2025.05.08
SBTネットゼロ基準 v2の概要について
2025.05.08
SBTiは2025年3月18日にネットゼロ基準v2のドラフト(Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Public Consultation)を公表しました。 本ドラフトは、2021年に公表されたネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)から約4年の期間を経て初の大規模改定となるものです。 今回の改定内容は非常に多岐にわたりますが、本コラムでは、評価プロセス及びScope3とエンゲージメントに関連した内容にフォーカスし、その更新の趣旨を紹介するとともに、更新に至った背景などについても触れていきたいと思います。 評価プロセスの変更 SBTの従来のプロセスでは、企業はSBTiに目標を提出し、審査を経て承認を受けます。SBTiによる目標承認後は、各企業が進捗を自己開示するとともに、少なくとも5年以内に自己評価を行い、次のサイクルに向けて目標のアップデートを進めます。 今回の改定案では、従来のコミットメントレターよりも厳格なエントリーチェックに始まり、企業は目標期間終了時12か月以内に進捗状況をSBTiへ報告し、評価を受け、次のサイクルに向けて進捗状況を反映させた目標に対して承認を受けます。つまり、目標設定のみならず、その後の進捗管理から目標期間終了後の評価、次の目標へのアップデートに至る一連のプロセスに対しSBTiが関与し明確な評価や審査がなされる点が大きなポイントといえます。 SBTiは、ネットゼロ達成に向けて残された時間は少ないことを指摘しています。ドラフト案に『From ambition to progress』と記載されている通り、目標設定するだけはなく目標達成に向けて対応し、進捗状況等の説明責任を重要視しており、目標設定するだけではなく目標達成に向けて動いていることを評価する枠組みに全体的に更新されています。 図:Detailed explanatory guide to the consultation draft 目標の枠組み 目標設定の枠組みとして、基準年を従来の2015年以降で選択可能という状況から、検証時から3年以内で選択することが必須になりました。 これはSBTiが削減に必要な排出量を恣意的に最小化することを懸念した結果です。 Scope3 従来のScope3目標設定の枠組みは、総量削減目標、原単位削減目標またはサプライヤーエンゲージメント目標の中から選択する形でした。今回のドラフト案ではまずサプライヤーエンゲージメント目標と削減目標の2つを設定する必要があります。そして削減目標として総量削減目標、原単位削減目標またはアライメント目標の中から選択する形になりました。ただし、削減目標に加えてサプライヤーエンゲージメント目標も設定する必要があるのかどうかはSBTiで検討中の内容になります。 また、削減目標におけるScope3目標のカバー率として従来は短期目標が67%、長期目標は90%と設定されていましたが、今回のドラフト案ではScope3の中で排出量が大きいと想定される活動、また5%を超える重要とみなされる排出を優先的に目標バウンダリに含めるプロセスへと更新しています。これはバリューチェーンのなかで最も排出量が多く関連性の高い活動、Tier1サプライヤーに対して優先的に行動するように促すことで、従来の算定では重要な排出を除外されてしまう可能性があるという課題にも対応しています。 SBTiの調査によれば、上記のプロセスで集約した場合、排出量の約90%をカバーできるとしています。 アライメント目標 前述したように、Scope3の削減目標の設定方法として、総量目標と原単位目標に加えて、アライメント目標が追加されました。 アライメントの指標とは、ネットゼロ目標に適合した状態を指す指標であり、その指標自体はドラフト案に記載があり、下記は一部抜粋した資料になります。 表:Consultation Draft アライメント目標とは、上記の指標を用いてネットゼロにアライメントされたサプライヤーや排出活動に割り当てられた調達の割合や、ネットゼロにアライメントされた製品やサービスから得られた収益の割合などを目標設定することになります。 SBTiは企業がTier1サプライヤーに対して影響力を及ぼして排出を削減することを重要視しており、今回のドラフト案では総量目標や原単位目標のみではなく、非排出の指標を用いて様々なアプローチを可能にするために提案されているアライメント目標はSBTiのなかでも明確に重要視されています。 従来の総量目標では企業が成長することに伴い、仕入れ額や売り上げは比例して増加するため、排出量が増加することや、2次データへ依存していることが課題の一つでした。増加に対応するためにサプライヤーエンゲージメントを行い1次データへ置き換えることで原単位側を削減し、排出量を削減する動きが注目されています。しかし、1次データの信頼度や企業の規模により1次データ化が難しい場合もあります。今回のアライメント目標ではそんな課題へ対応できるとSBTiは説明しています。例えばある企業がネットゼロベンチマークに沿った(アライメントされた)製品の売り上げを伸ばして企業として成長することはアライメント目標の枠組みでは進捗していることになります。また、例えば高排出活動に対してベンチマーク指標を用いた調達支出割合を目標とすることで排出量の絶対値への依存の脱却も望めます。 ただし、基準年のパフォーマンス評価としては排出、非排出両方が現時点では報告対象とされていますので、非排出を重視するものの、企業が実際どのように基準年、目標年のパフォーマンスを作成、公表し、どのように目標設定するのかは今後も議論される部分であると考えられます。 スケジュール 今回のドラフト案がいつから適用されるかは以下の通りです。短期目標を設定している企業は2030年、または目標期間終了の早い方、2025年/2026年に設定する企業は5年後、または2030年末の早い方、2027年以降に取得する場合は新基準を適用する必要があります。 図:Detailed explanatory guide to the consultation draft 本ドラフト案は6月1日までコンサルテーションを実施しコメントを受け付けています。 その後2回目のコンサルテーションを経て最終化される予定です。 まとめ ドラフト案における変更点はまだまだありますが、本コラムでは特にScope3の目標設定について述べてきました。 全体像の印象として従来からより厳格になっている印象を受けました。それは前述した『From ambition to progress』というフェーズに移行しているからだと考えられます。野心的な目標を設定して終わりではなく、着実に削減を進めていくこと、残された時間は少ないというメッセージを強く感じました。 現状のScope3の評価には課題があり、排出量の絶対値からの脱却や2次データへの依存という課題に対応するためにアライメント目標を設定できるようにするといった柔軟性を高めた点からは、SBTiも企業が様々な課題に直面していることを把握しており、課題を解決しながら評価できるような枠組みへ試行錯誤して企業に寄り添いながら前進していることを感じられます。 すでに短期目標を設定している企業も、これから設定を考えている企業もネットゼロ達成に向けて前進できるよう弊社でもSBT認証取得支援、サプライヤーエンゲージメントの支援も実施しておりますのでお気軽にお問い合わせください。 (執筆者:山本(航))
read more