Column

業界動向

企業とSDGs(1)SDGs概要と国内動向

2015年といえば、パリ協定が採択され、気候変動分野において転換点となる 年になりましたが、同年、環境・CSR分野ではもう一つ大きな動きがありました。 「持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(SDGs)」の採択です。 (2015年9月の国連サミットにて採択) 以降、SDGsというキーワードを頻繁に目にするようになったと感じている方々 も多いのではないでしょうか?そこで、今回から数回に分けて、SDGsをテーマに 取り上げ、主に企業としてのSDGsとの付き合い方について掘り下げていきたいと 思います。1回目の今回はSDGsの概要と国内の動きをおさらいします。  持続可能な開発目標(SDGs)とは、持続可能な世界の実現のため解決すべき 課題と目標を集めた、開発分野の世界共通目標です。2030年をターゲットに、 それまでに達成すべき17の大きな目標(ゴール)とその下に属する169のより 細かな目標(ターゲット)を設定しています。  17のゴールは「貧困、飢餓、健康・福祉、教育、ジェンダー、水・衛生、 エネルギー、経済成長と雇用、インフラ・産業化・イノベーション、不平等、都市、 消費と生産、気候変動、海洋資源、陸上資源、平和、パートナーシップ」と非常に 多岐に渡る分野から構成されています。    SDGsの前の世界共通目標として、ミレニアム開発目標(MDGs)がありました。 こちらは2015年をターゲット年として、発展途上国特有の課題(極度の貧困、母子 保健、衛生問題等)を中心に8つのゴールを設定し、一定の成果を上げました。 SDGsはMDGsの未達成分を継承するとともに、新たに、先進国を含む全ての国に 普遍的な課題(健康や不平等など)と、社会分野を越えた経済・環境分野の課題を 追加した、より広く横断的な目標となっているのが特徴です。また、活動主体として、 国や政府機関のみならず、企業やNGO等の民間セクターの役割も重視しています。  2015年の採択以降、国内では、2016年に内閣に「SDGs推進本部」を設置、 同年、国内戦略をまとめた「SDGs実施指針」を決定しました。2017年には、 経団連がSDGsの達成を柱として企業行動憲章の改定を行うなど、官民を挙げて の取組が進められています。  (次号に続く) 参考文献: 外務省HP SDGs(持続可能な開発目標) 持続可能な開発のための2030アジェンダ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/doukou/page23_000779.html 首相官邸HP 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/ 日本経済団体連合会HP 企業行動憲章の改定にあたって http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2017.html                           (執筆者:山本) (2018年2月28日メルマガ)

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世界で進む企業の気候変動対策「Science Based Targets(SBT)」の盛り上がり~

前項の代表あいさつのとおり、国家レベルでは停滞しているようにも見える 世界の気候変動対策ですが、産業界では主要企業を中心に活発な動きが見受 けられます。今回はそのうち「Science Based Targets(SBT):科学的根拠 に基づく削減目標」の盛り上がりについて取り上げたいと思います。 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書で示され、パリ協定 で合意された「2℃目標」(今世紀末の世界の気温上昇を産業革命前から2℃ 未満とする)。この目標達成に必要な削減レベルとなっている排出削減目標 を「Science Based Targets(SBT):科学的根拠に基づく削減目標」と定義 し、世界の企業に対し策定を呼びかける運動が盛り上がっています。 (運営者はCDP、国連グローバルコンパクト、WRI、WWF) ちなみに、SBTはWE MEAN BUSINESSの推進するイニシアチブの一つという 位置づけになっています。WE MEAN BUSINESSは、低炭素社会への移行を 目的に、世界の有力企業や投資家、NGO、国際機関などが結束した連合体。 企業が取り組むべき10の気候変動対策イニシアチブを取りまとめ、賛同 企業を募っています。再生エネルギー電力100%での事業運営を推進する RE100もそのうちの一つです。 2014年に始まったSBTですが、現時点で既に289社の賛同を得ています。 (「SBT認定済」「策定宣言のみ」を含む。前述10のイニシアチブの中で 最多の賛同数。)2016年にはCDP質問書の中にSBTに関する項目が追加さ れ、国内でも浸透し始めているようです。現時点の国内賛同企業はソニー、 キリンなど36社。(うち「SBT認定済」は7社。)CDP気候変動レポート 2016:日本版によると、回答企業の半数が「今後SBT策定を検討している」 と回答しており(総量目標のSBT策定に対する回答)、賛同企業数は今後 ますます増えていきそうです。 SBTへの賛同を希望する企業は、まずコミットメントレターを提出し、SBT 策定に取り組むことを宣言します。その後2年以内に目標を策定、運営者の 審査を受け、基準を満たしているとSBTとして認定されます。バウンダリ― (対象範囲)はスコープ1、2排出量です。スコープ3排出量が全体の40% 以上を占める場合はスコープ3も対象となります。目標年には5~15年先を 設定します。 目標策定のアプローチには、セクター(業界)ベース、総量ベース、原単位 ベースの3つがあり、それぞれに具体的な方法論が数種類提示されています。 中でも興味深いのは「セクター別脱炭素化手法:Sectoral Decarbonization Approach(SDA)」で、提供されているツールを使い、ベース排出量や目標年 を入力すると、SBT基準を満たす目標値を算出することができます。目標値 は、業界毎のベストプラクティスやそのコスト面も考慮した実現可能な数値 になっているということです。 CO2排出量における企業の影響力は甚大で、例えば日本では全体の排出量の 約8割は企業・公共部門から出るものです。国家の動きを待たずとも、企業 が動けば気候変動対策は大きく動きます。2℃目標を達成するためのカーボン ・バジェット(今後世界で排出できるCO2累積排出量のリミット)を私たち は日々消費しています。SBTは一つ一つの企業がこのバジェットを意識しな がら事業を行っていくことを手助けしてくれます。多くの企業が策定に取り 組まれることを期待したいです。 参考資料: Science Based Targetsウェブサイト http://sciencebasedtargets.org/ WE MEAN BUSINESSウェブサイト https://www.wemeanbusinesscoalition.org/                           (執筆者:山本) (2017年7月18日 メルマガ)

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サプライチェーン排出量把握のススメ

 御社では、自社の「サプライチェーン排出量」を把握していますか?    サプライチェーン排出量とは、原料調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまで、企業の事業活動に関わる全ての温室効果ガスの排出を網羅した排出量のことです。 地球温暖化対策の推進に関する法律による算定・報告・公表制度では、温室効果ガスを多量に排出する事業者に対し、自社の温室効果ガス排出量を算定し報告することを義務付けています。ですので、「自社の排出量については把握している」という方は多いかもしれません。    「自社の排出量」とは主に、「自社での燃料使用による排出(直接排出)」と「他社から供給されたエネルギー(電力、蒸気、熱など)の使用に伴う排出(間接排出)」です。 例えば、工場のボイラで燃料を燃やす際に発生する排出量や、工場で使用する電気の排出量(その電気を作るために電力会社の発電所で燃料を燃やす際に発生する排出量)などが該当します。    サプライチェーン排出量は、これらに加えて、「自社の事業活動に関係する他社の排出量」も対象とします。例えば、調達先で原料が作られる際に発生する排出量や、原料が輸送会社によって自社まで輸送される際に発生する排出量、製品が消費者によって使われる際に発生する排出量など、自社・他社の境界を問わず、サプライチェーンの全ての工程から発生する排出量を対象とします。その他、生産とは直接関係のない、従業員の通勤や出張、投資やリースに伴う排出量なども含み、まさに企業活動に関わる全ての排出量を網羅したものといえます。    温室効果ガス算定・報告の国際的スタンダードであるGHGプロトコルでは、自社の直接排出を「Scope(スコープ)1」、自社の間接排出を「スコープ2」、それ以外の間接排出(事業者の活動に関係する他社の排出)を「スコープ3」と定義しており、国内でもこの呼び名が浸透しつつあります。サプライチェーン排出量は、このスコープ1、2、3の合計値ということになります。    GHGプロトコルでは、スコープ3を15のカテゴリに分類し、それぞれの算定方法を定めています。国内でも、環境省と経済産業省がGHGプロトコルに整合したスコープ3算定のガイドライン(「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」)を作成し、企業のスコープ3算定を促しています。    近年、スコープ3を含むサプライチェーン排出量を把握し公開する企業が増えています。背景としては、世界的な、企業に対する社会の要求の高まりが考えられます。世界で浸透している気候関連情報開示プログラム「CDP質問書」の他、日経環境経営度調査、環境省「環境にやさしい企業行動調査」、同省「エコ・ファースト制度」などの企業の環境対策を評価する制度でも、スコープ3に関する設問が定着してきました。また、CSR報告書などの情報開示規準の国際的スタンダードであるGRIスタンダードでも、スコープ3排出量の開示を求めています。    社会がサプライチェーン排出量に注目している理由には、その削減ポテンシャルが挙げられると考えられます。CDPサプライチェーン報告書2016|2017によると、メンバー企業の自社排出量とサプライヤー排出量の比率は全業界平均で1:4となるということです。自社の排出を大きく上回る排出量、しかもこれまであまり手をつけられてこなかった分野であるという点が注目を集めていると想像できます。    「環境対策を進めたいが自社の削減はやり尽くした」と感じている企業の方にとっても、サプライチェーン排出量の把握は新たな切り口となるのではないでしょうか。 また、資源やエネルギー利用の削減はコスト削減にもつながります。例えば、サプライヤーと協力して容器包装の軽量化に取り組むと、カテゴリ1の購入した製品や、4・9の輸送、12の廃棄に関する排出量の削減が期待できるだけでなく、調達費用や輸送費の削減にもつながる可能性があります。サプライヤーにとっては、低炭素製品としての売り込みチャンスも期待できます。    サプライチェーン排出量把握に少しでもご興味をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせください。   (2018年3月執筆)      

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