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カーボンクレジットとは何か? カーボンクレジットに関連する基礎用語を知ろう

 2024年も半分以上が過ぎ、残暑もまだ続く9月ですね。年も半分を過ぎたということで、改めてカーボンクレジットとは何か?クレジットに関連する用語について、メルマガで執筆をさせていただこうという次第です。
 まず、なぜ今更、基礎という方も勿論いらっしゃることは重々承知の上ではございますが、今年の4月からSustainabilityや環境関連部、もしくは各プロジェクトに初参加された方々にも是非この、わかりづらすぎるクレジットの世界について少しでもご理解を深めていただければという事が今回の主旨でございます。(私自身も、大量の情報、大量の英語の頭文字に毎度苦しめられておりますので、少しでも助けになれば幸いです)

 では…、カーボンクレジットの基礎について学んでいきましょう!

  • カーボンクレジットとは?

     まずはカーボンクレジットとは一体全体何なのでしょうか。
    カーボンクレジットとは一般に、ベースラインと比較した時の温室効果ガス排出削減量や吸収量をクレジットとして認証したものを指します。
    つまり、プロジェクトを通して温室効果ガスの排出削減や吸収の増大に貢献した価値をクレジットとして創出して、売買できるようにしているということです。

  • ベースラインって何?

     次に、カーボンクレジットについて、話すと出てくるのが、「ベースライン」ですね。では、「ベースライン」とは何でしょうか?
    ベースラインとは削減・吸収プロジェクト活動の比較対象となるものです。プロジェクト活動のGHG削減量は、「ベースライン排出量ープロジェクト活動からの排出量」の式で定量化されます。ベースライン排出量の算定方法には複数ありますが、ここではよく見られるベースラインシナリオによる方法をご紹介します。
     ベースラインシナリオとは、地球温暖化防止の対策を全く考慮しない場合に、最も起こりやすいと考えられる状況のことです。例えば、再エネが導入されずに、化石燃料を使用している状況=ベースラインシナリオです。「GHG プロトコル」では、次の3つのシナリオがベースラインシナリオになり得るとあります。

    • プロジェクト活動で用いられるのと同様の技術や実施方法が使用されるシナリオ
    • ベースライン候補が実施されるシナリオ(代替技術等)
    • 現在の活動、技術、実施方法が継続され、(該当する場合には)プロジェクト活動と同様の種類、 量、品質の製品やサービスを提供するシナリオ(効率改善、森林経営活動等)

     

  • 追加性はなぜ重要なのか?

     次に、追加性についても、簡単に基本的な概念にだけ、ここで触れておきます。
    追加性について、経産省では下記の様に示しています。

     ・プロジェクトベースの排出削減・炭素吸収・炭素除去は、 そのプロジェクトが実施されなかった場合に発生したであろう排出削減・炭素吸収・炭素除去から、追加的なものでなければならない。
     ・ カーボンファイナンスが利用できなければプロジェクトは行われなかったことを実証しなければならない。

     追加性が重要な理由として、GHG排出量取引制度があります。排出量取引制度を導入している国・地域の多くは、排出量取引制度とセットでクレジット制度も導入しています。排出量取引制度では各施設に排出量の上限を設け、上限を超えてしまった場合には、クレジット制度で創出された「オフセット・クレジット」で超過分を相殺できるようになっています。クレジット制度では排出量取引制度の対象外であるGHG削減や吸収量増大プロジェクトからクレジットが創出されます。
     つまり、オフセット・クレジットでの相殺は、各施設にクレジットと同量の排出を認めることであり、その代わりに別の場所で排出削減、吸収量増大が行われることを前提としています。しかし、GHG削減や吸収量増大のプロジェクトの中には排出量取引制度が無かったとしても当たり前に行われていたはずのものもあります。成り行きベースで減る予定だったものを担保に施設に追加的な排出を認めてしまったら、地球全体の排出量は増えてしまいます。そのため、このクレジット制度がなかったら行われていなかったものを対象としてクレジットが作られる必要があります。

  • 相当調整やArticle6とは?

     Article6は、パリ協定に基づく国際的な炭素市場を設立し、各国が炭素クレジットを取引できるようにするものです。Article6では、売却国が許可した排出削減量を他国に売却できますが、その削減量を自国のNDCに含めるのは1カ国のみです。これにより、二重計上を避けて世界全体の排出削減量が過大評価されないようにすることが重要です。
    二重計上を防ぐための「相当調整」という算定方法も設けられています。この調整は、コンプライアンス市場だけでなく、自主的な炭素市場にも適用される可能性があるものの、まだまだ、議論中のトピックが数多く存在し、次のCOPでの議論が待たれるところです。

  • カーボンクレジットはどこで使えるのか?

     カーボンクレジットは、以下の場面で使用されます。(今回は自主的な取り組みを対象に整理します。このほかに規制対応の用途も考えられますがここでは割愛します。)

    1)ネットゼロ目標達成近辺(2050年ごろ)
     ネット・ゼロ目標達成時に削減できない温室効果ガス(GHG)の影響を、大気中のCO2を永久に除去・貯蔵することで中和(neutralization)する際に使用。このCO2削減は、バリューチェーンの内外で行うことができます。
     ⇒ちなみにここで使えるクレジットは自然由来・および技術由来のRemoval系のクレジットです。なぜならば、中和(neutralization)には「CO2を長期的に固定する永続性」が求められるからです。クレジットの種類については、後で少し触れます。

    2)BVCM(バリューチェーンの外側)
     こちらは、皆様すでにご購入されている、もしくは検討されている部分ですね。こちらは今からでも始めていただく事が出来ます。これは、皆様のバリューチェーン内での排出で削減できていない部分を、バリューチェーンの外へ投資(クレジットを購入し、無効化)することで、気候変動へ社会全体という大きな視点から貢献するものです。
    あくまでもボランティアの部分ではありますが、外部からの評価ポイントの一つとなっていく可能性もあります。

  • クレジットにはどんな種類があるのか?

     では最後に、カーボンクレジットといってもどんな種類があるのか?というところですね。こちらも大きく分けて下記2つにわけられます。
      
     1)「排出回避/削減(Avoidance/Reduce)」
     2)「固定吸収/貯留(Removal)」

     この2つのカテゴリがさらに、自然ベース・技術ベースで分かれていきます。例えば、自然ベース「排出経費・削減」に入るのがREDD++、技術ベースが燃料転換、輸送効率改善。一方で、固定吸収系の自然ベースは「植林、再植林」、技術ベースは「Direct Air Carbon Capture and Storage(DACCS)」などがあげられます。
     その名の通りといってはなのですが、回避や削減クレジットは、ダイエットでいうところの「ジムや食生活改善」で減らしていくイメージで、固定吸収系は「脂肪吸引」のような、改善というより実力行使に近いものと言えるかもしれません(植林とかは少し違いますが…)。そして、やはりこういう実力行使系は値段が高いですよね。ですが、このようなクレジットが必要ですし、今はこのクレジットを普及させるために様々な会社が投資を行っているわけです。美容やダイエットの分野でも、脂肪吸引や整形は以前よりもどんどん金額が下がり、クオリティは上がっていると思います。固定吸収系・貯留系のクレジットもこのようになっていくのが理想です。

 さて、今回はクレジットについての基礎知識のコラムを書いてみました。いかがでしたか?
いよいよClimate New York、COPと年末にかけてたくさんのイベントが目白押しです。クレジットの動向についても要注意となりますので、ぜひ目を光らせて、見ていきましょう!

参考資料:
The GHG Protocol for Project Accounting, The Greenhouse Gas Protocol
Project Protocol |GHG Protocol
SBTi ,Above and Beyond: An SBTi report on the design and implementation of beyond value chain mitigation (BVCM)
経済産業省:カーボンクレジット・レポート,20220628003-f.pdf (meti.go.jp)

(執筆者:銭谷)

 

 

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企業の気候関連情報開示の今後の行方は?ISSB、そしてSSBJの草案について解説(前編)

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国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(後編) | 業界動向

国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(後編)

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国際基準の再エネ属性証書「I-REC」について(前編)

   現在多くの企業が脱炭素へ取り組み、その実現に向け再生可能エネルギー(再エネ)を活用することが重要です。しかし、日本の再エネの利用には課題があります。具体的には、再エネの電力がどのように生成されたのか、どの発電所から供給されているのかといった情報を追跡する仕組みが不足していることです。この問題を解決するための国際的なエネルギー属性証明の仕組みの1つである「I-REC」を紹介します。 I-RECとは  「I-REC(International Renewable Energy Certificate)」は、欧州、北米を除く国で発行される国際的なエネルギー属性証明(電気等の環境面の特性を示す証書)です。欧州のGOや北米のRECといったエネルギー属性証明と同様の仕組みが他の国でも使えるように、オランダのNGO、The International REC Standard Foundation(I-REC Standard)が標準化、ルールを設け、そのルールの下に、国ごとに認定された発行体が運営を行い、証書を発行しています。証書を発行・管理するためのレジストリーも、I-REC Standardの出資先が運営するものを、各国共通で使用します。現在、世界約50か国・地域で使用されていますが、一部の国では政府が運営する証書とともに使用され、補完的な役割を担っています。 日本でも、2021年2月に一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が唯一のI-REC発行主体として指定され、この証書を利用できるようになりました。   I-RECの特徴  以下の主要な特徴があります。  ① CDP、SBT、RE100に利用可能 (日本国内制度では使用不可)  前述の通り、欧州のGOや北米のREC等を参考とした国際標準のルールの下に発行される証書であり、CDPや、RE100・SBTといった国際イニシアティブにおいて利用が認められています。 GHGプロトコルはScope2ガイダンスで、証書の品質基準を定めており、CDP、SBT、RE100はいずれもこれに準拠しています。I-RECはこの要件を満たしており、よって、いずれにおいても利用が認められています。(要件は以下表を参照ください。RE100はScope2ガイダンス準拠に加えてそれ以外の独自要件もあり。) 「RE100」では、RE100達成(再エネ電力100%達成)のための再エネ調達量として問題なく報告が可能です。同様に「CDP質問書」では【エネルギー属性証書】として、再エネ調達量としての回答が可能です。また、Scope2マーケット基準の報告では、排出係数0の電力として計算し報告が可能です。「SBT」でも同様に、基準年と進捗の評価にScope2マーケット基準を採用する場合には、排出係数0の電力として計算ができるため、Scope2の削減手段として利用が可能です。 電力証書が自然エネルギーを増やす:日本と海外で隔たる制度 (renewable-ei.org) P7    一方、地球温暖化対策推進法(温対法)など、一部の日本の制度ではI-RECを使ったオフセットが現在は認められていません。環境価値を主張する場合は、別途非化石証書を取得する必要があります。 「日本でのI-REC発行について」(2023年8月10日更新)- ローカルグッド創成支援機構 Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp) P13   ②相対取引による売買   I-RECは相対取引で売買されます。よって価格は固定されません。また、どのような発電方法でどのような場所で作られた再エネかといった、環境面の特性が証明されているため、環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいもの、地域貢献度の高いものなどがより評価され、高い価格で取引されるような仕組みになっています。     非化石証書との違い  大きな違いは以下2点ございます。 ①トラッキング情報、価格差  非化石証書は、I-RECのような国際的な再エネ属性証書とは異なり、証書の対象になる電力が FIT か非 FIT か、再エネ由来かそうでないか、という情報のみ把握でき、産地・電源種別等の情報がありません。解決策として、非化石証書を購入した後に、後付けでこれらの情報を追加する「トラッキング付き非化石証書」が導入されています。これにより、発電方法や運転開始日、所在地等の情報を把握できるようになりましたが、非化石証書の購入段階では把握できず、本来は評価が異なるはずのものが、一律の入札方式で同じ価格で取引されてしまいます。購入した結果、希望した条件にあうトラッキング情報がつかない可能性もあります。海外の証書は環境負荷の低い発電方法や運転開始日が新しいものほど価格が高くなりますが日本で価格差が生じにくいのは上記の背景にございます。資源エネルギー庁は上記の背景により非化石証書も海外の証書と同様に、発行した時点でトラッキング情報を付与する形に変更を検討しています。   ②産地価値と特定電源価値    電力に付随する価値は複数あります。CO2排出削減等の環境価値や、特定地域で作られた産地価値、特定の電源で作られた特定電源価値等です。非化石証書にはこのうち、産地価値と特定電源価値 が含まれていません。日本ではこれらの価値は証書ではなく電気取引に付随すると整理されています。再エネの産地や電源について訴求したい場合、非化石証書に発電方法や発電所の所在地の情報が付与されていたとしても、それによって訴求してよいとは限らず、電力の取引契約とセットとなっている必要があります。先述の国際的な証書の要件の通り、本来はこれらの価値のすべてを集約すること(属性の集約)が求められています。資源エネルギー庁では、産地価値と特定電源価値を含むすべての属性を持つ証書の整備を検討しています。 https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_RE-Certificates.pdf P.40   後編ではI-RECの購入方法や今後の展望についてまとめます。   参考資料 ・電力証書が自然エネルギーを増やす日本と海外で隔たる制度 電力調達ガイドブック 第6版(2023年版):自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け | 報告書・提言 | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・電力調達ガイドブック 第6版(2023年版)自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)   ・日本でのI-REC発行について(2023年8月10日 一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 ) Microsoft PowerPoint - å,gnI-RECzLkdDf20230810 (localgood.or.jp)   (執筆者:小澤)

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IFRS S1・S2基準の最終版への対応について | 業界動向

IFRS S1・S2基準の最終版への対応について

    2023年6月26日、ISSB(International Sustainability Standard Board、国際サステナビリティ基準審議会)は、最終化されたサステナビリティ開示基準を公表しました。 ISSB は、それまで複数存在していたサステナビリティ開示基準を統合し、国際的な一貫性及び比較可能性を実現することを目的として設立された組織です。 今回公表された基準は、(1) サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)と、(2) 気候関連開示(IFRS S2)から成り立っています。また、S2付録 B として「産業別要求事項」があります。 IFRS S1では、投資家の投資判断に資する、サステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報の開示が要求されています。開示タイミングや開示場所、不確実性に対する情報、誤謬の取り扱いなど、全般的な要件が定められています。 IFRS S2では気候変動関連の開示のより詳細な基準が定められています。今後は、「人的資本」「生物多様性」などほかのサステナビリティテーマに係る基準も公開される見込みです。ここでは気候変動への対応に焦点を絞ってお話しします。   基準側の動きとして、今回の公表と同タイミングで、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候変動関連財務情報開示タスクフォース)を運営する金融安定理事会は、気候変動開示に関するモニタリング機能を、ISSBへ移管すると発表しました。これによって、TCFD提言対応は、さらなる高度化を求められていくことになる見込みです。 さて、これらの動向に対して、本コラムでは大きく2つのことを強調できればと思います。 ■TCFDとIFRS S1・S2の関連 第一にお伝えしたいことは、TCFDが提唱したフレームワークの役割がなくなったわけではないということです。公表されたIFRS S1・S2は、TCFDフレームワークを土台に作成されています。企業が、ISSBの求める基準に対して足りない部分を明確にし、開示内容の充実に取り組む必要があるのは確かですが、まずはTCFDで定められた要件への対応が先決であることは変わりません。TCFDフレームワークは、2021年10月のコーポレートガバナンスコードの改訂で、日本のプライム企業には開示が実質的に義務化された事項です。TCFDへの対応が不十分な企業については、まずはTCFDフレームワークへの対応を通じて、段階的に開示案を検討していくことが重要です。TCFD対応については、環境省をはじめガイダンス資料も充実していますので、そちらを参考にされるとよいでしょう。なお、TCFDとIFRS S2との差異については、IFRSによる公式資料*が公表されています。   参考資料①:気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp) 参考資料②:「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0(TCFDガイダンス3.0)」を公表しました。 | TCFDコンソーシアム (tcfd-consortium.jp) ※ソース:Comparison IFRS S2 Climate-related Disclosures with the TCFD Recommendations   ■CDP質問書の活用 第二に、開示には、媒体やプラットフォームの特徴をうまく使い分けることが必要という点です。多くの企業では、サステナビリティ開示について似たような内容を異なる媒体で開示することが求められているかと思います。例えば、自社のサステナビリティレポートや有価証券報告書、Eco-VadisやCDPといったプラットフォーム、そして各取引先企業やメディアからの調査票などです。 その中で、IFRS S1 およびS2の開示案を検討する際に有効な補助ツールとなると考えられるのが、CDP質問書です。CDP質問書では、TCFDとCDPの関連性はもとより、すでにIFRSとの整合性を意識されて構成されています。そして、2024年度版からは、IFRS S2への準拠が正式に発表されています*。そのため、CDP質問書への回答がすでに充実している企業は、今後もCDP回答との対応を意識するとよいと考えられます。CDP質問書の内容や公開されているガイダンス、スコアリング基準は毎年更新されますので、これらを参考にすることで、IFRS基準での開示で評価されるポイントについての実務的な観点を補うことができると考えられます。 参考資料③:開示サポート - CDP ※ソース:https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/11/cdp-to-incorporate-issb-climate-related-disclosure-standard-into-global-environmental-disclosure-platform/   ■今後の日本企業の対応について 日本企業に関しては、2022 年7月に設立されたSSBJ(サステナビリティ基準委員会)主導で、日本版のサステナビリティ情報開示基準がISSBに準拠する方針で検討されています。2024年度中には確定基準が公表され、早くて2026年3月期から有価証券報告書への適用が見込まれます。有価証券報告書に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が新設され、「ガバナンス」「リスク管理」の開示を要求、「戦略」「指標及び目標」については各企業が重要性を踏まえ判断、という内容で検討されています。   参考資料④:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」   本コラムではいくつかの公開ガイダンスを紹介しました。IFRSの最終版は、これまでのサステナビリティ開示の論点を改めて明確化したという意味合いが強いですので、既存のガイダンスをうまく活用しつつ、対応していくことが重要と考えられます。   (執筆者:馬場)  

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