2025.04.16
再生可能エネルギー電力の調達方法について(後編)
2025.04.16
今回は、昨年12月にご紹介した再生可能エネルギーの調達方法についての後編をお届けします。 再生可能エネルギーの調達タイプ RE100で認められており、CDPでもスコアリングの対象となる調達方法は、日本では4つのタイプに大別されます。 ①自家発電(自社で設備を保有して発電) ②直接調達(発電事業者と自社の契約)―フィジカルPPA、バーチャルPPA ③電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約、小売供給契約 ④電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達 前編では➀および②の調達タイプをご紹介しました。 これらは、追加性のある、つまり発電設備を設置する調達方法(詳細は前編をご確認ください)であるため、調達開始までに時間を要するというものでした。 今回は、そのつなぎ役として直ちに始められる調達方法も含めて、まとめています。 ③-1 電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約 小売電気事業者が需要家に代わって、特定の発電設備から電力を調達する方法であり、小売電気事業者と需要家(必要に応じて、発電事業者を含めた3社契約)で長期の契約を締結することになります。 日本では小売供給に該当する場合、小売電気事業者を介する必要があることから、この形態は、前編で紹介したフィジカルPPAの形態になります(詳細は前編をご確認ください)。 国としては、「発電事業者と需要家とが直接小売供給を契約できるようにすべきとの声が出てきており、事業者の声も聞きつつ課題を検討する」ことを、電力・ガス基本政策小委員会に提起しており、将来的には発電事業者と需要家が直接契約する調達方法が実現できるかもしれません。 ※第29回 電力・ガス基本政策小委員会 資料5より当社で加工 ③-2 電力サプライヤーとの契約-小売供給契約 小売電気事業者が提供する再生可能エネルギー特約やカーボンフリー、CO2フリーなどの電力と環境価値をセットで購入する契約メニューを選択する方法です。 小売電気事業者によっては、いろいろな契約メニューが用意されており、地産地消を切口(例えば、○○県の水力や太陽光発電所などの電源から供給)としたメニューやRE100対応のメニューなどがあります。 また、環境価値を付加する電力量や割合(購入電力量に対し、30%など)を選択できる契約メニューを提供している会社もあります。 日本では、小売電気事業者が販売する系統電力の環境価値は、非化石証書に統一することとなっているため、小売供給契約には④-1に記載するいずれかの非化石証書が付加されています。 ここで、小売供給契約を締結する企業に認識していただきたいことは、「⾮化⽯証書の使⽤の有無や種類」と「調達する電源種別」のそれぞれの組み合わせによって、契約内容の表示(訴求内容)が違うということです。 下記に簡略化した表示のイメージを記載しますが、非化石証書では「FIT証書または非FIT(再エネ指定あり)」を使用し、かつ調達する電源種別には「FIT電気または再エネ電源」でなければ、「再エネ」という表示はできません。 その他の場合には、【実質】という表記などが必ず加えられていますので、企業さまで求める価値を考えたうえで、契約メニューを選択することをお勧めします。 出典:電力・ガス取引監視等委員会 第92回 制度設計専⾨会合資料にもとづき当社で加工 ④ 電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達 日本国内の調達方法としては、非化石証書、J-クレジット(再エネ)、グリーン電力証書、I-RECがあります。 ④-1 非化石証書 「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」、通称「高度化法」という制度があり、その中で小売電気事業者は、供給する電気のうち「非化石電源(非化石エネルギーを使って発電する方式)」で作られた電気が占める比率(非化石電源比率)を、2030年度に44%以上にするよう求められています。 この「非化石電源比率44%」という調達目標の達成を後押しするための政策のひとつとして、非化石エネルギーで発電された電力のもつ「非化石価値」を電気と分離して市場で取引すること(非化石価値取引市場。その市場で取引するものを非化石証書といいます。)が2018年から開始されました。 その後、再エネ価値に対する需要家ニーズの増大を踏まえ、2021年に非化石価値取引市場を2つの市場に分離、また買い手やトラッキングなど様々な議論を経て、現在は下記のように整理・運用されています。 ※2022年度以降に営業運転を開始した、新設非FIT電源、新設FIP電源、FITからFIPに移行した電源。卒FIT電源 非化石証書の約定量は年々増加しており、需要家のニーズが高まっていることが見て取れる状況にあります。国としては、さらなる非FIT直接取引の対象拡大や有効期限の見直しなどを検討していくことから、需要家が「環境価値の調達方法をより選択し易くなる」仕組みへと向かっています。 また、他の環境価値に比べて、取扱量が多く、価格が安定している反面、購入時期が4回/年、かつ環境価値の利用期限があることから、計画的な購入が必要になります。 ④-2 J-クレジット J-クレジット制度とは、省エネ設備の導入や再生可能エネルギー設備の活用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を、クレジットとして国が認証する制度です。 J-クレジットには対象となる活動が方法論として取りまとめられており、その活動(プロジェクト)を実施しなかった場合の想定CO2排出量(ベースライン排出量)とプロジェクト実施後CO2排出量との差である排出削減量が、 「J-クレジット(環境価値)」として認証されます。 ※]-クレジット入札価格:日本取引所グループ ※その他の種類として、工業プロセスや農業があります。 非化石証書が系統電力の環境価値であるのに対し、J-クレジット(再エネ)は原則として自家消費した電力の環境価値を対象としています。 このため、J-クレジット(再エネ)を創出した企業は、排出削減量はなかったものとして自社の排出量を計算する必要があります。 J-クレジットの特徴としては、非化石証書などと同様に温対法や省エネ法への報告、およびCDP・SBT・RE100において活用できるだけでなく、カーボンオフセットとしても使われています。 また、購入時期に縛りや環境価値の利用期限がないところは非化石証書とは異なり、他社への転売が可能という特徴も他の環境価値とは異なる点です。 ※カーボンオフセットの詳細は、J-クレジット制度をご確認ください。 ④-3 グリーン電力証書 グリーン電力証書は、風力、太陽光、バイオマス(生物資源)などの自然エネルギーによって発電された電力の環境価値を、第三者認証機関の認証を得て証書化したものです。 2001年から始まったグリーン電力証書は、現在、東京都が実施する助成事業「地産地消型再エネ増強プロジェクト」でも活用されています。 電気事業者の系統に供給されている電力と自家消費されている電力の両方の環境価値を証書にすることができるという点が特徴です。 ※参照:一般財団法人日本品質保証機構HP 温対法や省エネ法への報告、およびCDP・SBT・RE100において活用できるだけでなく、購入時期に縛りや環境価値の利用期限がないことから、柔軟に対応できる反面、他社への転売ができないことや認証発行事業者と相対でしか取引できないことから、購入量などの条件により他の環境価値よりも価格が高くなる可能性があります。 ④-4 I-REC 世界約50ヵ国(アジア、南米、アフリカ等)で発行される国際的な再エネ属性証書として、グローバル企業でのニーズが期待されています。 日本では、I-REC発行主体として、(一社)ローカルグッド創成支援機構が指定されており、証書売買および証書償却等のプラットフォームオペレーターをSCSK(株)が担っています。 日本の非化石証書は、電気の環境価値を証明するものであり、第三者に産地価値や特定電源価値を証明することはできないと整理されています。 つまり、トラッキング付き非化石証書には、発電所の所在地・電源種別等は記載されていますが、産地価値・特定電源価値を証明するものではないということです。 一方で、I-RECは、環境価値に加え、産地価値や特定電源価値を証明できる属性証書であり、購入した電力がどの地域のどの発電所でつくされたのかを第三者に証明することが可能です。 また、これまでご紹介した非化石証書、グリーン電力証書、J-クレジットと異なり、温対法に対応できないという欠点もあります。 そういった欠点を補うため、I-RECと非化石証書を組み合わせたサービスの提供も行われています。 (詳細は、当社【お知らせ】をご確認ください。) ・日本でのI-REC発行について(ローカルグッド創生支援機構)をもとに当社で加工 ・第30回 ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会資料をもとに当社で加工 まとめ 2回にわたって、「再生可能エネルギーの調達方法」をご紹介しましたが、何を優先するのかによって最適な調達方法も異なります。 当社ではCO2排出量の把握や情報開示の支援に合わせて、最適な調達方法のアドバイスや非化石証書の調達なども支援いたしますので、お気軽にお問合せください。 参考資料:自然エネルギー財団 コーポレートPPAの 最新動向(2024年度版) (執筆者:佐藤)
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