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SBT(目標設定編)

SBT(Science Based Targets)とはパリ協定が求める⽔準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減⽬標のこと。SBTi(SBTイニシアティブ)が申請企業の目標の妥当性確認を行い、認定を与えている。

Scope1,2だけではなくScope3の目標も設定する必要があるか?

Scope3排出量がScope1,2,3排出量合計の40%以上である場合、Scope3の目標設定も必要です。また、化石燃料の販売や流通に関わっている場合はScope3の排出量比率に関わらず販売した製品由来のScope3の目標設定が必要です。

Scope1,2の目標としてどのような目標が認められているか?

Scope1,2の目標は「産業革命前からの世界気温上昇を1.5℃以内に抑えるために必要な脱炭素化水準(以降1.5℃水準)」と整合した目標であることが必要です。以下の2種類の削減目標が認められています。

- 1.5℃水準以上の総量削減目標(全セクター)

- セクターごとの1.5℃に向かう経路(SDA:Sectoral Decarbonization Approach)に沿った原単位削減目標(一部の排出量が大きいセクターのみ)

 

総量削減目標とは「総排出量」を削減する目標です。SBTiでは総量同量削減(毎年同量を直線的に削減していく)が採用されています。「排出量を〇年比〇年までに〇%削減」という目標を設定します。1.5℃水準以上の削減率の目安は年率4.2%以上×年数です。但し条件によって必要な削減率が異なる場合があります。SBTiが認定に必要な目標水準を試算するツール(SBTiツール)を提供していますので、そちらを使ってご確認ください。

原単位削減目標とは「生産量等の指標1単位当たりの排出量」を削減する目標です。「〇〇当たりの排出量を〇年比〇年までに〇%削減」という目標を設定します。こちらもSBTiツールを使って必要な削減率をご確認ください。

また、Scope2については排出削減目標を持つ代わりに、再エネ電力目標を設定することも認められています。

Scope2の再エネ電力目標とはどのような目標か?

再エネ電⼒を1.5℃経路に準ずる割合で積極的に調達する⽬標です。RE100との整合も考慮し、再エネ電力調達比率を2025 年までに80%以上、2030年までに100%という水準が設定されています。すでにこの比率を達成している場合は、維持もしくは向上させる目標を設定する必要があります。

Scope3の目標としてどのような目標が認められているか?

Scope3の目標は「産業革命前からの気温上昇を2℃より十分低く抑えるために必要な脱炭素化水準(以降WB(Well-below)2℃水準)」と整合した目標であることが必要です。以下の3種類の削減目標が認められています。

‐総量削減目標:WB2℃水準以上の総量削減目標(目安は年率2.5%以上×年数)

‐経済的原単位削減目標:付加価値あたりの排出量を前年比少なくとも7%削減する原単位削減目標

‐物理的原単位削減目標:SDAに沿った原単位目標もしくは総排出量の増加につながらず、物量あたりの排出量を前年⽐少なくとも7%削減する原単位削減目標

また、これ以外にサプライヤー/顧客エンゲージメント目標も認められています。

Scope3のサプライヤー/顧客エンゲージメント目標とはどのような目標か?

自社のサプライヤーや顧客にSBTiが求める水準の目標設定をしてもらうことを目標とするものです。目標提出から5年以内の年を目標年として設定する必要があります。(つまり、5年以内にサプライヤーや顧客に目標設定をしてもらうことを約束することになります。)サプライヤー/顧客によるSBTi認定取得は推奨されていますが必須ではありません。

基準年と目標年の条件はあるか?

基準年は2015年より後である必要があります。目標年は目標提出から5~10年後の間に収まる年である必要があります。西暦の前半に目標提出した場合は目標提出の年も含めてカウント、後半に提出した場合は目標提出の年は含めずカウントします。(2022年前半に提出した場合は2026~2031年、2022年後半に提出した場合は2027~2032年。)

直近年とは何か?

直近年は排出量データがある最新の年です。目標提出から2年前までの年が直近年として認められています。SBTiでは目標がSBTiの求める水準の削減率になっているかを、基準年から目標年、最新年から目標年の両方で評価します。

Scope1,2,3排出量の全てを目標の対象範囲にする必要があるか?排出量の一部を目標の対象範囲から外すことはできるか?

Scope1,2はScope1,2排出量合計の5%までであればインベントリ(排出量数値)と目標の対象範囲から外すことができます。Scope3はScope3排出量合計の2/3以上を目標の対象範囲とする必要があり、よって残りの1/3までは対象範囲から外すことができます。

ここで、インベントリ(排出量数値)から外してよいということと目標対象範囲から外して良いということは分けて考えますのでご留意ください。基本の考え方は、排出量は漏れなく把握した上で、そのうちの上述の割合に収まる範囲については目標の対象範囲から外すことができるというものです。

インベントリ(排出量数値)は100%漏れなく把握する必要があるのか?

前項の通り漏れなく把握が基本スタンスですので、100%を目指せるとベストです。但しScope1,2については5%までであればインベントリと目標の範囲から外すことができるとありますので、5%までをインベントリから外す(算定除外として排出量数値に含めない)ことができます。5%をインベントリから外す場合、目標対象範囲は100%として、インベントリと目標対象範囲の両方で除外は合計5%までに収める必要があります。また算定除外とする場合は除外する排出源を示し、除外の理由も説明する必要があります。

目標設定はSBTiツールに沿ってできたが、排出削減策の検討まではできていない。それでも認定取得は可能か?

申請書には排出削減に向けた計画について簡単に記載を求める欄がありますが、この欄の記載内容によって認定可否を判断するような基準にはなっていません。よって削減の方向性として検討していることを簡単に記載できれば十分と考えています。一方で、目標設定・申請の社内説明にあたって、ある程度削減の道筋を示す必要があるという声も良く聞きます。そのような場合は排出削減策の検討に必要な期間も見込んだ上で申請までのスケジュールを立てる必要があります。

クレジットやオフセットは排出削減手段として認められるか?

SBTiはクレジットやオフセットを目標達成のための排出削減量としてカウントすることを認めていません。クレジットとは排出削減量等の環境価値を金銭価値化し取引するものですが、このように排出削減量を取引し企業から企業へ移転させるだけでは必ずしも地球全体の排出量の削減につながらないからです。クレジットはネットゼロ目標における残存排出量の「中和」(排出量を90%以上削減した上でどうしても残ってしまう残存排出量を同量の炭素除去量で相殺する)においてと、ネットゼロに向けた移行期の追加的な取り組みとして推奨されている「バリューチェーンを超えた緩和活動(BVCM:Beyond Value Chain Mitigation)」(自社のバリューチェーン外における GHG 排出削減のための行動や投資。クレジットの購入も一例として挙げられている)においてのみ認められています。利用が認められるクレジットの要件については具体的ルールの公開はこれからですが、クレジットであれば何でも良いとはならないので注意が必要です。

クレジットが排出削減手段として認められないということだが、Jクレジットは利用可能と聞いた。

Jクレジットの中の一部(再エネ電力・熱由来クレジット)については、クレジットとしてだけはなく再エネ証書※として使うことも認められています。再エネ証書の調達は再エネ調達の一つの手段とみなされています。再エネ電力の場合、Scope2計算の際の電力の排出係数は0と考えますので結果的に排出削減につながります。よって目標達成のための排出削減量にカウント可能と言い変えることができます。

※クレジットと再エネ証書は別のものですので注意が必要です。再エネ証書は正式名称「エネルギー属性証明書(EAC:Energy Attribute Certificate)」と言い、再エネから作られる電気等のエネルギーの環境属性情報を証明するものです。電気等の価値と切り離して、再エネの価値だけで取引することができます。自社が消費している非再エネの電力や熱と同量の再エネ証書を調達すると、電力の契約は変えずに再エネの電力や熱を調達し消費しているという主張ができます。

 

参考:

SBTiウェブサイト- FAQ

https://sciencebasedtargets.org/faqs

CDPジャパン「SBT要件と推奨事項」(SBTi Criteria and Recommendations仮訳)

https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-criteria-JP.pdf

CDPジャパン「SBTi 企業ネットゼロ基準」(SBTi Corporate Net-Zero Standard Criteria仮訳)

https://sciencebasedtargets.org/resources/files/Net-Zero-Standard-Criteria-jp.pdf