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SBTi FLAG目標について(後編)

 

SBTi(Science Based Target initiative)は昨年「Forest, Land and Agriculture(FLAG)」セクターガイダンスを発表しました。これを受け今年4月30日以降、対象企業には新たにFLAG分野の目標設定が求められるようになりました。このFLAG目標の概要を2回に分けて整理しています。今回はその後編として目標設定において必要な要件についてまとめます。

 

目標設定対象企業

前回のおさらいになりますが、FLAG目標の設定が必要な企業は以下の企業です。

  • 森林・紙製品、農業生産、畜産、食品・飲料加工、食品・生活必需品小売、タバコセクターの企業
  • その他のセクターの企業で、FLAG関連の排出量が、スコープ1,2,3の総排出量の20%以上である企業

※例えば以下のような企業は該当する可能性があります。

小売業、容器・包装、ホテル・レストラン・レジャー・観光サービス、繊維製造・紡織・アパレル、繊維・アパレル・靴・高級品、耐久消費財、家庭用品・個人用品、タイヤ、建築製品、住宅建築、建設資材、建設・メンテナンス、インフラ開発、鉱業、道路建設、資源採取

 

FLAG関連排出量が20%未満である場合もFLAG目標設定が推奨されています。(任意)また、FLAG目標を設定しない場合にも、非FLAG排出量(従来のSBTが対象とするエネルギー・産業分野の排出量)とともにインベントリに含める必要があります。中小企業はFLAG目標設定の必要はありません。既存の中小企業ルートで目標設定を行います。

 

目標水準

目標水準としては1.5℃水準が求められます。目標設定方法には以下の2種類があります。

  • FLAGセクター経路:

総量削減目標(年率3.03%以上。炭素除去含む)。主に小売等の需要側向け 

  • コモディティ原単位経路:

原単位削減目標。主に生産等の供給側向け。現在、牛肉、鶏肉、乳製品、皮革、トウモロコシ、パーム油、豚肉、米、大豆、小麦、木材・木質繊維の11種類を整備

 

食品生産や小売等の需要側企業はFLAGセクター経路を使用します。農産物生産等の供給側企業で、コモディティ原単位経路が整備されている製品を扱っており、その排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は、該当のコモディティ原単位経路かFLAGセクター経路のどちらかを選択することが可能です。コモディティ原単位経路が整備されていない製品を扱っている場合はセクター経路を使用します。森林・紙製品セクター企業、木材・木質繊維に関する排出量がFLAG排出量の10%以上を占める企業は必ず木材・木質繊維のコモディティ原単位経路を使用する必要があります。

削減率の水準については、非FLAG同様、SBTiが各経路の目標試算ツール「SBTi FLAG Tool」を提供しているので、そちらでご確認ください。

 

目標範囲

大前提として、対象企業は自社の排出量をFLAGと非FLAGに分けて管理し、それぞれの排出削減目標を設定する必要があります。FLAG排出量は「ファームゲートまで(農家等の生産者の拠点を出るまで)」、ファームゲートより先の排出量は非FLAG排出量として整理されます。FLAG目標はこのうちのFLAG排出量を対象範囲とします。

FLAG排出量はさらに排出量と炭素除去量に分けて管理することが求められています。FLAGの排出量には、土地利用変化に伴う排出量と土地管理に伴う排出量の2種類があります。土地利用変化に伴う排出量は、森林が農地に転換される等といった土地利用変化による、バイオマスや土壌等の炭素蓄積量の減少分を排出量として計算します。転換による排出は転換後20年間にわたり考慮します。土地ごとに計測によって把握する直接的土地利用変化(dLUC)手法と、特定の地域全体における土地利用変化の状況から推計する統計的土地利用変化(sLUC)手法の2つの方法があります。土地管理に伴う排出量は、農業等人為的に土地を管理することによって発生する排出量を対象として計算します。肥料使用によるN2Oの排出や水稲によるCH4の排出等、従来のGHG排出量算定の中でも一部は考慮されてきたものです。

炭素除去量はバイオマスや土壌などの炭素蓄積量の増加分を除去量として計算します。除去量は継続的に貯留されモニタリングされるもののみを加算する必要があります。

上記を含む炭素除去の要件を満たすとき、除去量はFLAG目標の達成に使用可能です。(FLAG排出量は排出量から炭素除去を除いたネット排出量で考慮されます。すなわち、炭素除去がFLAG排出量削減の手段となります。)しかし、FLAGの炭素除去は非FLAG目標の削減には使用できません。また、FLAGの炭素除去はサプライチェーン内での炭素除去のみが対象であり、サプライチェーン外の炭素除去(クレジットの購入等)の使用は認められていません。

 

非FLAG目標と同様に、FLAG目標でもScope1,2及びScope3排出量(Scope3排出量がScope1,2,3排出量全体の40%以上を占める場合)を対象範囲として目標を設定します。土地を直接所有・管理している企業はFLAG関連のScope1排出量が発生している可能性があります。土地関連の活動を行うサプライヤーから製品・サービスを購入している企業はFLAG関連のScope3排出量が発生している可能性があります。Scope1,2の 95%以上、Scope3の67%以上を目標範囲としてカバーする必要があります。

 

基準年・目標年

基準年・目標年の考え方も非FLAG目標と同様です。基準年としては2015年以降、目標年は申請時点から5~10年先までの間で設定する必要があります。FLAG目標と非FLAG目標はできるだけ同じ期間とすることが推奨されています。

 

森林破壊ゼロ

FLAG目標設定企業は、排出削減目標の設定に加えて、森林減少0(森林破壊を行わないことを約束する)への宣言が求められています。宣言の所定文言は以下で、他の排出削減目標の文言と一緒にSBTiのウェブサイトに掲載されます。

“[Company X] commits to no deforestation across its primary deforestation linked commodities, with a target date of [no later than December 31

(”【企業X】は、【遅くとも2025年12月31日までの期日を設定】を目標に、主要な森林破壊に関連する商品について、森林破壊を行わないことを約束する。”)

森林減少0の約束はScope1,2範囲だけではなく、Scope3も含まれ、またScope3の目標範囲の67%以上に限らず全ての範囲に適用されます。

 

最後に

以上がFLAG目標の主な要件です。目標設定のためにまず必要なのはFLAG排出量の算定ですが、現状難易度が高い状況です。GHGプロトコルの土地セクターガイダンスの最終化が行われている途中であり、排出量計算のための排出原単位も十分整備されている状況とは言えません。参考にできる算定事例もまだ少ない状況です。LCA排出原単位データベース等一部の既存の排出原単位には非FLAGとともにFLAG排出量が全てもしくは一部考慮されている場合もありますが、非FLAGとFLAGを分けることが困難であったりもします。このような中、各社試行錯誤の上算定を行っている状況です。よって、現時点で利用可能なものを活用し可能な範囲で算定を行い、今後新たな算定方法やデータベース等が出てきたり確立されてきたりした際には随時アップデートする等、段階的な対応を行っていくことがポイントと言えそうです。

 

 

参考資料

SBTi 「FOREST, LAND AND AGRICULTURE SCIENCE BASED TARGET SETTING GUIDANCE」

https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Target-Validation-Service-Offerings.pdf

 
(執筆者:山本(裕))

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製品カーボンフットプリントあれこれ

 企業が気候変動対応を迫られる中、組織の排出量であるScope1,2,3の開示に加え、製品・サービスあたりの排出量である製品カーボンフットプリントを算定する企業が増えています。しかし、製品カーボンフットプリントと一口に言っても、それらを算定する背景や目的は企業によって大きく異なります。本稿では、バラエティに富む製品カーボンフットプリント算定の実態と、今後の展望について考察します。 カーボンフットプリント算定の実態と課題  製品カーボンフットプリントの算定は、製品やサービスのライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を可視化し、効果的な削減策を講じるための基盤となります。一方で、算定において参照する規格やガイドラインは多岐に渡り、また、カーボンフットプリントの算定対象製品、算定範囲、算定目的等も各企業によってさまざまです。そのため、これから算定を考えている人、他社の算定結果を見る側の人、多くの担当者が“正解”がわからず苦慮している実態があります。こうした場合、まず認識を改めなければならないのは、製品カーボンフットプリントの算定においてただ一つの“正解”はないということです。以下に製品カーボンフットプリントに関連する主な規格、ガイドラインを挙げます。   ・ ISO 14040/14044:ライフサイクルアセスメント(LCA)算定の要求事項と指針を示す。 ・ ISO 14067:カーボンフットプリント算定の要求事項と指針を示す。 ・ PCR:Product Category Rules。製品カテゴリ別のLCA算定ルール。EPD(ISO14025に基づく環境ラベル)等、比較を前提とした算定の際に使用される。 ・ Pathfinder Framework:WBCSD主催のPACTが定めるLCA算定とデータ交換のための指針を示す。 ・ 各国の規制に基づく算定ガイダンス: CBAM、電池規則など ・ その他:化学や電子・電子機器等の業界団体によるガイダンス、CFP算定ガイドライン(経済産業省)など  これら規格、ガイドラインにより算定方法(組織境界の設定、カットオフ基準、活動量及び排出原単位の設定方法など)が異なるため、同じ製品であっても算定結果は変わり得ます。従って、算定する側も算定結果を見る側も、どのような規格に基づいて算定するか、あるいは算定されたものであるかを理解する必要があります。また、どの規格、ガイドラインを用いて算定するかについては、算定する目的によって決まることから、算定目的の明確化が重要となります。以下に算定の背景・目的に応じた参照規格の概略図を示します。 今後の製品カーボンフットプリント算定の方向性  これまで、企業の製品カーボンフットプリントの目的は、自社製品の優位性を対外的に示すなど、自主的な算定が主流といえましたが、近年は顧客へのデータ提供のための製品カーボンフットプリント算定が進んでいます。その背景には、顧客が自社のScope3や製品カーボンフットプリントの削減することが目的にあります。また、各国の規制への対応としては、EUバッテリー規則、EU-CBAMに対応するための製品カーボンフットプリント算定も進められています。  また、業種別でみると、特に建設セクターにおいて、LEED認証やEU建設資材規則などの規制やイニシアティを背景に、EPD取得を目的とした算定や、EN15804+A2等の規格への準拠性を重視した算定が進んでいます。こうしたケースでは、製品カーボンフットプリントのみならず、大気汚染物質や水質汚濁物質など、気候変動以外の環境への影響も算定するLCAが求められる点に注意が必要です。また、これら欧州を中心とした規格に基づく算定においては、日本の排出原単位データベースやLCA算定システムでは対応できない場合も多く、海外の排出原単位データベース、LCA算定ソフトウェアの使用が必要となる場面が高まっていることも認識しておく必要があります。以下に代表的なLCA算定ソフトウェアを示します。 ・ SimaPro:世界で最も広く使用されるLCAソフトウェア。オランダの環境コンサルタントPRe Sustainability社が開発。排出原単位データベースとしてEcoinventを搭載しています。 ・ LCA for Expert(Gabi):世界でも広く使われているLCAソフトフェア。ドイツSphera Solutions GmbH社が開発し、Sphera社独自開発の原単位データベースも整備しています。 ・ One Click LCA:フィンランドのOne Click LCA社開発の建設業界に特化したLCAソフトウェア。Ecoinvent等の汎用データベースの他、200,000以上のグローバルのEPD情報を網羅しています。  顧客の要請や対応する規格によっては、算定した数値に対して第三者検証が必要となります。現在、第三者検証まで実施、または実施を予定している企業が増加しており、今後もこの傾向は続くものと考えられます。 まとめ  今回は製品カーボンフットプリント算定の実態と課題、今後の方向性について記載しました。単に“製品カーボンフットプリント”と言うだけでは不十分であり、コミュニケーションの際には何に基づくカーボンフットプリントであるかをしっかりと示すことが重要といえます。また、製品カーボンフットプリントの数値にただ一つの“正解”はありません。ISO14044,14067では条件の異なる他社の開示内容との比較主張は厳しく制限されています。これは他社の算定結果を見る側も、安易な比較はできないという点を十分理解すべきであり、製品カーボンフットプリントを算定する側、結果を見る側双方のリテラシー向上が求められます。  製品カーボンフットプリントについては、新たな規格、ガイドラインの策定が現在も進められており、今後これらを注視していく必要がありますが、算定目的によって最適な規格、ガイドラインが決まるという部分は変わりません。“カーボンフットプリント”を算定する際は算定目的を明確化し、最適な規格、ガイドライン参照することで、その製品にとっての“正解”にたどり着くものと考えます。   (執筆者:久保(隆))    

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再生可能エネルギー電力の調達方法について(前編)

 気が付くともう師走。秋をあまり実感できないまま、コートや暖房が必要な季節を迎えてしまいましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。  電気・ガス料金の負担軽減策が、来年1月~3月の使用分に限り再開されることが決定し、筆者宅では(気が緩んで?)12月の電気・ガスの使用から増えている状況ですが、企業では外的な要因に影響されることなく、持続的に気候変動への取組みを進めていく必要があります。  これまで数回にわたり、スコープ3削減やカーボン・クレジットに焦点を置いていましたが、今回は自社で取り組めるスコープ2の削減策である「再生可能エネルギー電力の調達方法」についてご紹介します。 再生可能エネルギーの調達タイプ RE100で認められており、CDPでもスコアリングの対象となる調達方法は、日本では4つのタイプに大別されます。   ①自家発電(自社で設備を保有して発電) ②直接調達(発電事業者と自社の契約)―フィジカルPPA、バーチャルPPA ③電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約、小売供給契約 ④ 電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達 ① 自家発電  発電設備を自社の敷地内(または近隣)に設置する形態です。  自社の責任と負担で発電設備の設置・運転(委託も可)するものです。 ②-1 フィジカルPPA(PPA: Power Purchase Agreement(電力購入(販売)契約))  フィジカルPPAとは、発電設備で発生した電気と環境価値をセットで購入する契約形態を指し、2つの形態があります。  一つ目はオンサイトPPAと呼ばれるもので、発電設備を自社の敷地内(オンサイト)に設置する形態です。  自社の敷地内に設備を設置し、電力と環境価値をセットで自社施設に直接供給するという点では自家発電と同じです  が、発電事業者と自社とで「長期契約かつ固定価格」で購入契約を結ぶというところが大きな違いです。  自家発電と同様、送配電線を使用するための託送料金や再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)がかか  らないことから、通常の電力契約と比べて自社が負担するエネルギー料金が安くなる可能性があります。  一方で、敷地内の空き地や屋根など限られた場所に発電設備を設置することから、発電設備の規模(発電量)が限られ  ます。    【オンサイトPPA(電力使用量の20%の発電設備を設置した場合)】  二つ目はオフサイトPPAと呼ばれるもので、自社の電力を必要とする場所から離れた土地など(自社の敷地外=オフサ  イト)に、発電事業者が発電設備を建設し、自社が電力と環境価値をセット(長期契約かつ固定価格)で購入する形態  です。  (フィジカルPPAは、このオフサイトPPAをイメージする(指す)方も多いかもしれません。)  このオフサイトPPAは、送配電線を使用することから小売電気事業者※を介する必要があり、託送料金や再エネ賦課金  がかかることから、現行のエネルギー料金が安くできるとは限りません。  一方で、気候変動を抑制する「追加性」という視点を、RE100やCDP等でも重要視していることから、環境意識の高い企  業としての評価が得られます。  また、設置場所の制約を受けないことから、発電事業者などとの協議により規模の大きな発電設備を導入することがで  きます。  ※現在供給を受けている小売電気事業者以外の小売電気事業者からオフサイトPPAの電力供給を受ける(分割供給)   ことは可能です。(供給の形態には制約があります。)   ②-2 バーチャルPPA  これまでの電力と環境価値をセットで購入する形態と異なり、発電事業者と自社の間で電力を伴わない環境価値のみ  を購入する形態であることから、仮想の電力購入契約(バーチャルPPA)と呼ばれています。  フィジカルPPAと違い、既存の電力契約を変更することなく、環境価値のみ購入できるのも特徴のひとつです。  一方で、バーチャルPPAでは、発電事業者は発電した電力をすべて卸電力市場に売却(売電)することから、その売電収  入は市場価格により変動します。  発電事業者の収益が一定になるように、発電事業者と自社における「電力+環境価値」の取引価格を固定価格し、固定    価格と市場価格の差額を精算する(電力価格分を差し引く)仕組みが活用されることもありますが、その場合には自社    がその変動リスクを負うことになります。  このため、この変動リスクへの対応策として、FIP(Feed-in-Premium)制度を組み合わせるという方法が活用されて  います。  FIPとは、発電設備の認定を取得することで、発電事業者が国から市場価格に基づくプレミアム(補助額)を受けること  ができる制度です。  また、このバーチャルPPAも発電事業者との契約期間は、20年程度と長期にわたることから、小売電気事業者を介在  させる(手数料は上乗せされる)ことでその信頼性を向上させることも可能です。 まとめ  今回ご紹介した新たな発電設備を建設する自家発電やPPAは、RE100でも推奨されている追加性のある調達方法であり、発電設備の建設には時間を有することから、直ちに対応できるものではありません。後編では、追加性のある調達方法の「つなぎ」として、直ぐに始められる調達方法についてまとめます。 参考資料:自然エネルギー財団 コーポレートPPAの 最新動向(2024年度版) (執筆者:佐藤)        

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企業のESG評価

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Scope 3とカーボン・クレジット -企業の気候変動対策における課題と可能性-

 企業の気候変動対策において、Scope 3排出量の削減が重要な課題となっています。一方で、追加的な削減を主張するための手段としてカーボン・クレジットが注目されています。 Scope 3の削減もカーボン・クレジットの活用も「他者の排出削減」という点では共通していますが、両者の位置づけは異なるものです。  本稿では、Scope 3とカーボン・クレジットに焦点を充て、現状課題と今後の展望について考察します。 Scope3排出量の重要性と課題  2024年7月にSBTiが公表したScope 3 discussion paperによると、2023年度末時点で世界の時価総額の39%にのぼる4,205社の企業がSBTiにより目標の検証を受け、または目標のコミットメントをしており、そのうち97%がScope 3目標を掲げています。その一方で、多くの企業がその削減や進捗管理に苦慮している実態があり、Scope 3 discussion paperは、Scope 3の削減や評価について以下のような課題を提起しています。 データの信頼性と入手可能性:多くの企業が二次データや推計値に依存しており、正確な排出量の把握が困難である。 集計された排出量指標の限界:Scope3排出量は15のカテゴリにわたる多様な排出源を単一の指標に集約するため、個別の排出源の特性や時間軸の違いが見えにくくなる。 目標設定方法の限界:現在の目標設定方法は、排出量の絶対値や原単位の線形的な削減を想定しており、バリューチェーンの動的な性質を十分に反映できない。 影響力の程度の考慮不足:現在のアプローチでは、企業が各排出源に対してどの程度の影響力を持っているかが十分に考慮されていない。 進捗状況の測定:進捗状況の測定は、データの制約、排出量の変動性、緩和行動とGHGインベントリの変化を直接結びつけることの難しさなどから複雑である。    これらの課題に対応するため、Scope 3 discussion paperにおいては、新たなアプローチが検討されています。具体的には、排出量だけでなく、調達や収益活動の気候目標との整合性を評価する成果ベースの指標の導入や、気候変動への影響が大きい活動に焦点を当てた目標設定境界の見直しなどが提案されています。 図:Scope 3 discussion paper   カーボン・クレジットの位置づけとScope 3との関連性  カーボン・クレジットは、削減できなかった自社の排出量を相殺したり、追加的な削減に貢献したりするための手段として注目されています。ここで重要なことは、Scope 3は企業のバリューチェーン内の排出であるのに対し、カーボン・クレジットはBeyond Value Chain Mitigation (BVCM)、つまり企業のバリューチェーン外での排出削減や除去の位置づけであるという点です。つまり、両者を混在させず別の枠組みとしてそれぞれ開示することが従来の基本的な考え方であるといえます。  一方で、Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative (VCMI)は、この点について柔軟で包括的な方針を示しています。同イニシアチブは、企業がネットゼロ移行過程においてカーボン・クレジットを活用するための行動規範を示しており、その一環として、昨年11月、Scope 3 Flexibility Claimを、今年9月にはその発展形としてScope 3 Claim(ベータ版)を公表しました。これは、スコープ1と2の排出削減に進展があるものの、Scope 3の削減に課題を抱える企業向けに設計された方法論です。具体的には、以下の要件を満たしたうえで、企業がScope 3目標と実績のギャップを埋めるためにカーボン・クレジットを購入・償却することが規定されています。 Scope 3排出削減の障壁と、克服のための行動計画を公開すること Scope 3排出量ギャップの全量以上の高品質な炭素クレジットを償却すること ギャップは24%を超えてはならず、2038年までに段階的に解消すること 科学に基づく短期排出削減目標を設定・公開すること 2050年ネットゼロを公約するとともに、短期目標達成に向けた進捗を示すこと パリ協定の目標を支持する公共政策提言を行うこと カーボン・クレジットの品質基準を満たすこと: VCMIのモニタリング・報告・保証(MRA)フレームワークに従って第三者保証を取得すること Scope 3 Claim(ベータ版)は、現在パブリックコンサルテーション中であり、2025年初頭に最終版が公開される予定です。  また、前述のScope 3 discussion paperにおいては、Scope 3の削減を主張する手段として、トレーサビリティが確保された信頼性の高い「環境属性証明書」を用いることが提案されており、その一つとして、バリューチェーン内で創出されたカーボン・クレジットの可能性が示唆されています。SBTiにおいても、今後これらを含めた検討が進められ、2024年第4四半期末にScope 3の要件に関連する変更を組み込んだ企業ネットゼロ基準の草案が公開される予定です。   まとめ  今回ご紹介したScope 3 discussion paperとScope 3 Claim(ベータ版)との共通点として、Scope 3削減と評価が企業にとって大きな課題であるとともに非常に困難であることが背景にあります。  しかしながら、過度にカーボン・クレジットに依存することで、Scope 3削減への取り組みが阻害されたり、適切な運用がなされないことで見せかけの環境対策(グリーン・ウォッシング)になったりすることも懸念され、慎重な検討が必要といえます。  こうしたカーボン・クレジットとScope 3を関連付けるアプローチに関しては、さまざまな議論や批判があります。本稿ではその是非を評価するものではありませんが、いずれにしても、まずはバリューチェーン内の排出(Scope 1,2,3)の削減を最大限進め、カーボン・クレジットは補完的な位置づけとするという基本的な順序は厳守すべきであり、その方向性は、Scope 3 discussion paperもScope 3 Claim(ベータ版)も変わるものではありません。  Scope 3及びカーボン・クレジットについては、GHGプロトコルを含め各イニシアチブにおいて、新たなルールの策定や既存のルールの見直しの議論が進められているさなかであり、今は大きな転換期にあるといえます。私たちはこれらの議論を注視していく必要がありますが、企業の気候変動対策には、包括的で透明性が高く、野心的な戦略が不可欠であることは明らかです。そのための取り組みとして、サプライヤーや顧客と協働したScope 3の削減や、適切で戦略的なカーボン・クレジットの活用は、企業の脱炭素経営において大きな機会にもなり得るものといえます。 参考資料: Scope 3 discussion paper Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative (VCMI) Scope 3 Flexibility Claim Scope 3 Claim(ベータ版) (執筆者:木塚)    

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カーボンクレジットとは何か? カーボンクレジットに関連する基礎用語を知ろう

 2024年も半分以上が過ぎ、残暑もまだ続く9月ですね。年も半分を過ぎたということで、改めてカーボンクレジットとは何か?クレジットに関連する用語について、メルマガで執筆をさせていただこうという次第です。  まず、なぜ今更、基礎という方も勿論いらっしゃることは重々承知の上ではございますが、今年の4月からSustainabilityや環境関連部、もしくは各プロジェクトに初参加された方々にも是非この、わかりづらすぎるクレジットの世界について少しでもご理解を深めていただければという事が今回の主旨でございます。(私自身も、大量の情報、大量の英語の頭文字に毎度苦しめられておりますので、少しでも助けになれば幸いです)  では…、カーボンクレジットの基礎について学んでいきましょう! カーボンクレジットとは?  まずはカーボンクレジットとは一体全体何なのでしょうか。 カーボンクレジットとは一般に、ベースラインと比較した時の温室効果ガス排出削減量や吸収量をクレジットとして認証したものを指します。 つまり、プロジェクトを通して温室効果ガスの排出削減や吸収の増大に貢献した価値をクレジットとして創出して、売買できるようにしているということです。 ベースラインって何?  次に、カーボンクレジットについて、話すと出てくるのが、「ベースライン」ですね。では、「ベースライン」とは何でしょうか? ベースラインとは削減・吸収プロジェクト活動の比較対象となるものです。プロジェクト活動のGHG削減量は、「ベースライン排出量ープロジェクト活動からの排出量」の式で定量化されます。ベースライン排出量の算定方法には複数ありますが、ここではよく見られるベースラインシナリオによる方法をご紹介します。  ベースラインシナリオとは、地球温暖化防止の対策を全く考慮しない場合に、最も起こりやすいと考えられる状況のことです。例えば、再エネが導入されずに、化石燃料を使用している状況=ベースラインシナリオです。「GHG プロトコル」では、次の3つのシナリオがベースラインシナリオになり得るとあります。 プロジェクト活動で用いられるのと同様の技術や実施方法が使用されるシナリオ ベースライン候補が実施されるシナリオ(代替技術等) 現在の活動、技術、実施方法が継続され、(該当する場合には)プロジェクト活動と同様の種類、 量、品質の製品やサービスを提供するシナリオ(効率改善、森林経営活動等)   追加性はなぜ重要なのか?  次に、追加性についても、簡単に基本的な概念にだけ、ここで触れておきます。 追加性について、経産省では下記の様に示しています。  ・プロジェクトベースの排出削減・炭素吸収・炭素除去は、 そのプロジェクトが実施されなかった場合に発生したであろう排出削減・炭素吸収・炭素除去から、追加的なものでなければならない。  ・ カーボンファイナンスが利用できなければプロジェクトは行われなかったことを実証しなければならない。  追加性が重要な理由として、GHG排出量取引制度があります。排出量取引制度を導入している国・地域の多くは、排出量取引制度とセットでクレジット制度も導入しています。排出量取引制度では各施設に排出量の上限を設け、上限を超えてしまった場合には、クレジット制度で創出された「オフセット・クレジット」で超過分を相殺できるようになっています。クレジット制度では排出量取引制度の対象外であるGHG削減や吸収量増大プロジェクトからクレジットが創出されます。  つまり、オフセット・クレジットでの相殺は、各施設にクレジットと同量の排出を認めることであり、その代わりに別の場所で排出削減、吸収量増大が行われることを前提としています。しかし、GHG削減や吸収量増大のプロジェクトの中には排出量取引制度が無かったとしても当たり前に行われていたはずのものもあります。成り行きベースで減る予定だったものを担保に施設に追加的な排出を認めてしまったら、地球全体の排出量は増えてしまいます。そのため、このクレジット制度がなかったら行われていなかったものを対象としてクレジットが作られる必要があります。 相当調整やArticle6とは?  Article6は、パリ協定に基づく国際的な炭素市場を設立し、各国が炭素クレジットを取引できるようにするものです。Article6では、売却国が許可した排出削減量を他国に売却できますが、その削減量を自国のNDCに含めるのは1カ国のみです。これにより、二重計上を避けて世界全体の排出削減量が過大評価されないようにすることが重要です。 二重計上を防ぐための「相当調整」という算定方法も設けられています。この調整は、コンプライアンス市場だけでなく、自主的な炭素市場にも適用される可能性があるものの、まだまだ、議論中のトピックが数多く存在し、次のCOPでの議論が待たれるところです。 カーボンクレジットはどこで使えるのか?  カーボンクレジットは、以下の場面で使用されます。(今回は自主的な取り組みを対象に整理します。このほかに規制対応の用途も考えられますがここでは割愛します。) 1)ネットゼロ目標達成近辺(2050年ごろ)  ネット・ゼロ目標達成時に削減できない温室効果ガス(GHG)の影響を、大気中のCO2を永久に除去・貯蔵することで中和(neutralization)する際に使用。このCO2削減は、バリューチェーンの内外で行うことができます。  ⇒ちなみにここで使えるクレジットは自然由来・および技術由来のRemoval系のクレジットです。なぜならば、中和(neutralization)には「CO2を長期的に固定する永続性」が求められるからです。クレジットの種類については、後で少し触れます。 2)BVCM(バリューチェーンの外側)  こちらは、皆様すでにご購入されている、もしくは検討されている部分ですね。こちらは今からでも始めていただく事が出来ます。これは、皆様のバリューチェーン内での排出で削減できていない部分を、バリューチェーンの外へ投資(クレジットを購入し、無効化)することで、気候変動へ社会全体という大きな視点から貢献するものです。 あくまでもボランティアの部分ではありますが、外部からの評価ポイントの一つとなっていく可能性もあります。 クレジットにはどんな種類があるのか?  では最後に、カーボンクレジットといってもどんな種類があるのか?というところですね。こちらも大きく分けて下記2つにわけられます。     1)「排出回避/削減(Avoidance/Reduce)」  2)「固定吸収/貯留(Removal)」  この2つのカテゴリがさらに、自然ベース・技術ベースで分かれていきます。例えば、自然ベース「排出経費・削減」に入るのがREDD++、技術ベースが燃料転換、輸送効率改善。一方で、固定吸収系の自然ベースは「植林、再植林」、技術ベースは「Direct Air Carbon Capture and Storage(DACCS)」などがあげられます。  その名の通りといってはなのですが、回避や削減クレジットは、ダイエットでいうところの「ジムや食生活改善」で減らしていくイメージで、固定吸収系は「脂肪吸引」のような、改善というより実力行使に近いものと言えるかもしれません(植林とかは少し違いますが…)。そして、やはりこういう実力行使系は値段が高いですよね。ですが、このようなクレジットが必要ですし、今はこのクレジットを普及させるために様々な会社が投資を行っているわけです。美容やダイエットの分野でも、脂肪吸引や整形は以前よりもどんどん金額が下がり、クオリティは上がっていると思います。固定吸収系・貯留系のクレジットもこのようになっていくのが理想です。  さて、今回はクレジットについての基礎知識のコラムを書いてみました。いかがでしたか? いよいよClimate New York、COPと年末にかけてたくさんのイベントが目白押しです。クレジットの動向についても要注意となりますので、ぜひ目を光らせて、見ていきましょう! 参考資料: The GHG Protocol for Project Accounting, The Greenhouse Gas Protocol Project Protocol |GHG Protocol SBTi ,Above and Beyond: An SBTi report on the design and implementation of beyond value chain mitigation (BVCM) 経済産業省:カーボンクレジット・レポート,20220628003-f.pdf (meti.go.jp) (執筆者:銭谷)    

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