。 また、これまでの経験から、EcoVadisへの対応を効果的に進めるうえでEラーニングを活用するタイミングは大きく2つあります。 初回回答前 まず担当者がEcoVadis Academyの基礎コンテンツを一通り視聴することで、「何が問われているか」の全体像を把握できます。これをせずにいきなり回答に入ると、求められていることの解釈がずれたまま進んでしまうリスクがあります。 回答後・スコア受領後 改善アクションプランと合わせてEラーニングを活用することで、「なぜその項目でスコアが低かったか」「次回に向けて何を準備すればいいか」を体系的に理解できます。このサイクルを回すことが、継続的なスコアアップの鍵になります。 ②改善アクションプラン(Corrective Action Plan) スコアカードとあわせて提供される「改善アクションプラン」では、自社の評価結果をもとに「何が不足していたか」「次回に向けて何をすべきか」が具体的に示されます。単に点数を知るだけでなく、改善の道筋が示される点が、他の評価と大きく異なります。 また取り組むべき優先度についても高、中、低と三段階に分かれて設定されており、自社の課題を明確に把握することができます。 また、是正措置計画という項目を使用することで、サプライチェーン上の企業に向けて来年度に向けた改善の取り組みを周知することもできます。 ③ベンチマーク機能 テーマごとに同業種・同規模の企業との比較データが提供されるため、「業界平均と比べて自社がどの位置にいるか」を把握できます。スコアの絶対値だけでなく、相対的な位置づけを理解することで、他社と比較して遅れている点を把握することができます。   各テーマの概要 環境 環境テーマでは、自社の事業活動が環境に与える影響を管理・低減するための仕組みと実績が評価されます。製造業・化学・食品・物流など、多くの業種で最も重みが大きいテーマであると考えます。 主な評価項目の例を以下に示します。大手企業の場合、概ね対応していることが多いですが、まだまだ削減目標や計画等が策定できてない企業も多いと思います。また、環境方針等についても定期的な見直しが求められているため、改めて社内の状況を整理する必要があります。 GHG排出量の把握・目標設定・削減実績 エネルギー消費量の管理・再生可能エネルギーの活用 廃棄物の分別・削減管理 有害化学物質の管理 生物多様性への配慮 労働と人権 労働・人権テーマは、日本企業にとって「当たり前すぎて明文化していない」ことが最も多いカテゴリです。法律で禁じられているから当然と思っている取り組みでも、文書化・仕組み化されていなければ評価されません。また、研修の記録等も証拠として提出する必要があります。 労働条件(労働時間・最低賃金・残業管理の遵守等) 強制労働・児童労働の禁止方針と確認の仕組み キャリアマネジメントと教育 多様性、平等、包括性の確保 倫理 倫理テーマでは、企業の経営・取引における誠実性・透明性が評価されます。IT・金融・コンサルティングなどのサービス業では、このテーマの比重が高くなると考えられます。 腐敗行為や贈賄防止に関する方針・社員への周知 情報セキュリティへの対応 内部通報制度の設置等 持続可能な調達 持続可能な調達テーマでは、社会・環境への有害な影響を軽減するサプライヤーと連携を図り、有益な影響を引き起こしていくことが求められています。特に持続可能な調達においては、企業が抱える課題がそれぞれ異なるため、マテリアリティ評価を実施することが求められています。 サプライヤー行動規範の策定、配布、同意取得 リスクの高いサプライヤーへの監査・調査の実施 調達担当者向けのサステナビリティ研修の実施 取り組む上での注意点・課題 よくある課題 EcoVadisの支援を行う上で課題としてよくあるのが、「日本企業として当然取り組んでいるが故に、明文化されていないことが多い」という点です。例えば、児童労働の防止について、「法律で規制されているから当然のこと」として、特に防止について社内方針として記載されていなかったり、チェック項目がなかったりします。そのため資料を添付できず、スコアを落とすケースが出てきます。 コンプライアンス研修や安全衛生管理についても、「やってはいるが記録が残っていない」「担当者の頭の中にはあるが文書化されていない」というケースが多く見られます。 また、初回回答には相応の工数がかかります。法務・人事・調達・環境など複数部門を横断した情報収集が必要になるため、担当者一人で対応しようとすると行き詰まることも。誰が何を担当するか、社内体制を先に整えておくことが大切です。 さらに、EcoVadisは単年評価ではなく、評価と改善のサイクルを回していく設計になっています。スコアが伸び悩む企業の多くは、初回回答後の継続的な改善が追いついていないというパターンが見られます。 EcoVadisで失敗しやすい落とし穴:「範囲」の壁 EcoVadisの評価軸は「方針・指示・措置・認証・報告」の5つが基本ですが、一定規模以上の企業(目安として従業員1,000名超)には、これに加えて「範囲」という評価軸が課されます。 この「範囲」とは、簡単に言うと「その取り組みが、どこまでの組織・拠点・従業員に適用されているか」を問うものです。たとえばISO 14001の認証を取得していても、「本社のみ」「国内拠点のみ」であれば、グループ全体の従業員数に占める対象範囲が低いと評価されます。同様に、ハラスメント防止研修を実施していても、「グループ会社の受講率が把握できていない」状態では範囲の評価が下がります。 一見、大企業のほうが取り組みが充実していそうに思えます。しかし実態としては、「取り組みの質」よりも「取り組みの展開範囲」の証明が難しいという構造的な問題があります。 ①グループ会社への展開状況の集計が困難 たとえば「サステナビリティ研修を実施しています」と回答する場合、EcoVadisは「どの法人の・何名が・全体の何%にあたるか」まで問います。国内外に数十〜数百社の子会社・関連会社を持つ大企業では、各社の受講状況を一元的に集計する仕組みがそもそも存在しないケースが多くあります。 ②認証取得の「穴」が目立つ ISO 14001やISO 45001などの認証を「グループとして取得している」と回答しようとすると、全グループ企業・拠点のうち何%が認証を取得しているかを示す必要があります。主要拠点は取得済みでも、小規模な海外子会社や物流関連会社が未取得であることが多く、グループ全体でみると取得率が中途半端な数字になることがよくあります。 ③措置の展開状況の証明が難しい 「範囲」の評価軸では、各措置が「グループ全体のどの範囲で実際に実施されているか」が問われます。たとえばリスクアセスメントや安全衛生研修を実施していると回答する場合、「本社のみ」ではなく、グループ各社・各拠点での実施状況を示す記録(実施記録、受講率、対象人数など)が証跡として求められます。「グループ共通の取り組みとして定めているから展開されているはず」という説明では評価されず、「実際に各社・各拠点で実施されているか」が問われます。 ④海外拠点の管理が特にネック 人権デューデリジェンスや労働安全衛生の取り組みについては、新興国拠点での状況がより厳しく問われます。日本本社では当たり前に実施している取り組みが、東南アジアや南アジアの製造拠点では形式的にしか導入されていないケースがあり、「展開はしているが記録がない・確認できない」という状況が失点につながります。 実際の支援の中でよく見られる失点パターンを整理すると、以下のようなものがあります。 コンプライアンス研修の受講率 本社・国内グループは管理できているが、海外子会社の受講記録が各社バラバラに管理されており、グループ合算の受講率を算出できない。結果として「研修はやっています」という回答に対して証跡を出せず、評価されない。 ISO認証のカバレッジ 本社と主要製造拠点はISO 14001を取得済みだが、物流子会社・販売会社・海外現地法人が未取得。「グループとして認証を取得しています」と回答したくても、カバレッジが低いため評価が限定的になる。 サプライヤー行動規範の配布状況 本社の購買部門は全サプライヤーへ配布しているが、子会社・関連会社の調達担当者が独自に取引しているサプライヤーへの配布が追いついていない。グループ全体のサプライヤー数のうち何%に配布済みかを問われると答えられない。 内部通報窓口のアクセシビリティ グループ共通のホットラインを設置しているが、海外子会社の従業員が自国語で利用できる環境が整っていない。「グループ全社員がアクセスできます」という回答が難しい。   ただし、範囲の考え方について、EcoVadisの評価では、カバレッジが100%でなくても、「現在の展開率と、今後の拡大計画」を明示できれば一定の評価を得られます。「グループ全体への展開が課題であることを認識しており、2026年度中に海外主要拠点への適用を完了させる計画がある」といった記載と、その裏付けとなる社内計画書や取締役会での承認記録を示すことで、評価につなげることができます。 また、そもそもグループ全体のカバレッジを把握・管理するための仕組み(グループ横断の報告フォーマット、定期的なモニタリング体制など)を構築することが、中長期的なスコア向上の基盤になります。EcoVadisが最終的に評価したいのは「今どこまでできているか」だけでなく、「継続的に改善できる管理体制があるか」です。 大手企業こそ「範囲」対策を先に設計する スモールスタートで対応するベンチャーや中小企業と異なり、グループ全体を抱える大手企業にとっては、この「範囲」の問題がスコアの天井になることが少なくありません。取り組みの中身(方針・措置・認証)を充実させた後に範囲の壁にぶつかるのではなく、最初からグループ横断の管理体制設計を組み込んだ形でEcoVadis対応を設計することが、結果的に効率的なスコアアップにつながります。 まとめ EcoVadisへの対応は、「顧客に言われたからやる」だけでは、なかなかスコアが上がりません。 自社の取り組みの現状をきちんと把握し、「すでにやっていることを見える化する」ところから始める。それが最も効率的な進め方です。 企業の多くは「やっているのに評価されていない」状態にあります。明文化・証跡整備という一手間が、スコアに大きく効いてきます。 EcoVadisへの取り組みを、自社のサステナビリティ経営を高度化する機会として捉えていただけると、対応のモチベーションも変わってくるはずです。 適切に取り組めば、「対応コスト」ではなく「経営価値向上」に転換することが可能です。 ウェイストボックスの支援アプローチ 当社はこれまで、気候変動領域を中心に、 ・GHG算定 ・SBT ・CDP などをご支援してきました。その中で培ったのは、「評価されることだけが目的にならない本質的な取組の推進」です。 EcoVadis支援においても、 ① 現状の可視化 ② 評価項目との紐付け ③ 実務として回る設計 ④ 継続改善の仕組み化 を一体で支援します。EcoVadisのスコアは、取り組みの質が高まるほど自然に上がります。そのため、評価対応と経営実務を切り離さず、両者をつなぐ設計を重視しています。 既にCDPやSBTへの対応を進めている企業であれば、それらの取り組みとEcoVadisの評価項目を効果的に連携させることで、効率的なスコアアップが可能です。 ご相談について ・EcoVadis対応をこれから始めたい ・スコアが伸び悩んでいる ・社内の進め方に課題がある といった場合には、ぜひ一度ご相談ください。 貴社の状況に合わせた具体的な進め方をご提案いたします。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 (執筆者:野村) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援事業|株式会社ウェイストボックス ・CDP質問書、TCFD・TNFD、SSBJ対応 開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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環境表示ガイドライン改定(2026年3月予定)グリーンウォッシュ回避に求められる実務対応

この記事を読んでほしい人 ・環境への取り組みを、単なるアピールにとどめず、企業ブランドへの信頼につなげたいと考えている方 ・意図せずグリーンウォッシュと受け取られてしまうことによるレピュテーションリスクに不安を感じている方   目次 ■環境表示のメリットとリスク  ・メリット:環境表示は消費者の行動に一定の影響を与える  ・リスク:グリーンウォッシュと指摘される可能性 ■グリーンウォッシュとは、無意識な「誇大表現」に注意  ・グリーンウォッシュの定義  ・リスクを孕む「危ういキーワード」 ■グリーンウォッシュの指摘事例から学ぶ ■EUの厳格な法規制「グリーン移行のための消費者支援指令(2024/825)」とは ■日本における環境表示ガイドライン改定の背景と方向性  ・改定の背景  ・改定の方向性 ■グリーンウォッシュの回避対策事例から学ぶ ■まとめ                                                                                                         はじめに 環境表示は、企業が取り組んできたサステナビリティの成果を、社会にきちんと伝えるための大切な手段です。いまやパッケージやECサイト、SNS、店頭POPなど、あらゆる場面で「環境に配慮しています」というメッセージを目にするようになりました。 しかしその伝え方ひとつで、企業への信頼が深まることもあれば、逆に疑念を持たれてしまうこともあります。良かれと思って発信した内容が、意図せずグリーンウォッシュと受け取られてしまうケースも少なくありません。 弊社にもこういった表現はグリーンウォッシュと指摘を受ける可能性がないか、 どういった表現であれば指摘を回避できるかといった相談をうけることもございます。 本稿では、なぜいまグリーンウォッシュがこれほど問題視されているのか、国内外の規制動向も踏まえながら整理します。そのうえで、実務の現場でどのような点に気をつけるべきかを具体的に解説していきます。   環境表示のメリットとリスク 自社の商品やサービス、あるいは企業活動について環境表示(自社の製品・サービス、あるいは企業活動が環境に配慮している旨を対外的に訴求する行為)は、いまや特別な取り組みではありません。むしろ、多くの企業にとって当たり前のコミュニケーションになりつつあります。しかし、消費者の解釈と企業側の意図に乖離が生じると、良かれと思った訴求が「誇大表示」や「不透明な主張」と見なされるリスクを孕みます。本章では、環境省の「環境表示に関する消費者の実態」を基に、その正負両面の影響を整理します。 環境表示は消費者の行動に一定の影響を与える  環境省の資料によると、消費者庁の調査において「環境に配慮されたマークのある食品・商品を選ぶ」との回答が23.9%に達しています。 この数値は、環境表示が特定の顧客層における「購買決定要因」として機能していることを表しています。全消費者が環境価値のみで選択するわけではありませんが、機能や価格以外の「付加価値」を補強するエビデンスとして、環境表示を戦略的に組み込む意義は大きいと言えるのではないでしょうか。 出典:環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf リスク:グリーンウォッシュと指摘される可能性 一方で、同資料では「広告やHP、SNS等の情報に接した際、約4割の消費者がグリーンウォッシュの疑念を抱いた経験がある」と報告されています。 環境への関心が高まる一方で、「本当にそうなのか」という目も確実に厳しくなっています。一度でも「実態が伴っていないのではないか」と思われてしまえば、その影響は小さくありません。対象商品の売上だけでなく、企業全体の信頼やESG評価にまで波及する可能性があります。 環境表示は、うまく機能すれば価値を生みますが同時に、グリーンウォッシュというリスクとも隣り合わせです。この両面を理解したうえで設計することが、これからの実務には求められています。 出典:環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf 次章では、こうしたグリーンウォッシュのリスクを構造的に理解し、それを回避するための表示のあり方や是非気を付けていただきたいポイントについて述べます。 グリーンウォッシュとは、無意識な「誇大表現」に注意 そもそも、グリーンウォッシュとは何を指すのでしょうか。なぜ今、それが企業の存続を左右するほどの重大なリスクと見なされているのか。そして、具体的にどのような表現が「リスクの火種」となりやすいのかを整理します。 グリーンウォッシュの定義 「グリーンウォッシュ」とは、環境配慮の実態が伴っていない、あるいは根拠が不十分であるにもかかわらず、消費者に「環境に配慮している」という過度な期待や誤認を与える行為を指します。語源は「Green(環境)」と「Whitewashing(ごまかし)」を組み合わせた造語であり、現代ではESG投資やサステナブル経営の根幹を揺るがす重大な不誠実行為として定義されています。 グリーンウォッシュがここまで問題視されるのは、単に「表現が大げさだから」という理由ではありません。 不正確な環境表示は、消費者の適切な選択を妨げるだけでなく、真剣に取り組む企業が正当に評価されないという不公平を生み出します。さらに、誤認を招く主張が広がれば、市場そのものへの信頼が揺らぎます。その結果、本当に環境性能の高い製品や技術に資金や支持が集まりにくくなり、社会全体の脱炭素の取り組みを遅らせるおそれがあります。つまり、グリーンウォッシュの問題は一企業のリスクにとどまらず、市場の健全性や脱炭素の進展そのものに影響する構造的な課題ともいえます。 リスクを孕む「危ういキーワード」 実務において、特に注意を払うべき表現、キーワードについて紹介します。 ・包括的・抽象的なキーワード(曖昧な定義) について 「環境にやさしい」「グリーン」「エコ」といった言葉は、具体的な対象範囲や根拠が不明瞭です。こうした曖昧な表現は、「何が、どの工程で、どれだけ寄与しているのか」を説明できない場合、即座に不当表示のリスクを負うことになります。下記は各ガイドラインであいまいな表現として例示されている用語です。貴社のPRとして使われているキーワードは含まれていないでしょうか。その際にはどのような意図で使用しているのか説明ができるか改めて確認いただくことを推奨します。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf ・解釈や使用条件が定義されているキーワードについて よく見かけるキーワードについても使用に当たりまずその前提である使用条件を確認しておくことを推奨します。以下各ガイドラインで解釈や使用条件が定義されているキーワードがございます。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf 例えば、ISO14021では「節水」や「再使用可能」「詰替え可能」といった用語についても、具体的な使用条件が定められています。 「節水」と表示する場合は、製品使用時の水消費量を他製品と比較した削減量に基づかなければならず、製造工程での水削減は含めてはならないとされています。また、比較主張である以上、明確な基準と測定方法が求められます。 同様に「再使用可能」や「詰替え可能」といった表示も、単に物理的に可能というだけでは足りません。回収の仕組みや、購入者が実際に再使用・詰替えできる環境が整っていることが条件とされており、利用可能性が限定的である場合には、その旨を明確に伝える必要があります。 グリーンウォッシュの指摘事例から学ぶ グリーンウォッシュと指摘された国内外の事例を3つほどご紹介します。 【事例1】生分解性能を巡る優良誤認(エアガン用BB弾/日本) 製品パッケージに「地球環境にやさしい植物由来素材」「地表落下後に微生物によって水と二酸化炭素に分解される」と記載し、屋外利用の適性を強調して販売。 指摘された問題点: 過度な期待の醸成: 自然界において短期間で完全に分解されるかのような印象を与え、環境負荷を著しく低く見積もらせる表現であった。 合理的な根拠の欠如: 表示の裏付けとなる試験データや資料が提出されず、客観的な妥当性が認められなかった。 【事例2】抽象的なスローガンと事業実態の乖離(航空事業/英国) 航空機の機体とともに宇宙から見た地球の画像を配置し、「世界をつなぐ。その未来を守る」というメッセージを展開。 指摘された問題点: ビジュアルによる誤認: 地球の画像と「未来を守る」という強い文言の組み合わせにより、事業活動全体が環境にポジティブな影響を与えているという過度な認識を消費者に与えた。 技術的実現性の欠如: 排出量の多い航空業界において、当該スローガンを裏付ける商業的に実用可能な技術(SAFの十分な供給体制など)が現状では不十分であると判断された。 【事例3】リサイクル素材の含有率と部位の曖昧さ(スニーカー/フランス) 「プラスチック廃棄物をなくす」というロゴとともに、「50%リサイクル」と大きく掲出。注釈として「アッパー部分の50%に再生材料を使用」と記載。 指摘された問題点: 部位の混同: 一般消費者にとって「アッパー(甲被)」という用語は馴染みが薄く、製品全体が50%リサイクルされていると誤認させるリスクがあった。 絶対的表現の不備: 「プラスチック廃棄物をなくす」という包括的な主張に対し、実際の再生材使用状況が一部に留まっている点が、消費者の貢献実感を不当に高めると見なされた。 引用:環境表示について不適切と指摘された事例(環境省)000345669.pdf 上記の指摘事例に共通する要因を3つのポイントにまとめました。 ********************************************************* 断定的表現と前提条件の不一致: 言葉の強さに対し、適用される条件や限定句が不足している。 対象範囲(スコープ)の誤認: 「製品全体」なのか「一部のパーツ」なのか、範囲が曖昧である。 エビデンスの即時提示不可: 主張を裏付ける客観的・科学的な根拠が整備されていない。 ********************************************************* これらの事例が示すのは、「たとえ事実であっても、伝え方が不誠実であればグリーンウォッシュと見なされる」という厳しい現実です。 特に事例3のように、専門用語(アッパー等)を用いた注釈で免責を図る手法は、現在の規制当局や消費者からは「不誠実な隠蔽」と捉えられる可能性があります。次章では、こうしたリスクを未然に防ぐため、現在急速に進んでいる「規制の強化」と「ガイドラインの改定」について解説します。 EUの厳格な法規制「グリーン移行のための消費者支援指令(2024/825)」とは EUでは、グリーンウォッシュを単なる景品表示の問題ではなく、「循環型経済への移行を阻む不公正な商慣行」と位置付け、法的な規制枠組みを急速に整備しています。その中核となるのが、2024年3月に発効した指令(EU)2024/825です。 本指令は、EU加盟国に対して2026年3月27日までの国内法化を義務付けており、2026年9月27日から全面的に適用される予定です。本規制の特筆すべき点は、「環境に良い」といった主張そのものを一律に禁止するのではなく、「根拠を欠く、または消費者に誤認を与える典型的な表示パターン」を明確に類型化し、法的に禁止した点にあります。 主なポイントを紹介します。 1) 抽象的な環境主張(Generic Environmental Claims)の禁止 「エコ」「グリーン」「環境に優しい」「サステナブル」といった、具体的根拠を伴わない一般的かつ曖昧な表現が原則禁止されます。 実務上の要件: こうした表現を用いる場合、公的に認められた優れた環境性能(LEEDやBREEAMなどの第三者認証の取得、あるいは科学的に立証された定量データ)を同時に提示できなければ、不当表示と見なされます。 2) 「部分」の成果を「全体」へと飛躍させる表現の制限 製品の特定の構成要素や、事業活動の一部のみが環境に配慮されているにもかかわらず、あたかも「製品全体」や「企業全体」が環境優位性を持つかのような印象を与える表示が禁止されます。 実務上の要件: 訴求対象が「パッケージのみ」なのか「原材料の一部」なのか、その適用範囲(スコープ)を明確に区分して表示することが義務付けられます。 3) 排出オフセットに基づく「カーボンニュートラル」主張の制限 温室効果ガス(GHG)の排出オフセット(カーボンクレジットの購入等)のみを根拠に、製品が「カーボンニュートラル」「ネットゼロ」「環境負荷ゼロ」であると謳うことは、消費者を誤導する慣行として原則禁止されます。 実務上の要件: 排出削減の「努力」と、やむを得ず行った「オフセット」を明確に切り分け、削減実態を伴わない安易なニュートラル宣言を排除する狙いがあります。 4) 将来の環境性能に関する主張への厳格な要件 「〇年までにCO2を〇割削減」「ネットゼロ達成」といった将来目標を対外的に公表する場合、以下の3点が求められます。 ・具体的かつ現実的な実施計画(Implementation Plan) ・測定可能かつ期限付きの中間目標 ・独立した第三者機関による定期的な検証 これらの裏付けがない将来目標は、規制対象になり得ます。 EUで活動する企業はもちろん、日本国内のみで事業を行う企業であっても、この規制は国内ガイドラインの改定に大きな影響を与えます。次章では、こうした国際的な潮流を受け、日本国内の環境表示ガイドラインがどのように変化しようとしているのか、その最新動向を整理します。 日本における環境表示ガイドライン改定の背景と方向性 欧州の厳格な規制強化に呼応するように、日本国内でも「環境表示ガイドライン」の改定が2026年3月下旬公表に向け大詰めを迎えています。(2026年2月時点)本章では、なぜ今アップデートが必要なのか、そして実務者が注視すべき「5つの基本原則」について解説します。 改定の背景 今回の改定の主眼は、環境主張の「拠り所」をより明確にし、実効性を高める点にあります。 現行のガイドライン(2013年改訂)は、国際規格であるISO 14021(自己宣言型環境表示)をベースとした枠組みを採用しており、誤認防止や検証可能性といった基本原則はすでに示されています。しかし近年、環境訴求が企業価値やブランド評価に直結するようになったことに加え、EUをはじめとする海外規制の強化や、デジタル媒体での情報発信の拡大など、表示を取り巻く環境は大きく変化しています。 その結果、従来の枠組みだけでは実務上の解釈に幅が生じやすく、グリーンウォッシュと指摘されるリスクを十分に抑制できないのではないかという議論が高まってきました。今回の改定は、ISO 14021の基本思想(誤認防止・検証可能性・比較の妥当性)を維持しつつ、より具体的で運用可能な指針へと補強することを目的としています。 改定の方向性 2026年2月公表の改定案では、環境表示を設計する際の指針として以下の5項目を提示しています。 1.あいまいな表現や環境主張は行わないこと 「地球にやさしい」といった抽象語を避け、再生材の配合率や削減量など、客観的かつ具体的な事実から訴求を組み立てることが求められます。 2.環境主張の内容に説明文をつけること 短いキャッチコピーが招く誤解を、最小限の補足情報で補完します。「どの部材に」「どのような条件で」といった情報を主張の近くに配置し、情報の非対称性を解消します。 3.製品のライフサイクル全体を考慮する 「特定の工程では良いが、別の工程で著しい環境負荷を与えている」といった、負の側面を隠蔽した訴求を制限します。製品のライフサイクル全体を見渡した「誠実な開示」が前提となります。 4.環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能で、情報にアクセスが可能であること 「言ったなら、説明できる」状態が必須です。物理的なスペースに制約があるパッケージでは、QRコード等を用いて詳細な算定根拠や第三者認証の情報へ誘導する「導線設計」までが表示の一部と見なされます。 5.製品または工程における比較主張はLCA評価、数値などにより適切になされていること 比較主張の妥当性確保 「従来比〇%削減」といった比較訴求を行う際は、LCAに基づいた等価な条件下での算出が不可欠です。数字の強さではなく、その「前提条件の整合性」が信頼の源泉となります。 引用:環境表示ガイドラインの改定要旨(案)について(環境省)000377631.pdf 今回示されている5つの基本項目は、日本国内だけを見据えたものではなく、各国の規制やガイドラインの動向も踏まえた内容になっています。 製品やサービスの販売先が海外に広がっている企業にとっては、国内ルールだけを意識すればよい時代ではありません。各国で強化が進む環境表示規制を踏まえたうえで、表示のあり方を検討することが前提になります。その意味でも、まずは改定予定の国内ガイドラインに沿って環境表示を整備することが、実務上の出発点になると考えられます。 以下表は日本の環境表示ガイドラインの各原則に対する各国ガイドラインの同等の原則を同列に整理したものとなります。 検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf000345668.pdf   グリーンウォッシュの回避対策事例から学ぶ リスクを回避し、環境価値を信頼に変えている企業の取り組みについてもご質問いただくことがありました。企業はどのような対策をしているのでしょうか。事例を紹介します。 事例1:リサイクル素材の特性に関する能動的コミュニケーション リサイクルPET素材特有の「色味の変化」に対し、消費者の品質不安を予測した先回りの対応。 取り組み: ・ 店頭POP等で「再生材利用による色味の変化」を明記し、品質への影響がないことを周知。 ・表示の正確性を担保するため、全社共通の「環境訴求ガイドライン」を策定し、個人の感覚に頼らない審査体制を構築 事例2:独自マークの運用と算定基準の可視化 独自の環境配慮マークを導入するにあたり、その信頼性を客観的に担保。 取り組み: ・ ISO 14021に準拠した独自の運用基準を設定 ・表示の際は「対象範囲(容器か中身か)」や「環境貢献の内容(何を、どうしたか)」を定型化して併記することを徹底 上記の事例に共通しているのは、単に「正しい表示を行う」という点にとどまらず、その表示を支える社内体制まで整備していることです。 具体的には、 ① 根拠となるデータや基準を明確に整備すること(エビデンスの構築) ② 消費者が誤解なく理解できるよう情報の出し方を設計すること(説明導線の設計) ③ 担当者の判断に依存しない運用体制を築くこと(ガバナンスの強化) の3点が挙げられます。 環境表示においては、「どのような主張を行うか」という内容面だけでなく、 その判断基準を社内で共有し、継続的にチェックできる体制を構築することも極めて重要です。属人的な判断に頼らず、組織として一貫性を保てる仕組みを整えることが、結果としてグリーンウォッシュのリスク低減につながります。 まとめ 環境表示は、うまく活用すれば消費者の購買を後押しする大きな力になります。しかし一方で、使い方を誤ればブランドへの信頼を損なう可能性もあります。本コラムで紹介してきた事例や法規制の動向から見えてくるのは、環境表示がもはや単なるイメージづくりではなく、企業としての説明責任そのものだという点です。 最後に、実務で特に意識しておきたいポイントをあらためて整理します。 主張の根拠となるデータや資料をきちんと整え、求められたときにすぐ提示できるようにしておくこと。 誤解が生じる可能性を前提に、パッケージ・店頭・Webなど複数の接点を通じて、必要な情報にたどり着ける設計を行うこと。 担当者任せにせず、全社で共有された表示基準と確認体制を整え、継続的に運用していくこと。 これらを少しずつでも実践していけば、環境表示は「批判を避けるための対策」ではなく、「取引先や消費者の判断を支える信頼できる情報」へと変わっていきます。その積み重ねが、結果として企業価値の向上や、持続可能な社会の実現につながっていくのではないでしょうか。今後予定されているガイドラインの改定にも目を向けつつ、環境表示に取り組んでいくことをおすすめします。本稿が少しでも皆さまの実務の参考になれば幸いです。 参考資料: ・環境表示を巡る最新の動向について(環境省)000345668.pdf ・環境表示ガイドラインの改訂要旨(案)について(環境省)000377631.pdf ・検討会(第1回)におけるご指摘事項と それを踏まえた改定案の方向性(環境省)000364900.pdf ・欧州連合(EU)の公式法律データベース(EUR-Lex)Directive - EU - 2024/825 - EN - EUR-Lex (執筆者:小澤) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・サプライヤーエンゲージメント・排出削減|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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