Column

2026年1月

CDP2026始動とCDPのこれから。企業はどうCDPを活用するか

 CDP2025のスコアが公開されました。回答企業の支援を行う弊社でも、回答提出からスコア発表までの時期は毎年そわそわ落ち着かない日々が続きます。回答企業のご担当者におかれましてはなおのことと思います。改めてCDP2025のご対応、大変お疲れ様でした。  さて、間髪を入れずにCDP2026が始動します。年末に2026年質問書の変更の方向性とスケジュールが発表されていますのでご紹介します。    また、CDPは2025年12月で25周年を迎えたということです。25年前に始まり環境情報開示をニッチから主流に押し上げグローバルでの浸透を成し遂げたCDP。CDPのこれまでの歩みから、今後向かう道、そして企業がCDPをどう活用できるかについて弊社が感じていることをまとめてみました。 CDP2026始動! CDP2026質問書変更の方向性 2025年12月に公開された「CDP2026情報開示サイクルに向けた準備」によると、2026年質問書では「データと行動の連携強化」を目的に、(1)自然分野の対象範囲拡大、(2)必須要件・スコアリングの改定、(3)国際基準との整合強化、(4)回答業務の簡素化が予定されています。さらなる詳細は新年の早い時期に発表予定となっています。 (1)自然分野の対象範囲拡大:オーシャンモジュール追加、フォレスト質問強化、中小企業(SME)版フォレスト・水セキュリティ追加、適応策とレジリエンスに関するデータ収集(既存質問を改良) 自然分野の新たな対象分野として、オーシャン(海洋)が新たなモジュールとして加わります。海洋は地表の70%、生命体が生存できるエリアでは99%を占め、全生物の80%が生息すると言います。またCO2や熱を吸収することで気候を調整し、海洋関連産業を通じ経済にも寄与しています。しかしその海洋は生息地破壊や乱獲等による直接的影響や、気候変動に起因する温度上昇や酸性化といった間接的影響により、生物多様性損失の危機に直面しています。また重金属や栄養素、プラスチック等の汚染の影響も受けています。オーシャンモジュールはフォレストや水セキュリティと同様、関連事業を行う企業が対象となります。オーシャンに関連する業種として想定されているものには、海産物・海上輸送・造船や海洋建造物等の直接影響を与える業種だけでなく、農業・食品、化学等海洋に影響を与える陸上事業、また海洋資源を原料としたり、海底ケーブルによる通信網や海水を冷却水に使用したりするデータセンター等バリューチェーン上で影響を与える業種も含まれます(但し2026はパイロットで対象は限定的になる予定の模様)。海洋の追加に加え、フォレスト質問の強化により陸上に関するデータ収集も強化され、またSME版フォレスト、水セキュリティが追加され回答対象者も広がる予定です。もう一点、物理的リスクへの備えや対応状況に関するデータのニーズを受け、適応策とレジリエンスに関してより多くのデータが得られるよう既存質問の一部が改良されるということです。 (2)必須要件・スコアリング改定 必須要件は、質問書変更を反映するため、加えてすべてのスコアレベルで評価基準と整合させるために限定的な変更を行う予定となっています。 またスコアリングについて、スコアリング対象分野は2025までと同じ、気候変動・フォレスト・水セキュリティで、プラスチック・生物多様性・オーシャンはスコアリング対象外です。フォレストでは2025まではスコアリング対象外だったカカオ・コーヒー・天然ゴムがスコアリング対象に変更となります。これにより従来のスコアリング対象である木材・パーム油・畜牛品、大豆に上記3つが加わり、7つの重要コモディティ(農産物)全てがスコアリング対象となります。加えてSME版のスコアリング基準に気候変動のリーダーシップレベルの評価が加わり、これまでは最高評価Bだったものが変わります。 (3)国際基準との整合強化 CDPは国際基準や主要国の情報開示規制との整合を進めてきていますが、2026質問書では、TNFD提言への完全整合(2025質問書で部分的には整合済)、GRI303:水と廃水基準、GHGプロトコル土地セクター・炭素ガイダンスへの整合のための質問変更が予定されています。なお、このように整合を進めている背景には、CDPが掲げる「Write once, read many(一度の報告が、何度も活用できる)」アプローチがあります。CDPへの開示データが様々な要請への回答、規制への対応に活用されることで、回答企業にとっては負担が軽減され、比較可能性も高まります。 (4)回答業務の簡素化:質問構成の洗練、データ取込機能強化、ガイダンスの更新、AIアシスタント(完成時期は未定) 質問書設定の際に自社に関連性の高い項目について開示を行うかどうかを選択できるより洗練された仕組み、また既存の過去回答がコピーされる機能に加えて企業が直接アップロードできる機能の追加、より読みやすい回答ガイダンスへの更新が準備されているということです。また完成時期は未定ですが、リアルタイムガイダンス、ナビゲーション支援、文脈に応じた説明を提供するAIアシスタントの導入準備も進んでいるということです。 CDP2026スケジュール(2026年1月時点) 現在公開されているスケジュールは以下の通りです。 2025とほぼ同じスケジュールで、スコア発表・スコア公開が若干早まっています。(2025年はスコア発表が12/10、スコア公開が1/8) 4月20日週 質問書公開 4月27日週 ガイダンス、スコアリング基準の公開         回答要請機関向けポータルオープン 6月15日週 回答企業向けポータルオープン 9月14日週 スコアリング対象回答提出期限 10月26日週 回答または修正提出期限 11月30日週 スコア発表、スコア公開   CDP25周年-これまでの歩みとこれから 企業はCDPをどう活用するか CDP25周年-これまでの歩みとこれから CDPは2025年12月で25周年を迎えたということです。2000年に英国で誕生したNPOですが、その始まりは「故Tessa Tennant氏(責任ある投資:SRIのパイオニア)、Paul Dickinson氏(現CDPストラテジックアドバイザー)、Jeremy Smith氏(現Energy Impact Partners, Rede Partnersシニアアドバイザー)の三人が、現在も続く『機関投資家に代わり企業から環境データを収集する』というアイディアをダウニング街10番地(首相官邸)に持ち込んだところから」だそうです。 2002年の最初の質問書はA4用紙1枚に質問が7問だけで、印刷し郵送で送付されたと言います。2002年当時の署名機関投資家は35名、FT500の500社に回答要請し、回答した企業は245社だったということです。2006年の責任投資原則(PRI)の誕生、ESG投資の高まり等とともに年々拡大を続け、2025年には世界の運用資産の4分の1に相当する640を超える機関投資家が署名機関となり、世界で22,100社を超える企業(世界の時価総額の半分以上)が回答しています。このように、今日CDPはESG情報開示のE(環境)の分野のグローバルスタンダードとしての地位を確立しています。 日本においては2006年にS&P150の150社が対象となり、2009年にはさらに500社に拡大、2011年以降FTSEジャパン500が対象となっています。その後、2022年からプライム市場上場企業を対象として一気に1,800社近くに増えました。2024年からは非上場も含む売上高一定以上の企業を対象として3,000社以上にさらに広がっています。 旧名Carbon Disclosure Projectの通り、当初は気候変動のみを対象に始まりましたが、2009年に水セキュリティ、2011年にフォレストも対象に加わりました。そして2022年には生物多様性、2023年にはプラスチックと環境分野の対象範囲も広がっています。 Japan Disclosure Webinars 2025: Introduction to Disclosing through CDP   CDPの2021-2025戦略を振り返ると、この5年間CDPが戦略に忠実に歩みを進めてきていることがわかります。2021-2025戦略では、2000年からの20年で環境情報開示をニッチから主流に引き上げたものの、「依然として開示ができていない企業が多く、また開示できている場合も、開示のみに留まらず説明責任や変革につなげていく必要がある」「気候変動はチャレンジの一部であり、持続可能な発展のためには気候危機と自然危機を同時解決する必要がある」という課題認識から、より広範なステークホルダーが参加し環境問題に関する透明性を大幅に向上させ、自然に与える影響を包括的かつ総合的に把握できる体制の構築を目指し、8つの戦略を掲げていました。 ①プラネタリーバウンダリーへの拡大:気候・土地・適応・生物多様性・廃棄物・水・海洋・淡水・森林・食料 ②科学に基づく移行の追跡:コミットメントの追跡(具体的計画を伴わせ進捗を追跡) ③新たなアクターへの拡大:より広範な上場・非上場企業への対象拡大 ④政策の野心を高めるための行動の促進 ⑤基準の大規模実装のための利用 ⑥地域に根差した行動の促進拡大 ⑦新たな技術の活用による透明性向上、複雑性削減 ⑧社会・ガバナンス指標の強化  *CDP_STRATEGY_2021-2025.pdf ①対象分野拡大は2026のオーシャン追加によって完成に近づきつつあり、残された大きなテーマは廃棄物と言えそうです。②コミットメントの追跡は移行計画の開示や進捗の開示といった質問に反映されていると言えますが、気候と自然のタイムリミットが近づくにつれより一層重視されるポイントとなっていくと言えそうです。 2025年1月、CDPは25周年の節目に新しいテーマとして「Earth Positive Economics(アースポジティブな経済)」を発表しています。アースポジティブとは「事業目標の達成と並行して、環境を保護・回復し、地球への悪影響を低減するような方法でアクションを起こすこと、また、他社にもアクションを促すことを意味します。アースポジティブな意思決定とは、地球の最善の利益を念頭に置いてアクションすることです。それは考え方であると同時にアクションへの指針でもあります」と定義し、アースポジティブな経済とは「地球の健全性が前提となる経済」と説明しています。2025までに築かれた透明性を土台に、2026からはデータに基づき意思決定しアクションを起こすことをより一層促す意思表明と受け取れます。 企業はCDPをどう活用するか  まず、CDP質問書は環境情報開示のグローバルスタンダードであり、回答することで投資家等が求める透明性の高い開示が可能となり、投資家・顧客コミュニケーションの一手段となります。そして、回答は評価・スコア付けされ投資家・購買企業に提供され、投資家は投融資の、購買企業はサプライヤー管理の意思決定の参考としています。よって、回答し、スコア向上を目指すことは、資本へのアクセス・ビジネス機会獲得につながる可能性があります。資本へのアクセスの例としては、CDPのスコアに基づいて特定の投資/融資商品が利用できたり、優遇金利が利用できたりというものがあります。国内でもCDPスコアをKPIとするサステナビリティリンクローン等の事例が見られるようになってきました。ビジネス機会の例としては、環境対応を調達要件に含めたり、サプライヤー選定の参考とする購買企業が増えてきて、CDPの回答状況やスコアが新たな取引の獲得や取引の継続につながる場合があるというものがあります。国内でもサプライヤーエンゲージメントが徐々に広がりを見せています。エンゲージメントの始めのステップではデータ収集をすることが多いですが、その中でサプライヤーのデータを比較して見始めている企業は増えていると感じています。Scope3を削減したり、サプライチェーン上のリスク管理をしていかなければならない購買企業にとっては、CDPに回答し高スコアを獲得していることは取引相手の魅力の一つと言えます。新規取引や取引継続といった意思決定にまではまだ結びついていなかったとしても、そのように好印象を与えられている可能性はあると考えています。 加えて、CDP質問書は「規制への準備」としても活用できます。日本のSSBJやEUのESRS等、環境を含む非財務情報の開示基準の整備と開示の規制化が進んでいます。CDP質問書はTCFD、TNFD等のフレームワーク、ISSB等の開示基準、主要国の開示規制との整合も進めていますので、CDP質問書に回答することは主要な基準や規制に対応した開示の準備にもなります。弊社では基準や規制の意図が良く理解できない時に、対応するCDP質問書やガイダンスを見て理解につながったことがあります。CDP質問書はガイダンスが豊富で、また各質問間のつながりを説明してくれている部分もあるため、このように基準や規制への深い理解にも役立つ場面があるのではないかと感じています。今後さらに規制を導入する地域が増え、また規制の対象範囲となる環境分野も広がっていく可能性があり、その中でCDP質問書への回答は心強い準備になると考えています。 最後に、これまでの活用方法は外部開示への活用方法でしたが、CDPの回答分析結果によると、高スコアを獲得しているリーダー企業は、CDP開示を内部での計画やアクションにつなげ、排出削減等の取組を進めていると言います。CDP質問書は毎年最新の科学的知見、最新の主要な基準・フレームワーク、そしてグローバルのベストプラクティスを参考にして更新されています。毎年の質問変更への対応は大変ですが、それを追っていくことで、グローバルで重要視され始めている取組や求められているレベル等、環境対応の最前線を網羅して追っていくことができる、いわば最新の「環境対応ガイド」であると感じています。気候変動だけでも最新動向を追い続けるのは大変なことですが、環境分野のカバー範囲が広がり、環境分野を広く網羅して最新動向を押さえられることはとても価値があることと思います。また、CDPの質問書は「ガバナンス」→「リスク管理」→「戦略への落とし込み(計画)」→「実行と進捗管理」といった、企業がとるべきステップに沿っています。質問書自体が各分野で企業が対応すべきロードマップを示していると言えます。何から始めればよいかわからないという企業も、CDP質問書を参考にすると対応すべきステップが見えてくることがあります。各ステップの中でのベストプラクティスも更新されていくため、それを自社の次の計画やアクションに活かしていくことができる可能性があります。これからは特に「戦略への落とし込み(計画)」、「実行と進捗管理」のステップが重要であり、CDPの新たな意思表明の通り、この分野での示唆を多く得られることを期待しています。 弊社がCDP支援を本格的に開始したのは2018年でした。初めてCDPのスキームを知ったとき、弊社も掲げている「環境と経済の両立」を実現できる大発明なのではないかととても感動したのを覚えています。そこから8年、弊社もまさにCDPをガイドとして知見を積んできました。今後さらに多くの日本企業がCDP質問書への回答とともに、CDPをガイドとして環境とビジネスの両立・相乗効果を力強く進めていっていただきたい、また弊社はそのような企業を力強く支援していきたいと改めて誓った2026年の年明けでした。 出典 *Preparing_for_Disclosure_Cycle_2026__Japanese_version_.pdf CDP Worldwide-Japan「CDP回答をアクションに生かす~2026年サイクルの方向性~」 CDP2026開示サイクル - CDP Japan Disclosure Webinars 2025: Introduction to Disclosing through CDP *CDP_STRATEGY_2021-2025.pdf 透明性からアクションへ:CDP がアースポジティブな未来に向けてブランドを刷新 - CDP Transforming Markets: The Rise of Earth-Positive Economics - CDP 環境データを開示する理由 - CDP (執筆者:山本(裕)) 【ウェイストボックスの関連サービス】 ・CDP質問書、TCFD・TNFD開示支援|株式会社ウェイストボックス ・アドバイザリーサービス

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