Column

コラム

SBTi FLAG目標について(後編)

  SBTi(Science Based Target initiative)は昨年「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」セクターガイダンスを発表しました。これを受け今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。このFLAG目標の概要を2回に分けて整理しています。今回はその後編として目標設定において必要な要件についてまとめます。   目標設定対象企業 前回のおさらいになりますが、FLAG目標の設定が必要な企業は以下の企業です。 森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売、タバコセクターの企業 その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業 ※例えば以下のような企業は該当する可能性があります。 小売業、容器・包装、ホテル・レストラン・レジャー・観光サービス、繊維製造・紡織・アパレル、繊維・アパレル・靴・高級品、耐久消費財、家庭用品・個人用品、タイヤ、建築製品、住宅建築、建設資材、建設・メンテナンス、インフラ開発、鉱業、道路建設、資源採取   FLAG関連排出量が20%未満である場合もFLAG目標設定が推奨されています。(任意)また、FLAG目標を設定しない場合にも、非FLAG排出量(従来のSBTが対象とするエネルギー・産業分野の排出量)とともにインベントリに含める必要があります。中小企業はFLAG目標設定の必要はありません。既存の中小企業ルートで目標設定を行います。   目標水準 目標水準としては1.5℃水準が求められます。目標設定方法には以下の2種類があります。 FLAGセクター経路: 総量削減目標(年率3.03%以上。炭素除去含む)。主に小売等の需要側向け  コモディティ原単位経路: 原単位削減目標。主に生産等の供給側向け。現在、牛肉、鶏肉、乳製品、皮革、トウモロコシ、パーム油、豚肉、米、大豆、小麦、木材・木質繊維の11種類を整備   食品生産や小売等の需要側企業はFLAGセクター経路を使用します。農産物生産等の供給側企業で、コモディティ原単位経路が整備されている製品を扱っており、その排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は、該当のコモディティ原単位経路かFLAGセクター経路のどちらかを選択することが可能です。コモディティ原単位経路が整備されていない製品を扱っている場合はセクター経路を使用します。森林・紙製品セクター企業、木材・木質繊維に関する排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は必ず木材・木質繊維のコモディティ原単位経路を使用する必要があります。 削減率の水準については、非FLAG同様、SBTiが各経路の目標試算ツール「SBTi FLAG Tool」を提供しているので、そちらでご確認ください。   目標範囲 大前提として、対象企業は自社の排出量をFLAGと非FLAGに分けて管理し、それぞれの排出削減目標を設定する必要があります。FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」、ファームゲートより先の排出量は非FLAG排出量として整理されます。FLAG目標はこのうちのFLAG排出量を対象範囲とします。 FLAG排出量はさらに排出量と炭素除去量に分けて管理することが求められています。FLAGの排出量には、土地利用変化に伴う排出量と土地管理に伴う排出量の2種類があります。土地利用変化に伴う排出量は、森林が農地に転換される等といった土地利用変化による、バイオマスや土壌等の炭素蓄積量の減少分を排出量として計算します。転換による排出は転換後20年間にわたり考慮します。土地ごとに計測によって把握する直接的土地利用変化(dLUC)手法と、特定の地域全体における土地利用変化の状況から推計する統計的土地利用変化(sLUC)手法の2つの方法があります。土地管理に伴う排出量は、農業等人為的に土地を管理することによって発生する排出量を対象として計算します。肥料使用によるN2Oの排出や水稲によるCH4の排出等、従来のGHG排出量算定の中でも一部は考慮されてきたものです。 炭素除去量はバイオマスや土壌などの炭素蓄積量の増加分を除去量として計算します。除去量は継続的に貯留されモニタリングされるもののみを加算する必要があります。 上記を含む炭素除去の要件を満たすとき、除去量はFLAG目標の達成に使用可能です。(FLAG排出量は排出量から炭素除去を除いたネット排出量で考慮されます。すなわち、炭素除去がFLAG排出量削減の手段となります。)しかし、FLAGの炭素除去は非FLAG目標の削減には使用できません。また、FLAGの炭素除去はサプライチェーン内での炭素除去のみが対象であり、サプライチェーン外の炭素除去(クレジットの購入等)の使用は認められていません。   非FLAG目標と同様に、FLAG目標でもScope1,2及びScope3排出量(Scope3排出量がScope1,2,3排出量全体の40%以上を占める場合)を対象範囲として目標を設定します。土地を直接所有・管理している企業はFLAG関連のScope1排出量が発生している可能性があります。土地関連の活動を行うサプライヤーから製品・サービスを購入している企業はFLAG関連のScope3排出量が発生している可能性があります。Scope1,2の 95%以上、Scope3の67%以上を目標範囲としてカバーする必要があります。   基準年・目標年 基準年・目標年の考え方も非FLAG目標と同様です。基準年としては2015年以降、目標年は申請時点から5~10年先までの間で設定する必要があります。FLAG目標と非FLAG目標はできるだけ同じ期間とすることが推奨されています。   森林破壊ゼロ FLAG目標設定企業は、排出削減目標の設定に加えて、森林減少0(森林破壊を行わないことを約束する)への宣言が求められています。宣言の所定文言は以下で、他の排出削減目標の文言と一緒にSBTiのウェブサイトに掲載されます。 “[Company X] commits to no deforestation across its primary deforestation linked commodities, with a target date of [no later than December 31 ("【企業X】は、【遅くとも2025年12月31日までの期日を設定】を目標に、主要な森林破壊に関連する商品について、森林破壊を行わないことを約束する。") 森林減少0の約束はScope1,2範囲だけではなく、Scope3も含まれ、またScope3の目標範囲の67%以上に限らず全ての範囲に適用されます。   最後に 以上がFLAG目標の主な要件です。目標設定のためにまず必要なのはFLAG排出量の算定ですが、現状難易度が高い状況です。GHGプロトコルの土地セクターガイダンスの最終化が行われている途中であり、排出量計算のための排出原単位も十分整備されている状況とは言えません。参考にできる算定事例もまだ少ない状況です。LCA排出原単位データベース等一部の既存の排出原単位には非FLAGとともにFLAG排出量が全てもしくは一部考慮されている場合もありますが、非FLAGとFLAGを分けることが困難であったりもします。このような中、各社試行錯誤の上算定を行っている状況です。よって、現時点で利用可能なものを活用し可能な範囲で算定を行い、今後新たな算定方法やデータベース等が出てきたり確立されてきたりした際には随時アップデートする等、段階的な対応を行っていくことがポイントと言えそうです。     参考資料 SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf   (執筆者:山本(裕))

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SBTi FLAG目標について(前編)

  SBTi FLAG目標とは? パリ協定が求める水準と整合した企業の排出削減目標に認定を与えるSBTi(Science Based Target initiative)では、一部セクターを対象に、セクター特有の目標設定のルール「セクター別ガイダンス」を開発しています。昨年その一つとして、「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」のセクターガイダンスが発表されました。それを受け、今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。これまで企業の排出量算定・目標設定においては、エネルギー起源や工業プロセスの排出量が中心に考慮されてきましたが、それとは別に土地由来の排出量等を考慮することが求められる大きな変更と言えます。そこで今回と次回の2回に分け、SBTi FLAG目標の概要について整理してみたいと思います。   FLAGとは? ガイダンス開発の背景 FLAGとはForest, Land and Agriculture(森林、土地、農業)という名前の通り、林業や農業等の土地集約型セクターのことを指しています。自然由来で環境負荷は小さいセクターのようにも思えますが、世界のGHG排出量の約1/4(22%)を占める重要な排出源です。このうちの半分は農業、残り半分は林業やその他の土地利用、土地利用変化からの排出です。農業では家畜の飼養や合成肥料の使用等からGHGが排出されます。世界人口増加に伴い、農業生産量は2050年までに倍増することが予想されており、排出削減対策の必要性はより高まっています。森林や土壌はCO2を吸収したり貯留したりする機能を持っています。森林伐採等、土地を従来と別の用途で使用するために開発すると、CO2の排出(貯留されていたCO2が大気中に戻ってしまう)となるリスクがあります。一方で、適切に管理し自然由来の炭素除去(CO2を大気中から取り除くこと)を増やしていくことは、ネットゼロ達成のチャンスになります。炭素除去は、排出削減を進めてもどうしても残ってしまう残存排出量を中立化し、世界全体のネットゼロ達成に貢献するとても重要な役割があるためです。 しかし、このセクターの算定や目標設定の考え方は特殊で難しく、これまで統一ルールが存在しなかったため、現状多くの企業の排出量計算や排出削減目標には考慮されていない状況です。この状況を打開するため、FLAGセクターの排出量算定・報告ルール「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」の開発がGHGプロトコルによって進められています。(現在ドラフト版は発表済。2024年半ばに最終版発表予定)一方、FLAGセクターの目標設定のルールとしてSBTiにより開発されたのが「SBTi FLAGセクターガイダンス」です。   FLAG排出量とは? FLAGに関連する排出量は以下の3つに分類されます。 ・土地利用変化に伴う排出量:転用に伴う土地からの排出量(森林や土壌の炭素の損失)  例:森林伐採・森林劣化、沿岸湿地・泥炭地・草原の転換等 ・土地管理に伴う排出量:農業等の土地の利用・管理に伴う排出量  例:家畜の飼養(消化管内発酵・糞尿管理)、肥料の使用、水田管理、廃棄物焼却等 ・炭素除去量:森林CO2吸収等、生物由来のCO2除去と貯留  例:森林再生、森林管理改善、土壌炭素貯留等 上の2つは大気中にGHGが追加されるプラスの排出量です。一方、下の炭素除去は逆に大気中からGHGを取り除く量(マイナスの排出量)です。これらについて算定し目標設定することになります。 FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」を対象範囲としています。ファームゲートより先の排出量は、従来把握してきた排出量(非FLAG排出量:エネルギー起源や工業プロセス由来等のFLAG以外の排出量)として整理されます。このように、FLAG排出量と非FLAG排出量は切り離し、算定も目標設定も別々に行うことになります。   FLAGセクターの対象企業は? 農産物や畜産物を生産していたり、それらの一次産品を使用した製品を作っていたり、またFLAGセクターからの調達品を使用していたり、その他の重大な土地利用・土地利用変化による排出量がある場合に該当する可能性があります。 具体的には、セクターガイダンスでは以下の企業を対象とし、FLAG目標の設定を求めています。 ・森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売、タバコセクターの企業 ・その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業   申請手続き 手続きの流れは従来と同じですが、申請書類が追加になります。目標申請時には、従来のNear-termの申請書(主に非FLAGに関する内容を記載)に加えて、FLAG Annexという申請書(FLAGに関する内容を記載)も提出します。審査費用も追加になりますのでご注意ください。   対応スケジュール SBT目標を初めて設定する企業、また既に認定取得済の目標を更新する企業でFLAGの対象となる企業は、既に(2023年4月30日以降)FLAGへの対応が求められています。(まだFLAGの算定ルールとなるGHGプロトコル土地セクターガイダンスの最終版が発表されていない状況ですが、ドラフト版に沿って排出量を算定し目標設定することが求められています。) 一方、認定取得済で直近の目標更新の予定がないFLAG対象企業は、「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」が発行された後6カ月以内に申請し、FLAG目標を設定する必要があります。「GHGプロトコル土地セクターガイダンス」の発行は現在2024年半ばに予定されています。   後編では目標設定方法についてまとめます。   参考資料 SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf SBTi 「GETTING STARTED GUIDE FOR THE SBTi FOREST, LAND AND AGRICULTURE GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/FLAG-Getting-started-guide.pdf SBTi FLAG Project: New Implementation Timelines Announced https://sciencebasedtargets.org/blog/sbti-flag-project-new-implementation-timelines-announced   (執筆者:山本(裕))

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GHGプロトコルの全面改訂とScope2の改訂方針のサマリ

 2022年11月から2023年の3月にかけて、GHGプロトコルに対するフィードバックの募集が実施されました。 GHGプロトコルに対してはこれまで課題も指摘されており、今回のフィードバックの結果を踏まえ、改訂方針が検討されるとのことです。 弊社もご支援の中で、解釈に迷う部分や実務上難しいような要件もあり、注視しているところになります。 ここでは、まず先んじて公表されたScope2 Guidanceについて改訂方針ウェビナーの内容をサマリーでご紹介いたします。詳細をお知りになりたい方は、出典からウェビナー動画をご覧ください。   <GHGプロトコルの歴史> GHGプロトコルとは、企業をはじめとした組織単位のGHG排出量算定・報告の国際的なスタンダードとなっている規格です。 最初に、2001年に企業単位の算定基準をまとめたCorporate Standardが公開され、2004年に改訂されました。 2011年には、現在のサプライヤーチェーンを含めたScope123排出量の算定基準となっているScope3 Standardが公開。 続いて、2015年にScope2の算定について詳細に解説したScope2 Guidanceが公開され、現在は、土地利用・炭素除去に係る算定の具体的手法について定めたLand Sector and Removals Guidanceのドラフト版が公開されています。 (和約については、環境省HP参照 排出量算定について - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省 (env.go.jp))   <改訂スケジュール> ・現在、(Q2-3 2023)1400のフィードバックと、230の提案を受けている。 ・NGO、アカデミア、ビジネス、政府からの代表者を募り、基準の策定を進めている。 ・Scope2ガイダンスのドラフトについては、2024年Q1までに、最終化を2025年までに完了することを目標としている。   <論点> 今回の改訂のキーとなる論点について、以下の5つを挙げて説明されています。 ①マーケット基準・ロケーション基準の両方での報告を求める、いわゆる「Dual Reporting」を残すか、どちらかひとつに統合するかについて ②データ要件(ロケーション基準とマーケット基準両方)と品質要件(マーケット基準のみ)をどの程度厳しく定めるかについて ③第3のレポート要件=インパクト評価指標(avoided emission)を導入することについて ④新技術に関する追加ガイダンスを作成することについて ⑤ポリシーや規制、自主的な開示プログラムとの整合性を図ることについて   【1番について】 マーケット基準、ロケーション基準のどちらかひとつで十分だとする意見の根拠として、主に多くの企業がDual Reportingを遵守していないことが挙げられています。 実際、日本企業の多くは、サステナビリティレポート等でマーケット基準のみを開示し、注釈をつけているケースが見られます。 マーケット係数の取得が難しい地域もあり一概には言いづらいものの、再エネ化のインセンティブを持たせることができるのはマーケット基準だという意見があります。   【2番について】 データや品質について、細かな要件を求めるべきか否かの議論が紹介されていました。 細かく定めることのメリットとして、証書のヴィンテージや設備の追加性(新たに再エネ設備を構築する社会的意義)を評価可能という点などが挙げられます。 一方、デメリットとしては、最初から要件を満たせる地域への投資が集中してしまい、公平な投資が妨げられてしまう点などが挙げられています。   【3番について】 再エネ等への切り替えによる削減インパクトについて、Scope2の枠組みの中で報告する箇所を設けるべき、という議論がでています。 ただ、課題としては、マージナル排出係数*の整備や、SBTiをはじめとするプログラムとの整合性の確保が指摘されています。 *CO₂削減対策の効果と電気のCO₂排出係数について | 日本ガス協会 (gas.or.jp)   【4番について】 追加ガイダンスの策定が要求されたテーマについて紹介されています。 主なテーマとしては、エネルギー貯留技術、グリッドごとの排出係数のさらなる整備、水素利用、などが表中で言及されていました。 そのほかにも、コジェネレーションシステム、廃棄物発電、バイオガスの利用といったテーマについての、ガイダンス策定が検討されているとのことです。   【5番について】 既存の政策や規制、ボランタリープログラムとの整合性を考慮すべきとの議論が紹介されています。 今後、CSRDやISSBのほか、EUにおける水素規定を踏まえたものにしていくとのことです。 今後、他のスタンダード/ガイダンスに関する改訂方針も公表される予定で、引き続き注視をしていきます。 脱炭素に貢献する技術が次々と出てくる中で、報告排出量へのインパクトが意思決定に係る場面も出てくると感じており、算定基準の整備・普及は急務です。 GHGプロトコルが国際的な基準としてフロントにあり続けることを期待しています。 出典記事:Survey on Need for GHG Protocol Corporate Standards and Guidance Updates | GHG Protocol 投影資料:https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2023-05/Topline Findings from Scope 2 Feedback Webinar_GHG Protocol_05.02.2023.pdf (執筆者:馬場)      

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最新の気候科学をおさらい ~IPCC第6次評価報告書の概要(後編)~

先月エジプトにて開催された気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)。会議に合わせ、その議論のベースとなる共通認識である最新の気候科学、IPCC「第6次評価報告書(AR6)」のポイントを2回に分けておさらいしています。今回はその後編です。    第6次評価報告書(AR6)のポイント③  ~私たちはどうすればよいのか~  AR6の最善のシナリオが今世紀末までの気温上昇を1.5℃に抑える、世界が目指す1.5℃目標です。これにより気候変動の悪影響を最小限に留めることができます。1.5℃実現のためには排出量は遅くとも2025年までにピークを迎え、2030年までに2019年比4割削減、2050年代初頭にCO2を正味ゼロ排出にすることが必要です。 2010-2019年の世界排出量増加率は2000-2009年と比べると減少しました。 (+2.1%→+1.3%) 欧米を中心とする少なくとも18か国が10年以上継続して排出削減を維持しており、この削減は政策や経済構造の変化によるもので、エネルギー供給の脱炭素化、エネルギー効率向上、エネルギー需要の削減が関連しているといいます。世界的にも低炭素技術の低コスト化とそれに伴う導入量の増加(太陽光や風力、リチウムイオン電池等)が進み、第5次評価報告書等を受けて世界中で排出削減に関する様々な政策や法律(ex. 炭素税、排出量取引)が施行されてきました。しかしこれらでは世界全体での排出量の増加分を相殺することはできていません。 1.5℃の経路にのるためにはエネルギー・産業・運輸等、あらゆる部門で早期の大幅削減が必要とされています。対策オプションはあるといいます。緩和策の部門別の評価によると、100米ドル/t-CO2以下での緩和策によって2030年の世界GHG排出量を2019年比で少なくとも半減させるポテンシャルがあるとしています。さらにその中の半分は20米ドル/t₋CO2e以下の緩和策が占めます。20⽶ドル/t₋CO2eの緩和策で排出削減への寄与が⼤きいものには、エネルギー部門の太陽光や⾵⼒発電、メタン排出削減(石炭採掘、石油・ガス田)、産業部門でのエネルギー効率改善、農林業・⼟地利⽤部門での⾃然⽣態系の転換の減少等があります。ネットゼロを達成するには、削減が困難な排出量を相殺するためCDR(Carbon Dioxide Removal:大気中の二酸化炭素を除去して地中・地上・海洋や製品に貯蔵する人為的な活動)の導入も避けられません。CDRには既に広く行われている新規植林、再植林、森林経営の向上、アグロフォレストリー、土壌炭素隔離等の他に、まだ成熟度やポテンシャル、コスト面の課題はありますが、ブルーカーボン管理や海洋アルカリ化、DACCS(Direct air capture with carbon storage:直接空気回収・貯留)等があります。このようにして1.5℃目標の達成を追求してもGDPが停滞することはないといわれています。2050年の世界GDPは2020年と比べて2倍程度になると予測されていますが、緩和策の実行によりそこから3~4%減少することが予測されています。1.5℃目標は緩和策だけでなく、SDGsと組み合わせることで削減機会が増え、達成しやすくなります。さらに目標達成の過程でいかなる人々・労働者・場所・部門・国・地域も取り残されないようにする「公正な移行(Just Transition)」を目指すことで、この目標がより広く受け入れられ達成につながると考えられています。 COP27に先立ち国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が発表した報告書では、現在の各国の目標を足し合わせても今世紀末までに2.5℃の気温上昇になるという見通しがされていました。COP27ではこれを1.5℃の経路にのせるための目標引き上げや着実な実施に向けての議論が期待されていましたが、残念ながら大きな進展はありませんでした。気候変動対応には排出削減や吸収対策を行う「緩和」以外にも、気候変動の影響に対応していくための「適応」、適応によっても回避できない「損失と損害」への対応があります。COP27ではこの「損失と損害」への対応として、気候変動の影響に特に脆弱な発展途上国を対象とする基金創出という歴史的合意がされたことが評価されています。今年も洪水や森林火災等、気候変動に起因すると考えられる災害が多く発生しましたが、このような災害による被害に対応していくものであり、重要な第一歩を踏み出すことができたと言えます。一方で十分な緩和策なしに気温上昇が続けば、適応や損失と損害への対応に必要な費用も膨らみ続けてしまいます。2020年代は1.5℃目標達成に向け決定的に重要な勝負の10年間と言われています。とはいえ簡単には加速できない状況に焦りは募りますが、とにかく必要なのは行動の開始、排出削減の宣言から実行段階へとステージを移し、着実に削減を進めていくことであると強く感じます。   【出典】 IPCC 第6次報告書 第3作業部会 報告書 政策決定者向け要約 解説資料 https://www-iam.nies.go.jp/aim/pdf/IPCC_AR6_WG3_SPM_220405.pdf IPCC 第 6 次評価報告書 第 3 作業部会報告書 気候変動 2022:気候変動の緩和 政策決定者向け要約(SPM) https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global2/about_ipcc/ipccwg3spm_202211.pdf 『NDC統合報告書』最新版を発表:気候計画は依然として不十分 さらに野心的な行動が今すぐ必要(2022年10月26日付 UNFCCCプレスリリース・日本語訳) https://www.unic.or.jp/news_press/info/45350/

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最新の気候科学をおさらい ~IPCC第6次評価報告書の概要(前編)~

11/6からエジプトにて気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催されています。1.5℃目標にまだ足りない各国排出削減目標をどう引き上げるか、一方でタイムリミットが迫り削減の実行段階に移っていかねばなりません。また既に大きな被害が出ている気候災害等の悪影響にどう適応し、避けられない損失と損害にどう対応していくか。課題は山積みです。議論のベースとなる共通認識は最新の気候科学です。そこで今回と次回の2回に分け、昨年2021年から順次、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)から発表されている第6次評価報告書(AR6)のポイントをおさらいしたいと思います。   ■IPCCとは IPCCは世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織であり、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的としています。AR6は1990年第1次報告書(AR1)から始まる報告書の最新版であり、2013-2014年に公表された第5次報告書(AR5)に続く7年ぶりの更新となりました。IPCCは自然科学的根拠をテーマとするWG1、影響・適応・脆弱性をテーマとするWG2、気候変動の緩和をテーマとするWG3の3つの作業部会で構成されており、それぞれテーマに沿って報告書を執筆しています。   ■第6次評価報告書(AR6)のポイント① ~気候は現在どうなっているのか?今後どうなるのか?~  まず、人間活動による温暖化には「疑う余地がない」と断言されています。産業革命前から現在までの昇温はほぼ人間活動が寄与していることが示されています。世界平均気温は産業革命前(1850-1900年)と比べて2011-2020年で1.09℃上昇しました。これは過去10万年間を見ても前例のない上昇であるといいます。海面水位は1901-2018年の間に約0.20m上昇、北極の海氷は1979-1988 年と 2010-2019 年との間で海氷の少ない9月は約40%減少、海氷の多い3月は約10%減少しています。 AR6では将来の社会の発展と大気中の温室効果ガスの濃度の状況を仮定した5つのシナリオを使って気候の将来予測を行っています。それによると、世界平均気温は産業革命前と比べ今世紀末(2081-2100年)に最善のシナリオで1.0-1.8℃、最悪のシナリオで3.3-5.7℃上昇します。北極域では世界平均の2倍の速度で気温上昇が進みます。温暖化が0.5℃進むごとに高温や大雨、干ばつ等の極端現象の強度と頻度が明らかに増加します。50年に1度の極端な高温の発生は産業革命前と比べ現在(1℃の温暖化)は4.8倍、将来1.5℃の温暖化で8.6倍、2℃の温暖化で13.9倍、4℃の温暖化で39.2倍です。世界平均海面水位は2100年までに最善のシナリオで0.28-0.55m、最悪のシナリオで0.63-1.01m上昇します。但し氷河の不安定化の状況によっては最大2mの上昇となる可能性も排除できず、さらに2100年以降も上昇は続き2300年には15mを超える可能性も排除できないといいます。北極海の海氷は中間~最悪のシナリオで2050年までに1回以上、9月に海氷のない状態になると予想されています。降水量は2100年までに最善のシナリオで0-5%、最悪のシナリオで1-13 %増加すると予測されています。   ■第6次評価報告書(AR6)のポイント② ~気候変動がもたらす影響は?~ 人為起源の気候変動は極端現象(極端な高温、強い降水、干ばつ、火災の発生しやすい気象条件など)の頻度と強度の増加を伴って、自然と人間に対して広い範囲で悪影響を及ぼし、それに関する損失と損害を引き起こしています。観測されている生態系への影響としては生物季節学的な時期の変化だけではなく、極端な暑さによる生息域の移動や数百の種の局所的喪失、大量死の増加があります。人間への影響としては水不足と食料生産(農業・家畜・漁業)への影響、健康と福祉への影響(感染症・暑熱/栄養不良・メンタルヘルス・強制移住)、都市/居住地/インフラへの影響(内水や沿岸域の洪水/暴風雨による損害・インフラへの損害・経済への損害)があります。気候変動に対する脆弱性(影響の受けやすさ)は地域間及び地域内で大幅に異なっています。現在約33-36億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況下で生活しています。また種の大部分が気候変動に対して脆弱です。  温暖化は1.5℃に達しつつあり気候災害の増加は不可避で自然や人間は既にリスクにさらされています。2040年までの短期的なリスクとして、森林並びにコンブ及び海藻、北極域の海氷及び陸域並びに暖水性サンゴ礁において生物多様性喪失の高いリスクがあります。また、継続的かつ加速的な海面水位上昇により沿岸域の居住地やインフラが侵食される高いリスクがあります。2040年より先の中長期では127 の主要なリスクが特定されており、それらの影響は現在観測されている影響の数倍までの大きさになります。例えば陸域の生態系での絶滅リスクは1.5℃の温暖化で3~14%の種で非常に高くなり、これは2℃で3~18%、3℃で3~29%、5℃で3~48%に上昇します。     【参考】 IPCC AR6 WG1報告書 政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022年5月12日版) https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html IPCC AR6 WG2報告書「政策決定者向け要約」環境省による暫定訳【2022年3月18日時点】 https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ JCCCA IPCC第6次評価報告書 https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6

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食品ロス・廃棄と気候変動・脱炭素化の状況と動向

 気候変動・脱炭素化への動きがずいぶん加速してきました。その大きなファクトとなる食品ロス削減の取り組みも進み始めています。あらためて食品ロス・廃棄と気候変動の関係性を整理し、地域での取り組みが広がっていけばと願います。食品ロスの取り組みはわが国でも省庁横断的に相互に連携しながら推進されています。最近の情報についてご覧いただければと思います。(※1~3)   ■食料ロス・廃棄が気候変動に及ぼす影響/FAO  2018年FAOが発表したレポートによると、世界では生産された食料の3分の1が 生産過程で失われたり、消費段階で廃棄されたりしていると推定されています。食料ロス・廃棄の問題は、単に食料の供給量を減らすだけでなく、生産過程で排出される温室効果ガスを増やすことで気候変動の要因にもなっていると報告されています。  FAOの推定では、世界で人の消費向けに生産された食料の約3分の1が生産過程で失われたり、消費段階で廃棄されたりしており、その量は年間約13億トンにのぼるとのことです。食料の非可食部を計上すると、生産されても消費されずに終わる食料と副産物は年間16億トンにのぼり、環境、社会、経済に深刻かつ広範囲な影響を及ぼしているとされました。食料のロス・廃棄は、生産から家庭消費に至るまで、フードシステム全段階の課題で、世界の食料生産・供給システムにおける非効率性や制約に加え、持続的でない消費パターンが原因と指摘されました。生産過程で排出される温室効果ガスを増やすことで気候変動の要因にもなっているということです。  人に消費されない食料から排出されるGHGは、二酸化炭素(CO2)換算で年間3.6Gt(ギガトン)と推定され、加えて、関連する土地利用・土地利用変化および林業部門活動の結果として、CO2 換算で0.8GtのGHGも排出されます。  前述のように世界の食料ロス・廃棄は気候変動の大きな要因のひとつとなっており、人的活動に起因する世界のGHG排出量の約8%を占めています。この排出量を一国にまとめると、中国(10.7Gt)と米国(6.3Gt)に次いで第3位(4.4Gt)の排出源に位置づけられます。決して少なくない排出源となっています。(※4)   ■脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料/環境省  2021年2月環境省から「脱炭素に向けたライフスタイルに関する基礎資料」が公表されました。2030年までに「全国でできるだけ多くの脱炭素ドミノ」を起こし、2050年には「脱炭素で、かつ持続可能で強靭な活力ある地域社会を実現」が骨子です。  「CO2排出の約6割が、衣食住を中心とするライフスタイルに起因で、一人当たり年間7.6t-CO2排出(2017年)しており、国民一人ひとりのアクションが不可欠。」と示されました。  「食」に関する取り組みでは、生産・加工・流通・調理・消費・ 廃棄の食糧システム全体において、GHG総排出量の8~10%をしめる「食品ロス及び廃棄物」と農業分野の「肥料の使用に伴い排出される温室効果ガス」をファクトとして取り上げています。今後の方向性の参考になる事例も紹介されています(※5)   ■食生活に関する世論調査/農林水産省  内閣府において実施した「食生活に関する世論調査」の結果が、令和3年1月に公表されました。この中で、食品ロスについて、「賞味期限と消費期限の違いの認知度」、「⼩売店における⽋品に対する意識」、「食品ロス削減に取り組む小売店における購入に対する意識」等を調査しました。調査結果では、食品ロス削減に取り組む小売店の食品を「購入しようと思う」消費者が4割、「どちらかといえば購入しようと思う」も含めると約9割などの結果となりました。  結果概要から「賞味期限と消費期限の違いの認知度」で「知っていた」との回答割合87.5%、「言葉は知っていたが、違いは知らなかった」との回答割合9.3%、「知らなかった」との回答割合が1.5%というがわかりました。  他に、小売店における欠品に対する意識として「仕方ないと思う」との回答割合が74.9%、「不満に思う」との回答割合24.7%ということがわかりました。  小売店における欠品に「不満に思う」と答えた者(486人)に、食品ロスにならないよう在庫を抱えないために食品に欠品が生じていた場合に、どのように思うか聞いたところ、「仕方ないと思う」との回答割合57.0%、「不満に思う」との回答割合42.2%ということがわかりました。  食品ロス削減に取り組む小売店が扱う食品を購入しようと思うか聞いたところ、「購入しようと思う」との回答割合が86.4%、「購入しようと思わない」との回答割合12.6%ということがわかりました。(※6)   【参考】 ※1 消費者庁 めざせ食品ロスゼロ ※2 農林水産省 食品ロス・食品リサイクル ※3 環境省 食品ロスポータルサイト ※4 FAO(国際連合食糧農業機関) 世界の農林水産 Spring 2018 No.850 ※5 内閣官房 国・地方脱炭素実現会議の議事 ※6 農林水産省 食生活に関する世論調査における食品ロス削減に関する調査結果

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温室効果ガス排出量「2050年ネットゼロ」へ

 2020年10月26日、菅総理大臣による総理就任後初めての所信表明演説の中で、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、カーボンニュートラルを目指す」ことを宣言し、大きな話題となりました。  細かい要件などは後述しますが、ここで言う「カーボンニュートラル」は、化石燃料の燃焼など人為的な温暖化ガス排出量に対し、人為的な森林吸収量の増大やCCSなどによる除去量を差し引いて全体としてゼロにすることを意味します。また、同様の意味で用いられる表現として「ネットゼロ(正味ゼロ)」「実質ゼロ」「脱炭素」などがあります。  日本政府はこれまで、2016年5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」に基づき、2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減する長期目標を掲げてきました。一方で、2016年10月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」では、気候変動を1.5℃未満に抑えるためには、2050年頃に世界の温室効果ガス排出量をネットゼロにする必要があることが示されました。この報告書を受け、日本政府は新たに「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を2019年6月に閣議決定し、今世紀後半のなるべく早い段階で脱炭素を目指すことを掲げましたが、同戦略においては、具体的な目標年は示されませんでした。従って、今回の菅総理大臣による「2050年カーボンニュートラル宣言」は、日本の気候変動対策の方向性をより明確にし、その取組を着実に一歩前進させたものといえます。  また、全国の自治体においても、「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明する動きが広がっています。2020年11月3日時点で、これを表明した自治体は169(23都道府県、91市、2特別区、43町、10村)となり、これらの自治体人口の合計は日本の総人口の半数を超える8,013万人にものぼります。  一方、世界では既に121カ国・1地域が、2050年ネットゼロを政策目標に掲げており、これらの国における世界全体の温室効果ガス排出量に占める割合は約18%になります(「気候変動に関する国際情勢」(2020年10月 経済産業省))。また、今月のアメリカ大統領選挙で当選確実が報じられたバイデン氏も2050年ネットゼロを公約に掲げており、もし今後アメリカが宣言をした場合、2050年ネットゼロにコミットする国は、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めることとなります。  また、企業版2℃目標と呼ばれるSBT(Science Based Targets)は、IPCCの1.5℃特別報告書を受けてより高いハードルが設けられ、現在は1.5℃水準での目標設定がトレンドとなっています。2020年11月現在でSBTに参加する企業(2年以内に目標設定をコミットする企業を含む)は世界全体で1,000を超え、さらにその先の2050年ネットゼロを長期目標に見据える企業も増えています。2019年9月には、国連グローバル・コンパクト、SBTイニシアチブ、We Mean Businessの呼びかけによる、世界の平均気温の上昇を、産業革命以前と比べ1.5℃に抑え、2050年のネットゼロを目指す国際的なキャンペーン「Business Ambition For 1.5℃」がスタートし、グローバル企業を中心に300社以上が賛同を表明しています(弊社も2020年10月に賛同表明)。  「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」という言葉は、前述したとおり、大まかには人為的な温暖化ガス排出量に対し森林吸収などによる除去量を差し引いて全体としてゼロにすることを指しますが、これまで国や企業によりその使われ方や意味合いが異なることもあり、共通の細かい定義などはありませんでした。こうしたことから、現在、SBTイニシアチブにおいて、新たにネットゼロの定義が整理されつつあります。詳細は2021年に示されることとなっていますが、現時点で公表されているCDPの資料によると、ネットゼロは、「1.5°Cの経路に沿ってバリューチェーンの温室効果ガス排出量を削減し、残りのGHG排出の影響については適切な量の炭素除去を行うことで達成される」とされています。つまり、まずは1.5℃水準の傾きで自社のScope1,2,3を削減しつつ、ゼロにできない分をCCS/CCUSなどのネガティブエミッション技術や植林などで除去するという考え方です。また、カーボン・オフセットや削減貢献量、REDD+などは自社のバリューチェーン外での取組であるため、SBTの削減には考慮されませんが、追加的にこれらを行うことは推奨されており、ネットゼロにおけるオフセットの位置づけや要件なども整理されつつあります。  企業が国際的な水準でネットゼロやカーボンニュートラルに取り組むうえでは、今後SBTイニシアチブから示される定義を踏まえ、ガイダンス等に従って取組を進めることが重要になると考えられます。   【参考】 環境省 「地球温暖化対策計画」(2016年5月) 環境省 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月) 環境省 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況 経済産業省 「気候変動に関する国際情勢」「第2回 グリーンイノベーション戦略推進会議」資料(2020年10月) CDP 「1.5℃を目指す企業:SBTと2050年までのネットゼロを目指して」オンラインセミナー資料(2020年6月)  CDP 「ネットゼロとSCOPE3」オンラインセミナー資料(2020年10月)  

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カーボンニュートラル社会の実現のために ~注目集まるCO2除去等のカーボンネガティブ技術~

 近年、パリ協定と同じレベルのCO2削減目標としてSBT(Science Based Targets)を設定する企業が増加しています。パリ協定で各国は気温上昇を2℃を十分下回る水準に抑制し、1.5℃に抑える努力目標に合意しています。ただ、昨今は2018年にIPCCの特別報告書『1.5℃の地球温暖化』が発表され、気温上昇を1.5℃に抑える必要性が求められてきています。2℃目標では、2050年までに2010年比約40~70%削減、今世紀後半(2075年頃)に実質ゼロとする内容ですが、1.5℃目標では2030年までに45%削減、2050年頃に実質ゼロとする削減シナリオとなります。企業活動から排出されるCO2についても同レベルの削減目標が求められてきており、より早期に排出ゼロとなるような野心的な目標が求められています。  このパリ協定で求められる“実質ゼロ”とは、人為的な温室効果ガス排出量を人為的な吸収量(除去量)をバランスさせることを言います。温室効果ガスには二酸化炭素(CO2)や一酸化二窒素(N2O)、メタン(CH4)等がありますが、CO2が大気中に最も多く存在し地球温暖化への影響が大きいとされています。特に人為起源のCO2排出量(化石燃料の燃焼やセメント製造等で排出するCO2)は、森林や海洋等が自然に吸収するCO2量を超えて排出されつづけ、大気中に蓄積されています。そのため、この人為的なCO2排出量をなくすことが重要になります。その社会を実現するために、企業活動でも実質排出ゼロ“カーボンニュートラル”を目指す企業が現れてきています。  一般的に、カーボンニュートラルとは、“炭素が中立”つまり二酸化炭素の排出量と吸収量が同量になっていることをいいます。森林等のバイオマス資源は、成長過程においてCO2を吸収し炭素を固定化しているので、燃焼時にCO2を排出したとしてもプラスマイナスゼロ、つまりカーボンニュートラルという考え方をします。地球温暖化の要因として、温室効果ガスが大気中に放出することが問題であり、地中等に貯留されている状態であれば地球温暖化を防止できます。そうした意味でも植物での固定化や人工的な炭素貯留技術等はCO2を“除去”する手法として注目を集めています。  今、世界的なトップ企業でもこのカーボンニュートラルに取組む企業が増加しています。  イギリスBP社(大手石油会社)は、2020年2月に事業全体におけるCO2排出量を2050年までに実質ゼロにすると発表しました。  また武田薬品工業は、新たなカーボンニュートラル宣言で、2040年までに事業活動におけるGHG排出量(Scope1、およびScope2)を全て削減しカーボンニュートラルを達成する目標をたてました。さらに自社だけでなく、サプライヤーと協力してScope3の排出量を50%削減し、認証済みのクレジット等を使用してバリューチェーン全体でもGHG排出をゼロにする目標を発表しました。  またマイクロソフトでは、2030年までに「カーボンネガティブ」の達成を宣言しました。具体的には、事業から排出されるCO2排出量を50%まで削減、残りのCO2排出量と同量以上のCO2排出量を“除去”することにより、実質的に排出をマイナスにするというものです。さらに野心的な目標として2050年には創業の1975年以来のScope1,2に相当するCO2排出量を除去するということも宣言しています。この達成のために10億ドルをCO2除去技術等に拠出すると発表しています。  このCO2の“除去”とは、大気中に排出された空気中のCO2を取り除くことを意味しており、“ネガティブエミッション技術(NET)”と呼ばれています。上述の人為的なCO2吸収量(除去)に関する技術です。具体的には、植林等やBECCS(炭素の回収・貯留付きのバイオマス発電)、化学薬品等により直接大気中のCO2を回収すること等が含まれます。中でも、直接大気からCO2を回収する技術は「DAC(Direct Air Capture)」と呼ばれ注目を集めています。世界的には1t当たりの回収にかかる費用が500~600ドル(日本円で約5~6万円/t)とコストが課題ですが、1tあたり1万円程度を目指して技術開発が進められています。日本ではCCS(炭素の回収・貯留)だけでなくCO2を資源として利用していくというカーボンリサイクルに力を入れており、2019年6月には経済産業省から「カーボンリサイクル技術ロードマップ」も発表されています。  このように、カーボンニュートラルの達成にはまだ発展途上の革新的な先進技術等が必要であり、こうした技術は現在も日々進歩しています。そのため、何をもって“カーボンニュートラル”とするかの定義もさまざまです。  現在、国際的な排出量の情報開示では、この実質ゼロの定義を進め、企業向けガイダンスを開発しています。中でもCO2除去量については、SBT等の目標達成に利用可能となる可能性もあります。そうなれば、よりCO2除去技術(森林吸収、除去技術(CCS,DAC)等)は注目を浴びる成長産業になる可能性があります。  一方、国際的なルール整備に注目が集まりますが、日本国内には従来から“カーボンニュートラル認証”という認証制度もあります。この制度は2012年に環境省がつくったカーボン・オフセット制度のひとつであり、現在は民間に移行して第三者認証プログラムとして運営されています。同プログラムでは、企業の事業活動(Scope1,2)にかかる排出量を全量埋め合わせてカーボンニュートラルを達成します。埋め合わせの手段は国内の認証されたクレジットであり、森林吸収、再エネ、省エネ等のクレジットが活用できます。こうした認証制度を活用することも、自社がニュートラル企業であると宣言する一つの手段になり得ます。  脱炭素、カーボンニュートラルな社会の実現に向け、企業のさまざまな取組みやネガティブエミッション技術の進展が期待されますが、もう一つ大事なのが私たちのライフスタイルの変革です。2020年1月に、IGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)から「1.5℃ライフスタイル‐脱炭素型の暮らしを実現する選択肢-(日本語要約版)」というレポートが出されました。このレポートの中では私たちの暮らしの中での一人あたりのカーボンフットプリントが評価され、1.5℃目標達成にはどの分野(移動、食料、住居等)からどれくらい減らさないといけないか、という評価がなされています。現在の私たちの暮らしのホットスポット(排出量が多い分野)として、肉食、車移動、家電製品といった具体的な内容が分かるとともに、ライフスタイルの大幅な変更が必要となることを定量的に評価しています。同時に、ネガティブエミッション技術が将来的にどの程度導入されるかで、目標とする一人当たりのカーボンフットプリントに大幅な影響があることを前提としながらも、不確実性の高い技術に頼る戦略のリスクも示唆しています。  企業は事業経営の脱炭素化をどう実現するか、その価値を消費者に提供するか、また消費者は自分たちの行動をどう変えていかなければいけなのか、本来は両輪で取り組む必要がある問題です。企業が脱炭素に取組むためのインフラの整備は必要であり、CO2除去といった革新的技術も必要な一方で、負荷が高い生活様式を見直すことも重要な要素なのです。   (参考) ■気象庁HP 海洋の炭素循環 ■BP社プレスリリース ■日経ESG 2020年6月号 ■武田薬品工業株式会社 WEBサイト 環境への取り組み ■経済産業省 カーボンリサイクル技術ロードマップ 令和元年6月 ■国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 二酸化炭素の Direct Air Capture (DAC)法のコストと評価 令和2年2月 ■CDP 1.5℃を目指す企業:SBTと2050年までのネットゼロを目指して資料(2020年6月) ■CDP TOWARDS A SCIENCE-BASED APPROACH TO CLIMATE NEUTRALITY IN THE CORPORATE SECTOR(2019年9月) ■IGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関) 1.5℃ライフスタイル‐脱炭素型の暮らしを実現する選択肢-(日本語要約版)  

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中小企業向けの新たなSBT認定の申請ルートについて

 2020年4月15日、SBTi(Science Based Targets initiative)は、中小企業向けに、新たな申請ルートを導入しました。これにより、目標検証の手順が簡素化し、認定までに要する時間が短縮化されます。またスコープ3の目標設定については「排出量の把握」と「削減の取組」は求められますが、具体的な定量化は求められないため、申請にかかる負担が軽減されます。  SBTに参加する企業は世界全体で年々増加し、現在は883 社(2020年6月5日現在)まで拡⼤しています。また、日本企業の取組は2018年度以降、拡大を続け、2019年度は23社が認定を取得し、認定企業数ではアメリカに次いで世界2位となっています。認定企業には、スコープ3排出量の削減を目標に掲げる企業が含まれます。スコープ3はバリューチェーン全体で生み出されるため、このような企業はサプライヤーに対し排出量削減に取り組むことを期待します。すでに日本企業の中でもスコープ3サプライヤーエンゲージメント目標を設定し、サプライヤーに対し削減目標を持つことを求める企業が出てきています。  そんな中、SBTiはリソースが限られる中小企業に大きな負担をかけることなく、バリューチェーンでの排出量削減について検討することができるよう、これまでより簡素化された手順で申請できる新たな申請手ルートを設けました。これまでなかなか着手に至らなかった中小企業にとってチャンスです!  今回は、新たな申請ルートについて、通常の申請との違いや申請手順等についてご紹介いたします。   【対象】 従業員が500人未満の非子会社の独立企業   【特徴(通常申請との違い)】 ・コミットする最初のステップと通常の目標検証プロセスを省略。  →新しい申請書の提出のみでコミット~検証~認定~SBTiウェブサイトでの公表まで自動的に完了できる。 ・スコープ3排出量の定量的な目標設定を要求しない。ただし、スコープ3排出量の把握と削減に取り組む必要がある。 ・料金の割引→1,000米ドル+税(通常4,950米ドル+税)   【申請】 <申請書類> Science Based Targets Call to Action Target-Setting Letter for Small and Medium-Sized Enterprises Ver.1.0   【申請手順】  1、申請書作成  2、申請書に記載がある契約条件を確認し署名する  3、事務局へPDF形式で提出    提出先 [email protected].  4、請求書を受領後、支払(1,000米ドル+税/一回)   【スケジュール】 ・中小企業は7/15以降は通常の申請は不可(※)   申請書のダウンロード、申請に関する詳細は、以下のURLよりご確認いただけます。 https://sciencebasedtargets.org/step-by-step-guide/   ※ 大企業は通常の申請のみ適用。(※なお通常の申請書については4月に一部更新あり。詳細は以下を参照。) https://sciencebasedtargets.org/step-by-step-guide/   <参考> SBTi https://sciencebasedtargets.org/faqs-for-smes/ WWF https://wwf.panda.org/?362371/Small-medium-businesses-science-based-climate-targets

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CO2削減量算定の考え方 ~オンライン会議によるCO2削減効果はどう定量化できる?~

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、在宅勤務を取り入れている企業も多いのではないかと思います。すると増えるのは社内メンバーや社外の方とのオンラインでの打合せです。弊社でも頻繁に行うようになりましたが、ウィルス対策としてだけではなく、紙資料の準備が不要であったり、移動が不要だったりと、CO2削減の効果も期待できるのではないかと思います。そこで今回は、「オンライン会議によるCO2削減効果」を題材に、CO2削減量算定の大まかな流れ、考え方をご紹介したいと思います。   ステップ1 目的を設定する なぜCO2削減量を算定するのか、目的(算定結果の使い道等)を整理します。 CO2削減量の算定は、概算から詳細まで、様々なレベル(精度・粒度等)で実施できます。目的を整理することは、算定のレベルを決定する上で不可欠です。 今回は、目的を「オンライン会議によるCO2削減効果を定量的に把握し、サービスのPRに活用する」と設定し、外部への公開に足るレベルでの算定を目指すこととしました。   ステップ2 ベースライン(比較対象)を設定する 削減量を計算するためには、評価対象(今回の例ではオンライン会議)に加えて、比較対象(本来はどうしていたか)の設定が必要です。これを「ベースライン」と呼んでいます。 今回は「訪問による会議」をベースラインとして設定します。 CO2削減量=ベースラインの排出量-評価対象の排出量 の式で計算できます。 「評価対象の排出量」は削減策が実施された後の排出量です。今回の例ではオンライン会議による排出量です。 「ベースラインの排出量」は、削減策が実施されなかった場合に想定される排出量です。今回の例では、同じ会議を訪問形式で実施した場合に想定される排出量です。   ステップ3 評価対象とベースラインのシナリオを設定する 一口にオンライン会議といっても様々な規模、方法があります。排出量を計算するためには、具体的に条件設定をしていく必要があります。これを「シナリオ設定」と呼んでいます。 今回は以下のように設定しました。 評価対象のシナリオ: 参加者5人が自宅からパソコンを使用してオンラインで参加。1時間開催。資料(A4サイズ5枚カラー)は事前にメール送付 ベースラインのシナリオ: 参加者5人が自宅から会議開催場所まで移動し、実施。1時間開催。資料は人数分をカラー印刷   ステップ4 定量化の範囲を設定する 設定したシナリオを基に、ライフサイクル(原料調達→生産→流通・販売→使用・維持→廃棄・リサイクル)ごとにCO2が発生する「排出源」を整理していきます。また、整理した排出源のうち、定量化の範囲に含めるもの(排出量算定の対象範囲とするもの)を特定します。極力全体を網羅する必要がありますが、算定目的を考慮した上で、主要な排出でない、排出量全体に与える影響が小さい等といった理由で定量化の範囲から外すことも可能です。 今回は以下のように整理しました。 評価対象の定量化の範囲:参加者のパソコン使用1時間 ベースラインの定量化の範囲:参加者の移動、配布資料用の紙・印刷、配布資料の廃棄   ステップ5 活動量を収集、排出原単位を設定して、排出量を計算 評価対象、ベースラインそれぞれにおいて、定量化の範囲とした排出源ごとに、活動量(使用量等)を収集し、排出係数(使用量1単位あたりで発生するCO2排出量)を設定して、活動量×排出係数の計算式で排出量を計算します。 例えば、評価対象の排出源「参加者のパソコン使用1時間」は以下の通り計算できます。 活動量:パソコンの電力使用量(kWh)=パソコンの消費電力×1時間×5人 排出係数:電力の排出係数(kg-CO2/kwh) パソコン使用の排出量=パソコンの電力使用量×電力の排出係数   ステップ6 ベースライン排出量-評価対象排出量で削減量を計算 ステップ5で排出源ごとに排出量を計算した後、評価対象・ベースラインごとに排出量を集計していきます。ベースラインの排出量の集計値から評価対象の排出量の集計値をマイナスした結果がCO2削減量となります。 評価対象の排出量=パソコン使用の排出量 ベースラインの排出量=参加者の移動に伴う排出量+配布資料の紙の調達・印刷に伴う排出量+配布資料の廃棄の排出量 オンライン会議によるCO2削減量=ベースラインの排出量-評価対象の排出量   ステップ7 コミュニケーション方法を決定する CO2削減量の計算ができたら、その伝え方を決定します。 例えば以下のようなコミュニケーションができます。 「従来の訪問による会議から、オンラインによる会議に変更することで、会議1回当たり〇g₋CO2のCO2が削減できます」 この時、算定において行った条件設定(シナリオ設定)の内容を合わせて明記することが大切です。   以上、削減量算定について大まかなイメージを持っていただけたでしょうか? CO2削減量算定にあたっての疑問・相談など、お気軽にお問い合わせください。

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CO2削減と炭素税

 国際通貨基金(IMF)は報告書『財務モニター』(※1)の中で、CO2排出量削減の最も強力で効率的な手段に「炭素税」を挙げています。パリ協定の目標達成のためには、従来の地球温暖化への取り組みでは不十分であり、思い切った切った政策措置が必要であると主張しています。 今回は、迫るパリ協定の本格始動に向け、世界の脱炭素化が加速する中、導入が拡大する炭素税について取り上げます。    炭素税とは、温室効果ガス排出量に対して均一の価格を付ける経済的手法であるカーボンプライシングの一種です。炭素に価格を付けることで、温室効果ガスの費用を見える化し、排出者が温室効果ガスの費用を意識して行動するよう促すことを目的としています。 カーボンプライシングには排出される炭素に対しトン当たりの価格が付される「明示的カーボンプライシング」と、炭素排出量ではなくエネルギー消費量に対して課税する「暗示的炭素価格」があります。また、明示的カーボンプライシングは、炭素税と排出量取引制度に分けられます。 排出量取引制度が多量排出事業者を中心に確実な排出削減を求める一方、炭素税は家計も含む小規模の主体に対してまで幅広く、炭素価格を提示することで各自の行動変容を促し、その結果、排出削減に繋がると考えられます。    炭素税が「効率的な手段」と言われるのは、費用効率面においてです。 炭素税の下では、温室効果ガス排出による費用が公平に見える化されるので、各主体は炭素税による負担(炭素価格)と比較しながら、それよりも費用が安い対策から順に実行します。そして炭素価格よりも費用が高い対策のみが残った段階で、炭素税による負担を負うことになります。つまり、コストパフォーマンスの高い対策から順に選択し実行することで、社会全体の削減コストが最小化されるので費用効率的な手段と言えます。こうしたことから、気候変動対策と経済成長の両立が図れる手段として期待されています。 各国でパリ協定の削減目標の達成が求められる中、低コストでこれを実現するという観点がより重視されるようになり、世界では欧米諸国を中心にカーボンプライシングの導入が進んでいます。2019年4月時点で、46か国と28の地域で明示的カーボンプライシングが導入されています。また、NDCs(※2)提出国のうち半数以上がその中でカーボンプライシングの導入・検討に言及しています。    2010年代よりアジアでも排出量取制度を中心に導入が進んでいますが、シンガポールでは今年1月から炭素税が導入されました(※3)。 課税対象は、年間25,000トン以上の事業者で、温室効果ガス排出量に対して1トンあたり5ドルが課税されます。ただしこの税率は2019年~2023年までの間です。シンガポール政府は2023年までに税率を見直し、2030年までに温室効果ガス排出量1トンあたり10ドル~15ドルに引き上げる計画を説明しています。  最近は民間企業や投資家などからもカーボンプライシングの導入を求める声があがっています。例えば2017年には、アディダス、アリアンツ、H&M、フィリップス、ユニリーバなどの世界の大企業54社が各国政府に対し導入の提言を発表しています。    では日本はどのような状況なのでしょうか? 2012年に、暗示的炭素価格に該当する「地球温暖化対策のための税(温対税)」が導入され、全化石燃料に対してCO2排出量に応じ1トンあたり289円が課税されるようになりました。これは既存の「石油石炭税」に更に上乗せして支払われています。税収はエネルギー特別会計に繰り入れられ、省エネ対策や再エネ普及などのエネルギー起源CO2排出抑制対策に充当されています。ただ、諸外国の炭素税と比べると極めて低く効果も低いのが現状です。 このような状況の中、今年、環境省は2020年度の税制改正要望でカーボンプライシングの導入について初めて盛り込む方針を示しました。カーボンプライシングについては、過去にも議論されたことがありましたが産業界の反対を受け先送りされてきました。しかしパリ協定の本格運用が来年に迫っていること、ダイベストメントの動き(環境対応に消極的な企業から投資を引き揚げる)が広がる中で、産業界にも変化の兆しが出てきています。特にグローバル展開する企業を中心的に肯定的な見方へ変化しているようです。ただ、導入にあたっては既にある税制との兼ね合いや経済成長の妨げとならない仕組み作りなど課題も多くあり、導入まではまだまだ議論が必要な状況であるようです。    税収の活用方法については、カーボンプライシング・リーダーシップ連合の報告書『What Are the Options for Using Carbon Pricing Revenues』(※4)では、他税の減税、家計への還元、企業への支援、公的債務・財政赤字の削減、一般財源化、気候変動対策への投資の6つのオプションが紹介されています。例えば、カナダのBC州では炭素税収の約2/3を企業・1/3を家庭の税負担の軽減に活用、スイスでは炭素税収の一部を、医療保険会社を介して全住民に均等に再配分、アイルランドでは景気後退の際の厳しい緊縮財政の回避などに活用されています。減税や社会保険料の軽減に用いることで更なる経済成長との両立に繋がる可能性があります。    『財務モニター』では、炭素価格の世界平均は現在1トンあたり2ドルであるが、パリ協定の目標達成には2030年までに1トンあたり75ドルに引き上げることが呼び掛けられています。 この先の10年間で各国での気候変動への取り組みが大きく変わることが予測されます。 そうした影響を受け、日本国内でのカーボンプライシング導入の動きも加速するのでしょうか。引き続き動向に注目したいです。   ※1 財務モニター 2019年10月(国際通貨基金) https://www.imf.org/ja/Publications/FM/Issues/2019/09/12/fiscal-monitor-october-2019 ※2 NDC:Nationally Determined Contributions パリ協定に基づき各国が国連に提出する温室効果ガス削減に対する貢献案 ※3 National Environment Agency(Singapore) https://www.nea.gov.sg/our-services/climate-change-energy-efficiency/climate-change/carbon-tax ※4 http://pubdocs.worldbank.org/en/668851474296920877/CPLC-Use-of-Revenues-Executive-Brief-09-2016.pdf   <参考> カーボンプライシング~世界と日本の動向、環境省の取組について~ http://kyushu.env.go.jp/20191004_Niihara.pdf   「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ~脱炭素社会への円滑な移行と経済・社会的課題との同時解決に向けて~(平成30年3月) https://www.env.go.jp/earth/cp_report.pdf

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スコープ1,2,3を活用したSDGsの進捗評価

 前々回のメルマガでは、SDGsの枠組みの中で気候変動分野に取り組んでいく際の取組ステップについて取り上げました。 (詳細は【業界動向】SCOPE1,2,3把握から始めるSDGs13「気候変動に具体的な対策を」の取組ご参照。) その中で、自社が気候変動へ与える影響の定量化指標としてスコープ1,2,3が活用できること、さらに取組ステップに応じて以下の二つの活用の仕方ができることをお伝えしました。 一つ目は「ステップ2:優先課題の特定」における影響評価のマッピングツールとしての活用です。スコープ1,2,3全体を漏れなく概算で把握することで、自社が気候変動へ与える影響はどれくらいか、サプライチェーンのどの部分の影響が特に大きいのかなどといった影響の全体像を見える化でき、優先課題の特定に役立ちます。 二つ目は「ステップ3:目標を設定する」における進捗評価ツールとしての活用です。全社目標を設定した後には、ステップ2で特定した優先課題分野を中心に目標を割り振り、目標達成に向けた活動を進めていかれるかと思います。その際必要なのが活動の進捗評価です。優先課題分野に範囲を絞って、より細かく、精度を上げてスコープ1,2,3を把握することで、活動の進捗をGHG排出削減量として見える化でき、定量的な評価が可能となります。 今回は二つ目の「スコープ1,2,3を活用した進捗評価」について、いくつかの具体例を挙げてイメージを持っていただけたらと思います。 業界別の気候変動対策事例がまとめられている『SDG INDUSTRY MATRIX―産業別SDG手引き―CLIMATE OPPORTUNITIES』(※1)を参考に、以下の5つの活動のスコープ1,2,3を用いた進捗評価を考えてみます。 Case1:製造等でのエネルギー効率を高める Case2:再生可能資源に由来するエネルギーの割合を増やす Case3:製造段階での使用エネルギーの少ない材料を調達する Case4:消費者によるエネルギー使用を低減する製品を考案する Case5:容器包装を減らし、リサイクルを増やす   Case1:製造等でのエネルギー効率を高める  エネルギー効率を高め、より少ない燃料や電気での製造が可能になると、温室効果ガス(GHG)排出が削減されます。 例えば、生産ラインのエネルギー効率が向上し、燃料として使用する化石燃料の量が減る場合、その効果をスコープ1(自社での燃料燃焼などによる直接排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。 スコープ1排出量は以下の計算式で計算できます。   スコープ1排出量=Σ{(燃料種別の使用量)×(燃料種別の排出原単位)}   燃料種別排出原単位は、燃料1単位を燃焼した時に排出されるGHGの量です。燃料の種類によって排出原単位は異なるため、燃料の種類ごとに使用量と排出原単位を乗じて排出量を計算し、その合計値がスコープ1排出量となります。 上記式から、燃料使用量が減るとスコープ1排出量が減ることになります。   Case2:再生可能資源に由来するエネルギーの割合を増やす  太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーは、基本的には化石燃料を燃焼せずGHGを排出しません。 例えば、購入している電力を化石燃料由来から再エネ由来に切り替える場合、その効果をスコープ2(他者から供給される電気・熱などの間接排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。 スコープ2排出量は以下の計算式で計算できます。   スコープ2排出量=Σ{(電気・熱の供給者別もしくはメニュー別使用量)×(電気・熱の供給者別もしくはメニュー別排出原単位)}   電気・熱の供給者別排出原単位は、供給者が電気や熱1単位を作るために化石燃料を燃焼することで排出されるGHGの量です。供給者によって化石燃料を使用する割合が異なるため、排出原単位も異なります。100%再エネ由来の電源で賄っている電力会社の場合、排出原単位が0であることが期待できます。(一般的に使われる電力の排出原単位として温対法の電力事業者別排出係数がありますが、排出係数の計算の際にFIT調整なども行われるため、100%再エネ由来電源でも排出原単位0ではない場合も考えられます。)電力会社によっては、再エネ由来だけで供給する再エネメニューと、化石燃料由来も含んで供給する一般メニューなど、電力メニューを分けて提供していることもあり、その場合、再エネメニューで契約していると排出原単位0が期待できます。 上記式から、再エネの使用量が増えると、排出原単位0を乗じる量が増えるため、スコープ2排出量が減ることになります。   Case3:製造段階での使用エネルギーの少ない材料を調達する  自社が調達する製品は、調達先での製造過程でエネルギーが使用されるなどしてGHGが排出されており、製造過程での排出がより小さい製品を調達することで排出が削減されます。 例えば、採取に多量のエネルギーが必要な素材が多く使われていたり、遠方から調達したりしているような製品は排出が大きいと考えられ、より身近な資源を、最小限の量を用いて作られているような製品は、排出が小さいと考えることができます。(希少鉱物vs再生可能素材、輸入品vs近隣調達品、重量vs軽量…)また、調達先工場で省エネや再エネが進んでいる場合にも排出は小さいと考えられます。 この効果をスコープ3(自社のサプライチェーン上での排出)のうちカテゴリ1(購入した製品・サービスに伴う排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。 スコープ3カテゴリ1排出量は以下の計算式で計算できます。   スコープ3カテゴリ1排出量=Σ{(製品別調達量もしくは金額)×(製品別排出原単位)}   製品別排出原単位は、製品を1単位作る時に排出されるGHGの量です。様々なデータベースが整備されていますが、統計データなどから算出された全国平均値のようなものであり、省エネや再エネの取組度合いなどといったサプライヤー固有の状況を反映することはできません。また、代表的な製品のデータしかなかったり、産業分類に合わせて大きく括られてしまっていたりと、進捗を評価するのに十分な細かさや精度が得られない場合もあります。よって、優先的に排出を削減すべき主要な製品については、サプライヤーから排出原単位などの情報を入手する、LCAの考え方に基づき製品の排出量を調査するといったことをお勧めします。 最近では、SBT目標設定にあたり、サプライヤーにSBT水準の目標を持ってもらうことを自社のスコープ3削減目標とする「サプライヤーエンゲージメント目標」を持つ企業も増えています。そうしたケースにおいても、サプライヤーにおける取組の進捗を把握するとともに、自社のサプライチェーン上での削減量として報告することが可能になってくると考えられます。 上記式から、軽量化で調達量(重量)が減ったり、素材やサプライヤーの見直し、サプライヤーでの取組進捗などにより排出原単位が小さくなったりすると、スコープ3カテゴリ1排出量が減ることになります。   Case4:消費者によるエネルギー使用を低減する製品を考案する  製品が販売された後、消費者によって使用される際の燃料や電気の使用量を削減できると、GHG排出も削減されます。 例えば、家電製品の電力使用量を小さくする、シャワー製品・洗浄剤などのすすぎ時間を短くするなどが考えられます。 この効果をスコープ3のカテゴリ11(販売した製品の使用に伴う排出)排出量の削減として見える化し、進捗を評価することができます。   スコープ3カテゴリ11排出量=Σ{(製品別生涯使用回数)×(製品別報告期間の販売数)×(製品別使用1回あたりの燃料使用量)×(燃料種別排出原単位)}+ Σ{(製品別生涯使用回数)×(製品別報告期間の販売数)×(製品別使用1回あたりの電気使用量)×(電気の供給者別もしくはメニュー別排出原単位)}+ Σ{(製品別使用時のエネルギー起源CO2以外のGHG排出量)}   標準的な使用シナリオ(1回の使用でどのくらいの燃料・電気を使うか、製品寿命の間に何回くらい使われるかなど)を設定して計算していきます。また、空調のフロン漏えいなど、使用時にエネルギー起源CO2以外のGHGの排出がある場合にはそれも計算します。 上記式から、使用時の燃料・電気使用量の削減を可能とする製品を提供できると、スコープ3カテゴリ11排出量が減ることになります。   Case5:容器包装を減らし、リサイクルを増やす  製品が販売され、消費者によって使用された後、最終的に廃棄される時にも廃棄物処理に伴いGHGが排出されます。廃棄される量を減らしたり、リサイクルを促したりすることができると排出が削減されます。 例えば、容器包装を最小限にする、リサイクル可能な素材に変更する、分別を可能にしてリサイクル割合を増やす、などが考えられます。 この効果をスコープ3のカテゴリ12(販売した製品の廃棄に伴う排出)の削減として見える化し、進捗を評価することができます。 スコープ3カテゴリ12排出量は以下の計算式で計算できます。   スコープ3カテゴリ12排出量=Σ{(廃棄物種類・処理方法別量)×(廃棄物種類・処理方法別の排出原単位)}   廃棄物種類・処理方法別排出原単位は、廃棄物1単位を特定の処理方法によって処理する時に排出されるGHGの量です。紙・プラスチック・金属などといった廃棄物の種類と、焼却・埋め立て・リサイクルといった処理方法の種類によって排出原単位は異なります。リサイクルの排出量計算には様々な考え方がありますが、リサイクル準備段階までを対象とすると、基本的には焼却や埋め立てよりも排出原単位は小さくなります。 廃棄物種類・処理方法別量は製品の販売量と素材構成などから把握します。 上記式から、容器包装を最小限にして廃棄物量を減らしたり、焼却や埋め立ての量を減らしてリサイクルの量を増やしたりすると、スコープ3カテゴリ12排出量が減ることになります。      この他にも、様々な気候変動分野の活動進捗をスコープ1,2,3で見える化し定量評価することが可能です。 ご興味をお持ちの方はお気軽にお問合せください。     ※1 『SDGS INDUSTRY MATRIX―産業別SDG手引き―CLIMATE OPPORTUNITIES』(2015)国連グローバルコンパクト/KPMG作成、日本語版:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン/KPMGあずさサステナビリティ㈱翻訳・監修 http://ungcjn.org/common/frame/plugins/fileUD/download.php?type=contents_files&p=elements_file_2911.pdf&token=d6c685b49248079f8b0117d704bd7a35047ca495&t=20190930142548

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