2018.12.11
世界で進む企業の気候変動対策「Science Based Targets(SBT)」の盛り上がり~
2018.12.11
前項の代表あいさつのとおり、国家レベルでは停滞しているようにも見える 世界の気候変動対策ですが、産業界では主要企業を中心に活発な動きが見受 けられます。今回はそのうち「Science Based Targets(SBT):科学的根拠 に基づく削減目標」の盛り上がりについて取り上げたいと思います。 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書で示され、パリ協定 で合意された「2℃目標」(今世紀末の世界の気温上昇を産業革命前から2℃ 未満とする)。この目標達成に必要な削減レベルとなっている排出削減目標 を「Science Based Targets(SBT):科学的根拠に基づく削減目標」と定義 し、世界の企業に対し策定を呼びかける運動が盛り上がっています。 (運営者はCDP、国連グローバルコンパクト、WRI、WWF) ちなみに、SBTはWE MEAN BUSINESSの推進するイニシアチブの一つという 位置づけになっています。WE MEAN BUSINESSは、低炭素社会への移行を 目的に、世界の有力企業や投資家、NGO、国際機関などが結束した連合体。 企業が取り組むべき10の気候変動対策イニシアチブを取りまとめ、賛同 企業を募っています。再生エネルギー電力100%での事業運営を推進する RE100もそのうちの一つです。 2014年に始まったSBTですが、現時点で既に289社の賛同を得ています。 (「SBT認定済」「策定宣言のみ」を含む。前述10のイニシアチブの中で 最多の賛同数。)2016年にはCDP質問書の中にSBTに関する項目が追加さ れ、国内でも浸透し始めているようです。現時点の国内賛同企業はソニー、 キリンなど36社。(うち「SBT認定済」は7社。)CDP気候変動レポート 2016:日本版によると、回答企業の半数が「今後SBT策定を検討している」 と回答しており(総量目標のSBT策定に対する回答)、賛同企業数は今後 ますます増えていきそうです。 SBTへの賛同を希望する企業は、まずコミットメントレターを提出し、SBT 策定に取り組むことを宣言します。その後2年以内に目標を策定、運営者の 審査を受け、基準を満たしているとSBTとして認定されます。バウンダリ― (対象範囲)はスコープ1、2排出量です。スコープ3排出量が全体の40% 以上を占める場合はスコープ3も対象となります。目標年には5~15年先を 設定します。 目標策定のアプローチには、セクター(業界)ベース、総量ベース、原単位 ベースの3つがあり、それぞれに具体的な方法論が数種類提示されています。 中でも興味深いのは「セクター別脱炭素化手法:Sectoral Decarbonization Approach(SDA)」で、提供されているツールを使い、ベース排出量や目標年 を入力すると、SBT基準を満たす目標値を算出することができます。目標値 は、業界毎のベストプラクティスやそのコスト面も考慮した実現可能な数値 になっているということです。 CO2排出量における企業の影響力は甚大で、例えば日本では全体の排出量の 約8割は企業・公共部門から出るものです。国家の動きを待たずとも、企業 が動けば気候変動対策は大きく動きます。2℃目標を達成するためのカーボン ・バジェット(今後世界で排出できるCO2累積排出量のリミット)を私たち は日々消費しています。SBTは一つ一つの企業がこのバジェットを意識しな がら事業を行っていくことを手助けしてくれます。多くの企業が策定に取り 組まれることを期待したいです。 参考資料: Science Based Targetsウェブサイト http://sciencebasedtargets.org/ WE MEAN BUSINESSウェブサイト https://www.wemeanbusinesscoalition.org/ (執筆者:山本) (2017年7月18日 メルマガ)
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