2023.08.07
SBTi FLAG目標について(後編)
2023.08.07
SBTi(Science Based Target initiative)は昨年「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」セクターガイダンスを発表しました。これを受け今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。このFLAG目標の概要を2回に分けて整理しています。今回はその後編として目標設定において必要な要件についてまとめます。 目標設定対象企業 前回のおさらいになりますが、FLAG目標の設定が必要な企業は以下の企業です。 森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売、タバコセクターの企業 その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業 ※例えば以下のような企業は該当する可能性があります。 小売業、容器・包装、ホテル・レストラン・レジャー・観光サービス、繊維製造・紡織・アパレル、繊維・アパレル・靴・高級品、耐久消費財、家庭用品・個人用品、タイヤ、建築製品、住宅建築、建設資材、建設・メンテナンス、インフラ開発、鉱業、道路建設、資源採取 FLAG関連排出量が20%未満である場合もFLAG目標設定が推奨されています。(任意)また、FLAG目標を設定しない場合にも、非FLAG排出量(従来のSBTが対象とするエネルギー・産業分野の排出量)とともにインベントリに含める必要があります。中小企業はFLAG目標設定の必要はありません。既存の中小企業ルートで目標設定を行います。 目標水準 目標水準としては1.5℃水準が求められます。目標設定方法には以下の2種類があります。 FLAGセクター経路: 総量削減目標(年率3.03%以上。炭素除去含む)。主に小売等の需要側向け コモディティ原単位経路: 原単位削減目標。主に生産等の供給側向け。現在、牛肉、鶏肉、乳製品、皮革、トウモロコシ、パーム油、豚肉、米、大豆、小麦、木材・木質繊維の11種類を整備 食品生産や小売等の需要側企業はFLAGセクター経路を使用します。農産物生産等の供給側企業で、コモディティ原単位経路が整備されている製品を扱っており、その排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は、該当のコモディティ原単位経路かFLAGセクター経路のどちらかを選択することが可能です。コモディティ原単位経路が整備されていない製品を扱っている場合はセクター経路を使用します。森林・紙製品セクター企業、木材・木質繊維に関する排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は必ず木材・木質繊維のコモディティ原単位経路を使用する必要があります。 削減率の水準については、非FLAG同様、SBTiが各経路の目標試算ツール「SBTi FLAG Tool」を提供しているので、そちらでご確認ください。 目標範囲 大前提として、対象企業は自社の排出量をFLAGと非FLAGに分けて管理し、それぞれの排出削減目標を設定する必要があります。FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」、ファームゲートより先の排出量は非FLAG排出量として整理されます。FLAG目標はこのうちのFLAG排出量を対象範囲とします。 FLAG排出量はさらに排出量と炭素除去量に分けて管理することが求められています。FLAGの排出量には、土地利用変化に伴う排出量と土地管理に伴う排出量の2種類があります。土地利用変化に伴う排出量は、森林が農地に転換される等といった土地利用変化による、バイオマスや土壌等の炭素蓄積量の減少分を排出量として計算します。転換による排出は転換後20年間にわたり考慮します。土地ごとに計測によって把握する直接的土地利用変化(dLUC)手法と、特定の地域全体における土地利用変化の状況から推計する統計的土地利用変化(sLUC)手法の2つの方法があります。土地管理に伴う排出量は、農業等人為的に土地を管理することによって発生する排出量を対象として計算します。肥料使用によるN2Oの排出や水稲によるCH4の排出等、従来のGHG排出量算定の中でも一部は考慮されてきたものです。 炭素除去量はバイオマスや土壌などの炭素蓄積量の増加分を除去量として計算します。除去量は継続的に貯留されモニタリングされるもののみを加算する必要があります。 上記を含む炭素除去の要件を満たすとき、除去量はFLAG目標の達成に使用可能です。(FLAG排出量は排出量から炭素除去を除いたネット排出量で考慮されます。すなわち、炭素除去がFLAG排出量削減の手段となります。)しかし、FLAGの炭素除去は非FLAG目標の削減には使用できません。また、FLAGの炭素除去はサプライチェーン内での炭素除去のみが対象であり、サプライチェーン外の炭素除去(クレジットの購入等)の使用は認められていません。 非FLAG目標と同様に、FLAG目標でもScope1,2及びScope3排出量(Scope3排出量がScope1,2,3排出量全体の40%以上を占める場合)を対象範囲として目標を設定します。土地を直接所有・管理している企業はFLAG関連のScope1排出量が発生している可能性があります。土地関連の活動を行うサプライヤーから製品・サービスを購入している企業はFLAG関連のScope3排出量が発生している可能性があります。Scope1,2の 95%以上、Scope3の67%以上を目標範囲としてカバーする必要があります。 基準年・目標年 基準年・目標年の考え方も非FLAG目標と同様です。基準年としては2015年以降、目標年は申請時点から5~10年先までの間で設定する必要があります。FLAG目標と非FLAG目標はできるだけ同じ期間とすることが推奨されています。 森林破壊ゼロ FLAG目標設定企業は、排出削減目標の設定に加えて、森林減少0(森林破壊を行わないことを約束する)への宣言が求められています。宣言の所定文言は以下で、他の排出削減目標の文言と一緒にSBTiのウェブサイトに掲載されます。 “[Company X] commits to no deforestation across its primary deforestation linked commodities, with a target date of [no later than December 31 ("【企業X】は、【遅くとも2025年12月31日までの期日を設定】を目標に、主要な森林破壊に関連する商品について、森林破壊を行わないことを約束する。") 森林減少0の約束はScope1,2範囲だけではなく、Scope3も含まれ、またScope3の目標範囲の67%以上に限らず全ての範囲に適用されます。 最後に 以上がFLAG目標の主な要件です。目標設定のためにまず必要なのはFLAG排出量の算定ですが、現状難易度が高い状況です。GHGプロトコルの土地セクターガイダンスの最終化が行われている途中であり、排出量計算のための排出原単位も十分整備されている状況とは言えません。参考にできる算定事例もまだ少ない状況です。LCA排出原単位データベース等一部の既存の排出原単位には非FLAGとともにFLAG排出量が全てもしくは一部考慮されている場合もありますが、非FLAGとFLAGを分けることが困難であったりもします。このような中、各社試行錯誤の上算定を行っている状況です。よって、現時点で利用可能なものを活用し可能な範囲で算定を行い、今後新たな算定方法やデータベース等が出てきたり確立されてきたりした際には随時アップデートする等、段階的な対応を行っていくことがポイントと言えそうです。 参考資料 SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf (執筆者:山本(裕))
read more