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IFRS S1・S2基準の最終版への対応について

IFRS S1・S2基準の最終版への対応について | 業界動向
 

 

2023年6月26日、ISSB(International Sustainability Standard Board、国際サステナビリティ基準審議会)は、最終化されたサステナビリティ開示基準を公表しました。

ISSB は、それまで複数存在していたサステナビリティ開示基準を統合し、国際的な一貫性及び比較可能性を実現することを目的として設立された組織です。

今回公表された基準は、(1) サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)と、(2) 気候関連開示(IFRS S2)から成り立っています。また、S2付録 B として「産業別要求事項」があります。

IFRS S1では、投資家の投資判断に資する、サステナビリティ関連のリスクと機会に関する情報の開示が要求されています。開示タイミングや開示場所、不確実性に対する情報、誤謬の取り扱いなど、全般的な要件が定められています。

IFRS S2では気候変動関連の開示のより詳細な基準が定められています。今後は、「人的資本」「生物多様性」などほかのサステナビリティテーマに係る基準も公開される見込みです。ここでは気候変動への対応に焦点を絞ってお話しします。

 

基準側の動きとして、今回の公表と同タイミングで、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候変動関連財務情報開示タスクフォース)を運営する金融安定理事会は、気候変動開示に関するモニタリング機能を、ISSBへ移管すると発表しました。これによって、TCFD提言対応は、さらなる高度化を求められていくことになる見込みです。

さて、これらの動向に対して、本コラムでは大きく2つのことを強調できればと思います。

■TCFDとIFRS S1・S2の関連

第一にお伝えしたいことは、TCFDが提唱したフレームワークの役割がなくなったわけではないということです。公表されたIFRS S1・S2は、TCFDフレームワークを土台に作成されています。企業が、ISSBの求める基準に対して足りない部分を明確にし、開示内容の充実に取り組む必要があるのは確かですが、まずはTCFDで定められた要件への対応が先決であることは変わりません。TCFDフレームワークは、2021年10月のコーポレートガバナンスコードの改訂で、日本のプライム企業には開示が実質的に義務化された事項です。TCFDへの対応が不十分な企業については、まずはTCFDフレームワークへの対応を通じて、段階的に開示案を検討していくことが重要です。TCFD対応については、環境省をはじめガイダンス資料も充実していますので、そちらを参考にされるとよいでしょう。なお、TCFDとIFRS S2との差異については、IFRSによる公式資料*が公表されています。

 

参考資料①:気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) | 総合環境政策 | 環境省 (env.go.jp)

参考資料②:「気候関連財務情報開示に関するガイダンス3.0(TCFDガイダンス3.0)」を公表しました。 | TCFDコンソーシアム (tcfd-consortium.jp)

※ソース:Comparison IFRS S2 Climate-related Disclosures with the TCFD Recommendations

 

■CDP質問書の活用

第二に、開示には、媒体やプラットフォームの特徴をうまく使い分けることが必要という点です。多くの企業では、サステナビリティ開示について似たような内容を異なる媒体で開示することが求められているかと思います。例えば、自社のサステナビリティレポートや有価証券報告書、Eco-VadisやCDPといったプラットフォーム、そして各取引先企業やメディアからの調査票などです。

その中で、IFRS S1 およびS2の開示案を検討する際に有効な補助ツールとなると考えられるのが、CDP質問書です。CDP質問書では、TCFDとCDPの関連性はもとより、すでにIFRSとの整合性を意識されて構成されています。そして、2024年度版からは、IFRS S2への準拠が正式に発表されています*。そのため、CDP質問書への回答がすでに充実している企業は、今後もCDP回答との対応を意識するとよいと考えられます。CDP質問書の内容や公開されているガイダンス、スコアリング基準は毎年更新されますので、これらを参考にすることで、IFRS基準での開示で評価されるポイントについての実務的な観点を補うことができると考えられます。

参考資料③:開示サポート – CDP

※ソース:https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/11/cdp-to-incorporate-issb-climate-related-disclosure-standard-into-global-environmental-disclosure-platform/

 

■今後の日本企業の対応について

日本企業に関しては、2022 年7月に設立されたSSBJ(サステナビリティ基準委員会)主導で、日本版のサステナビリティ情報開示基準がISSBに準拠する方針で検討されています。2024年度中には確定基準が公表され、早くて2026年3月期から有価証券報告書への適用が見込まれます。有価証券報告書に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が新設され、「ガバナンス」「リスク管理」の開示を要求、「戦略」「指標及び目標」については各企業が重要性を踏まえ判断、という内容で検討されています。

 

参考資料④:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」

 

本コラムではいくつかの公開ガイダンスを紹介しました。IFRSの最終版は、これまでのサステナビリティ開示の論点を改めて明確化したという意味合いが強いですので、既存のガイダンスをうまく活用しつつ、対応していくことが重要と考えられます。

 

(執筆者:馬場)

 

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SBTネットゼロ基準 v2の概要について

 SBTiは2025年3月18日にネットゼロ基準v2のドラフト(Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Public Consultation)を公表しました。 本ドラフトは、2021年に公表されたネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)から約4年の期間を経て初の大規模改定となるものです。  今回の改定内容は非常に多岐にわたりますが、本コラムでは、評価プロセス及びScope3とエンゲージメントに関連した内容にフォーカスし、その更新の趣旨を紹介するとともに、更新に至った背景などについても触れていきたいと思います。 評価プロセスの変更  SBTの従来のプロセスでは、企業はSBTiに目標を提出し、審査を経て承認を受けます。SBTiによる目標承認後は、各企業が進捗を自己開示するとともに、少なくとも5年以内に自己評価を行い、次のサイクルに向けて目標のアップデートを進めます。  今回の改定案では、従来のコミットメントレターよりも厳格なエントリーチェックに始まり、企業は目標期間終了時12か月以内に進捗状況をSBTiへ報告し、評価を受け、次のサイクルに向けて進捗状況を反映させた目標に対して承認を受けます。つまり、目標設定のみならず、その後の進捗管理から目標期間終了後の評価、次の目標へのアップデートに至る一連のプロセスに対しSBTiが関与し明確な評価や審査がなされる点が大きなポイントといえます。  SBTiは、ネットゼロ達成に向けて残された時間は少ないことを指摘しています。ドラフト案に『From ambition to progress』と記載されている通り、目標設定するだけはなく目標達成に向けて対応し、進捗状況等の説明責任を重要視しており、目標設定するだけではなく目標達成に向けて動いていることを評価する枠組みに全体的に更新されています。 図:Detailed explanatory guide to the consultation draft 目標の枠組み  目標設定の枠組みとして、基準年を従来の2015年以降で選択可能という状況から、検証時から3年以内で選択することが必須になりました。 これはSBTiが削減に必要な排出量を恣意的に最小化することを懸念した結果です。 Scope3  従来のScope3目標設定の枠組みは、総量削減目標、原単位削減目標またはサプライヤーエンゲージメント目標の中から選択する形でした。今回のドラフト案ではまずサプライヤーエンゲージメント目標と削減目標の2つを設定する必要があります。そして削減目標として総量削減目標、原単位削減目標またはアライメント目標の中から選択する形になりました。ただし、削減目標に加えてサプライヤーエンゲージメント目標も設定する必要があるのかどうかはSBTiで検討中の内容になります。 また、削減目標におけるScope3目標のカバー率として従来は短期目標が67%、長期目標は90%と設定されていましたが、今回のドラフト案ではScope3の中で排出量が大きいと想定される活動、また5%を超える重要とみなされる排出を優先的に目標バウンダリに含めるプロセスへと更新しています。これはバリューチェーンのなかで最も排出量が多く関連性の高い活動、Tier1サプライヤーに対して優先的に行動するように促すことで、従来の算定では重要な排出を除外されてしまう可能性があるという課題にも対応しています。 SBTiの調査によれば、上記のプロセスで集約した場合、排出量の約90%をカバーできるとしています。 アライメント目標  前述したように、Scope3の削減目標の設定方法として、総量目標と原単位目標に加えて、アライメント目標が追加されました。 アライメントの指標とは、ネットゼロ目標に適合した状態を指す指標であり、その指標自体はドラフト案に記載があり、下記は一部抜粋した資料になります。 表:Consultation Draft  アライメント目標とは、上記の指標を用いてネットゼロにアライメントされたサプライヤーや排出活動に割り当てられた調達の割合や、ネットゼロにアライメントされた製品やサービスから得られた収益の割合などを目標設定することになります。 SBTiは企業がTier1サプライヤーに対して影響力を及ぼして排出を削減することを重要視しており、今回のドラフト案では総量目標や原単位目標のみではなく、非排出の指標を用いて様々なアプローチを可能にするために提案されているアライメント目標はSBTiのなかでも明確に重要視されています。  従来の総量目標では企業が成長することに伴い、仕入れ額や売り上げは比例して増加するため、排出量が増加することや、2次データへ依存していることが課題の一つでした。増加に対応するためにサプライヤーエンゲージメントを行い1次データへ置き換えることで原単位側を削減し、排出量を削減する動きが注目されています。しかし、1次データの信頼度や企業の規模により1次データ化が難しい場合もあります。今回のアライメント目標ではそんな課題へ対応できるとSBTiは説明しています。例えばある企業がネットゼロベンチマークに沿った(アライメントされた)製品の売り上げを伸ばして企業として成長することはアライメント目標の枠組みでは進捗していることになります。また、例えば高排出活動に対してベンチマーク指標を用いた調達支出割合を目標とすることで排出量の絶対値への依存の脱却も望めます。  ただし、基準年のパフォーマンス評価としては排出、非排出両方が現時点では報告対象とされていますので、非排出を重視するものの、企業が実際どのように基準年、目標年のパフォーマンスを作成、公表し、どのように目標設定するのかは今後も議論される部分であると考えられます。 スケジュール  今回のドラフト案がいつから適用されるかは以下の通りです。短期目標を設定している企業は2030年、または目標期間終了の早い方、2025年/2026年に設定する企業は5年後、または2030年末の早い方、2027年以降に取得する場合は新基準を適用する必要があります。 図:Detailed explanatory guide to the consultation draft  本ドラフト案は6月1日までコンサルテーションを実施しコメントを受け付けています。 その後2回目のコンサルテーションを経て最終化される予定です。 まとめ  ドラフト案における変更点はまだまだありますが、本コラムでは特にScope3の目標設定について述べてきました。 全体像の印象として従来からより厳格になっている印象を受けました。それは前述した『From ambition to progress』というフェーズに移行しているからだと考えられます。野心的な目標を設定して終わりではなく、着実に削減を進めていくこと、残された時間は少ないというメッセージを強く感じました。  現状のScope3の評価には課題があり、排出量の絶対値からの脱却や2次データへの依存という課題に対応するためにアライメント目標を設定できるようにするといった柔軟性を高めた点からは、SBTiも企業が様々な課題に直面していることを把握しており、課題を解決しながら評価できるような枠組みへ試行錯誤して企業に寄り添いながら前進していることを感じられます。  すでに短期目標を設定している企業も、これから設定を考えている企業もネットゼロ達成に向けて前進できるよう弊社でもSBT認証取得支援、サプライヤーエンゲージメントの支援も実施しておりますのでお気軽にお問い合わせください。 (執筆者:山本(航))        

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再生可能エネルギー電力の調達方法について(後編)

 今回は、昨年12月にご紹介した再生可能エネルギーの調達方法についての後編をお届けします。 再生可能エネルギーの調達タイプ  RE100で認められており、CDPでもスコアリングの対象となる調達方法は、日本では4つのタイプに大別されます。    ①自家発電(自社で設備を保有して発電)  ②直接調達(発電事業者と自社の契約)―フィジカルPPA、バーチャルPPA  ③電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約、小売供給契約  ④電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達  前編では➀および②の調達タイプをご紹介しました。 これらは、追加性のある、つまり発電設備を設置する調達方法(詳細は前編をご確認ください)であるため、調達開始までに時間を要するというものでした。 今回は、そのつなぎ役として直ちに始められる調達方法も含めて、まとめています。 ③-1 電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約  小売電気事業者が需要家に代わって、特定の発電設備から電力を調達する方法であり、小売電気事業者と需要家(必要に応じて、発電事業者を含めた3社契約)で長期の契約を締結することになります。  日本では小売供給に該当する場合、小売電気事業者を介する必要があることから、この形態は、前編で紹介したフィジカルPPAの形態になります(詳細は前編をご確認ください)。  国としては、「発電事業者と需要家とが直接小売供給を契約できるようにすべきとの声が出てきており、事業者の声も聞きつつ課題を検討する」ことを、電力・ガス基本政策小委員会に提起しており、将来的には発電事業者と需要家が直接契約する調達方法が実現できるかもしれません。  ※第29回 電力・ガス基本政策小委員会 資料5より当社で加工 ③-2 電力サプライヤーとの契約-小売供給契約  小売電気事業者が提供する再生可能エネルギー特約やカーボンフリー、CO2フリーなどの電力と環境価値をセットで購入する契約メニューを選択する方法です。 小売電気事業者によっては、いろいろな契約メニューが用意されており、地産地消を切口(例えば、○○県の水力や太陽光発電所などの電源から供給)としたメニューやRE100対応のメニューなどがあります。  また、環境価値を付加する電力量や割合(購入電力量に対し、30%など)を選択できる契約メニューを提供している会社もあります。  日本では、小売電気事業者が販売する系統電力の環境価値は、非化石証書に統一することとなっているため、小売供給契約には④-1に記載するいずれかの非化石証書が付加されています。  ここで、小売供給契約を締結する企業に認識していただきたいことは、「⾮化⽯証書の使⽤の有無や種類」と「調達する電源種別」のそれぞれの組み合わせによって、契約内容の表示(訴求内容)が違うということです。  下記に簡略化した表示のイメージを記載しますが、非化石証書では「FIT証書または非FIT(再エネ指定あり)」を使用し、かつ調達する電源種別には「FIT電気または再エネ電源」でなければ、「再エネ」という表示はできません。 その他の場合には、【実質】という表記などが必ず加えられていますので、企業さまで求める価値を考えたうえで、契約メニューを選択することをお勧めします。 出典:電力・ガス取引監視等委員会 第92回 制度設計専⾨会合資料にもとづき当社で加工 ④ 電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達  日本国内の調達方法としては、非化石証書、J-クレジット(再エネ)、グリーン電力証書、I-RECがあります。 ④-1 非化石証書  「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」、通称「高度化法」という制度があり、その中で小売電気事業者は、供給する電気のうち「非化石電源(非化石エネルギーを使って発電する方式)」で作られた電気が占める比率(非化石電源比率)を、2030年度に44%以上にするよう求められています。  この「非化石電源比率44%」という調達目標の達成を後押しするための政策のひとつとして、非化石エネルギーで発電された電力のもつ「非化石価値」を電気と分離して市場で取引すること(非化石価値取引市場。その市場で取引するものを非化石証書といいます。)が2018年から開始されました。  その後、再エネ価値に対する需要家ニーズの増大を踏まえ、2021年に非化石価値取引市場を2つの市場に分離、また買い手やトラッキングなど様々な議論を経て、現在は下記のように整理・運用されています。 ※2022年度以降に営業運転を開始した、新設非FIT電源、新設FIP電源、FITからFIPに移行した電源。卒FIT電源  非化石証書の約定量は年々増加しており、需要家のニーズが高まっていることが見て取れる状況にあります。国としては、さらなる非FIT直接取引の対象拡大や有効期限の見直しなどを検討していくことから、需要家が「環境価値の調達方法をより選択し易くなる」仕組みへと向かっています。  また、他の環境価値に比べて、取扱量が多く、価格が安定している反面、購入時期が4回/年、かつ環境価値の利用期限があることから、計画的な購入が必要になります。 ④-2 J-クレジット  J-クレジット制度とは、省エネ設備の導入や再生可能エネルギー設備の活用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を、クレジットとして国が認証する制度です。 J-クレジットには対象となる活動が方法論として取りまとめられており、その活動(プロジェクト)を実施しなかった場合の想定CO2排出量(ベースライン排出量)とプロジェクト実施後CO2排出量との差である排出削減量が、 「J-クレジット(環境価値)」として認証されます。  ※]-クレジット入札価格:日本取引所グループ  ※その他の種類として、工業プロセスや農業があります。  非化石証書が系統電力の環境価値であるのに対し、J-クレジット(再エネ)は原則として自家消費した電力の環境価値を対象としています。 このため、J-クレジット(再エネ)を創出した企業は、排出削減量はなかったものとして自社の排出量を計算する必要があります。  J-クレジットの特徴としては、非化石証書などと同様に温対法や省エネ法への報告、およびCDP・SBT・RE100において活用できるだけでなく、カーボンオフセットとしても使われています。 また、購入時期に縛りや環境価値の利用期限がないところは非化石証書とは異なり、他社への転売が可能という特徴も他の環境価値とは異なる点です。  ※カーボンオフセットの詳細は、J-クレジット制度をご確認ください。 ④-3 グリーン電力証書  グリーン電力証書は、風力、太陽光、バイオマス(生物資源)などの自然エネルギーによって発電された電力の環境価値を、第三者認証機関の認証を得て証書化したものです。 2001年から始まったグリーン電力証書は、現在、東京都が実施する助成事業「地産地消型再エネ増強プロジェクト」でも活用されています。 電気事業者の系統に供給されている電力と自家消費されている電力の両方の環境価値を証書にすることができるという点が特徴です。   ※参照:一般財団法人日本品質保証機構HP  温対法や省エネ法への報告、およびCDP・SBT・RE100において活用できるだけでなく、購入時期に縛りや環境価値の利用期限がないことから、柔軟に対応できる反面、他社への転売ができないことや認証発行事業者と相対でしか取引できないことから、購入量などの条件により他の環境価値よりも価格が高くなる可能性があります。 ④-4 I-REC  世界約50ヵ国(アジア、南米、アフリカ等)で発行される国際的な再エネ属性証書として、グローバル企業でのニーズが期待されています。 日本では、I-REC発行主体として、(一社)ローカルグッド創成支援機構が指定されており、証書売買および証書償却等のプラットフォームオペレーターをSCSK(株)が担っています。  日本の非化石証書は、電気の環境価値を証明するものであり、第三者に産地価値や特定電源価値を証明することはできないと整理されています。  つまり、トラッキング付き非化石証書には、発電所の所在地・電源種別等は記載されていますが、産地価値・特定電源価値を証明するものではないということです。  一方で、I-RECは、環境価値に加え、産地価値や特定電源価値を証明できる属性証書であり、購入した電力がどの地域のどの発電所でつくされたのかを第三者に証明することが可能です。 また、これまでご紹介した非化石証書、グリーン電力証書、J-クレジットと異なり、温対法に対応できないという欠点もあります。 そういった欠点を補うため、I-RECと非化石証書を組み合わせたサービスの提供も行われています。  (詳細は、当社【お知らせ】をご確認ください。)  ・日本でのI-REC発行について(ローカルグッド創生支援機構)をもとに当社で加工  ・第30回 ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会資料をもとに当社で加工 まとめ  2回にわたって、「再生可能エネルギーの調達方法」をご紹介しましたが、何を優先するのかによって最適な調達方法も異なります。  当社ではCO2排出量の把握や情報開示の支援に合わせて、最適な調達方法のアドバイスや非化石証書の調達なども支援いたしますので、お気軽にお問合せください。 参考資料:自然エネルギー財団 コーポレートPPAの 最新動向(2024年度版) (執筆者:佐藤)        

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再生可能エネルギーの最新動向「RE100から24/7CFEに向けて」

 本コラムでは、再生可能エネルギー(再エネ)や、関連するイニシアティブの最新動向について紹介します。 主要なイニシアティブの動向 「RE100」  RE100(100%再生可能エネルギー調達目標)は、多くのグローバル企業が参加するイニシアティブです。近年では、単に100%の達成を目指すだけでなく、「質の高い再エネ調達」が求められています。技術要件が2022年10月24日に改定され、加盟企業に対して2024年1月以降の電力調達に関して新しい要件の適用が求められています。   【「追加性」を追求】 ・認められる再エネ調達方法は5つのタイプに整理されており、CO2の排出削減によりインパクトがある調達方法の選択が求められています。 特に自家発電や、長期的、直接的、あるいはプロジェクトを特定した契約による新規プロジェクトからの調達ほど高いインパクトと追加性があります。 ・運転開始から15年以内の発電設備から電力・証書を購入することが規定されました。 コーポレートPPAのように新設の発電設備から調達することが難しい場合、小売事業者から再エネメニューの電力を購入、また非化石証書などの再エネ属性証書の活用が考えられますが、これらの調達方法は運転開始から15年以内の発電設備に制限されます。 【「持続可能性」を追求】 ・水力発電およびバイオエネルギーの利用については、持続可能性の要件を満たす場合に限り認められています。 CDPのスコアリング基準もRE100要件に整合しています。コーポレートPPAの活用や発電設備の運転開始年の把握を通じて、追加性の高い電力を調達すると高評価につながります。具体的には以下スコアリング基準が2023年より追加されています。 ・コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)の比率が25%以上で高評価 >オンサイトPPA、フィジカルPPA、バーチャルPPAによる再エネ調達に加え、企業が調達する自然エネルギーのうち、25%以上がPPAであると評価が向上 ・購入対象の発電設備の運転開始年を把握している再エネ比率に応じ高評価 >25%以上、50%以上を把握している場合にその比率に応じて評価が向上 *1 RE_Procurement_Guidebook_JP_2025.pdf P68 新たなイニシアティブの動向「 24/7 カーボンフリー電力(CFE)」  2021年には国連主導の国際イニシアティブ「24/7 Carbon Free Energy Compact」*2が始動しました。世界170以上(2025年3月時点)の企業、エネルギー会社、投資会社・金融機関などの組織が加盟し動きが活発化しています。 「24/7CFE」とは、単に年間100%再エネを達成するのではなく、「24時間365日、1時間単位の電力消費量に合わせて再生可能エネルギーを中心とするCO2排出量ゼロの電力(カーボンフリー電力)を100%供給する」概念です。需要家の設備と同じ送配電網に接続する再エネによる電力をリアルタイムで「同時」に使用することが求められています。日中の太陽光発電の余剰分を蓄電池に貯め電力需要を満たせない夜間の時間に放出することで「24/7CFE」を実現した場合の実践イメージを以下に示します。 *2「24/7 Carbon-Free Energy Procurement in APAC」BloombergNEFの図を弊社にて和訳 日本の主要な再エネ調達方法とのギャップ  RE100、SBTにおいても、需要家は①火力が主電源である通常の電力供給に、小売電気事業者が再エネ電力証書を組み合わせた実質再エネ電力メニューを契約する方法や②需要家の年間の電力使用量と同等の非化石証書等を調達し、名目上再エネ由来の電力を使用しているとみなす方法で再エネ利用を主張することが可能です。しかし、これらは電力消費と再エネの1時間ごとのマッチングができず、電力が実際に消費される送配電網内での再エネ調達でもないため、24/7 CFEの方針には適合しません。 24/7CFE達成に向けた再エネ調達方法「オフサイトPPA(フィジカルPPA)」  達成に向け、先進的な企業事例を参考にしながら、従来の証書に頼る再エネ導入からRE100における「追加性」や24/7 CFEを推進させる「同時性」を考慮した再エネ導入を段階的に検討することが推奨されます。 具体的には、企業が再エネ発電所と直接契約し、送配電網を通じて物理的に電力を受け取る仕組みであるオフサイトPPA(フィジカルPPA)が注目されています。PPAの契約が結ばれることで新しい再エネ発電所の建設や拡張が可能になり、全体の再エネ導入量が増加する「追加性」のある再エネ導入方法であり、発電事業者と企業が協力して「24/7 CFE」を構築することができる方法の一つです。  実際に国内でも、太陽光発電と蓄電池を組み合わせたオフサイトPPA(フィジカルPPA)を活用し、「24/7 CFE」の実現に向けた取り組みが行われています。例えば、太陽光発電所の発電状況や建物側のエネルギー使用状況に応じて蓄電池の充放電を制御し、再生可能エネルギーをリアルタイムで利用できる割合を高めるための実証実験が進められています。 今後の展望  「24/7CFE」の実現は、多くの企業にとって依然として高いハードルとなっています。日本の再エネ証書には発電日や時間単位の情報が含まれておらず、需要家が時間帯ごとに再エネを利用していることを証明する標準的な手段がありません。そのため当面の対策としては、需要家単位で発電データと電力消費データを時間帯ごとに突き合わせ、24/7カーボンフリー電力を確認するなどの企業のデータ管理能力が問われます。 しかしイニシアティブの動向や2026年に向けたGHG プロトコルのScope 2ガイダンス改定においても「同時性」要件が必要ではないかという意欲的な提案もあったことから、将来的にはRE100に続き、24/7CFEがグローバルな再エネ調達のベストプラクティスとして浸透していく可能性も考えられます。今後も再エネ導入に関する要求事項の厳格化や24/7 CFEの実現に向けたスマートグリッド技術の発展、国内の証書制度の改定等の制度的な進展に着目していきたいと考えます。 ・参考資料  *1 「企業・自治体向け 電力調達ガイドブック 第8版(2025年版)」自然エネルギー財団 ,  RE_Procurement_Guidebook_JP_2025.pdf  *2 「24/7 Carbon Free Energy Compact HP」  24/7 Carbon-Free Energy: Methods, Impact & Benefits  *3「24/7 CFE Procurement in APAC: Pathways for Companies and Countries (2024/11/26) 」  Bloomberg NEF,   BNEF (執筆者:小澤)    

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製品カーボンフットプリントあれこれ

 企業が気候変動対応を迫られる中、組織の排出量であるScope1,2,3の開示に加え、製品・サービスあたりの排出量である製品カーボンフットプリントを算定する企業が増えています。しかし、製品カーボンフットプリントと一口に言っても、それらを算定する背景や目的は企業によって大きく異なります。本稿では、バラエティに富む製品カーボンフットプリント算定の実態と、今後の展望について考察します。 カーボンフットプリント算定の実態と課題  製品カーボンフットプリントの算定は、製品やサービスのライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を可視化し、効果的な削減策を講じるための基盤となります。一方で、算定において参照する規格やガイドラインは多岐に渡り、また、カーボンフットプリントの算定対象製品、算定範囲、算定目的等も各企業によってさまざまです。そのため、これから算定を考えている人、他社の算定結果を見る側の人、多くの担当者が“正解”がわからず苦慮している実態があります。こうした場合、まず認識を改めなければならないのは、製品カーボンフットプリントの算定においてただ一つの“正解”はないということです。以下に製品カーボンフットプリントに関連する主な規格、ガイドラインを挙げます。   ・ ISO 14040/14044:ライフサイクルアセスメント(LCA)算定の要求事項と指針を示す。 ・ ISO 14067:カーボンフットプリント算定の要求事項と指針を示す。 ・ PCR:Product Category Rules。製品カテゴリ別のLCA算定ルール。EPD(ISO14025に基づく環境ラベル)等、比較を前提とした算定の際に使用される。 ・ Pathfinder Framework:WBCSD主催のPACTが定めるLCA算定とデータ交換のための指針を示す。 ・ 各国の規制に基づく算定ガイダンス: CBAM、電池規則など ・ その他:化学や電子・電子機器等の業界団体によるガイダンス、CFP算定ガイドライン(経済産業省)など  これら規格、ガイドラインにより算定方法(組織境界の設定、カットオフ基準、活動量及び排出原単位の設定方法など)が異なるため、同じ製品であっても算定結果は変わり得ます。従って、算定する側も算定結果を見る側も、どのような規格に基づいて算定するか、あるいは算定されたものであるかを理解する必要があります。また、どの規格、ガイドラインを用いて算定するかについては、算定する目的によって決まることから、算定目的の明確化が重要となります。以下に算定の背景・目的に応じた参照規格の概略図を示します。 今後の製品カーボンフットプリント算定の方向性  これまで、企業の製品カーボンフットプリントの目的は、自社製品の優位性を対外的に示すなど、自主的な算定が主流といえましたが、近年は顧客へのデータ提供のための製品カーボンフットプリント算定が進んでいます。その背景には、顧客が自社のScope3や製品カーボンフットプリントの削減することが目的にあります。また、各国の規制への対応としては、EUバッテリー規則、EU-CBAMに対応するための製品カーボンフットプリント算定も進められています。  また、業種別でみると、特に建設セクターにおいて、LEED認証やEU建設資材規則などの規制やイニシアティを背景に、EPD取得を目的とした算定や、EN15804+A2等の規格への準拠性を重視した算定が進んでいます。こうしたケースでは、製品カーボンフットプリントのみならず、大気汚染物質や水質汚濁物質など、気候変動以外の環境への影響も算定するLCAが求められる点に注意が必要です。また、これら欧州を中心とした規格に基づく算定においては、日本の排出原単位データベースやLCA算定システムでは対応できない場合も多く、海外の排出原単位データベース、LCA算定ソフトウェアの使用が必要となる場面が高まっていることも認識しておく必要があります。以下に代表的なLCA算定ソフトウェアを示します。 ・ SimaPro:世界で最も広く使用されるLCAソフトウェア。オランダの環境コンサルタントPRe Sustainability社が開発。排出原単位データベースとしてEcoinventを搭載しています。 ・ LCA for Expert(Gabi):世界でも広く使われているLCAソフトフェア。ドイツSphera Solutions GmbH社が開発し、Sphera社独自開発の原単位データベースも整備しています。 ・ One Click LCA:フィンランドのOne Click LCA社開発の建設業界に特化したLCAソフトウェア。Ecoinvent等の汎用データベースの他、200,000以上のグローバルのEPD情報を網羅しています。  顧客の要請や対応する規格によっては、算定した数値に対して第三者検証が必要となります。現在、第三者検証まで実施、または実施を予定している企業が増加しており、今後もこの傾向は続くものと考えられます。 まとめ  今回は製品カーボンフットプリント算定の実態と課題、今後の方向性について記載しました。単に“製品カーボンフットプリント”と言うだけでは不十分であり、コミュニケーションの際には何に基づくカーボンフットプリントであるかをしっかりと示すことが重要といえます。また、製品カーボンフットプリントの数値にただ一つの“正解”はありません。ISO14044,14067では条件の異なる他社の開示内容との比較主張は厳しく制限されています。これは他社の算定結果を見る側も、安易な比較はできないという点を十分理解すべきであり、製品カーボンフットプリントを算定する側、結果を見る側双方のリテラシー向上が求められます。  製品カーボンフットプリントについては、新たな規格、ガイドラインの策定が現在も進められており、今後これらを注視していく必要がありますが、算定目的によって最適な規格、ガイドラインが決まるという部分は変わりません。“カーボンフットプリント”を算定する際は算定目的を明確化し、最適な規格、ガイドライン参照することで、その製品にとっての“正解”にたどり着くものと考えます。   (執筆者:久保(隆))    

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再生可能エネルギー電力の調達方法について(前編)

 気が付くともう師走。秋をあまり実感できないまま、コートや暖房が必要な季節を迎えてしまいましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。  電気・ガス料金の負担軽減策が、来年1月~3月の使用分に限り再開されることが決定し、筆者宅では(気が緩んで?)12月の電気・ガスの使用から増えている状況ですが、企業では外的な要因に影響されることなく、持続的に気候変動への取組みを進めていく必要があります。  これまで数回にわたり、スコープ3削減やカーボン・クレジットに焦点を置いていましたが、今回は自社で取り組めるスコープ2の削減策である「再生可能エネルギー電力の調達方法」についてご紹介します。 再生可能エネルギーの調達タイプ RE100で認められており、CDPでもスコアリングの対象となる調達方法は、日本では4つのタイプに大別されます。   ①自家発電(自社で設備を保有して発電) ②直接調達(発電事業者と自社の契約)―フィジカルPPA、バーチャルPPA ③電力サプライヤーとの契約-プロジェクト特定契約、小売供給契約 ④ 電力と分離されたエネルギー属性証明(EACs)の調達 ① 自家発電  発電設備を自社の敷地内(または近隣)に設置する形態です。  自社の責任と負担で発電設備の設置・運転(委託も可)するものです。 ②-1 フィジカルPPA(PPA: Power Purchase Agreement(電力購入(販売)契約))  フィジカルPPAとは、発電設備で発生した電気と環境価値をセットで購入する契約形態を指し、2つの形態があります。  一つ目はオンサイトPPAと呼ばれるもので、発電設備を自社の敷地内(オンサイト)に設置する形態です。  自社の敷地内に設備を設置し、電力と環境価値をセットで自社施設に直接供給するという点では自家発電と同じです  が、発電事業者と自社とで「長期契約かつ固定価格」で購入契約を結ぶというところが大きな違いです。  自家発電と同様、送配電線を使用するための託送料金や再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)がかか  らないことから、通常の電力契約と比べて自社が負担するエネルギー料金が安くなる可能性があります。  一方で、敷地内の空き地や屋根など限られた場所に発電設備を設置することから、発電設備の規模(発電量)が限られ  ます。    【オンサイトPPA(電力使用量の20%の発電設備を設置した場合)】  二つ目はオフサイトPPAと呼ばれるもので、自社の電力を必要とする場所から離れた土地など(自社の敷地外=オフサ  イト)に、発電事業者が発電設備を建設し、自社が電力と環境価値をセット(長期契約かつ固定価格)で購入する形態  です。  (フィジカルPPAは、このオフサイトPPAをイメージする(指す)方も多いかもしれません。)  このオフサイトPPAは、送配電線を使用することから小売電気事業者※を介する必要があり、託送料金や再エネ賦課金  がかかることから、現行のエネルギー料金が安くできるとは限りません。  一方で、気候変動を抑制する「追加性」という視点を、RE100やCDP等でも重要視していることから、環境意識の高い企  業としての評価が得られます。  また、設置場所の制約を受けないことから、発電事業者などとの協議により規模の大きな発電設備を導入することがで  きます。  ※現在供給を受けている小売電気事業者以外の小売電気事業者からオフサイトPPAの電力供給を受ける(分割供給)   ことは可能です。(供給の形態には制約があります。)   ②-2 バーチャルPPA  これまでの電力と環境価値をセットで購入する形態と異なり、発電事業者と自社の間で電力を伴わない環境価値のみ  を購入する形態であることから、仮想の電力購入契約(バーチャルPPA)と呼ばれています。  フィジカルPPAと違い、既存の電力契約を変更することなく、環境価値のみ購入できるのも特徴のひとつです。  一方で、バーチャルPPAでは、発電事業者は発電した電力をすべて卸電力市場に売却(売電)することから、その売電収  入は市場価格により変動します。  発電事業者の収益が一定になるように、発電事業者と自社における「電力+環境価値」の取引価格を固定価格し、固定    価格と市場価格の差額を精算する(電力価格分を差し引く)仕組みが活用されることもありますが、その場合には自社    がその変動リスクを負うことになります。  このため、この変動リスクへの対応策として、FIP(Feed-in-Premium)制度を組み合わせるという方法が活用されて  います。  FIPとは、発電設備の認定を取得することで、発電事業者が国から市場価格に基づくプレミアム(補助額)を受けること  ができる制度です。  また、このバーチャルPPAも発電事業者との契約期間は、20年程度と長期にわたることから、小売電気事業者を介在  させる(手数料は上乗せされる)ことでその信頼性を向上させることも可能です。 まとめ  今回ご紹介した新たな発電設備を建設する自家発電やPPAは、RE100でも推奨されている追加性のある調達方法であり、発電設備の建設には時間を有することから、直ちに対応できるものではありません。後編では、追加性のある調達方法の「つなぎ」として、直ぐに始められる調達方法についてまとめます。 参考資料:自然エネルギー財団 コーポレートPPAの 最新動向(2024年度版) (執筆者:佐藤)        

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企業のESG評価

 朝晩の冷え込みが厳しくなってまいりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。10月末にもかかわらず台風のニュースが流れるなど、不安定な気候に振り回される日々が続いております。私自身も週末に改めて避難経路や防災セットの確認を行い、災害への備えを整えました。  個人としてはこのように対策を講じておりますが、皆様の会社ではいかがでしょうか。このような災害への備えも企業の気候変動対策(物理リスク)に含まれており、投資家やステークホルダーは「この企業は気候変動にしっかりと備えているか?」という観点から評価を行っています。  このように、企業の取り組みを環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点から評価する動きが進んでいます。この評価をESG評価と呼び、結果はESGスコアとして表されます。このESGスコアは投資家の判断やサプライチェーンの選定などにも活用されており、企業価値を高める重要な指標となっています。 以下に、代表的なESG評価の種類をご紹介いたします。 CDP  CDPは2000年にロンドンで設立された環境NGO団体で、気候変動、水セキュリティ、森林減少リスクに関する情報開示のプラットフォームを提供しています。CDPは機関投資家、サプライチェーンメンバー、銀行の要請に基づき、全世界15,000社以上に質問書を送付し、企業はこれに回答することで評価を受けます。CDPの特徴は以下の通りです。   【対象カテゴリ】  気候変動・水セキュリティ・森林(生物多様性・プラスチック) 【評価方法】  業種ごとにカスタマイズされた質問書 への回答 【評価の尺度】  D-~Aまでの8段階+F(無回答企業)で評価 【強み・特徴】  ・スコアリング基準が公開されており、自社の取組状況をベストプラクティスに照らして振り返ることができる。  ・GRIやSASBなどの標準化機関と連携しているため、包括的な情報開示を促進できる。 EcoVadis  EcoVadisは、調達企業に対して自社及びサプライヤーの持続可能性を評価するサービスを提供しています。企業はEcoVadisを通じてサプライヤーに回答を要請し、評価結果を管理やコミュニケーションに役立てることができます。評価は「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野に分かれて実施されています。EcoVadisの特徴は以下の通りです。 【対象カテゴリ】  「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4分野 【評価方法】  業種と企業規模に応じてカスタマイズされた質問書 への回答と公開されている情報等を踏まえた評価。 【評価の尺度】  0~100の点数制で評価。ランキングに応じてメダルが付与される。 【強み・特徴】  ・調達企業はプラットフォームを通じ、サプライヤーの取組状況を把握するとともに、改善状況等についてコミュニケーションをとることができる。  ・調達企業は評価結果を活用することで、持続可能性の高いサプライヤーを選定することができる。 S&P Global ESG Scores  アメリカの大手金融機関S&P Globalが開示しているESG評価スコアであるS&P Global ESG Scoresは、企業の開示情報、メディアおよびステークホルダー分析、業界固有のアンケート(CSA)を通じて評価されます。S&P Global ESG Scoresの特徴は以下の通りです。 【対象カテゴリ】  環境・社会・ガバナンス全般 【評価方法】  企業の開示情報、メディアおよびステークホルダー分析、業界固有のアンケート(CSA)を踏まえた総合評価 【評価の尺度】  0~100の点数制。 【強み・特徴】    ・質問書だけでなく、企業の財務情報や開示情報も含めた包括的な分析    ・金融市場との連携の強さ Sustainalytics  アメリカの金融サービス企業モーニングスター社の子会社であるSustainalyticsのESGリスクレーティングは、企業の管理不可能なESGリスクの程度を評価し、機関投資家にレーティングを提供しています。また、40を超える産業分類において分野横断的な専門知識を持つ800名以上のアナリストを有しており、日本を含む世界16拠点において、数百社におよぶ世界有数の資産運用会社や年金基金と提携しています。Sustainalyticsの特徴は以下の通りです。 【対象カテゴリ】  環境・社会・ガバナンス全般のリスクに着目 【評価方法】  企業の開示情報に基づいて評価。 【評価の尺度】  0~100の点数制(点数が高いほど高リスクと評価)。 【強み・特徴】  ・機関投資家が財務的に重要(マテリアル)なESGリスク特定・理解することを支援するために設計されている。  ・企業は、サステイナリティクスのESGリスクレーティングの確認、マーケティングやIRへの活用ができる(有償)。 さいごに  このように、ESG評価にはさまざまな種類があります(参考資料参照)。金融サービスによるESG評価は公開資料に基づいて評価されるものが多いですが、CDPやEcoVadisは質問書に回答することで評価が行われるため、必要とされる活動が明確に把握できます。ESG経営にお悩みの際は、こうした評価機関の活用も一つの手段です。当社ではCDP及びEcoVadisの回答支援を行っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。 参考資料: ESG評価機関等の紹介|日本取引所グループ (執筆者:野村)

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