2026.07.17
はじめてのSSBJ気候変動開示に今から必要な準備とは
2026.07.17
第三者保証・開示から逆算した5つのステップと、つまずきがちな「あるある」への対応策 SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が2025年3月に公表したサステナビリティ開示基準が、2026年4月1日以後に開始する事業年度から、企業の平均時価総額[1]順に段階適用されていくことになります。具体的には、時価総額3兆円以上は2027年3月期、1兆円以上は2028年3月期の適用が義務化されています[2]。そして、時価総額5,000億円以上1兆円未満の企業は2029年3月期から、有価証券報告書での開示が義務付けられる見込みです(いずれも3月期決算企業の場合)。弊社の支援する企業様からも対応に関するお話をお聞きする機会も増えてきましたし、時価総額で義務対象外の企業様であっても、競合他社や投資家要請等の状況を踏まえ、前倒しで準備を始めたいというお声も聞いています。さらに、開示初年度の翌期からは第三者保証も段階導入され、当初はScope1・2排出量、ガバナンス、リスク管理を対象とした「限定的保証」から始まるとされています。 本コラムでは、初めて取り組む企業を念頭に、開示タイミングから逆算した実施時期の目安と実施ステップを示し、そのうえで準備の現場で起きがちな「あるある」と対応策、そして私たちがご支援できることを整理します。 全体像―開示するタイミングから逆算する ここでは、仮に時価総額5000億円規模の企業の場合を例に考えます。開示初年度(2029年3月期)の有価証券報告書は期末後3か月以内、つまり2029年6月頃に提出します。そして、その翌期(2030年3月期)から限定的保証の義務化の対象となります。保証義務化は準備負荷も踏まえて開示義務化から1年遅れとはなっていますが、CDPをはじめScope算定数値への保証が市場から求められていることから、SSBJへの対応と並行して保証対応準備を始められている企業様も多くいます。 [1] 平均時価総額とは、有報等を提出しようとする日の属する事業年度の直前事業年度の末日からさかのぼって5か年の時価総額の平均値により判定する。例えば、2027年3月期の適用の有無の判断に用いる平均時価総額は、2022年3月期~2026年3月期の各末日の時価総額の平均値で算定する。 (出典:第9回 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ) [2] 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について:金融庁 以下の早見表は、開示タイミングから逆算した「実施時期の目安」と「実施ステップ」を並べたものです。自社の決算期に合わせて読み替えてご活用ください。 ■2029年3月期より適用開始(時価総額5000億円以上の企業)の場合の対応スケジュール(イメージ) 実施時期 の目安 実施ステップ 開示内容の準備 第三者保証対応 -2年度 (~2026年10月) Scope1,2算定システムの導入検討 -2年度 (〜2027年3月) ギャップ分析と全体計画 現行開示とSSBJ基準の差分を棚卸しし、不足するデータや原稿を特定。対応の優先度と役割分担を決定する。 ― -1年度 (2027年4月~2028年3月) データ収集体制の構築 次年度ガバナンス・リスク管理体制について整備・文書化する。Scope1,2をはじめとしたサステナビリティ開示数値の作成に迅速に着手できるように、効率的なデータ収集体制を構築する。 保証機関の選定、保証対応体制の構築 保証機関の選定は、財務監査との兼ね合いも考慮する。自社で保証対象データが出揃う時期に合わせた保証スケジュールを立てる。 保証用数値の準備、保証対応(プレ保証向け) 組織範囲や算定対象の決定、根拠資料に関して、保証機関によってGHGプロトコルの解釈や指摘の傾向が異なることもある。必要に応じてプレ保証を行う。 期中 (2028年10月~) 開示内容の精査 ギャップ分析に基づき、定性的な開示内容。決算後に反映する箇所を除く箇所について、開示方針を決定する。 保証用数値の準備、保証対応(本番保証向け) サステナビリティ開示数値を保証。指摘を踏まえてデータを修正し、最終化する あらかじめ必要な根拠資料や必須要件を握っておく。データ収集状況によっては、期中監査も検討する。 期末前後 (2029年3月期末~) 開示直前〜 (2029年4〜5月) 開示への落とし込み 有価証券報告書をはじめとする開示用フォーマットへ内容を統合し、財務開示との整合(コネクティビティ)を確保。 ※時期は3月期決算・2029年3月期を開示初年度とした場合の目安です。開示成熟度や体制により、各ステップの精緻度を段階的に高める進め方も現実的です。 ステップ別―準備でつまずく「あるある」と対応策 Scope1,2算定システムの導入検討 Scope1,2数値について、データ収集や保証時の改ざん防止の観点でシステムでの管理が効率的になる可能性があります。 あるある システムを使って算定を効率化したいが、そもそもシステムを導入するコストメリットはあるのか、システムに求める要件はなにか判断することが難しい 対応策 Scope1,2については、拠点数が多ければ多いほど、システムによりデータ収集が効率化できる余地が多くなります。なお、選定時に注意する点としては、保証を見据え、エネルギーデータや再エネ証書償却量などの管理方法を確認しましょう。CDPの設問に対応した換算が可能であることも魅力です。なお、Scope3については表計算ソフトでもコストや管理上のメリットは十分あるため、導入は慎重に検討するようにしましょう。 弊社で可能なご支援 Scope算定システム導入支援 ギャップ分析と全体計画 現行の開示内容とSSBJ基準を突き合わせ、両者の差分を棚卸します。その上で、不足しているデータや未着手の原稿を具体的に特定します。洗い出した課題については、対応の優先度を整理するとともに、社内での役割分担を明確に定めていきます。 あるある SSBJ要件が求める要件を具体的な開示に落とし込む際のイメージがつかず、用意すべき開示データの洗い出しに難渋している 連結全体のうち、Scope3算定の対象範囲から漏れている事業部や子会社がある どこまで詳細に開示を準備するべきかの判断と優先順位がついていない 要件のうち、社内対応が間に合わない項目がある 対応策 まず現行開示とSSBJ基準のギャップを棚卸しし、新たに対応が必要な項目とすでにあるデータから対応可能な項目を洗い出し、優先順位をつけていきます。要件のうち、社内方針などすぐの対応が難しい項目については、課題事項として整理しておきます。 私たちの支援 Scope算定拡大支援、TCFD/SSBJ要件ギャップ分析支援 データ収集体制の構築、保証機関の選定、保証対応体制の構築 次年度に向けて、ガバナンス体制およびリスク管理体制の整備と文書化を進めます。あわせて、Scope1,2,3をはじめとするサステナビリティ開示数値の作成に速やかに着手できるよう、関係部門と連携した効率的なデータ収集の仕組みを構築します。保証機関の選定にあたっては、財務監査との兼ね合いやスケジュールの整合性も考慮し、自社で保証対象となるデータが出揃う時期を見極めたうえで、無理のない保証スケジュールを立てましょう。 あるある 決算から有報開示までの短期間で、連結全体での排出量算定用のデータ収集から算定までを行う体制構築が難しい SSBJに基づく開示にあたり、非財務監査を財務監査と同じ機関にする社内方針となり、これまで排出量保証を依頼していた機関と方針が異なる可能性がある。 対応策 決算での数値確定後からの算定開始では時間的に間に合わない場合、たとえば期中でハードクローズを行い、監査自体を前半後半に分けるという方法があります。また、開示に収集が間に合わないデータについては見積もりで対応し、開示は速報値を用いて行い、データが出揃った後に確報値を公表するという手段もあります。いずれにしても、保証機関によって指摘事項や対応方針が異なるケースがあるため、社内のデータ収集・開示方針を早い段階で伝え、懸念事項を解消しておくことが重要です。 私たちの支援 第三者保証対応伴走支援、SSBJに向けたScope算定ロジック改善検討支援 開示内容の精査 ギャップ分析の結果を踏まえ、定性的な開示内容について検討します。決算後に反映する箇所を除いた部分を対象に、開示の方針を確定します。 あるある シナリオ分析は毎年実施が必要か、気候変動リスクに対する財務影響額の数値については開示が必要かなど、記述情報についてどこまでを記載すれば要件を満たすことになるのかが不明 対応策 シナリオ分析についてですが、更新頻度は「少なくとも企業の戦略計画サイクルに合わせて」とされています。一方、気候レジリエンス(自社の戦略・ビジネスモデルが気候変動下でも持続可能か)についての評価は、年次で更新が求められています。したがって、一度行ったシナリオ分析結果については数年スパンで参照可能と解釈できる一方、それに対する企業の対応については毎年最新の状況を開示する必要があると解釈できます。(気候基準第30-39項) 次に、財務影響額については、可能な限り定量的な情報を示すことが求められています。定量的開示が免除されるのは、①影響をリスクごとに区分して測定できない場合 や ②見積もりの不確実性が極めて高い場合です。その場合、「資産や事業活動の規模(大・中・小など)」など、影響の規模感を相対的に説明することでも基準を満たすとされています。そのような免除を適用した場合でも、代わりに定性的な説明を十分行い、定量開示が困難な理由を開示する必要があります。(気候基準第25-27項、BC185,186)このように、気候要件や関連ガイダンスとの参照を行うことで、開示内容の精査を行っていきます。 私たちの支援 シナリオ分析支援、SSBJ開示フォーマットに沿った開示案作成支援 保証用数値の準備、保証対応(プレ保証、保証本番) 保証に向けて、対象となる数値や根拠資料を準備します。組織範囲や算定対象の決定、根拠資料の整え方については、保証機関によってGHGプロトコルの解釈や指摘の傾向が異なる場合があるため、必要に応じてプレ保証を実施し、本番前に論点を洗い出しておきましょう。 あるある 保証機関による指摘で、財務支配力基準を採用している場合、リース資産を運用する際の燃料・電気をScope1,2にひとくくりにすることはできないと言われた。 Scope2に使用している電力排出係数について、環境省の算定・公表・報告制度の電気事業者別係数を使用していたが、送配電によるロス分による排出を除くよう指摘を受けた。 (Scope排出量に限らず)シナリオ分析結果、気候移行計画、クレジット調達方針といった開示に内容に対して、SSBJ要件との整合性に関する指摘を受けた 対応策 企業による算定は、業界慣習的に行われていることも多く、監査によってはじめてGHGプロトコルとの厳密な整合を認識することも少なくありません。一方で、GHGプロトコルが要求している以上の対応を求められるケースもあり、その場合は担当者にとって過剰な作業負担となってしまう可能性があります。 あるある1点目の、自社で借りているリース資産の算定カテゴリについては、財務支配力基準を採用するか、経営支配力基準を採用するかで対応が異なります。買い上げを前提としていない一時的なリース資産は、フィナンシャルリースではなくオペレーティングリースに分類されるケースが多いです。その場合、フィナンシャルリースのみを組織の責任範囲とする財務支配力基準下ではScope1,2の算定対象ではなく、Scope3カテゴリ8(上流リース)に分類されます。(出典:GHG Protocol Corporate Standard(改訂版)Appendix A. Accounting for Emissions from Leased Assets)したがって、既存の算定方法を正とする場合、採用基準を財務支配力基準から経営支配力基準へと変更することが、最短の対応策となることが多いです。 一方、あるある2点目の送配電ロスによる排出の計上については、解釈が分かれる余地があります。そもそも、送配電ロスというのは、電力が発電所から需要先に届くまでの送電線による抵抗によって、実際の発電量よりも何%か減損する実態を指します。したがって、発電所を出た時点(発電端)の排出係数よりも、需要先(受電端)の排出係数の方が、分母となる電力量が小さくなるため、ロス率分高くなります。GHGプロトコルでは、この送配電ロスによる排出分について、別途Scope3カテゴリ3の方で計上することとしています。(出典:Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions — Category 3 )一方、日本のScope2算定で使用されている環境省 電気事業者別排出係数は、受電端(=送配電ロスを含んだ)係数のため、送配電ロス分は最初からScope2の方に含まれる処理になります。この相違は、環境省も認識済みです。(環境省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン 参照)上記の指摘は、この差分を是正するために、環境省係数から送配電ロス分を切り出すべきというものです。 この対応の懸念点としては、GHGプロトコルに対応する名目で、公式な排出係数に企業独自の変更を加えることになっており、係数自体の妥当性が損なわれている可能性もあります。なにより、温対法等で一般的に使用されている係数と異なる係数で運用することにもなり、二重管理のデメリットも考えられます。このように、保証機関からの指摘は、GHGプロトコルの解釈によるものであるケースも多く、時には対応可否の判断を行うことも重要です。 また、Scope排出量に限らず、シナリオ分析や気候移行計画、クレジット調達方針などの開示内容の不備不足に対する指摘を受けるケースもあり、指摘に対応できるリソースをあらかじめ確保しておくことが重要です。 私たちの支援 第三者保証対応伴走支援、SSBJに向けたScope算定ロジック改善検討支援、シナリオ分析アップデート支援、気候移行計画作成支援、クレジット調達方針作成支援 開示への落とし込み 有価証券報告書をはじめとする各種開示フォーマットへ内容を統合します。財務開示との整合(コネクティビティ)を確保し、開示全体としての一貫性を担保することに注意します。 あるある SSBJ気候基準の開示内容について、有価証券報告書上でどのような表現で開示をすべきかのイメージがわきづらい。 対応策 有価証券報告書上の開示フォーマットについては、サステナビリティ基準委員会が公表している、「有価証券報告書の作成要領」がまずは参考になるでしょう。ほかにも、先行開示事例を参考にできます。財務情報とのつながりや整合性が明確になるような開示を作成することが重要です。弊社でも、SSBJ開示フォーマットに対して企業独自の開示内容を落とし込んでいくような支援を進めています。 私たちの支援 SSBJ開示フォーマットに沿った開示案作成支援 最後に SSBJ気候基準の開示・保証対応は、これまでのボランタリー的な開示に比べ、より一層高度で厳密な算定・開示が求められています。私たちは、現状の状況を踏まえ、保証に耐える開示へと無理なく到達する道筋づくりをご支援します。自社でお悩みのポイントがあればお気軽にご相談ください。 ※本コラムは2026年6月時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の会計・法務判断を保証するものではありません。適用時期・保証制度は金融審議会WG等での議論段階の内容を含みます。最終的な算定・開示は、所管の監査法人・保証機関とご確認ください。 (執筆者:馬場) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・組織の排出量把握・情報開示支援|株式会社ウェイストボックス ・CDP質問書、TCFD・TNFD、SSBJ対応、EcoVadis回答支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス
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